ゲートSAA彼の地にて斯く戦えり   作:素面ライダー

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 どーも、こんばんは! 
 
 今回は、参考人招致編の序章です。 
 
 前回に引き続き、今回もデレマスキャラが複数登場してきます。更に、今回のエピソードでは自衛隊に絡む政界の闇もチラッと見えて来ます。 
 
 はたして、特地問題の中で見え隠れする政界の闇とは一体何なのか? 
 
 それでは、本編スタート!
 


門の向こうに在りし世界 

 

 帝国歴六八七年 霧月五日

 

 敵国ニホンの帝都トーキョー リサ殿宅にて

 

 妾はアルヌスに築かれたニホン軍の砦で、彼の国の技術や国力の一端を垣間見た

 

 そんなニホンの真の姿を確かめるため、妾は自分の目で敵国を直接見る事を決意しニホンへ赴く事を決める

 

 世界の境たる『(ゲート)』を潜ると、そこは……

 

 

 

 

 

 摩天楼だった

 

 

 

 

 

 

 かつて、この地を踏みしめた将兵は、何を思ったのだろうか?

 

 妾は今、この巨大な建物の谷間にあって、自らの矮小さを味わっている

 

 帝国で見る煉瓦や石造りの建造物とは異なる、見たことない異質な材質で作られた皇城を遥かに超える高さの建造物が一つどころか無数にそびえ立つ

 

 これほどの建造物群を造り上げた国家を相手に戦争をしている、帝国の未来を憂いている

 

(帝国皇女ピニャ·コ·ラーダの日記より抜粋)

 


 

 日本標準時 11:51頃

 

 東京中央区 銀座駐屯地

 

 同敷地内 中央ドーム前広場

 

『門』を潜って東京側へ出てきたピニャとボーゼスは、自分たちの常識からかけ離れた建造物群と、それらが織り成す街並みに圧倒されていた。

 

 レレイたち3人も似たような様子で、初めて見る日本の街を唖然として眺めている。上空を飛ぶジャンボジェットや、駐屯地のフェンスの向こうでトラックや乗用車、路線バスなどが無数に走り回る光景に、ピニャたち共々驚いた目を向けていた。

 

「いきなり、中世から21世紀に来たよーなモンだからな。逆は、よくあるネタだけど……」

 

「まあ下手に動き回られるよりは、いいんじゃないですか?」

 

 そんな5人の様子を尻目に、警衛所で外出手続きをする伊丹のセリフにハイセが答える。

 

 コツコツコツ……

 

「伊丹二尉ですね?」

 

 そして手続きを終えた伊丹の所に、黒スーツを来た男たちが近づいて来た。

 

「情報本部から参りました、駒門(こまかど)と申します。皆さんの案内と、エスコートを仰せつかっております」

 

 集団のリーダー格の中年男──駒門 英世(ひでよ)が一歩前へ出て、そう自己紹介する。その男の目付きと所作、そしてその身から漂わせる雰囲気に伊丹は油断ならない気配を感じ、思わずその男を注視する。

 

 ハイセも目を(すが)めて、その男を見た。彼から感じる気配には、一種の迫力があるものの、自衛官や軍人のような暴力的なそれとは種類が違っていた。自衛官たちが抜き身の大太刀ならば、目の前の男は袖口や靴の爪先に隠し持っている仕込みナイフといった所だろうか。

 

「……おたく、公安の人?」

 

「やっぱり、分かりますか?」

 

 伊丹が早々に自身の正体を見抜いた事に対し、駒門はさして驚いた様子も無く暗に肯定した。

 

「身に纏っている空気が、自衛官(僕たち)のものとは全然違いますからね。陸自と深く関わりがある組織と言えば警察、それも公安部ぐらいのものですよ」

 

「それに、生粋の自衛官がみんなおたくみたいになれるよーなら、そもそも情報漏洩なんか起こらないでしょ?」

 

「くっくっく…さすがは英雄の2人だ。失礼ながら、今回の任務に当たって、あんたら2人の事を調べさせてもらったよ」

 

 ハイセの説明に続く伊丹の言い分に、駒門は苦笑しながら言い放つ。

 

 チラリ

 

「?」

 

 一瞬、駒門に視線を向けられてハイセは怪訝な顔をする。だが駒門は気にせず、懐から手帳を取り出す。

 

