ゲートSAA彼の地にて斯く戦えり   作:素面ライダー

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 今回のテーマは参考人招致編です。 
 
 原作に無い追加要素をぶち込み長くなったので、前後編でお届けしております。 
 
 それでは、本編スタート!
  
 


静かなる攻防 (前編) 

 

 

 

 日本標準時 15:00頃

 

 

 東京千代田区永田町 国会議事堂内部

 

 国会議事堂に到着したハイセたちは、外務省との会談の為にピニャたちと共に都内のホテルへ移動する富田たちとは別れ(周子は国会まで一緒に行こうとしたが、さすがに警備上問題があるとして駒門につまみ出された)、参考人招致の会場である衆議院第一委員室へ向かって歩を進めていた。

 

 コツコツコツ……ガチャッ!

 

 どよっ!!

 

 ハイセたちが──正確にはレレイたち3人が入室すると、室内に待機していた議員たちが(にわか)にざわめき出した。

 

 ザワザワザワ……

 

「あれが特地の人間……」

 

「人間だよな?」

 

「女の子ばかりね」

 

「最後のコ、何持ってるの?」

 

 近年、日本で外国人観光客を見かける事は珍しくなくなったが、当然ながら国内の行政の中枢に出くわす事などそうそう無い。

 

 そのため、日本人とはかけ離れた容貌と各々が並外れた美貌の持ち主である事もあり、彼女たちは会場中の注目を集める。もっとも、ロゥリィは普段後ろに流しているヴェールを顔の前に下ろしているため表情は見えていない上、手に持っているハルバードに目が向けられていたが……。

 

「えー…皆様静粛に。これより、特地に関する参考人質問を始めます」

 

『質問者、幸原(こうはら) みずき議員』

 

 司会進行役の委員長に促され、スーツを隙無く着こなした気難しい顔をした中年のオバハn…

 

 ジロッ!

 

 ──もといババa…

 

 ギラリッ!

 

 ──ではなく女性議員でネーミングセンスのカケラも無い小規模政党《日本の平和と平等を守る会》の党首である幸原みずきがカメラ映りを気にしつつ、質問者用の演説台の前に出てきた。

 

 彼女が率いる党は、先日のTV出演での失態から自陣営の筆頭野党に見限られ始めており、今回の参考人招致での()()()の1番手も自党の巻き返しのためにゴリ押しに近い形で実現させていた(落ち目の政党を矢面に立たせて、万が一のリスクを避ける為という他党の思惑もあった)。もう後が無く失敗の許されない状況なので、周囲に控える彼女の部下たちの表情には余裕が無い。

 

 しかし彼女自身は前日に参考人──主にハイセの情報を国内のとある筋から秘密裏にリークされてきたので、今日の参考人質問を優位に進められる(と思い込んでいる)ためにその態度は意気揚々としたものだ。

 

 彼女は用意していた大きなボードを片手に、質問(詰問ともいう)を浴びせた。

 

「単刀直入にお尋ねします。特地甲種害獣──通称《ドラゴン》によって、コダ村避難民の実に四分の一にも及ぶ約150名もの犠牲者が出たのは、いったい何故なんでしょうか?」

 

 用意されたボードには「民間人犠牲者150名!!」などと、明らかに犠牲者を強調する内容が描かれている。いかにも「どーせ自衛隊(おまえら)が失敗したんだろ?」と言わんばかりの、見下した態度だ。

 

『伊丹 耀司(ようじ)、参考人』

 

 委員長に呼ばれ伊丹は、参考人側の演説台の前に出る。

 

 幸原は一般に公表されたものとリークされた情報から、伊丹が「自分たちに力が足りなかったからです」などといった真面目で自己批判的な答弁を弱々しくする事を期待していたのだが──

 

「えー、それは……《ドラゴン》が強かったからじゃないですか?」

 

 ──彼の返答は、テキトー極まるものだった。

 

(ッ!どういう事よ、聞いてた話と違うじゃない?『二重橋の英雄』は真面目で模範的な男じゃなかったの?マスコミの評判もそうだし、あの男もそう断言していたはずなのに……ああ、もう!)

