ゲートSAA彼の地にて斯く戦えり   作:素面ライダー

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 紆余曲折を経て、ようやくパソコンを購入。

 いやー、今までは執筆から投稿までを全てスマホでこなしてたものだから、作業が早い早い。今後、執筆のテンポ上がっていけばいいなぁ……。

 今回はタイトルでわかる通り、原作の「栗林 志乃 彼の地にて、斯く戦えり」を元にした番外編です。本作未登場のシーンは、基本的に原作と同じだと考えてください。

 それでは、番外編スタート!
 


番外編 栗林 志乃 特地にて、英雄と遭遇せり

 

 時は自衛隊が『門』を確保したあたりに遡る

 

 深部情報偵察隊 結成当日

 

 アルヌス自衛隊陣地 車両待機場

 

「ふざっけんじゃないわよ!!」

 

 突如として、女性自衛官の怒声が響き渡った。周囲の隊員たちは「何事か!?」と、そちらへ視線を向ける。

 

 ガクンガクンガクンガクンガクン……

 

「馬鹿も冗談も休み休み言えってのよ!!アンタみたいなキモオタが、あんな功績挙げられるはずないでしょ!?って言うか、アンタ()()伊丹(いたみ)二尉の名前騙ってんじゃないの!?そうなんでしょ!?ねえ!!」

 

「ちょっ…待っ……会って早々何を……ッ!」

 

 そこには今日会ったばかりの部下に胸ぐら掴まれて揺さぶられながら困惑している伊丹 耀司(ようじ)二等陸尉と、半狂乱になって今日上官となったばかりの男の胸ぐら掴んで揺さぶっている栗林(くりばやし) 志乃(しの)二等陸曹の姿があった。

 

 傍らには佐々木(ささき) 琲世(はいせ)二等陸尉が倒れており、白目を剥いて気絶している。

 

 その周囲では顔を会わせたばかりである第3偵察隊の面々が、栗林の剣幕に押されて その光景を唖然として眺めていた。

 

 栗林のこの行動は本来ならば厳罰ものの暴挙である。上下関係の厳しい縦社会である自衛隊に居る以上、そういった社会常識は彼女も十二分に弁えている筈だった。

 

 にもかかわらず、何故彼女がこのような暴挙に走ったのかというと──

 


 

 事の始まりは数日前

 

 東京練馬区 朝霞駐屯地内部

 

 自衛隊体育学校 第1教育課 課長室

 

「特地の深部情報偵察隊……ですか?」

 

「そうだ、特地に派遣された部隊において、現地の情報収集の為 6つ編成される。君を含め 全国の駐屯地から選りすぐった女性自衛官12名に、後日 特地入りしてその任に就いて貰う事となる」

 

 直立不動で話を聞いている栗林に、彼女を呼びつけた張本人である自衛隊体育学校 第1教育課長の一佐が、栗林の転属先の説明をしていた。

 

「もしかして、人心獲得作戦(ハーツ&マインズ)みたいな活動も任務に含まれます?」

 

「察しが良いな、その様な理解で間違いない」

 

 栗林の言に、課長は満足げに頷く。

 

「どのような同僚が集められるか、課長はご存知なのでしょうか?」

 

「任務の内容に、ハーツ&マインズを思い浮かべる君が招集されるぐらいだ。優秀な隊員が集められる事は容易に想像できるだろう?」

 

「は、はい」

 

 特殊作戦群クラスの屈強な隊員たちを頭に浮かべ、課長の言に栗林は返した。

 

「そこで実績を上げれば、君が転属を希望している特殊作戦群の要員に選ばれる事も将来的に有り得る。頑張りなさい」

 

「ハッ!力を尽くして参ります!」

 

 栗林はそう言って課長室を出た後、誰も居ない廊下で1人 喜びを爆発させるのであった。

 


 

 その後 栗林は特地入りの準備をしたり、高校時代の友人たちと送迎の飲み会やらに参加したりして過ごし──

 

 数日後

 

 彼女は日本全国津々浦々から朝霞駐屯地に集まった女性自衛官たちと共にバスに乗り、銀座駐屯地へ移動していた。途中、あまり復興の進んでいない銀座の街並み(復興の進んでいない建物の大半は、責任能力のある人間が全員死亡して、意思決定の機能が麻痺した企業の建物だ)を視界に収め、銀座駐屯地の敷地内に辿り着く。

 

