ゲートSAA彼の地にて斯く戦えり   作:素面ライダー

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 最近暑さで外へ出る事すら ままならないのに加え、再びうつ病が悪化して些細なあれこれでいちいち凹む始末……ホントにお先真っ暗です

 まあ それはそれとして、本編スタートっス

 ……はあぁぁぁぁ~~……
 


皇女の決断

 

 日本標準時 03:42頃

 

 フォルマル伯爵邸 貴賓室前廊下

 

 その頃、貴賓室の扉の前にはボーゼスが立っていた。

 

 現在のボーゼスがその身に纏っているのは、昼間に着ていた騎士団の制服ではなく、中まで透けて見えそうなほどの薄手のネグリジェ。その顔には、額の傷跡を隠すために化粧が施されている。

 

 ハァ……

 

(貴族の家に生まれた娘として、この手の(たしな)みは心得ている……)

 

 彼女はため息を吐きつつ、そう内心で独り言ちる。

 

 事実、いずれは こういった役割を果たす時が来るであろう、と覚悟はしている()()()()()()

 

(だが……だが……よりによって「自分が嫐り倒した男に身を捧げよ」と、命じられるなんて──)

 


 

 30分前──

 

「来たな」

 

 昼間の件で取りあえずピニャから謹慎を受けていたボーゼスとパナシュは、深夜の呼び出しにもかかわらず即座に出頭して来ていた。

 

「お前たちは、妾が往来の自由を約束していたジエイタイの兵を捕らえるのみならず、有ろう事か不当に痛めつけながら連行した。この事で、ジエイタイに対する帝国の立場がどうなるか……言わずとも解るな?」

 

 ボーゼスたちは、ぐっと言葉を詰まらせる。「知らなかった」では済まされない、という事は嫌というほど実感しているためだ。

 

「故に、この事は内密に処理せねばならぬ。だが昼間にグレイも言っていたが、我々が強行手段で奴らを消す事は不可能だ」

 

 断言するピニャに、ボーゼスたちは圧倒される。最初昼間に聞かされた時は とても信じられなかったものの、歴戦の勇士であるグレイまでもがそう言っている以上、眉唾物と切って捨てる事は出来なかった。

 

「だが、打つ手が無い訳では無い。()()()()()()()()()()使()()()()

 

「「ッ!」」

 

 ボーゼスたちに視線を向け、含みを持たせた口調でピニャが言う。その意味を正確に理解して、ボーゼスたちは一瞬息を呑んだ。

 

「……殿下と姉妹の契りを結んだ日から、私の全ては殿下のためにあります。帝国の未来のために、この身を捧げましょう」

 

 僅かな逡巡の後、意を決した表情でボーゼスはそう答えるのであった。

 


 

 先ほどピニャから命じられたその命令で、ボーゼスは握った拳を震わせていた。

 

 しかも、自分はあくまで()()に過ぎない。()()は自分の後にこの部屋へ来るであろうパナシュなのである。

 

 侯爵家の娘でありながら悪所(スラム)の売春婦の様な格好で、後から来る(パナシュ)の前座として これから()()の男に自分の身体を(けが)される。ボーゼスはその事実に屈辱を覚えた。あまりの悔しさから、目に涙が溢れてくる。

 

(……だが!これもピニャ殿下と帝国のため!)

 

 彼女はそう自分を奮い立たせ、涙を堪えつつ覚悟を決めた。

 

 コンコン……ガチャ

 

(………………………何だ、これは?)

 

 そして彼女が悲壮な覚悟の末、控え目なノックの後に入ったその部屋で見た光景は──

 

  ()  ()  (あい)  (あい) 

 

 ──まさにその一語に尽きた。

 

 その部屋ではイタミを始めフォルマル家の使用人と、何故かこの部屋にいたイタミの部下たちが、楽しそうにお茶しながら談笑していた。部屋に入って来たボーゼスに気付く者は1人も居ない。

 

(……我が身をもって、罪を拭うための雑巾になる。その覚悟を決めて ここにやって来たというのに……何なのだ、これは?)