 

「そっ…それは、自分の力量不足を転嫁しているだけではないですかッ!?150名が亡くなっているんですよッ!?それについて責任は感じないのですかッ!?」

 

 バンッ!!バンッ!!

 

 その返答に、手元のボードを叩きながら興奮した様子で幸原が喚き散らす。

 

『伊丹 耀司、参考人』

 

「えー、何の力量でしょうか?それとも、《ドラゴン》が現れた責任が我々にあると仰りたいので?」

 

「私が言っているのは、あなたの指揮官としての能力とか、上官の能力とかッ、自衛隊の指揮運営方針とかぁッッ、政府の対応にぃッッ、問題(むぉんどぅあい)はないのかぁッッとぉ(とぉあず)ねているんですぅッッ!!ぅそぉれとぉッ、《ドゥラゴン》の出現がぁッ、あなたのせいだとはぁッ、ぅ言っっていませぇんッッ!!」

 

 更にヒートアップしてきたのか、若○節に近い言い回しになりつつ幸原は続けた。

 

「ただぁッ、現場(ぐぇんば)に関わった者としてぇッッ、犠牲者(ぐぅいせいしゅあ)が出たことをぉッッ、どぅぉう受け止めているのですくわぁッッ!?とぉ、(とぉあず)ねているのですぅッッ!!大声で喚いて誤魔化したりぃぃッッ、関係ない事や難しい話でぇぇッッ、煙に巻いたりしないでくださいぃぃッッ!!ぶぅゥゥるぁぁぁぁぁァァァアッッッ!!!」

 

 ゼェー…ゼェー…

 

 幸原は肩で息をしつつ、伊丹を睨み付けて返答を促す。

 

「まぁ、大勢の方が亡くなられた事は残念に思いますよ。ただ、力量不足と言うなら、武器の威力不足を感じましたね」

 

 息を荒げて特大ブーメラン発言をやらかす幸原に、呆れた目を向けつつ伊丹は答えた。

 

「7.62㎜なんてハッキリ言って豆鉄砲でした、「もっと威力のある武器を寄こせ」って、あの時心底思いましたよ。メ○粒子砲とか、レーザーキャノンとか、重力子爆弾とか…SAAとレールガンだって、もっと早くから本腰入れて研究していれば、とっくの昔に量産されて自衛隊に広く行き渡っていたでしょうに……」

 

「そうすれば、今回の件でも犠牲者を大幅に減らせた」と言わんばかりに、彼は野党(と諸外国)による種々様々な妨害を暗に非難する。

 

「そもそも、あなた方は「軍事は悪」だと仰いますけど、軍事の何を知っているって言うんです?ネットもGPSも、軍事技術を基にして発展してったモノですよ?使うの止めます?SAA開発もバカみたいに反対ばかりしてないで、警察と消防での採用を視野に入れて積極的になれば、どれだけの人命が救えるか……」

 

「何だッ、その答弁はッ!」

 

「場所を弁えろッ、不謹慎だぞッ!」

 

 ブー!ブー!ブー!ブー!……

 

 伊丹のふざけた態度とその裏で事実を容赦なく突く言動に、図星を突かれた野党側から絶え間なくヤジが飛び出す。

 

「本省から補足説明、よろしいでしょうか?」

 

『防衛副大臣、渡辺(わたなべ) 良三(りょうぞう)君』

 

 笑いを堪えつつ、防衛副大臣が立ち上がって説明を始めた。

 

「自衛隊の持ち帰った特地甲種害獣──通称《ドラゴン》のサンプルを分析した結果、鱗の硬度はタングステン並モース硬度で言うとダイヤモンドに次ぐ「9」、それでいてその重さは約7分の1という驚くべきものでした。更に牙や爪による肉弾戦のみならず、口から超高熱の火炎を吐く事が確認されています。言わば空飛ぶ戦車です」

 

「むぅ」と口をつぐむ野党議員たちを横目に、副大臣は更に続ける。

 

「このような危険生物が相手であれば、伊丹二尉が64式小銃改を「豆鉄砲」と言うのも頷けます。そんな相手に「犠牲者をゼロに抑えろ」というのは、いささか酷な話ではありませんか?」

