ゲートSAA彼の地にて斯く戦えり   作:素面ライダー

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 今回は参考人招致編で度々話題に出ていた特地深部偵察隊の装備削減案絡みの番外編です。 

 

 本編の裏側で繰り広げられた『政治の戦い』とは…………。 

 

 それでは、番外編スタート! 

 


番外編 それぞれの戦い 1 

 

 

 戦いとは、戦場だけで起こっているものではない。

 

 少なくとも、何らかの形で国を動かしている者たちは、それぞれの場所、それぞれのやり方で皆生き残りを賭け、熾烈な戦いを繰り広げているのだ。

 

 例えば──

 

 


 

 

 狭間(はざま) 浩一郎(こういちろう)の場合

 

 自衛隊の第一陣が特地へ突入した翌日 

 

 日本標準時 21:36頃

 

 東京中央区 銀座駐屯地 特地派遣部隊仮本部

 

 銀座事件でテナント契約者が全員死亡し、使用者の居なくなったビルの一棟。自衛隊が『門』の直ぐ近くで活動するために接収したその一室で、戦闘服姿の初老の男がデスクに着いて渋面を作っていた。

 

「…丸手(まるで)一佐、政府からのこの要求は確かなのかね?」

 

 日本政府からの要請書に目を通した初老の男──狭間 浩一郎陸将は我が目を疑い、思わずそう聞き返さずにはいられなかった。

 

「ええ、間違いなく。といっても総理としてはこの要請自体は本意ではなく、野党の要求や追及があまりにもしつこかったので、こういう要請を出さざるを得なかったらしいですがね」

 

「…………ふぅ」

 

 ここへ要請書を持ち込んで来た丸手 (いつき)一等陸佐は皮肉気に吐き捨て、狭間は心底呆れた様子でため息を吐きつつ目元をマッサージする。

 

 その机には1枚の紙切れが無造作に放り出されている。

 

 そこには、あらゆる方向で自衛隊の行動を制限する要求が、これでもかというほど延々と羅列されていた。それも要求という形を取っているものの、この文面はほぼ命令と言っても過言ではない。

 

 

 特地深部調査隊(仮称)編成の改善要求

 

 ・部隊構成人数は3~5人の班編成とする

 ・調査班の数は最大で5班のみ

 ・携行火器は護身用の拳銃のみ

 ・小銃の携行には必ず政府の許可を取る事

 ・理由の如何を問わず重火器の携行は認めない

 ・移動車両は1/2tトラックのみ許可する

 ・如何なる装甲車両の使用も認めない

  etc.etc.……

 

 

「どう見ても、現場を知らないバカ議員が思い付きで書いた代物です。これを渡された時、その政治屋(クソ野郎)を何度ブッ殺そうと思ったか……」 

 

「思っていても口には出すなよ?我々を引きずり下ろして、後釜に座りたい連中は腐るほどいる」

 

「釘を刺されなくても分かってますよ、陸将。そもそも今のこの国会に居る連中は、銀座事件の混乱を利用して成り上がろうとする奴等がほとんどですからね」

 

 丸手の言う通り、銀座事件で数千名の民間人が犠牲になったにも関わらず、大多数の政治家はこの現状を政界で自身の権威を向上させる好機としか見ていない。

 

 そんな連中にとって、現場の実行役となる自衛官の中で自分たちの()()()()となり得ない狭間たちなど邪魔者でしかないのだ。

 にもかかわらず彼らが特地対応の担当者となっているのは、彼ら以上に有能な幹部自衛官が現在の防衛省に居ない為だ。

 

 銀座事件では政治屋紐付きの上級幹部がクソの役にも立たない中、短時間で可動戦力を掌握して出動出来たのは狭間とその幕僚団のリーダーシップによる所が大きい。

 それもあって、特地の現場責任者は狭間が務める事になったが、隙あらば彼らを引きずり下ろし、自身の忠犬を後釜に据えたいと考える政治屋どもは掃いて捨てるほど居るのだ。

 

「しかし、ここまであからさまな要求を出すって事は、連中の狙いは……」

 

「……十中八九 特地の偵察を失敗させ、私と本居(もとい)内閣を失脚に追い込むつもりだな」

 