 

「変わった道具ねぇ~」

 

「これでも見れるわよ」

 

「………………………」

 

 ………無視である。

 

「すごいですニャ。まるでその場をそのまま切り取ったみたいな絵ですニャ」

 

「後でプリントアウト──紙に写した物をお贈りしますよ」

 

「………………………」

 

 ………シカトである。

 

「いや~…いろいろあったケド、結果的に全員無事だったから、よかったよかった」

 

「全くっスよ、一時はどうなるかと思いましたから」

 

「………………………」

 

 ………ハッキリ言って空気扱いであった。

 

(……無視…だと?パレスティー侯爵家の次女である、この私を?)

 

「アッハッハッハッハッ……」

 

 当の伊丹は 屈辱で身を震わせている ボーゼスに気付かないまま、呑気に大笑いだ。

 

(ッ!いい度胸だッ!私では雑巾にすらならないというのか!このイタミという男は!)

 

 それを自分への侮辱(全くの誤解だが)と受け取ったボーゼスは、理性が吹っ飛んで衝動的に動いてしまう。

 

 ツカツカツカツカツカツカ……

 

 バチィィィィィインッ!

 


 

「…………で、その顔の傷は?」

 

 そう聞いたピニャの目元には濃い隈が出来上がっており、ストレスとそれに伴う胃痛で今にも死にそうな顔である。

 

 彼女に向かい合う形で立っている伊丹の顔には 幾つもの引っ掻き傷が出来ており、右目には青タン、左頬に至っては赤い紅葉がこの上無く くっきりと刻まれていた。最早、何が起こったのかは聞くまでも無いし 聞きたくもなかったが、それでもピニャは聞かない訳にいかなかった。

 

 屋敷中に怒声が響き渡る深夜の大騒動の後、謁見の間では貴賓室に居た面々が全員顔を揃えている。

 

 伊丹の隣には、彼を相手に貴賓室で散々暴れていたボーゼスが、富田と栗林にそれぞれ両脇を抑えられていた。現在は頭が冷えたのか、俯いて大人しくしている。

 

 逆隣にはハイセと、更に隣にレレイたち3人娘が立っており、その後ろでは他の自衛官たちが横一列に整列している。

 

 ピニャの側にはグレイが控えており、フォルマル家のメイドたちは全員部屋の隅に控えていた。

 

「別にあたいらが引っ掻いた訳じゃないですニャ」

 

「右目のアザは()()付いていたものよぉ」

 

 まずはペルシア、次いでロゥリィがそう説明して、早々に引っ込む。

 

「「「「「「…………………………………」」」」」」

 

 それからしばらく重苦しい沈黙と、何とも言えない気まずい空気が謁見の間を支配していた。

 

「……………わ……わたくしが……やりました」

 

 周囲の雰囲気と長い沈黙に耐えかねたのか、罪悪感に苛まれつつ蚊の鳴くような声でボーゼスが白状した。

 

「……………ハァァァァァァ~~……………」

 

 予想通りの答えに、ピニャは絶望的な気分になる。その表情は正に この世の終わり と、言わんばかりだ。

 

「………この不始末………どうしてくれよう」

 

「あのー」

 

 立て続けの部下のやらかしに文字通り頭を抱えるピニャへ、富田が遠慮がちに声をかけた。

 

「我々は隊長たちを連れて帰りますので、そちらの事はそちらで……」

 

「我々は隊長たちを連れて帰る。そちらの事は、我々には関係無い」

 

 ガタッ!

 

「そっ…それは困る!!もっ…もうじき夜明けだ、朝食を用意しよう!それに和解の意味を込めて、騎士たちと歓談の場を……」

 

 レレイの通訳を聞いたピニャは、伊丹たちをどうにか引き留めようとした。レレイの言い方では(大筋では間違ってないものの)、自分たちを見捨てて帰ろうとしている様に聞こえたためだ。

 

「あー……お気持ちは有難いのですが……伊丹隊長は、国会に参考人招致されてまして……今日にはアルヌスに帰らないとヤバいんです」

 

「イタミ隊長は元老院に報告を求められている。今日には帰らないとならない」

 

「げっ!?」

 

(元老院だと?小部隊の隊長に過ぎないこの男が……実はエリートキャリアだったというのかッ!?)

 

 続けて語られた倉田の説明をレレイが簡潔に通訳したため、ピニャには伊丹が とんでもない重要人物だったと誤認してしまう。  

 

 考え得る最悪の状況が、彼女の脳裏に次々と浮かんで渦巻いていく。

 

 暴行を受けたイタミの報告!

 

 激怒するニホンの元老院!

