ゲートSAA彼の地にて斯く戦えり   作:素面ライダー

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 今回は参考人招致編の後半です。 
 
 この先、ロゥリィとハイセによる容赦なき追求劇が繰り広げられます! 
 スリリングな論争の準備はよろしいでしょうか? 
 
 それでは、本編スタート! 
 
 


静かなる攻防 (後編) 

 

 

「あなた、おバカぁ~?」

 

 

「確認するまでもなく、バカだよ」 

 

 

 マイクの前で大声を上げたために、スピーカーがハウリングを起こし、会場中の面々が思わず耳を塞ぐ。そんな中で腕と足を組み、椅子の上でふんぞり返っているハイセが辛辣な言葉でツッコミを入れる。

 

 だが幸原たちは、その事に気付く様子は無い。彼女たちは唐突で予想外な事態に、驚愕の表情をロゥリィに向けていた。

 

「し…失礼、今何と?」

 

「「あなたはおバカさんですか?」と尋ねたのよ、お嬢ちゃん」

 

「おじょっ!?失礼ですね!バカとは何ですか、バカとは!?」

 

 幸原は頭に血が上り思わず反論するも、次の瞬間ハッとなる。ロゥリィの口から、いきなり流暢な日本語が出てきていることに。

 

「おバカな質問をしているからよぉ。さっきレレイも言っていたけど、あなたたちはまるでイタミたちが頑張らなかったと決めつけて責めてるみたい」

 

 ロゥリィはレレイを介さずにそう言って、ヴェールをたくし上げて素顔を晒した。その目付きと表情は、完全にバカを見下した者のそれだった。

 

「あ…あなた、日本語が……」

 

「そんな事は、どうでもいいよよぉ。イタミたちが、どう炎龍と戦っていたのか…それを知りたいのでしょう?」

 

 物分かりの悪い相手に苦労して説明しているかの様に、ロゥリィは語り始めた。

 

「イタミたちは頑張ったわぁ。

 どんなに屈強な戦士でも炎龍相手なら逃げて当たり前なのに、難民が襲われていると知るや、即座に助けに向かうぐらいにねぇ。

 イタミたちが彼らを盾にして、安全な場所で戦っていたなんて事は…絶対に無いわよぉ

 

 断言したロゥリィを、幸原は苦虫を噛み潰した表情で体を震わせつつ睨み付ける。だがそれに構う事無く、根気よく言って聞かせる口振りでロゥリィは続けた。

 

「そもそも、兵士が自分の命を大事にして何が悪いのぉ?

 彼らが死んだら、あなたたちの様に雨風凌げる場所で駄弁っているだけの人を、一体誰が守ってくれるのかしらぁ お嬢ちゃん?

 炎龍相手に戦って生きて帰ってくる、まずはその事を褒めるべきでしょうにぃ。テュカの言っていた通り、あなたは炎龍を甘く見すぎているのではないかしらぁ?」

 

「くっ!」

 

 的確に事実を突かれた幸原は、ロゥリィを忌々しげに睨み付ける。

 

「それと…難民の四分の一が亡くなった事を強調しているけど、それは違う。イタミたちは四分の三を救ったのよぉ?

 それどころか必要な水、食料、薬、家、仕事を与えていたわ、それも無償でねぇ。

 ここまでやってくれる軍隊なんて、私の知る限りジエイタイしかいないわぁ」

 

 更に幸原の「詭弁と虚飾に満ちた極悪非道な自衛隊」と言った発言を、ロゥリィは完全に否定した。

 

「そんなことにも気付かないなんて、あなたそれでも元老院議員?それとも自分にとって都合が悪いから、気付かないフリをしてそれを誤魔化してるだけなのかしらぁ?元老院に居るのがこんなのばかりなら、この国の兵士たちはさぞかし苦労しているでしょうねぇ」

 

「そーそー、毎度毎度苦労してんだよ」

 

 伊丹が我が意を得たりと言わんばかりに頷く。

 