 敷地内中心部のドーム近くまでバスが移動すると、栗林たちは一旦下車して空港の飛行機搭乗手続きも斯くやと思わせる手荷物検査を済ませる。検査の終わった荷物を職員から受け取り、再びバスに乗り込んで今度は『門』の向こう──特地へ移動を始めた。

 

 途中、女性自衛官の1人が笑えないジョークで車内の空気を凍りつかせるといったハプニングがあったものの、バスは無事に特地側に辿り着く。特地に入った後、監督役の女性自衛官が今後の予定を説明し、バスのカーテンを閉め彼女らは2種夏服に着替えた。日本は冬だが特地では夏なので、早くも汗ばみ始めていた彼女たちはホッとした顔になる。

 

 そして予定集合時間までの僅かな合間を利用して、栗林は1人駐屯地内部を見て回っていたのだが──

 

「あぁもう!最悪!」

 

 数分後には、彼女は不機嫌顔で肩を怒らせながら歩いていた。

 

「もうここは戦闘地域じゃない!何であんな緊張感の無い男が、陣地内(ここ)をうろついてるのよ!?」

 

 彼女が立腹している理由は、つい先ほど顔を会わせた男──当然ながら自衛官で特地派遣部隊の隊員だ──にある。その隊員はさっき彼女が口にした通り、緊張感のカケラも感じさせない男だった。

 

 その事自体は別にいい。四六時中緊張を維持し続けていれば、いざという時に十分なパフォーマンスが発揮できなくなるという事は、彼女にも理解はできる。

 

 だが──

 

「あんなもの私は見たくもないのに……あれじゃセクハラよ!セクハラ!」

 

 女性相手に際どい格好の少女の絵が描かれた同人誌──本人は断じて卑猥(ひわい)なものではないと否定していたが──をしつこく見せようとしていては擁護する余地は無い(と思い込んでいる)。時間が迫っている事もあり、栗林は件の男から少しでも早く離れようと急ぎ足で集合場所へ戻ろうとしたが──

 

 ドンッ!

 

「わっ!?」

 

「キャッ!?」

 

 ドスン!

 

「あたたたたた……」

 

「すっ…すみません!大丈夫ですか?」

 

「あ、いえ!こっちも前をよく見てなくて……」

 

 横合いから出てきたSAAにぶつかって、栗林は尻餅をついてしまった。当のSAAクラダーは、慌てて彼女を助け起こす。

 

(うわぁ…これが陸自の最新鋭個人装備、機動重装甲冑(SAA)……直に見るのは初めてだわ)

 

 栗林は助け起こされながら、目の前のSAAをまじまじと眺めていた。そして、その機体──AAM-007J《獄卒·弐式 特地仕様》を着装しているクラダーを注視する。

 

(ヘルメットとフェイスガードで分かり難いけど、声の感じからして同年代かな?だとすると、年齢からライセンス取り立ての新米(ぺーぺー)って事になるけど……)

 

 声色から栗林は年齢をそう予測していた。

 

「あのー、先ほどからどうされたんですか?やっぱり、怪我でもされたんじゃ……」

 

「え?…ああ、ゴメン!何でもない、何でもない!私、SAAを直に見るのは初めてだったから、つい……」

 

 クラダーが訝しむのを見て、栗林は慌てて弁明した。

 

 目の前の男は年齢から考えて、おそらく武装勢力との戦闘の最初期か、それに準じた時期に特地へ派遣された三曹か陸士長クラスの自衛官だろう、と栗林は当たりをつける。

 

「そうですか…あ、それより急いでるんじゃないですか?」

 

「あー!そうだった、行かないと!」

 

 タッタッタッタッタッ……

 

 そう言って、彼女は慌てて集合場所へと駆け出して行った。

 


 

 1時間後──

 

「わっ」

 

「おっと」

 

 ヒョイッ!

 

 深部情報偵察隊の責任者である檜垣(ひがき) (おさむ)三等陸佐の訓示の後、栗林はSAA格納用仮設テントの前を通りかかると、アンダースーツ──SAAを着装する際にクラダーが着ている薄地のボディスーツで、普段の業務ではその上から戦闘服を着用する──姿の白髪の青年が中から出て来て ぶつかりそうになった。

 

 彼女も本日()()()ともなれば意識せずとも反応できる様になり、ぶつかる前に素早く身を躱す。

 

「あ、あなたはさっきの……」

 

「え?…ああ!さっきのSAAの中身の?」

 