「まあ官邸からこの要請書を出してきたって事は、自分たちで説得するのは無理だから陸将に丸投げしたっつー事でしょう」

 

「本来なら、それは彼らの仕事なんだがな」

 

「専門家のお墨付きが必要だからじゃないですか?」

 

「……とにかく、そんな馬鹿げた要求に従うわけにはいかん。部下に死んで来いなどと言えんからな」

 

 狭間はそう言いながら、パソコンを操作し始めた。

 

「どうするおつもりで?」

 

「無手で突っ撥ねても、屁理屈をこねてゴリ押しするのは目に見てえいる。必要な装備と人員を示す資料をこちらから用意して、連中に直談判してやる!

 丸手一佐、「失敗して責任を取る事になるのはお前たちだ」と野党を()()出来る様、そちらも準備を頼む」

 

「了解」

 

 こうして、狭間たちは野党と()()()する為の準備を進めていった。

 

 


 

 

 それから2週間後──

 

 日本標準時 14:21頃

 

 東京千代田区 国会議事堂内本会議場

 

 現在ここではすっかりお馴染みとなった特地に関わる審議が、今日も繰り広げられている。

 

「何度も言わせないでいただきたい!貴殿方の提案している装備と部隊編成では、部下の命を保証出来ないために受け入れられないと言っている!」

 

『だから何度も言っているではないですか!何故、偵察任務にミサイルまで必要になるんですか!?』

 

「先ほども説明した通り、未知の甲殻生物への対処です!既に銀座事件で、ワイバーンと呼ばれる装甲航空戦力が確認されています!そういった危険生物へ対応するために必要だと申し上げている!」

 

『たかだか偵察に、180人もの隊員を動員する必要はあるのですか?そんな大人数で出向いて行けば、現地住民に無用な圧力をかける事になりますよ?』

 

「たかだか偵察?偵察は現地の脅威度を入念に調査し、今後の対策の方向性を決める重要な任務です!そのため偵察要員には優秀さはもちろんの事、あらゆる場面で臨機応変に対応出来る柔軟さが求められます!偵察隊の増員は、そういった不測の事態に対応するためです!

 現地住民への圧力に関しては極力武装せず、接触の時の記録を義務付けさせると先ほど説明したではありませんか!」

 

『理由はどうあれ、一隊30人で6部隊も編成するなど認められません!それでは特地への侵略に等しいではありませんか!そもそも自衛隊の()()は憲法9条違反ですよ?』

 

「先に攻撃を仕掛けて来たのは向こうです!これはあくまで自衛権の行使の一環で、断じて侵略行為などではありません!むしろ侵略して来たのは、特地側の武装勢力ではありませんか!」

 

『その侵攻を防いだ以上、もう戦闘は終わったはずです!あなたは非戦闘地域に数十人もの隊員を()()させる事を、侵略とは言わないと言うのですか?』

 

「戦闘が終わったと思っているのは、貴殿方だけです!つい先日も、特地側で大規模な戦闘が起こったばかりなんですよ?そんな火種が残る場所へ、部下を丸腰同然で放り出す事など出来ません!」

 

『特地側のテロリスト相手なら、武器は拳銃だけで十分です!必要以上の武器を持たせるつもりはありません!』

 

「だから、特地内の脅威は武装した人間だけではないと言っている!」

 

 ──と、このように自衛隊側と野党側の議論は平行線を辿っていた。

 偵察任務の重要性と必要な規模を論理的に説明する資料を用意していたため野党側に丸め込まれず済んでいるものの、ここ10日以上このように堂々巡りを繰り返している。

 

(おそらく、この水掛け論も野党(向こう)の思惑通りだな?これで稼いだ時間を使い、議長が野党側に転がる工作をする腹積もりだろうが……)

 

 だが狭間はこれを予測して、既に手は打っていた。

 

 狭間が演壇上で野党議員に反論を繰り返していると、議員席後ろの入口からスーツ姿の男が十数人ほど音を立てずに入って来た。

 余程慌てていたのか、急ぎ足で議員席に居る1人に歩み寄って耳打ちする。すると、見る見るうちに議員の顔から色が失われていった。

 そういったやりとりが、議員席のあちこちで繰り広げられる。

 