「イタミたちは、誰にも出来ない事をやり遂げたわぁ。それが、先ほどのおバカな質問に対する答えよぉ。お分かりかしらぁ、お嬢ちゃん?」

 

『参考人は言葉を謹んでください』

 

 フッ

 

 委員長にたしなめられるもロゥリィは鼻で笑い、呆れと侮蔑に満ちた目で幸原を見つめる。

 

「…………………………」

 

 ワナワナワナワナ……

 

 一方幸原は屈辱に体を震わせ、ロゥリィを睨み付けている。最初に見せていた余裕のある態度は、もはやどこにも無い。

 

 伊丹相手に圧をかけるどころかペースを乱されたのをきっかけに、ハイセには()()を完全否定され、レレイには図星を突かれ、テュカには無知と偏見を曝け出され、挙げ句の果てにはロゥリィにバカ呼ばわりである。

 もう幸原は理性が限界を迎え、爆発寸前だ。

 

 そして、据わった目付きと口調で語り始めた。

 

「大人に対する礼儀がなってない様ねぇ、()()()()()

 

「それって、私のことぉ?」

 

「他に誰が居ますか、土下座して謝りなさいッ!特地ではどうかは知りませんが、日本では年長者は敬うものなのですッ!それとも そちらでは、そういった習慣は無いのですかッ!?」

 

 

「そう言うセリフは、敬われる人間になってから吐くものですよ!」

 

 

 そう言って、ハイセは幸原の発言に割って入る。

 

『佐々木参考人、指名するまで発言は控えてください』

 

「すいませんねぇ、あの()()()()があまりに礼儀知らずな見苦しい発言を繰り返すもので……」

 

 委員長の注意に、ハイセそう返した。

 

「……聞き捨てなりませんね。礼儀がなってないのは、私の方だと言いたいのでしょうか?」

 

『さ…佐々木参考人、発言を許可します』

 

「どーも」

 

 ハイセに弁明させないと収まらない空気に、委員長は慌てて発言の許可を出す。

 

「では、改めてお聞きします。先ほどあなたは私に礼儀知らずだと仰いましたが、それは一体どういう意味なのでしょう?

 少なくとも、私としては今日の発言には最大限配慮したつもりですが?」

 

『佐々木 琲世参考人』

 

「本気でそう考えてるとしたら、ずいぶんお目出度(めでた)い頭をしていますね?先ほど……」

 

「どういうことですッ!?」

 

『幸原議員、まだ発言の途中です』

 

「~~~~~~ッ!なら、さっさと済ませてください」

 

 幸原はハイセの返答の最中に噛み付いて、委員長に窘められた。

 

「先ほどあなたは、発言には最大限配慮したと仰いましたが……私には、とてもそうは思えません。

 参考人招致が始まってから今に至るまで、あなたの発言には彼女たちへの配慮を全く感じさせ……」

 

「単にあなたの直感で、そう言っているだけではないですか!」

 

『幸原議員!』

 

 またも途中で噛み付くも、今度は委員長に強く注意を受けた。

 

ハァ……これは私の直感ではなく、今までの彼女たちとのやりとりを客観的に見た上での事実です。あなたは未だに、気付いていないようですがね」

 

 心底呆れきった顔で、ハイセは続ける。

 

「どういうことでしょう?」

 

「今日、あなたは彼女たちへ質問を繰り返すことしかしていませんよね?それ以外の事は、一切何もしていませんよね?」

 

「?……ええ、それがどうかしたんですか?」

 

「……ここまで言って、気付きませんか?今日のあなたからは彼女たちの難民生活を労る言葉も無ければ、亡くなられた方へのお悔やみの言葉も無い事に」

 

「ッ!?」

 

 ハイセに事実を突きつけられ、幸原は言葉に詰まる。

 

「それと……先ほどあなたがたは、伊丹二尉の答弁を不謹慎と仰いましたが…被災者を政治的な攻撃のダシにするのみならず、わざわざ日本まで引きずり出して晒し者にしているあなたがたこそ、よほど不謹慎ではありませんか?