「まずは佐々木 琲世(はいせ)、あんたの経歴なんだが……」

 

何も出てこなかった……でしょ?」

 

 駒門の言葉に先回りして、ハイセが答える。

 

「……おっしゃる通り、あんたに関しての記録は何処を探しても出てこなかった。まるで 、そんな人間など最初から存在していなかったかの様に

 

 駒門は含みのある口調でそう語った。

 

 もっとも、多少ハイセの事情を知らされている富田と栗林には予想の範囲内だったので、むしろ納得の表情である。

 

「正確には 、1年半ほど前に特機教導隊へ配属になる以前の記録が無かった、という事ですが……それ以前には零番隊に所属していた、との未確認情報もある。更には2年前から習志野であんたの目撃証言が複数あり、伊丹二尉とは その頃からの付き合いだと推測しています」

 

 そこで一旦言葉を区切り、ハイセを射貫く様な視線で貫く。その視線に、ハイセは思わずたじろいだ。

 

「ですが実際のところ……あんたは2年以上前まで、いったい何処で何をしていたんでしょうかねぇ?

 

「正直言うと、それは僕にも分からないんです」

 

 駒門の質問に、ハイセは忌憚(きたん)なく即座に答えた。

 

「……………………………………」

 

 その返答を聞いて、駒門はハイセへ探る様な目を向ける。

 

「なるほど……あんたに、過去20年間の記憶が無いって情報は、どうやら本当の様ですな」

 

 そう言って、駒門は伊丹へ向き直った。

 

「伊丹 耀司(ようじ)。平凡な大学を平凡な成績で出て、一般幹部候補生からブービーで三尉に任官。ビリだった奴はケガしたからで、本当はあんたがビリ。勤務成績は、不可にならない程度に可」

 

 ペラペラ……

 

 手帳を捲り、駒門は更に続ける。

 

「業を煮やした上官によって、幹部レンジャーに放り込まれ何度か脱落しかけるも、相棒(バディ)に迷惑かけまくって尻尾にぶら下がる様にして修了。あんた、その時のバディに蛇蝎の如く嫌われてるねぇ」

 

 笑いを堪えつつ、更に続けた。

 

「……その後、()()()習志野に異動。そこで万年三尉のはずが、例の事件で昇進。だが、同僚からは「オタク」「本当の意味で月給ドロボー」「反戦自衛官の方が主張のわかる分マシ」etc(など).etc(など).とまあ、コテンパンな評価だねぇ、くっくっく……」

 

「ハハ……」

 

 駒門が伊丹の経歴を語る傍ら、彼はバツが悪そうに苦笑した。あまりにも予想通りのそれに、ハイセは呆れた表情で伊丹を一瞥する。

 

「そんなあんたが、何で特殊作戦群()なんぞに?」

 

「は?」

 

 駒門の質問に、何故か栗林が素っ頓狂な声を上げた。

 

 特殊作戦群(Special Forces Group 略称 SFGp、通称 S)とは、米軍のグリーンベレーやデルタフォース、英軍のSASなど各国の特殊部隊を参考にして2004年に創設された陸上自衛隊史上初 かつ唯一の特殊部隊である。当然所属しているのは、レンジャーと空挺資格を持った優秀な隊員ばかりだ。ちなみに先ほど話に出てきた零番隊も、特戦群の一部隊である。

 

「はぁー……聞いた話なんですが、働きアリの1~2割は怠け者だそーで、その2割を取り除くとあら不思議、残った内の2割が怠け始めるそーです」

 

「ほう、怠け者が必要だと?」

 

 駒門の質問に対し、伊丹は蟻を例えに出して蘊蓄(うんちく)を傾け始めた。駒門は興味深く、それに耳を傾ける。

 

「上官に叱られた時にその話をしたら、上層部(うえ)へどんな風に伝わったのか、「優秀な者を集めても2割が怠けるのなら、最初から怠け者を入れておけば、最悪でも他の者は堕落せずに済むだろう」って話になって……」

 

「で、特殊作戦群に放り込まれた…と。まあ、あんたみたいなのがノンビリしているところを見れば、西普連の時の様に自殺するまで自分を追い込んだりする者は出て来んでしょうなぁ」

 

「……ただの屁理屈だったんだけどなぁ~」

 

 当時を思い出したのか、伊丹は頭をかきむしりながらぼやいた。

 

「~~~~~~~~~~っ!」

 

 栗林はその信じ難い事実に、とんでもないショックを受ける。その表情は深い絶望に染まり、まさに「この世の終わりだ」と言わんばかりだ。

 

「いやあぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」

 

 ダッ!タタタタタタ……

 

 そして、彼女は思わずその場から駆け出してしまう──といっても、駐屯地の外周を仕切るフェンスまでだが。

 

 ガシャン! ガシャン!