 

 専門家にここまで言われては、幸原も矛を収めざるを得なかった。

 

「……では、続けて佐々木二尉に話を伺います」

 

『佐々木 琲世(はいせ)参考人』

 

 気を取り直した幸原は、次の質問相手にハイセを指定した。委員長に呼ばれたハイセが、伊丹に代わって演説台の前に立つ。

 

「まずは所属と階級、()()当時の役職をお尋ねします」

 

()()()()()当時、特地派遣部隊の第3偵察隊に出向しSAAクラダーを勤めておりました。特機普通科教導隊所属、佐々木 琲世二等陸尉です」

 

 ありもしない自衛隊の失態をさりげなくアピールする幸原に、ハイセは自己紹介を交えて暗に反論した。

 

「……佐々木二尉にお尋ねします。あなたは第3偵察隊の任務において防衛装備庁でテスト中のレールガンを無断で持ち出し、あろうことか独断でそれを使用したと聞きましたが?」

 

『佐々木 琲世参考人』

 

何処(どこ)でそんな話を聞いたのか知りませんが、それは事実無根です。件のレールガンは既に特地内でテストを行っている段階でした。当時、それは防衛装備庁からの依頼と狭間(はざま)陸将の命令で、実戦テストを兼ね第3偵察隊の装備品に含まれています。使用に関しても現場の裁量に委ねられていて、現場指揮官の伊丹二尉に許可を貰った上で使用に踏み切りました」

 

 伊丹と違い真面目な口調で、ハイセはハッキリと返答した。

 

「そんな話を信じろと言うのですかッ!?」

 

「お疑いなら、ご自分で記録を確認されてみてはいかがです?」

 

 幸原の反論に、ハイセは珍しく慇懃無礼に皮肉を込めて返す。

 

「……では次の質問です。第3偵察隊が《ドラゴン》と遭遇した時に、あなたはレールガンを使用しましたね?」

 

「はい」

 

「あなたはその時に、避難民を巻き込んで攻撃したのではありませんか?」

 

「いいえ。当時、車両に同乗していた永近三曹が射線上に避難民がいない事を確認の上で車載機関銃を発砲して《ドラゴン》の注意を引き付けた後、私も射線上が無人である事を確認してレールガンを発射しました」

 

 自衛隊側に非があると確定事項のように決めつけて行う幸原の質問に対し、ハイセは毅然とした態度で否定した。

 

チッ……では、次の質問です。あなたは当時、現場で《ドラゴン》の襲撃を警戒して上空を監視していましたね?」

 

「はい」

 

「第3偵察隊は、襲撃直前まで《ドラゴン》を察知できなかったと報告にあります。あなたはその時、監視任務を疎かにして《ドラゴン》を見落としたのではありませんか?」

 

「いいえ。当時《ドラゴン》は太陽に隠れて接近し、我々から最も離れた場所に居た避難民の最後尾を襲撃していました

 

「噓を言わないでくださいッ!野生動物にそんな知恵があるわけ……

 

「本省から補足説明、よろしいですか?」

 

「農林水産副大臣、柏木(かしわぎ) 和真(かずま)君」

 

 農林水産副大臣の柏木が立ち上がって、説明を始めた。特地の生態系や未知の危険生物に対する知見は、農水省が防衛省と連携して深く関係している分野だ。そのため、両省の関係は比較的良好だ。

 

「佐々木二尉が言っていた《ドラゴン》の行動は、あり得ない事とは言えません。例えば地球でも野生動物が足跡の追跡を振り切るために、後方に残した足跡に合わせて一定距離を後退し、足跡の残らない場所へ跳び移る「止め足」と呼ばれる行動を取ります。熊がそれを利用して猟師を攪乱し、身を潜める繁みから注意を逸らして相手を襲う罠を仕掛ける事すらあるのです」

 

 柏木は地球の害獣を例に出しつつ説明を続ける。

 

「またこれは特地の自衛隊からの報告なのですが、特地で詳しい人間に話を聞いたところ、《ドラゴン》は最低でも数百年…下手をすれば1000年以上活動しているとのことでした。生まれて10年足らずの熊でも獲物を罠にかける知恵を持つのですから、1000年以上生きている《ドラゴン》が逆光に隠れて獲物を襲う事を覚えても何ら不思議ではありません