 

「~~~ッ!」

 

「被災者への配慮の無さもそうですが、参考人招致までの経緯も聞くに耐えません。先月のTV出演の失態を挽回するために、相当なりふり構わない無茶をしていたそうですね?例えば──────」

 

 ハイセは幸原が参考人招致に至るまでの、メディアや国会での言動行動の数々を事細かに説明した。その中には秘かに幸原が行っていた、裏工作も含まれている。既に全国に知れ渡っていた事を交えて説明されたために、彼女は迂闊に否定出来ずにいた。

 

「なっ…特地に居たあなたが、どうしてその事を!?」

 

「親切な友人が、事前に教えてくれたんですよ」

 

 幸原のTV出演での失態と、件の特別番組の裏、そして参考人招致までの醜態の数々は瑞樹から、政界での裏工作の数々は周子からもたらされた情報だ。

 

「先ほどのあなたのセリフは、自分が敬われて当然と言わんばかりの物言いでした」

 

「ッ!?」

 

 冷静に言い放ったハイセの言葉に、幸原は息を飲んだ。彼女は自身に向けられた強い憤りを宿したハイセの目に、思わず後ずさる。

 

「ですが、偵察隊の装備を身勝手に制限した挙げ句、その結果の責任を我々へ押し付けていましたよね?

 それだけならまだしも、さも被災者たちを気遣っているかの様に見せかけて、その実 彼女たちの意思を一切無視した一方的な言動の数々……」

 

 ハイセが話すにつれて、その声には一層の重みが増し、幸原は冷や汗が止まらなくなっていく。

 

「そんなあなたを目の当たりにして、一体どこに敬意を抱けと言うんです?」

 

「ご…誤解がある様ですね。最終的に偵察隊の装備を決定したのは、総理を中心とした特地問題対策委員会です。その事は私たちの預かり知らぬ……」

 

「誤解ではなく事実です」

 

 ゴソゴソ……

 

 幸原の言葉を無視して、ハイセは懐からスマホを取り出して操作した。取り出したスマホには、予めUSBメモリーが取り付けられている。

 

『佐々木参考人、ここでスマホは……』

 

「手持ちのデバイスがこれだけなので、今は大目に見てください」

 

 ハイセはそう言って、操作の終えたスマホをマイクに近づける。

 

『──から言っているではないですか!何故、偵察任務にミサイルまで持ち出す必要があるのですか?』

 

「ッ!?」

 

 スピーカーから聞こえた声に、幸原は息を呑む。その声は、紛れもなく彼女のものだ。

 

『それは?』

 

「国会議事堂のHPのアーカイブに残されていた、偵察隊の装備を巡る国会審議の記録ですよ。今はモニターが無いので、皆さんに出せるのは音声だけですがね」

 

 委員長とハイセのやりとりの間にも、偵察隊の重武装化に反発する幸原のヒステリックな声が流れ続ける。

 

「この審議の2日後、野党の反発で2週間以上も編成が遅れていた事もあって、この意見に折れる形で偵察隊の装備案が可決されました」

 

「デタラメです!その様な事、記憶にありません!」

 

「記憶に有ろうと無かろうと、国会でこの発言があった事は事実です。映像にも、与党に反発して喚き散らしているあなたの姿がハッキリと映っています。何なら、ここにモニターを持ってきてもらって、その姿を確認しましょうか?」

 

「~~~~~~ッ!」

 

 幸原はその言葉に完全に黙り込んだ。

 

「さっきロゥリィは「犠牲者ではなく、生き残った者を気にかけろ」と言っていた所ですが…あなたがたが、どうしても責任の所在を明確にしたいのなら、今ここでハッキリと言わせてもらう!」

 

 そう言ったハイセの殺気混じりの威圧感に、野党側は思わずたじろぐ。彼は眼前の野党議員のみならず、この参考人招致を見ているであろう諸外国の政府へ向けて言い放った。

 

 