 

「なんで……なんで、あんなキモオタがレンジャーな上に…特戦群なのよぉ~……」

 

「ククッ…ハッハハハハハハッ!ヒーー!ヒーー!」

 

 駒門は堪えきれずに、腹を抱えて大笑いを始めた。

 

「間違ってる…世の中間違ってるぅぅ~」

 

 一方で栗林は、1人世の無情を嘆いていた。慌てて追いかけて来た富田が、突然身内を亡くして悲しみに暮れる女性を慰めるかの如く、彼女の背中を優しく叩く。 

 

 レレイを除いた日本語が分からない特地の面々は、突然の栗林の奇行にただただ唖然とするばかりだ。ピニャはいきなり嘆き始めた事に困惑し、ボーゼスは唐突に走り去る様子に怪訝な目を向け、テュカは何が起きたのか分からずキョトンとした表情だ。ロゥリィは事情に気付いているのかいないのか、面白そうな表情で栗林を見つめている。

 

 この面子で唯一日本語を理解出来るレレイは、事の次第を聞きたそうにしている。しかし富田は栗林を慰めるのに忙しく、伊丹とハイセは駒門に応対中。誰もレレイに構う余裕は無く、彼女は疑問を抱えたままその場で立ち尽くす事しかできなかった。

 

 カッ! ピシッ!

 

「あんた、やっぱりタダ者じゃないよ。働き蟻たちの中で、怠け者を演じられるあんたを俺は尊敬する」

 

 駒門はそう言って姿勢を正し、伊丹に敬礼した。

 


 

 どんより……

 

 どよどよどよどよ……

 

「うそよ、うそ…こんなのウソよ……これは夢よ…夢夢ユメ…………」

 

 情報本部が用意した、マイクロバス車内の最後部座席。そこで重苦しい空気を放ちながら、栗林は両手で顔を覆って必死に現実逃避していた。

 

 伊丹を始め、他の面々は栗林の放つ空気に当てられるのを避けるためか、彼女から離れる様に前方の席に座って目を逸らす。

 

「ササキ殿、彼女はいったいどうしたというのだ?」

 

「そっとしておいてあげてください。信じたくない事実を否応無く突き付けられて、現実逃避しているだけですから。放っといたら、そのうち元に戻りますよ」

 

「そ…そうか」

 

 ピニャの疑問にハイセは素っ気なく答えた。

 

 キュルルルル…グオン!ブルルルル……

 

 ハイセたちが言葉を交わす内に、乗客が全員乗り込んだ事を確認した運転手がエンジンを始動させる。

 

 ピニャとボーゼスは一瞬驚いたものの、特地で高機動車に乗ってアルヌスへ移動した経験があるため直ぐに気を取り直したが──

 

 ビーー! プシューー……

 

「「ヒッ!?」」

 

 ──ブザー音と共にドアが自動で閉まる様子を見ると、さすがに2人は息を呑んだ。

 

 ブロロロロロロ……

 

 その後バスはゆっくりと走り始め、銀座駐屯地の外へ移動していった。

 

「まずは、どこへ行きます?」

 

「まずは飯だな。そこ、右ね」

 

 黒服の運転手に、伊丹は行き先を指示する。

 

 そうして駐屯地から外へ出て銀座の街中を走っていると、初めて見る日本の街並みが珍しいのか、特地組の面々が小さな子供の様に窓にへばり付いて、食い入るように外の景色を見ていた。クリスマスが近いため、街中はイルミネーションで派手に飾りたてていて目を引きやすい。

 