 聞き覚えのある声と目元の特徴、そして先ほど見た時にヘルメットからはみ出ていた前髪の色合いから、栗林は先ほどぶつかったSAAクラダーであることに気づいた。

 

「あ、はい。先ほどはロクな謝罪もできずに……」

 

「いいって、いいって!私も不注意だったから!」

 

 さっきぶつかった事を改めて謝罪しようとするその青年に、栗林は「気にするな」と手を振って遮る。

 

(うーん……悪い奴じゃないのは確かなんだけど、有りか無しかで言えば「無し」かな?屈強って感じじゃないし、どっちかというとインドア系っぽい雰囲気ね)

 

 さりげなく青年を観察して、栗林はそう判断した。目の前の青年は自衛官というよりは、むしろ「文学青年」と評した方がしっくりくる。細身ながら、その身体はよく鍛えられている事は判るものの、屈強という言葉からは程遠い印象を受けた。

 

「それより、もうSAAは着けなくていいの?」

 

「ええ、今回はマッチングテストだけだったので」

 

 青年が言うには、現在特地に持ち込んでいるSAAは既存の量産機に連続稼働時間と現場での稼働率、整備性を向上させた改修機だという。

 

 それらの機体は各々のクラダーの技量と体格に合わせて微調整する必要があって、さっき行われていたのは機体の装着感と動作の確認を兼ねた歩行テストだったらしい。

 

「何で、こんなとこで……って、情報漏洩の可能性に野党と諸外国の目が無い事を考えれば、特地(ここ)ほど都合のいい場所無いわよね」

 

「ええ、それに不意の遭遇時の対処もテストに含まれますから…だからさっきの接触は大きな減点でした」

 

 青年はそう言って、ポリポリと指で頬を掻く。

 

「あー、気にする必要無いんじゃない?あんたライセンス取り立てのぺーぺーでしょ?私だって、佐々木二尉みたいな優秀さなんて求めてないわよ」

 

「へ?」

 

「何よ、間の抜けた声上げて。あんたも知ってるでしょ?『並木通りの勇者』って。一般にはあまり知られてないけど、銀座で真っ先にテロリストに向かって行って民間人の避難の時間稼ぎした上に、皇居前での戦闘でも大活躍して一級賞詞をもらったっていう自衛官の1人、佐々木 琲世二等陸尉よ」

 

「え…ええ、一応……」

 

 何故か青年は何とも言えないビミョーな顔で目を逸らす。それに気付かないまま、栗林は続けた。

 

「すごいわよねー、何十人ものテロリスト相手に一歩も退かずに、たった1人で戦い続けてたって…きっと、屈強で精悍な人なんでしょうねー」

 

「ソウデスネー」

 

「?」

 

 彼女はカタコトになって返す青年に訝しんだものの、更に話を続けた。

 

「あ、そーそー。優秀と言えば、伊丹二尉がいたわよね?」

 

「ああ『二重橋の英雄』の…」

 

「あ、そっちも知ってんだ。まあ、あっちはメディアで派手に取り上げられてたから、知ってて当然か…」

 

「ええ、あの人は有名ですから……いろんな意味で……

 

 青年は最後に小声で付け足したものの、栗林には聞こえなかったようで、彼女はそのまま続けた。

 

「伊丹二尉も咄嗟に民間人を皇居に避難させる作戦を立案して、現地の警官たちを糾合した上で実行したのよ?それで住民混在の状況を防いだ上に、何千人もの民間人を救ったって。しかも、たまたま同じ場所に居合わせてた佐々木二尉も同じ作戦を考えてた上に、即座に伊丹二尉に無線機を渡して互いに連携してたって言うじゃない?」

 

「……はあ」

 

「いいわよねー、優秀な人って……それに比べて、さっきの男ときたら……」

 

「な…何かあったんですか?」

 

 急に不機嫌ゲージMAXになり、まるで地獄の底から響いてくるよーな声を上げる栗林に、及び腰になりながら青年は尋ねた。

 

「あー、実はね……さっき あんたとぶつかる前に、もう1人私とぶつかった男がいるのよ。それがまた、とんでもないセクハラ男でねー」

 

「その人に何かされたんですか?」

 

「あーいや、直接何かされた訳じゃなくて……その時にそいつ、私に見たくもない物を見ろ見ろって言って押し付けてたのよ。同人誌っていうの?際どいカッコの女の子の絵が描かれてる薄い本を、私に突き付けて来て……」

 

「あー……」

 

 再び青年はビミョーな顔で、栗林から目を逸らす。

 