 やがて野党側の反論を主導していた議員──幸原(こうはら) みずきが、忌々しげに口を開いた。

 

『……いいでしょう。これ以上時間をかける訳にもいきませんので、こちらが妥協します。偵察隊の規模、及び携行火器の追加を認めましょう(意訳:チッ、しゃあねぇな。時間も無ぇ事だし、こっちから妥協してやっから、泣いて感謝しやがれ駄犬が!)』

 

「ご理解頂き、ありがとうございます。必要だったとはいえ、こちらも無理を言っていたので、少しであればそちらの要望を聞き入れて構いません(意訳:反論スピーカーごときが、寝言は寝てから言いやがれ!妥協してやってるのは、こっちの方なんだよヒステリーババア!)」

 

 こうして、特地の偵察を巡る国会審議は幕を閉じるのだった。

 

 


 

 

「思ったより早かったな、丸手一佐。正直、1ヶ月はズルズルと引き延ばされると思ったが」

 

「議長相手の裏工作の情報を早々に掴めたから、それを利用したまでですよ。もっとも、それも公安の中に話の分かる奴がいたおかげですがね」

 

「何にせよ、助かった。これで部下に無理を言わずに済む」

 

「しかし…部隊規模はあらかじめ水増ししていて難を逃れましたが、装備の方はずいぶん削られましたね。あの連中、一昔前の国際平和維持活動(PKO)の延長か何かと勘違いしてんじゃないですかい?」

 

「そちらも削られる事を前提で、多めに申請していたのだがな。TOWを持ち出せなかったのは痛いが、そこは拳銃だけで戦地へ放り込まずに済んだと考えるしかあるまい」

 

「まあ、今後も装備の追加申請は続けておきますよ」

 

「ウム、頼んだぞ」

 

 


 

 

「失態だな、幸原くん」

 

「申し訳ありません。まさか、こうも早くこちらの動きを掴まれるとは……」

 

「言い訳はいい、君に任せたのが間違いだった。やはり、吠えるしか能の無い野党議員(飼い犬)どもは使えない様だな」

 

「なッ?待ってください!もう一度、チャンスを……」

 

「欲しければ、どう動けばいいのか分かるだろう?君の活動の場は国会(ここ)だけではないはずだ」

 

「そ…それは……」

 

「地道に()()を見せ続けていれば、そのうち君にも機会が巡るだろう。まあ、頑張りたまえ」

 

「…………………くそッ!」

 

 


 

 

 かくして、防衛省と野党の双方の妥協が成立した。

 変更された偵察隊の編成と装備は以下の通り。

 (前者が自衛隊側の要求、後者が最終的な決定)

 

 

 部隊規模

 最大30名(小隊規模) × 6部隊 総数約180名

       

 最大15名(分隊規模) × 6部隊 総数約90名

 

 

 使用火器

 64式小銃改と9㎜拳銃、M26手榴弾は標準装備

 MINIMI軽機関銃:4丁 → 2丁

 M2ブローニング重機関銃:4基 → 1基

 パンツァーファウスト3(LAM):10発 → 1発

 06式小銃擲弾:20発 → 却下

 有線式対戦車ミサイル(TOW)発射機(4連装):3基 → 却下

 

 

 特殊装備

 先進個人装備システム(ACIES)は標準装備

 機動重装甲冑(SAA):5機(予備機2機) → 3機(予備機1機)

 空撮用ドローン:5機 → 3機

 汎用型ドローン:5機 → 却下

 固定翼式無人偵察機(UAV):1機

 

 

 部隊車両

 73式小型トラック:2両 → 1両

 高機動車:2両 → 1両

 軽装甲機動車(LAV):1両

 96式装輪装甲車(WAPC):1両 → 却下

 89式装甲戦闘車(FV):1両 → 却下

 

 

 この件で幸原は野党内での評価を決定的に落としてしまい、自衛隊のネガティブキャンペーンを行っては世間の評価を落とすという悪循環に陥る事となる。

 1ヶ月後に行われる参考人招致において、1人の若手自衛官の手により引導を渡される時まで延々と……。

 

 




 

 以上、『それぞれの戦い その1』でした! 

 

 次回は2026.3.1 00:00に本編を投稿予定です。 

 

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