 車窓から見える店の看板や軒先を、色とりどりのモールやLEDで飾りたてている。だが銀座の街中の所々にある閉鎖された店や使用者の居なくなったビルはそのままで、その場所は献花された花束以外に目を引くものが見当たらない。その寂寥感と周囲の派手なイルミネーションがコントラストとなって、銀座の街は一層幻想的な風景を作り出していた。

 

「賑わってるな。ここは市場なのか?」

 

「あっ、あのドレス」

 

 ピニャの言う通り、銀座は元々高級店の並ぶ繁華街ではあるのだが、『銀座事件』が起こる前に比べれば人通りは格段に少ない。以前はショーウィンドウに並ぶアクセサリーや服を目当てに、ウィンドウショッピングする人間でごった返していたのだが、現在は閑散としている……とまでは言わないまでも、以前に比べれば少ない方である。

 

 それでも種々様々な災害を経て、傷つきながらも再び元の生活を取り戻そうと奮闘しているその様は、日本人が根幹に持つ逞しさを如実に示していた。

 

「隊長、この辺で飯の当てなんてあるんですか?」

 

「ああ…あ、そこで降りるから」

 

 そこで伊丹が指し示したのは──

 


 

「……何で牛丼なんですか?」

 

 ──富田の言う通り、降りた先は全国展開している某有名牛丼チェーン店であった。

 

「文句は無しだ、富田。参考人招致まで出張扱いで、飯代は1食500円までしか出ないんだ」

 

「世知辛いっすねー」

 

「ホンマ、お役所勤めは世知辛いわなー」

 

「「「「「………………へ?」」」」」

 

 伊丹たち5人の隣から、唐突に聞こえた声に振り向いてみると──

 

「「周子(しゅうこ)ちゃん!?」」

 

 驚いたハイセとヒデが同時に叫ぶ。2人の言う通り、そこにいたのは346プロのアイドル、塩見(しおみ) 周子その人だった。

 

「やっほー、佐々木。久し振り」

 

「な…何で周子ちゃんがここに?」

 

「んー?今日、佐々木が日本に帰って来る言う話を人伝に聞いたんや。そんで公務員の安い給料やったら、たぶんここで昼飯食うて来るやろ思てな。せやさかい、ここで張っとったんよ」

 

「どうして、その事を…って聞くだけ無駄か」

 

 どーせ「塩見だから」という理由で片付くのは目に見えてるので、ハイセは即座にその疑問をダストシュートへ放り込む。

 

「で?何で、わざわざここで待ち伏せしてたの?」

 

「その前に、何か奢ってくれへん?」

 

「え?」

 

 突然の周子の「奢れ」発言に、ハイセは思わず固まる。だがこれまでの付き合いから抵抗は無駄だという事を、ハイセは嫌というほど理解していた。

 

「お腹すいたーん♪」

 

「…………はぁ~~」

 

 スッ

 

 結局は観念したかのように、ハイセは片手で頭を押さえて嘆息しつつ周子へメニューを差し出す。彼女はそれを手に取り、スタミナ超特盛丼と味噌汁とサラダのセット、更に追加でから揚げ(3個)を単品で注文した(〆て税込1,557円也)。

 

「あ、すいませーん!この娘の勘定、領収書お願いします。名義は「居酒屋しんでれら」で」

 

 せめてもの抵抗に、ハイセは周子の勘定を彼女の兄である周介(しゅうすけ)に押し付ける気満々でそんなことを(のたま)う──

 

 ヴーーッ!ヴーーッ!

 

 ──と、そこへハイセの懐のスマホからバイブレーターコールが響いた。恐らく、周介だろう。彼は、自分への悪意に異様なほど敏感で、こうやって即座に連絡を入れてくるのだ。なんとなく嫌な予感がするので、ハイセはそれを無視する。

 

「で、ここで僕を待ち伏せてた理由(ワケ)だけど……」

 

「その前に聞くけど、佐々木は特地でTVとか見いひんのん?」

 

「いや……最近、僕は駐屯地の外で仕事しているし…それに帰った後も、ずっと忙しかったから……」

 

 ハイセは並盛牛丼(税込448円也)を掻き込む傍ら、周子に訊ねるも質問を返されたので、それに答えた。ちなみに特地組の面々は自衛官でも防衛省職員でもないので、狭間から渡された金子から食費を出し、並盛牛丼+生卵(〆て税込544円也)をそれぞれ注文していた。