 

「しかし偵察隊の持ち出している機材の中に、対空レーダーもあったという報告も聞いています!それを踏まえると、レーダー監視員の報告を聞き逃したか、監視員が見落していたとしか……」

 

「本省から補足説明、よろしいですか?」

 

『防衛副大臣、渡辺 良三君』

 

 再度反論する幸原に割って入る様に、渡辺が柏木に代わって再び説明を始めた。

 

「先程の鱗に関する説明の続きです。専門的な話になるので、詳しい説明は省きますが…あくまで材質という点においては件の鱗は先程説明した強度に加え、B-2戦略爆撃機並の高度なステルス性能があることが判明しています」

 

 渡辺は先程の鱗の分析結果の続きを淡々と説明する。

 

「更に偵察隊の車載式対空レーダーでは、中~遠距離からワイバーンを探知出来てもステルス機、もしくはそれに準ずる飛行物体を探知出来る程の性能はありません。そもそもステルス機を探知しようというのであれば、最低でもイージス艦クラスの対空レーダーが必要となります」

 

 更には防衛省の分析結果に基づき、現場側に落ち度が無い事を説明した。

 

「これらの事実を踏まえると、とても偵察隊の失態とは言えません。よって先程の幸原議員の発言は、問題があることを進言いたします」

 

『幸原議員、発言は注意して行うように』

 

 諸々の説明で、野党側は完全に攻め口を失い黙り込む。

 

(……人間気取りのバケモノ風情(ふぜい)が)

 

 幸原は内心で毒づいたものの、そう言われてしまえば渋々引き下がらざるを得なかった。彼女は苦虫を噛み潰したような表情で、ハイセを睨み付けている。

 

 そして自衛官相手では思うような答えを引き出せないと判断した幸原は標的を変え、今度はレレイたちに質問をぶつける事にした。

 

「えー…ゴホン!それではレレイ参考人にお尋ねするとします」

 

『レレイ・ラ・レレーナ参考人』

 

 委員長に呼ばれたレレイは、ハイセと入れ替わりに演説台の前に立つ。

 

「日本語はわかりますか?」

 

「はい、少し」

 

 おおっ

 

 レレイが流暢に日本語を話す事に、会場内から感嘆の声が上がる。

 

「今は難民キャンプで生活しているようですが、不自由はありませんか?」

 

「不自由?」

 

 質問の意味を測りかねて、レレイは首を傾げる。

 

「不自由の定義が、理解不能。自由でないという意味なら、ヒトは生まれながらにして自由ではないはず」

 

「し…質問を、言い替えます。生活する上で、不足しているものはありませんか?」

 

 迂闊な質問で、ミドルティーンの少女からは想像出来ないほどの哲学的な答えが帰ってきたので、幸原は慌てて言い直した。

 

「衣・食・住・職・霊、必要は全て満たされている。質を求めていたらキリがない」

 

 レレイの答えは、幸原が満足するものではなかった。そもそも、幸原が満足のいく答えを返してやる義理などレレイには無いのだが、被災者である彼女たちが自衛隊に批判的な対応をする事が当然だと幸原は勝手に解釈しているので、先程の答えには大いに不満であった。

 

「……では、コダ村の避難民に死者が出た原因として、自衛隊の対応に問題はありませんでしたか?」

 

「……ない」

 

 そのためか、幸原はレレイに対して伊丹たちの時よりも直截(ちょくさい)に質問をぶつけ、若干それに戸惑いながらもレレイは淡々と答えた。

 

イラ……ありがとうございます。それでは……」

 

「逆に、こちらから質問しても問題ないか?」

 

「……何でしょう?」

 

 幸原は訝しみつつもレレイに質問を促す。

 

「この会合が始まってから続く、そちらの質問の意図は何か?先程から聞いていると、屁理屈と詭弁でイタミたちを責めている様にしか見えないが、これには一体何の意味があるのか?」

 

「ッ!!」

 