 

 ジエイタイの報復!

 

 蹂躙される帝国軍!

 

 (ことごと)く破壊される帝都!

 

 炎上する皇城!

 

 奴隷化される帝国臣民!

 

 粛清される皇族!

 

 皇帝(モルト)含め晒し首になるピニャたち!

 

「ああああああああああああああああああああ………」

 

 ぐるぐるぐるぐる……

 

(最早一刻の猶予も無い!イタミの報告一つで、ジエイタイが動く!このまま、行かせてはならない!)

 

 ピニャは数瞬にも満たない間に頭を働かせ、帝国にとっての最悪の事態を避けるために決断した。

 

 ガタッ!

 

「ならば……妾も行こう!妾もアルヌスへ同道させてもらう!!」

 

 ピニャの唐突な宣言に、伊丹たちのみならずボーゼスやグレイも目を丸くしていた。

 

「此度の協定違反、ケングン団長やアモン殿、上位の指揮官へ正式に謝罪しておきたい。イタミ殿 よろしいか?」

 

「えっ!?えーと……招致まで時間が無いし、車も狭いので……殿下と あと1人ぐらいなら……」

 

 唐突に話を振られ、戸惑いつつも 伊丹はそう答えた。

 

「了承、感謝する。メイド長、妾の従兵を呼んでくれまいか?」

 

(あれーーッ?)

 

「隊長、いいんですか?」

 

「護衛と従者無しなら、断ると思ったんだけどなぁ」

 

 予想外の展開で驚く伊丹へ富田が声をかけるのを尻目に、ピニャはメイド長にパナシュとハミルトンを呼びに行かせた。

 

 ガチャッ

 

「お呼びですか?」

 

「ハミルトン、妾の代行とイタリカ代官の選任を頼む」

 

「へ?」

 

「ボーゼスとパナシュは騎士団を率いて治安維持。アルヌスへは、妾1人で行く」

 

「は!?」

 

「おっ、お待ちください!」

 

 ピニャの暴挙とも言える宣言に、ボーゼスたちは血相を変える。

 

「殿下1人を敵地へ赴かせる訳にはいきません!」

 

「その通りです!我々も同行します!」

 

「……分かった。ボーゼス、自らの失態を挽回せよ!」

 

「はっ!」

 

「何?この茶番……」

 

 部下たちの必死の懇願を聞き入れ、ピニャは従者としてボーゼスを指定した。その一連のやり取りを見て、呆れたハイセが(つぶや)く。

 

「仁科、おやっさんに車まわすよう伝えて」

 

 そんな光景を尻目に、伊丹は指揮官としての責務を(しぶしぶ)果たすのであった。

 


 

 日本標準時 07:10頃

 

 フォルマル伯爵邸前 正面広場 

 

 そこでは既に3偵の車両群が到着しており、フォルマル家の使用人たちの他、伊丹たちが帰る事を聞き付けたイタリカの住民たちが、朝早くであるにもかかわらず大勢見送りに来ていた。

 

「イタミ様、申し訳ございません。同じ柄の布地が生憎……」

 

「ワタシモヌッタヨ」

 

「いえいえ、ありがとうございます」

 

 メイドたちが繕ってくれた戦闘服に着替えた伊丹が修繕された部分を眺めていた。それを見て、見送りに来ていたモームがアウレア共々慌てて頭を下げるのを見て、伊丹は服を繕ってくれた事に感謝しつつ礼を言う。

 

「ペルシアさん、また来ますから」

 

「はい、お待ちしてますニャ」

 

 倉田は見送りに来ていたペルシアにあいさつしている。彼女もそれへ にこやかに返していた。

 

「ササキ様、これを……」

 

「あっ、それって……」

 

 ハイセがマミーナに呼び止められて振り向くと、彼女の手には布に巻かれた日本刀があった。盗賊との戦闘で紛失していた《ユキヒラ》である。

 

「戦士にとって、武器は命を預ける道具です。ぞんざいに扱ってる訳ではない、というのは解りますが……」

 

「ええ、気を付けます。ありがとうございました」

 

 ハイセはマミーナから感謝と共に《ユキヒラ》を受け取って、そう礼を言った。

 

「殿下……」

 

「……うむ」

 

 衣装櫃を持った見習い団員の少女を引き連れ、ピニャとボーゼスは緊張した面持ちでおずおずと後部扉から高機動車(奇怪な鉄の荷車)へ乗り込んだ。彼女たちが車に乗り込んだのを確認して、見習い少女が衣装櫃を荷台に載せる。

 

「隊長、檜垣三佐からです。「受け入れOK、丁重に案内せよ」」

 

「了解、到着予定時刻(ETA)伝えといて。出発!」

 

 グオン!