 

「な…生のまま、食べるのか?」

 

「殿下……」

 

「……ボーゼス、躊躇う猶予は無い!食べれる内に食べておかなければ、いざという時に体が保たん!」

 

「ッ!分かりました、殿下!」

 

 ちょうど彼らの後ろのテーブルでは、レレイたちが生卵を丼の中に落とすところを見て、ピニャたちがそんなやり取りをしている。

 

 更にピニャたちがレレイたちを真似て、生卵を牛丼に入れて試しに食べてみると──

 

「「んん~~~~~♡♡」」

 

 ──美味さのあまり歓喜の声を上げ、夢中になって卵入り牛丼を掻っ込んでいった。

 

「それが、どうかした?」

 

「ほな、知らんわな。実は最近日本のメディアで「自衛隊が特地に無理矢理押し入って、やりたい放題やってるんちゃうんか?」言う報道しとんねん」

 

 周子はここ一月ほどのメディアと野党議員の動き、そして日本の国内世論の移り変わりを事細かにハイセへ伝えた。

 

「……僕らを疑ってる…って感じじゃないね。むしろ、報道の方を信じてないみたいだけど?」

 

「十中八九、でっち上げやろからな」

 

 周子はキッパリと言い放つ。

 

「まだ特地の調査が十分に進んでへん内に、さも自衛隊が特地で問題を起こしとるかのような思わせ振りな報道を連日で流して、世間の感心を集めたところを見計らっての参考人招致や。誰がどう考えても、キナ臭いやん」

 

 周子は丼の飯と肉を頬張る傍ら、そう断言していた。

 

「……まあ、確かにね。しかも、やり方がずいぶんと露骨(ろこつ)杜撰(ずさん)、ついでにお粗末過ぎるから──」

 

「──特地の利権を目当てに、諸外国が慌てて情報操作に乗り出した。むしろ、そう考えるのが自然やろ?」

 

 ハイセの言葉を引き継いで、周子がそう答える。

 

「実際川島(かわしま)さんも、おかしい思てアナウンサー時代の伝手を辿って情報集めとるみたいやから、そろそろ連絡来るんちゃう?」

 

 ヴーーッ!ヴーーッ!

 

 周子がそう言っている側から、見計らったかの様にハイセのスマホからバイブレーターコールが響いた。

 

 川島さん

 

『佐々木くん!今、大丈夫?折り入って、話しておきたい事があって……』

 

 確認してみると、周子の言う通り瑞樹(みずき)からのメッセージが届いていた。

 


  

「ちょっと失礼します」と言って、ハイセは店の外に出てスマホを取り出し、瑞樹に電話をかける。

 

 プルルルル…… プルルルル……

 

 ガチャッ!

 

『もしもし?』

 

 数回のコール音の後、瑞樹が電話に出る。

 

「あっ、川島さん。ご無沙汰してます」

 

『ああ、佐々木くん?メールを見てくれたのね?』

 

「ええ…まあ、話の内容は大方察しが付きますが……」

 

 ハイセの言う通り、自らの状況と周子の話で瑞樹の要件は凡そ察していた。

 

『そう…なら話が早いわね。急で悪いけど、今日の参考人招致で呼び出された人と、連絡は取れる?』

 

「それなら、大丈夫です。呼び出された自衛官は僕と、後はもう1人だけですから」

 

『そうなのね……でも、本当に大丈夫なの?』

 

 電話の向こうから、瑞樹は心配そうにたずねる。

 

「こちらにやましいことは、何一つありませんからね。そもそも僕に言わせれば、今回の件で本来責められるべきは僕らの持ち出せる武器を、身勝手な理由で不当に制限した野党議員たちの方ですし」

 

 ハイセの言う通り、未確認の危険生物が多数生息している可能性が高いにもかかわらず、結成初期(3偵が炎龍と交戦するまで)の深部偵察隊の武器が貧弱だった理由は、野党がさんざん難癖付けて持ち出せる装備を制限したためだ。

 

 当初は隊員の安全確保の意味も含め、深部偵察隊には有線式対戦車ミサイル(TOW)を始めとした重武装を配備される予定だったが、これに対して野党が「特地への侵略に等しい」「憲法九条違反だ」「現地住民に無用の圧力をかける」と横槍を入れてきていた。