 純粋な、それでいて幸原のそれよりもストレートな質問をレレイに返され、思わず幸原は言葉に詰まる。その表情は、例えるならメジャートップクラスの豪速球をバッターボックスで目の当たりにした高校球児だ。

 

「べ…別に私は、彼らを責めている訳ではないのですよ?ただ、あなたがたを不当に扱っていないかを確認しているだけです。気に障ったのならば、謝ります」

 

 まさか、バカ正直に「別に私たちにとって邪魔で気に入らない連中を、口実付けてイビり倒しているだけよぉ?そのために、あなたたちをダシに使っちゃったけどゴメンね?てへぺろ☆(・ωく)」などと答える訳にもいかないため、幸原はこのように答えた。

 

 だが、それは豪速球に腰が引けた挙げ句、苦し紛れにバントをした時のよーな惨澹たる結果に終わる。

 

「……一応、今はそういうことにしておく。だけど、今後身勝手な理由で私たちの恩人を貶めていると判断したら…私はあなただけでなく、こちらの世界のいかなる勢力にも協力しない、絶対に

 

 声はいつも通り平坦ながら、静かな怒りと圧を感じさせるレレイの言葉に、会場にいる議員たちは一様に息を呑む。次いで与野党問わず、会場中の議員たちから非難の視線が幸原に殺到した。

 

「(意訳)余計なことを、しやがって!日本人の印象を悪くした挙げ句、せっかくできた現地協力者にヘソを曲げられでもしたら、どう落とし前を付けるつもりだ!?」といった具合に。

 

「で…では、テュカ参考人に話を伺います」

 

 幸原は自身に集まる視線に怯みつつ、話を進める事にする。

 

『えー、ここからはレレイ参考人に通訳をお願いします。テュカ・ルナ・マルソー参考人』

 

 テュカは委員長に呼ばれ、演説台にレレイと並んで立つ。普段のTシャツとジーンズ姿が高校生に見えるのに対して、濃紺のパンツスーツに身を包んだ今の姿は就活中の大学生の様に見えた。

 

「出身を教えていただけますか?」

 

「私はエルフ、ロドの森部族。マルソー氏族、ホドリュー・レイの娘よ」

 

 幸原に促され、テュカは胸を張って自己紹介した。

 

「不躾な質問で失礼しますが…その耳は本物ですか?」

 

 テュカはレレイに通訳された質問の意図を測りかねた様子だったが、外見の相違による純粋な好奇心の疑問だと説明され納得の表情を見せる。

 

「ええ、自前ですよ。触ってみます?」

 

 ピコピコ

 

 テュカはそう言って髪をたくし上げ、露になった耳をピコピコと動かした。

 

 オオオオオオオオオオオオオ……

 

 ババババババババババババッ……

 

 途端に会場中からどよめきが広がり、同時にシャッター音と共に無数のフラッシュが瞬く。

 

『皆さん静粛に!静粛に!』

 

 小学生の学級会よろしく、際限なく周囲の騒ぎが大きくなっていくので、収拾がつかなくなる前に委員長が会場内の面々に注意を促した。

 

「け…結構です。それでは、あなたが《ドラゴン》に襲われたとき、自衛隊の対応に問題はありませんでしたか?」

 

 幸原の質問をレレイが通訳した途端、テュカは当時の事を思い出したのか顔が青ざめる。

 

「……よく…わからない

 

「どういうことですか?」

 

「私がジエイタイに保護されたのは、私の村が炎龍に焼き払われた後だったし…コダ村の人たちが襲われた時、私は気絶していたから……」

 

「………………」

 

 イライラ

 

 テュカからも望みどおりの答弁が得られず、幸原は徐々に苛立ちを募らせていく。

 

「では次の……」

 

「私からも、質問していいかしら?」

 

「……何でしょう?」

 

 自身の苛立ちを隠して、テュカに質問を促した。

 

「あなたは炎龍を何だと思ってるの?私は井戸に逃げ込めたから運良く生き残れたけど、私の村に居た他の人たちはほとんど喰われたか殺されたわ。追い払うどころか逃げる事も難しい相手なのに、貴方はそれをコボルトか何かと勘違いしてるんじゃないの?」