「もーあんまりしつこいから、そいつが付き出してた本を蹴り飛ばしてやったわ。まあ、勢い余ってその本はバラバラになっちゃったけど……戦場にまであんな本持って来るなんて、どういう神経してるのかしら?」

 

「ソウデスネー」

 

「?」

 

 再びカタコトになって、某お昼の人気番組のギャラリーのごとき返しをする青年に栗林は訝しむ。

 

「あっ、私はこれから自分の配属先を確認するけど、あんたは?」

 

「僕はこの後、着替えないといけないので……」

 

「そっか、私は深部情報偵察隊のどれかに配属になるから、縁があったらまた会えるかもね?それじゃあ!」

 

「ええ、縁があったらまた……」

 

 そう言って栗林は編成発表している掲示板へ、青年は自分の荷物がある天幕へ歩いて行った。

 

(あ、そういえば、まだ名前聞いてなかったな……まあいいか。たぶんこれからも、ここで顔合わせるだろうし)

 

(なんとなく蘭子(らんこ)ちゃんに雰囲気が似た人だったな、言動と性格は片桐(かたぎり)さんみたいな人だったケド……偵察隊勤務となると、当分ここで顔合わせる事になるのかな?)

 

 この時は2人とも、今後はこの仮設陣地──建設重機も走り回っているので、いずれは駐屯地に発展していくと予測される──で度々顔を合わせる事になるだろう、ぐらいに考えていた。

 

 だが──

 

 この僅か30分後、再び互いに──しかも、同じ隊の同僚として顔を合わせる事になろうとは、この時2人は考えもしなかった。

 


 

「はぁぁ…………」

 

 顔合わせの為に集まって来た第3偵察隊の面々を見て、栗林は思わずため息を吐いた。

 

栗林(クリ)、どうしました?」

 

「いや、自分の勝手さに気付かされちゃって自己嫌悪に……」

 

 隣に居る長身の女性自衛官──黒川(くろかわ) 茉莉(まり)二等陸曹がそれを見て問いかけ、栗林が肩を落としつつ答える。

 

「人間とは勝手なものですわ」

 

「にしたって、勝手に期待した挙げ句 勝手にガッカリすることほど酷いものはなくない?」

 

「それはそうですが……」

 

 確かに栗林は特地派遣部隊への配属を聞かされ、特戦群クラスの優秀な隊員たちの同僚になれる事に期待していたのは事実だ。

 

 だが今回彼女の同僚となる隊員たちは、その理想とは程遠かった。

 

 無論彼女は彼らが特段駄目だ、と扱き下ろしている訳ではない。彼らの顔つきと体格、きびきびとした動作と言動から、むしろ平均以上の能力を持つ優秀な隊員で構成されている事は、彼女にも理解できる。

 

 しかし同僚に対する彼女の期待が期待だっただけに、どうしても評価基準が厳しくなってしまうのである。精強で知られる西部方面普通科連隊(西普連)出身の富田(とみた) (あきら)二等陸曹の存在が一服の清涼剤ではあるが、こうなると自分の所属先である第3偵察隊の隊長、伊丹二尉が想像通りの人物である事が最後の望みになる。

 

「遅くなりました……って、どうしたんですか?」

 

 そこへ、栗林の耳に足音と共に聞き覚えのある声が聞こえた。彼女が声の方へ目を向けると、戦闘服に着替えた先ほどの青年がこちらへ歩み寄って来ていた。

 

「ああ、今日はよく会うわね……あんたも第3(偵察隊)に配属なの?」

 

「ええ…自己紹介が遅れました、僕は……」

 

「あー、いいわよ。どーせ後で自己紹介すんだから、その時で」

 

 栗林の気だるげな対応に、青年は目を丸くする。彼女は青年の顔を一瞥しただけで、ネームプレートや徽章類には特段注意を払っていない。

 

「あのー…この人、何かあったんですか?なんか投げやりになってるんですけど……」

 

「気にする必要はありませんわ。彼女、少々自己嫌悪に陥っているだけですので」

 

 青年の疑問に、黒川は事もなげに答えた。

 

「あー……万が一この中の誰かからコナかけられたら、って考えると憂鬱だわ」

 

「あ、ご心配なく。僕の好みは『知的な女性』です。あなたは僕の好みとかけ離れてますから、そうすることはあり得──」

 

 ボゴォッ!