「150人ものコダ村の避難民を()()()のは、あなたがたを始めとした、直接間接問わず特地に関わった全ての国と人間の愚かしさだ!!」

 

 

 その言葉には、抑え切れない怒りが込められていた。

 

 僅かな間ではあったものの、言葉を交わし、避難に手を貸し、様々な形で関わってきたコダ村の人たち。

 炎龍に襲われた後、生き残った避難民の手も借りて、物言わぬ骸と化した彼らを集めて埋葬した。

 やるせない気持ちを抱えたまま辛うじて回収可能な遺体の一部を一つ一つ回収し、埋葬した時の事を今でもハッキリと覚えている。

 

 あの時最善を尽くしはしたが、それでも自分たちに全く責任が無いなどとは口が裂けても言えない。

 特地の危険度を分析した上で偵察隊の装備編成を決めた政府も同様で、間接的とはいえそれに関わった野党議員たち(と裏で日本に口出ししてきた国々)も同罪のはずである。

 それだけに幸原を始めとした野党側の言い分には、どうしても我慢ならなかった。

 

 連中が書類上の報告をなぞっただけで、現場を理解したつもりになるだけならまだいい。

 だがその上で自分にとって都合のいい勝手な解釈をし、あまつさえ当事者の意思を無視して、身勝手にでっち上げた自分にとって都合のいい事実をゴリ押しする彼らの態度と言い草には、(はらわた)が煮えくり返る思いだった。

 

「「「「「………………………」」」」」

 

 怒気どころか殺意すら込もったその声色に、野党側の席に着いている者たちは一様に圧倒され黙り込む。幸原に至っては最前列でそれを浴びたために、腰を抜かしてへたり込まないよう耐えるのに必死だ。

 

 スッ

 

「佐々木二尉の言っていた国会審議について、説明しておきたい事があるので発言よろしいでしょうか?」

 

『民衆党代表、赤松(あかまつ) (まこと)くん』

 

 そんな中、1人の野党議員が臆すること無く手を上げる。野党の最大勢力「民衆党」の代表である赤松だ。

 

「佐々木二尉は、我々が偵察隊の重武装化を妨げるために特地対策委員へ圧力をかけ続けた、と言っている様ですが全くの誤解です」

 

 その発言にようやく自分にも助け船が出たと、幸原は内心ほくそ笑む。だが赤松から飛び出したのは、幸原の思惑とは真逆の発言だった。

 

「その一連の活動は我々にも内密に幸原議員の手により独断で行われており、我々の手の及ばない所で進められていた事です。

 事態に気付いた頃には、既に我々に関与出来る余地はありませんでした」

 

「なっ!?」

 

(……トカゲの尻尾切り)

 

 即座にハイセは事態を理解する。

 

「どういうことですか、赤松議員(せんせい)!?あれは我々が共同で行っていた事のはずです!!」

 

「何の事かね?「特地の件を足掛かりに政府の実権を奪う」と大風呂敷を広げて、音頭を取っていたのは幸原くんだろう?」

 

「私は実行役を引き受けただけです!そもそも一連の計画を考えたのは、民衆党の議員(せんせい)方ではないですか!」

 

「おいおい…自分が吊し上げられそうだからと、我々に責任を擦り付けんでくれんかね?」

 

「私の失脚をちらつかせて実行役を押し付けておきながら、よくそんな白々しいセリフが吐けますね!」

 

「それでは、さも私が首謀者であるかの様な物言いではないか。人聞きの悪い……」

 

「………………………」

 

 イライラ

 

「実行役の件は間違いなく議員(せんせい)に直接言い渡された事です!それも私1人ではなく、その場には私の秘書も一緒でした!そうよね!?」

 

「あ…いえ、私には何の事か……」

 

「わ…私も……」

 

佐藤(さとお)ぉ!脇坂(わきさか)ぁ!テメエらまで!!」

 

「部下に話を振った所で、容易に口裏を合わせられるから意味は無いだろう?まあ彼ら自身は否定していたから、同じ事だがな」

 