 

 これに対し与党は「あくまで現地の危険生物に対する防衛措置」「これは自衛権の行使に過ぎず、憲法違反ではない」「現地住民と接触時には重火器を持たせず、その都度映像記録の作成を義務付けさせる」と反論した。

 

 しかし野党はそれに聞く耳を持たず、実の無い反論を延々と続けていたのである。そのため与党は野党を黙らせるために、先方が示した装備削減案を渋々受け入れざるを得なくなった。

 

 それでも各偵察隊へMINIMI軽機関銃とブローニングM2、更に1発だけとはいえパンツァーファウスト 3(LAM)が配備できたのは、最初に野党が提示した偵察隊の装備編成に狭間と与党の防衛族議員が猛抗議した為だというのが大きい。そうでなければ、最悪偵察隊の持ち出せた武器が小銃と拳銃だけになっていたであろう。

 

 だが、その事がハイセたちを呼びつけた口実の一つになっているのも事実だった。

 

 向こうにしてみれば──

 

「(意訳)俺らが わざわざ重火器の持ち出しまで認めてやったのに、テメェらずいぶんな失態犯したじゃねぇか。えぇ?オイ!」

 

 ──といったところである。

 

 そもそも野党が偵察隊の装備を制限させた裏の目的が、わざと貧弱な武器を持たせて被害を出し易くし、官民問わず実際に被害が出た後、それを口実に政府内での主導権を与党から奪うためだった。

 

 その目論見をあっさり見抜いていたハイセにとって、野党が身勝手な権力争いのためにくだらない事をしていなければ、避難民の被害はもっと減らせていたと考えるのは当然の事である。野党の権勢欲を満たす為だけに、現場の隊員たちが人身御供になったのだから尚更怒りが込み上がる。

 

 もっとも、仮に自分たちが偵察隊の装備を制限していた事実を突っ込まれたとしても──

 

「そんな事は、記憶にございませーん♪」┐(´д`)┌

 

 だの、

 

「ア゙ー!ア゙ー!キコエナーイ!」(∩゚д゚)

 

 ──だの、そう言って、すっとぼけるであろう事が容易に想像出来る。そういった彼らの後先考えない行動の安直さと、保身のために直前の言動を平然と翻す厚顔さこそが、野党の野党たる所以なのだろう……たぶん。

 

『そうだけど、今日の国会で出張って来るのはそんな理屈が通じない相手よ?』

 

 先ほどのハイセの言に、瑞樹からはそんな答えが帰って来た。

 

『たぶん真っ先に出て来るのは、「銀座事件」の前から事ある事に自衛隊に横槍入れて(イチャモン付けて)、事件の後も何かと活動を妨害していた幸原(こうはら)議員よ?今回の参考人招致だって、特地の民間人に被害が出た事を知った幸原議員がしつこく噛み付いたのが理由の1つだし……今日の国会でも、どんな言いがかりをつけてくるか……』

 

「仮に何を言われようと、僕の答えは1つだけです」

 

 そこで、ハイセは一旦 言葉を区切る。

 

「僕らはお前らが押し付けた巫山戯(ふざけ)た制限の中で最善を尽くした、国会の議員席(アルプススタンド)からヤジを飛ばすしか能の無い政治屋(バカ)どもにとやかく言われる筋合いは無い、と」

 

 ハイセは毅然とした態度でそう答えた──背景にあるのは銀座の一画にある牛丼屋なので、いまひとつ締まらないが……。

 

『言いたいことは解るし、気持ちも解るけど…国会では言葉に気を付けなさいよ?相手はこっちが少しでも隙を見せようものなら、ここぞとばかりに追及してくる連中なんだから……』

 

「ええ、気を付けます。ありがとうございました」

 

 その後瑞樹といくらかのやり取りを交わし、ハイセは通話を切った。

 

 ヴーーッ!ヴーーッ!

 

 そのすぐ後に、再び瑞樹からメールが届いた。そのメールには、電子文書ファイル(PDF)がいくつか添付されている。

 

 ハイセは店に戻って残りの牛丼を手早く掻き込み、送られてきたメールに目を通していった。

 


 

 30分後──

 

 昼食を済ませた伊丹たちは、近場のスーツ量販店に来ていた。国会へ出るメンバーの1人であるテュカが、ストレッチジーンズとセーターといったカジュアルな姿なので、急遽スーツ一式を揃えるためだ。

 

 シャッ!