 

「──まぜェンッ?(何で?フォローしたハズなのに……)」

 

「悪かったわね!ガサツな体育会系で!」

 

「ぼ…僕はそんなこと言ってな……」

 

 ガクッ

 

 青年は「心配するような事は無い」とフォローしたつもりが、誤解されて捉えられてしまい、栗林にぶっ飛ばされて気絶してしまう。

 

「佐々木二尉ッ!?」

 

「へ?」

 

 それを見て、近くにいた富田が慌てた様子で叫ぶ。

 

(え?佐々木…佐々木二尉?)

 

 富田が青年の名字らしきものを叫んだのを聞き、栗林は改めて青年の胸元のネームプレートを確認する。

 

(プレートに書かれている名字は「佐々木」……うん、どこにでもある名前よね……って!?)

 

 だが続けて彼女が青年の襟元を確認すると──

 

(にっ…二等陸尉の階級章~~ッ!?)

 

 ──彼女より階級が四つも上である二等陸尉を示す階級章が、そこへ縫い付けられていた。

 

 つまり彼女は、知らずとはいえ上官相手にさんざんタメ口叩いた挙げ句、感情に任せてぶっ飛ばしてしまった訳で……。

 

(いやいや…佐々木ってよくある名前だから、同性の別人の可能性も……)

 

「ハイセッ!?」

 

 そこへ栗林の背後から、青年のものとは別の聞き覚えのある声が聞こえた。

 

 彼女が恐る恐る振り向けば、予想通りそこにいるのは先ほど彼女へ同人誌を押し付けていた三十路男。その男は驚いた表情で青年の近くへ歩み寄っている。

 

(ハイセ?……って事は、この頼りなさそうなのが佐々木 琲世二等陸尉~~ッ!?)

 

 これらの事実から、この青年は彼女が尊敬の念を抱いていた佐々木 琲世二等陸尉本人だったと判明する。

 

 続けて彼女は、男のネームプレートと徽章類を確認した。

 

(階級章は…二等陸尉……名前は…「伊丹」ッ!?)

 

 先ほどの青年が実は佐々木二尉(ハイセ)だった事実から「今度も同じ事が起こるのでは?」といった疑惑が栗林の中に浮かぶが──

 

(いやいや…いくら何でも、続けてこんなこと起こるはず無いし……)

 

 ──と、彼女はその考えを即座に否定する。

 

 そこで問題よ!佐々木二尉と知り合いらしき、この三十路男の正体は?

 

 3択──ひとつだけ選びなさい

 

 答え①:他所の偵察隊隊長である幹部自衛官

 答え②:偵察隊と無関係の司令部付き自衛官

 答え③:二重橋の英雄、伊丹二尉 本人

 

(正直、司令部へ行かないなら顔も合わせずに済むんで②に○を付けたいとこなんだけど…幹部が用事も無くこんな所うろついてるはずがないから、答えは①かしら?)

 

「ね…ねえ、富田ちゃん!」

 

「あ?えーと…確か栗林って言ったっけ、何だ?(富田ちゃん?)」

 

「あのオッサン、一体何者なの?」

 

「ああ、今度俺たちの上官になる伊丹二尉だよ」

 

「「はい?」」

 

 小声でやり取りしていたのだが向こうにも聞こえたらしく、例の男がこちらに振り向く。

 

「あー……ひょっとして自己紹介の最中だった?どーも、第3偵察隊の隊長に上番した伊丹 耀司です、よろしく」

 

 

 ガオンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 答え──── ③

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 答え③

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 答え③…………………

 

 

 

 

 

 

 

 絶望ッ!

 

 突き付けられた答えは③!

 

 現実は非情なりッ!

 

 

 

 

 

 

「…………ふ…ふ…」

 

「ふ?」

 

「ふざっけんじゃないわよ!!」

 

 言うやいなや、栗林は伊丹へ猛然と掴みかかって行くのであった。

 


 

 こうして栗林は無事(?)、特地にて2人の英雄と邂逅した。

 

 この後、伊丹と栗林の腐れ縁は「閉門騒動」の後に伊丹が一等陸尉に昇進し、彼が水陸機動団の中隊の一つを任された後も延々と続く事となる。

 

 またこの一月ほど後に日本へ戻った時、栗林にとって更なる絶望的な事実を突き付けられる事を、この時の彼女はまだ知る由も無かった。

 

 

 




 7月末に再びうつ病が悪化し、思ったほど執筆が進まなかったので、次回からしばらく休載します。

 ある程度書きあがったら連載を再開いたしますので、どうか気長に待っていただければ……。

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