 

 ブロロロロロ……

 

 こうして、ピニャとボーゼスを連れた3偵は、一路アルヌスへと向かった。

 

(例え、この身が鷲獅子(グリフォン)の口に飛び込む事になろうとも……協定違反を口実に、ジエイタイが動き出す事態は何としてでも阻止せねば……)

 

 移動する車内で、ピニャはそう決意していた。だが彼女はこれから向かう先々で、自らの認識の甘さを嫌というほど実感する事となるのである。

 


 

 ロロロロロロ……

 

 ガタガタンッ!

 

第3偵察隊(3Rec)前哨監視線(OPL)通過。ザッ!』

 

 周辺を警戒していたと思しき鉄の天馬──イタミたちは「へりこぷたー」と呼んでいた──がピニャたちの乗る鉄の荷車の近くを通り、車体を揺さぶる。この荷車が走り始めてから細かい振動が延々と続き、更に大きく揺さぶられて気分が悪くなる。

 

「殿下、アルヌスです」

 

「もうか?」

 

 ピニャはボーゼス共々、イタミたちの乗り物の想像を上回る移動速度に驚き、大きく様変わりしたアルヌスの丘に奇異の目を向ける。

 

 そして──

 

 

「なっ?」

 

 

 ──車外に広がっている自身の常識から大きくかけ離れた光景に彼女はひどく驚愕し、続けてその後も敵国の力を目の当たりにする度に徐々に動揺を隠せなくなっていった。

 

 

「何だ、これはっ!?」

 

 


 

 兵器解説

 

・AAM-007J 獄卒弐式(アキラ機)

 

 イタリカ攻防戦においてアキラが使用していた機体。

 

 ベースは一般量産機だが、彼女の技量に合わせて追従性、機動性をカスタマイズされている。その結果、一般機とは比べ物にならない過剰な反応速度を持つピーキーな仕上がりとなっており、見た目以外はもはや別物の機体と化している。

 

 彼女の戦闘スタイルに合わせて白兵戦に主眼を置いた機体であるため、固定武装は一切装備していない。

 

 アキラのクラダーとしての技量と戦闘能力、その風貌から、彼女の駆る機体を《般若》や《鬼女》、果ては《山姥(やまんば)》や《鬼婆(おにばば)》とまで呼ぶ男性隊員が出始めたので、彼女は酷く落ち込んだ末、自らの駆る機体を《鈴鹿御前(すずかごぜん)》※と呼び始める様になり、周囲にもそう呼ばせる様になった(あくまで自称であり、正式名称ではない)

 

※鈴鹿御前──かつて伊勢国と近江国の国境にある鈴鹿山(現在の三重県と滋賀県の境にある鈴鹿峠)に住んでいたとされる女神、ないしは女の鬼。

 

・蛇腹剣型試作武装《フエグチ》

 

 イタリカ攻防戦でアキラが使用していた蛇腹剣型試作武装。

 

 取手部分に計3つ、小型高出力のワイヤーウインチが取り付けられていて、それらに接続されたワイヤーに複数の刃が数珠繋ぎになっており、ワイヤーを伸縮させる事で自由自在に操り攻撃する。ただし、この武器は重量がある上に扱い辛く、使いこなすには相応の技量とパワーが必要であるため、事実上SAAの着装が必須。アキラ曰く「父は即座にこの武器を使いこなしていたが、私がこれをモノにするまで1年を要した」とのこと。

 

 前述の通り、以前はアキラの父である間戸(まど) 呉緒(くれお)一尉が使用していたが、彼がSAAクラダーとして一線を退いたため現在は娘のアキラが使用している。

 




 
 次回は8/13に番外編を投稿予定です

 なお、先月から始めたアンケートは8/1の0:00をもって終了させていただきます

 皆様のご意見、ご感想をお待ちしてます
 

本作の自衛官の制服はどれ?

  • 16式制服(紫紺系カラー)
  • 16式制服改(緑色カラー)
  • 91式制服(原作のやつ)
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