「いいえ!ここにいる2人は、確かに私共々議員(せんせい)に指示を受けて行動していました!」

 

「どうやって、それを証明する?佐々木二尉の様に、私との会話の記録でも用意出来るのかね?」

 

「そんなもの無くとも、ここで私が明言すれば済む話です!」

 

「物証を伴わん証言など、何の証明になる?仮にそれが事実だとして、誰が君の言葉を信用するのかね?」

 

「………………………」

 

 イライラ

 

「とにかく、今の発言は訂正してください!私のやった事は、間違いなく議員(せんせい)の指示に従ったものです!」

 

「やれやれ…どうあっても、君は我々の責任にしたい様だな」

 

「私は政府と自衛隊の悪事を、世間一般へ明らかにしているだけです!」

 

『2人とも、いいかげんに……』

 

 

 バンッ!

 

 

「ゴチャゴチャ五月蝿(うるせ)えんだよ!!」

 

 

 突如響いた怒鳴り声に、思わず言い争いを中断した。 

 

 声の方へ振り向くと、見えるのは演説台に片手を叩きつけて2人を睨み付けているハイセの姿。彼は眼前で見苦しく責任転嫁を繰り返す体たらくに、とうとう堪忍袋の緒が切れ、思わず怒鳴りつけていた。

 

 

「責任の擦り付け合いなら他所(ヨソ)でやれ!!ここは特地での自衛隊の活動を説明する場所だ!!」

 

 

『佐々木参考人。気持ちはわかりますが、言葉を謹んでください』

 

 委員長はハイセが血気に逸る様に苦笑しつつ、その言動を嗜めた。

 

『ですが幸原議員。参考人の言う通り、今は特地における自衛隊の活動に関する質疑応答の時間です。これ以上口論を続けるなら質問は終わったと見なし、打ち切らせてもらいますが?』

 

「いいえ!少なくとも、そこの()()に土下座させるまで、引き下がるつもりなどありません!」

 

「あらぁ~まだ諦めてなかったのぉ?()()()()()

 

「よくもぬけぬけと……いいでしょう、()()()()()()に私が直々に礼儀を叩き込んであげましょう!その上で、先ほどの失礼な発言を謝罪してもらいます!」

 

「……へぇ~」

 

 幸原が野蛮人そのものの態度と言動で言い放つと、ロゥリィは据わった目つきで獰猛な笑みを浮かべる。

 

「これは驚いたわねぇ、たかが……」

 

 シュルッ

 

「い…委員長ッ!!」

 

 ロゥリィが殺気を纏いつつハルバードの帆布を取り払おうとするのを見て、慌てて伊丹は割って入った。

 

「幸原議員の重大な勘違いを正すために、申し上げておかねばならない事があります!」

 

『あー…では、伊丹参考人。発言を許可します』

 

 委員長の許可を得て、伊丹はハイセを参考人席へ引っ張ってから演説台の前に立つ。そんな伊丹をロゥリィは「邪魔しやがってコノヤロー」と言わんばかりの表情で睨む。

 

「えー…皆さま、我々は時として自分の年齢を武器として使う事がありますが、実際には外見と年齢がかけ離れている場合がある事を忘れてはいけません」

 

「「「「「「「???」」」」」」」

 

 会場では「いきなり何言ってんだコイツ?」と言わんばかりの空気が流れる。それを感じつつも、伊丹は簡潔に説明した。

 

「つまり、ぶっちゃけた話……ロゥリィさんは、この中にいる誰よりも年長なのです」

 

「それは、87のワシよりもか?」

 

「はい」

 

 ざわざわ……

 

 それを聞いて、会場に「んなアホな」といった雰囲気が流れる。地球の常識で考えれば当然なので、伊丹は「まあ、そうなるな」と苦笑した。

 

「女に年齢を尋ねるものじゃないわよぉ」

 

 ロゥリィはそう言うものの、幸原としては尋ねない訳にはいかなかった。

 

「……おいくつですか?」

 