 

「へー、スタイルがいいとスーツも似合うわね~。スラッとした身体に長い手足が、よく映えるわよ〜」

 

「………………」

 

 スッ…スッ…

 

 パンツスーツを着て試着室から出てきたテュカを、栗林が褒めちぎっている。それを尻目に、ハイセは売り場の片隅で、先ほど送られてきたPDFに目を通している。

 

「それ、さっき川島さんから送られてきたメールなん?」

 

「うん…川島さんが送ってくれた、個人的に集めた情報をまとめたファイルに目を通してるんだ」

 

 しれっと何食わぬ顔してハイセたちに同行していた周子が、横からスマホを覗きこみつつ尋ねて、ハイセはそれに答えた。

 

「ほぉ……業界内部から提供されたものだけに、公安(我々)もまだ掴めていない貴重な情報の数々ですなぁ?」

 

 いつの間にか横に居た駒門が、ハイセのスマホを覗きこみつつそう言った。

 

「あ、駒門のおっちゃん?久し振り!」

 

「……今の我々の仕事は、この方々のエスコートですから、現状あんたやあんたの兄貴をどうこうするつもりはありません。ですから、今()()()()するのは勘弁してくださいよ?」

 

「分かっとるって!あたしらとおっちゃんの仲やん?」

 

「……あんたらと我々の常識に大きな隔たりがあるようですので、あまりアテにはなりませんが…一応、釘は刺しましたからね?」

 

 周子の言い分に対し、諦めたよーな呆れた口調で駒門が注意した。

 

「それはそうと…佐々木二尉、そのメールをこちらのスマホに転送してもらえませんか?」

 

「……一度、送信元に確認を取ってからでもいいですか?先方が了承しなければ、お受けできかねますから……」

 

「ええ、それで構いません」

 

 それを聞いたハイセは瑞樹へ再び連絡を取り、彼女から了承を得た上で件のメールを駒門のスマホへ転送した。

 


 

 後に世界各国の『門』への思惑が入り交じった一大騒動、「閉門騒動」と呼ばれる事件が起こる。

 

 そして「閉門騒動」と並行して繰り広げられた、日本の政財界とマスコミの一大粛清劇。その騒動において、この時に渡されたデータが腐敗した日本の政界とマスメディアを一掃する重要な役割を果たす事となる。

 

 だがこのデータが後にそんな大騒動に関わる事になるなど、ハイセも駒門もこの時は知る由も無かった。

 


 

 ちょうどその頃

 

 

 日本の某巨大掲示板サイトにおいて──

 

1. 特地に行きたい名無しさん:Vstkole

 

  国会中継に特地の美形エルフが出とる

 

2. 特地に行きたい名無しさん:Btsuzea

 

  マジか!!!!

 

 ──と書きこまれた事がきっかけとなりネットでバズり始めて、結果的に日本中(一部、諸外国の政府関係者)の注目を集める事となり、公共放送局の開局以来の高視聴率をマークした。

 




 
 本作をお読み頂きありがとうございます。
 
 実は、今回のエピソードにある塩見兄妹と駒門との設定には、作者(わたし)の個人的な出来事が関わっています。
 
 以下は「俺が美優にプロポーズするまで」 36話へ私が感想を送信させていただいた際に、(TADA)先生から以下のような返信をいただきました。
 


 
 書けば書くほとダメ亭主の面が強調される周介くん

 たぶん公安とかからもマークされてる 
 
 特撮セットはきっともうやってます
 


 
 この時のやり取りを元に、「駒門と周子は、周介を通じての知り合い」という設定ができました。その事もあって、駒門は塩見兄妹の扱いには随分手慣れています。 
 
 あと野党が特地深部偵察隊の装備を削減しようとしたという設定は、原作には無い本作オリジナル設定です。 
 
 参考人招致絡みの話を執筆している内に思いつき、単に「自衛隊を嫌って、活動を妨害している」という描写にするより物語としての深みと政治的背景が描けると考え、この設定を追加しました。 
 
 次回は2/1の00:00に投稿する予定です。 
 
 ご意見、ご感想をお待ちしております。
 
 
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