 

 レレイと同様にテュカからも純粋で、それ故に容赦の無い質問が飛んで来る。

 

「と…特地の戦力では無理でしょうが、自衛隊ならば十数人の戦力でも追い払うだけなら容易です。むしろそれで犠牲者を出した事は、怠慢と言う他ありません。では、次の方に質問を伺います」

 

 幸原はテュカの質問にマトモに取り合わないばかりか、自衛隊に責任を擦り付けた挙げ句「ハイ!次行きましょ、次ー!」と言わんばかりに、さっさと次の参考人に質問を回す事で話を逸らした。

 

 その態度は幸原が現場の実態を把握していないばかりか、被災者たちの心情すら理解しようとしていない事実を如実に表していた。気付いていないのは、当の本人だけである。

 

『ロゥリィ・マーキュリー参考人』

 

 テュカに次いで委員長に呼ばれ、ロゥリィは入れ替わりに演説台の前に出てくる。

 

(黒服にヴェール…喪服に間違いないわ。この娘からなら、政府の非に繋がる答えを得られる筈よ)

 

 ロゥリィの服装から、幸原は一方的にそう解釈した。伊丹への質問からこっち、期待していた返答を得られないばかりか、レレイとテュカからはこちら側の無知と偏見を糾弾されてすらいたので、期待通りの答えを得られる(と思い込んでいる)ロゥリィへの質問には気合いが入る。

 

 幸原は相手に寄り添った優しげな口調で語りかけた──既に、これ以上無い程に心証を悪くしている事実は棚に上げて……。

 

「難民キャンプでの生活を教えてもらえますか?」

 

「エムロイに仕える使徒として、信仰に従った生活よぉ。朝、目を覚ましたら生きる、祈る。命を頂くぅ、祈る。夜になったら眠るぅ。まだ肉体を持つ身だから、それ以外のこともするけどぉ」

 

「い…命を頂く?」

 

「そう、食べること、殺すこと、エムロイへの供儀( く ぎ)……色々ねぇ」

 

 幸原は「命を頂く」の言葉で一瞬怯んだものの、次に「食べること」と答えていたので、それを宗教的なものだと解釈する。

 

「では…あなたのご家族が亡くなった原因として、自衛隊の対応に問題はありませんでしたか?」

 

「?……質問の意味が理解不能。ロゥリィの家族は──」

 

「資料によれば、避難民の四分の一が犠牲になったにもかかわらず、自衛隊には死者どころか怪我人の1人も出ておりません」

 

 幸原はレレイの通訳に被せる様に説明し、有無を言わせぬ口調で続ける。

 

「伊丹二尉と佐々木二尉は()()しませんでしたが、身を挺して戦うべきはずの自衛隊が《ドラゴン》を前に貴方がたを救助しようとせず、あまつさえ我が身可愛さに民間人を盾にして、危険に晒していたのではありませんか!?」

 

 更に幸原は悪意と偏見に満ちた身勝手極まる憶測を、さも事実であるかの如く断定的な口調で語った。その言葉にロゥリィは驚いた様な仕草を見せる。

 

 ヴェールで表情は見えないが、間違いなく彼女の心の琴線に触れたと確信して、幸原は更に畳み掛けた。

 

「さあ、話してください!詭弁と虚飾に満ち溢れた、極悪非道な自衛隊の本当の姿を!!」

 

 ビシッ!

 

 もはや自らの悪辣な笑みを隠そうとせず、ロゥリィを指差しつつ問い詰める。だが一発逆転ホームランを決めたつもりの幸原の予想は、完全な的外れであった。

 

 ロゥリィはおもむろに卓上のマイクを掴み質問を返した──

 

「あなた、おバカぁ~?」

 

 

 ──日本語で。

 

 

 




 
 ロゥリィのセリフの余韻を残しつつ、後半へ続く!  
 
 次回は2026.2.8 00:00に投稿予定です 
 
 なお、このエピソードと同時に『無限ガチャ』と『東島ライダー』のクロスオーバー短編も投稿しましたので、興味のある方はそちらも合わせてどうぞ!
 
 ご意見、ご感想をお待ちしております 
 
 
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