「961歳よぉ」

 

「「「「「………………………」」」」」

 

 ざわっ

 

「12~3歳にしか見えんぞ?」

 

「不老不死?」

 

 ざわざわざわざわ……

 

 ロゥリィの答えを聞いて、会場は途端にざわめきだす。

 

「ち…ちなみに、テュカさんは?」

 

「165歳」

 

 グビッ……

 

 それを聞いて、会場内の女性議員たちは揃って思わず生唾を飲んだ。世の女性が追い求めてやまない、永遠の若さと美しさを持った者が目の前にいるのだから当然だ。

 

「ま…まさか……」

 

 ざわざわ……

 

 会場内の視線がレレイに集中する。

 

「……15歳」

 

 ホッ…

 

 レレイの年齢を聞くと、男性議員たちは途端に安堵の表情を浮かべる。ローティーンにしか見えないロゥリィが、実は自分の母親より遥かに年上と知ってしまえば、無理からぬ話であった。

 

「イタミ、代わって。説明する」

 

「あ…ああ」

 

 そう言うとレレイは伊丹に代わり、演説台の前に立った。

 

「私は門の向こうでは「ヒト種」と呼ばれる種族。その寿命は平均で60~70前後。住民の多くはヒト種である」

 

 そのレレイの説明に、安心した様な残念な様な複雑な空気が流れる。ある程度は予想していたものの、改めて言われるとやはり落胆するものだ。

 

「テュカは不老長命のエルフ。その中でも希少な妖精種で、寿命は一般のエルフより遥かに長く永遠に近いと言われる」

 

 つまりテュカたちエルフは、ほぼ不老不死と言っても過言ではなかった。実際にはヒトよりは遥かに間隔は長いものの、徐々に肉体が衰えていくので、厳密な意味での不老不死ではないが……。

 

「ロゥリィは、ヒトではなく亜神──肉体を持った神である。元はヒトで、昇神した時の肉体年齢に固定されている。通常は1000年ほどで肉体を捨て霊体の使徒に、そして真の神となる」

 

「………………………」

 

 パクパク

 

 それを聞いた幸原は、驚きのあまり声が上がらず、口を開閉するばかりだ。その状態のまま、彼女は内心頭を抱え込んだ。

 

 つまり幸原の理屈で言えば、礼を失しているのは彼女の方である。そればかりか、知らずとはいえ神を相手に土下座までさせようとしていたのだ。

 

 中には某麻雀漫画のワ○ズよろしく「神こそがワシの僕!奉仕しろワシに!」などと言って憚らない傲慢な者もいるかもしれないが、幸原はそこまでなれなかった。彼女は良くも悪くも小悪党なのである。

 

『幸原議員、質問は以上でしょうか?』

 

「……し…質問を終わります」

 

 用意したボードを殆ど使う事無く、刀折れ矢尽きた幸原はそう言うと、すっかり小さくなって引き下がった。

 

『えー…それでは、次の質問者は前に……』

 

 委員長がそう言うと、今度は特地について当たり障りの無い質問が繰り返されていた。

 

「…………………」

 

 そんな中で部下を平気で切り捨てて、いけしゃあしゃあと権力の椅子に居座り続けている赤松をハイセは睨み付ける。

 

「腹立たしいか?」

 

「当然です」

 

 伊丹の質問に、ハイセは短く答えた。

 

「気持ちは分かるが、ここは堪えろ。ここであのジジイを追及したところで、水掛け論になるのがオチだからな」

 

「……解ってますよ」

 

 そう言って、ハイセは苦虫を噛み潰した表情で赤松を睨み続けていた。

 

 


 

 

 参考人招致が終わり──

 

 控え室へ戻って来た幸原は直ぐ様電話をかけるや否や、開口一番にクレームを入れていた。

 

「聞いていた話と全然違うじゃない、どういう事なのよッ!?」

 

『いえ、ほぼ私の予想通りでしたよ』

 

「なッ?あなた…嘘を教えていたの!?」

 

『何の事です?私は防衛族の議員(せんせい)に近しい方々が、そんな話をしていた()()()と部下と話していただけですが?個人的な人間関係から得た、信憑性の疑わしい話を真に受けて、私への確認もそこそこに暴走したのはあなたではありませんか?』

 

「テメェ、いけしゃあしゃあと……」

 

『用件はそれだけでしょうか?でしたら予定が立て込んでいるので、これで失礼します。クレーマーを相手にするほど、私も暇ではありませんので』

 

「待っ……」

 

 ブツッ!

 

「~~~~~~~~ッ!!どいつもこいつも私を虚仮(コケ)にしやがって!」

 

 ガシャンッ!!

 

「せ…議員(せんせい)……」

 

「ア˝ァ?中村(なかむら)、テメェ後援会長への連絡はどうした?本当(ホント)何時まで経ってもグズで使えねぇ……」

 

「そ…その後援会長から連絡があって、「もう我々とあんたは無関係だ。今後一切、連絡してくるな」と……」

 

「はぁ?」

 


 

 ピッ

 

「よろしかったので?」

 

「奴の組織票(地盤)資金源(カバン)も既に俺の手の内にある。向こうに残ってるのは、他に行き場の無い連中だ。切り捨てても問題無い。後は我々で奴らの知名度(看板)を乗っ取ってしまえば、もうあのババアに用は無い」

 

 デスクに着いている男が電話を切るのを待ち、三白眼が特徴的な傍らの秘書と思しき男はそう尋ねると、電話対応をしていた男がいけしゃあしゃあと答えていた。

 

「与党への絶好の攻撃材料である、自衛隊内部にある佐々木の情報で信用を勝ち取り、諸々の偽情報を幸原へ流す。そして奴を自滅させた後、失脚した奴の政党を事実上乗っ取る。()()()()()あなたの思惑通りというわけですか(回りくどいマネを……)」

 

「ああ…余裕を無くしていたあのタイミングなら、確実にこちらの思惑に食いついてくると予測出来たからな」

 

 視線を向けている秘書の説明に、男は頷く。

 

「しかし、御父上の政治基盤を受け継ぐのであれば、このような小細工は必要無かったのでは?(面倒な事させやがって)」

 

「父の基盤をそのまま受け継いでも、古参の連中にいいように操られるのがオチだ。今のうちに、私独自の政治基盤を築いておく必要がある。今後の為にもな……」

 

「(どうでもいい)これは失礼、浅慮でした」

 

北条(ほうじょう)に先を越されるわけにはいかん。こちらが先手を打って、勢力を固めておく必要がある。私の手の者で先に政界を囲ってしまえば、後で奴が出て来た所で既に国政はこちらの思うがままだ」

 

 将来の政敵になるであろう北条前総理の息子──北条 宗祇(そうぎ)を引き合いに出し、男は自らの秘書へ眼鏡の奥の鋭利な眼光を向け不敵に笑う。

 

「それより、例の情報米国(ホワイトハウス)へ送ったのか?」

 

「ええ、それは凄まじい勢いで食いついてました(浅ましいブタどもめ……)」

 

「そうか…ならば、そう遠くない内にこの国は大きく動き出すな。ではそれに乗じて、この国に残る老害(ゴミ)どもを掃除していくとしよう……楽しいゴミ掃除だ」

 

「承知しました(せいぜい俺のために働け)」

 

 そう言うと、男──和修(わしゅう) (まつり)はデスクから立ち上がり、眼鏡のブリッジを押し上げつつ秘書と共に部屋の外へ向かって歩き出した。

 

 

 




 
 
 お気付きの方もいらっしゃるでしょうが、ラストシーンに登場した和修 政は、とある作品から引用した登場人物です。(秘書の男も同様) 
 
 今後も、この男をちょくちょくストーリーに絡ませていく予定です。 
 
 次回は2026.2.15 00:00に番外編の投稿を予定しています。 
 
 ご意見、ご感想ををお待ちしております。 
 
 
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