ゲートSAA彼の地にて斯く戦えり   作:素面ライダー

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 タイトルの通り、今回から世界各国の(身勝手かつ横暴極まりない)思惑から、それぞれの暗部が本格的に動き始めます。 
 
 はたして、伊丹たちはそれらを切り抜けられるのか? 
 
 それでは、本編スタート!
 
 


暗闘の始まり

 

 

 

 夕方の時間帯で都内の交通量が増える中、伊丹たちの迎えのマイクロバスとそのバスの前後に護衛車が一台ずつ並んで走っていた。

 

 その道中、赤信号で車間距離が空いた隙に一台のSUVがバスとの間へ強引に割り込んで来る。強引に割り込んで来た割に、その車はあたかも護衛車をバスから引き離そうとするかの様にスピードが遅く、隣の車線でも護衛車の進路を塞ぐ形でトラックが走っているため追い抜く事が出来ない。

 

 そうこうしている内に護衛車はバスとはどんどん引き離され、とうとう信号が赤に変わった交差点で見えなくなってしまった。

 

「……指揮車より全車。お客さんが餌に食いついた

 

 


 

 

 日本標準時 17:21頃

 

 東京千代田区永田町 東京メトロ国会議事堂前駅

 

 プァン! ゴオォォォォォ……

 

 現在、伊丹一行は最寄りの地下鉄の駅へと移動していた。

 

 参考人招致が終わった後に、テュカは日本へ来る時に着ていたセーターとジーンズに、伊丹は駒門の部下が用意したグレーのスーツとステンカラーコートに、そしてハイセは予め用意していた私服にそれぞれ着替えている。レレイたちの容姿のためか、伊丹たちは周囲の視線を集めまくっていた。

 

 ハイセの服装はOD(オリーブドラブ)のカーゴパンツ、黒のハイネックのインナーの上から白のVネックのカットソー、ネイビーカラーのフライトジャケットだ。その上更にギターケースを背負っている姿はバンドマンの様に見えるため、伊丹たちがタレント事務所の一行に見えなくもない。

 

「こんな連中を引き連れてりゃ、そりゃ注目を集めるわな」と、伊丹は内心で嘆息する。

 

 そんな伊丹を他所に、国会での幸原たちとのやり取りを不審に思っていたレレイたちは、思いきってハイセに事情を尋ねていた。

 

「呆れた…あの元老院議員が、そんな理由で私たちをニホンに呼び出してたなんて……」

 

 ハイセから先ほどの参考人招致の経緯を聞いたテュカは、心底呆れ返って吐き捨てる。

 

「茶番に付き合わせて、すまないね」

 

「それは構わないけど…最初、私たちはファルマート大陸にヒト種以外の人種も居る事と、そこでの生活を教えるためだって聞いてたから……」

 

 テュカはハイセの謝罪を受け入れつつも、最初に聞いた話との食い違いに戸惑いを隠せずにいた。

 

「もちろん、それも間違いじゃない…というより、最初はそうする予定だったんだ」

 

「……ひょっとして、その時私たちが炎龍に襲われた事がニホンで噂になった?」

 

 横でハイセの弁明を聞いていたレレイは、日本での経緯に察しがつく。彼女はその事実を確かめるために、ハイセへたずねた。

 

「まあね。それで、その事が日本国内で話題に上がった後、周りの突き上げが厳しくなってきて──」

 

「──ジエイタイを嫌っていたあの元老院議員が、それを口実にイタミたちを貶めていた。それで間違い無い?」

 

「ああ、うん……大体そんな感じ」

 

 ハイセはレレイの推測を肯定し、日本で起こった事を簡潔に説明した。そしてレレイはその説明を受け、そう断じた。

 

 いつにも増して彼女の言葉に冷淡さを感じるあたり、相当腹に据えかねていた様である。

 

(こうなると…あのババアは単なる使い走り(パシリ)で、黒幕の目的が実質的な国政の簒奪だったっていうのは、黙ってた方が良さそうだな……)

 

「それにしても……あなた、よくそんな命令に従えたわね?」

 

「国から給料を貰ってる以上、ああいった茶番に付き合ってやるのも仕事の内だからね」

 

 テュカの呆れと感心の入り交じった質問に、ハイセは肩をすくめて平然と答える。

 

「それにしては、元老院で随分反抗的だった。命令に従うなら、あんな態度は必要無いはず」

 

「僕たちが受けた命令は「国会へ赴き、参考人招致へ出頭せよ」()()だよ。連中に都合のいい証言をしてやる義理も義務も無いさ」

 

 レレイの問いに対し、ハイセは命令に対し少々曲解した解釈を悪びれもせずに語っていた。

 

 それは下された命令に対して(内心はともかく)全く逆らっていないように見えるので、なんとも質の悪い。現場を自分に都合よく動かしたい政治屋にとって、伊丹と同様に頭の痛い男であろう。

 

 ゴウウウウウ……

 

『お待たせいたしました、2番線に池袋行きが参ります。黄色いブロックまで──』

 

 テュカとレレイの疑問にハイセが返していると、ホーム内のアナウンスが列車の到着を知らせる。それに合わせて、伊丹たちを含めた周囲の人間が、地下鉄の塀のホームドアの前に整列を始めた。ホームの列車待ちの客たちが、誰に言われるでもなく行儀良く列をなしている光景に、テュカたちは驚く。

 

 ウウウウウウウ……キイィッ!

 

 プシュー

 

『国会議事堂前、国会議事堂前です。乗り降りの際は──』

 

「はーい、乗るよー」

 

 列車が到着して伊丹は全員に乗る様に促すも、ロゥリィはその場から動こうとしなかった。

 

「どうした?早く乗れよ」

 

「こ…これに乗るのぉ?」

 

 地下鉄ホームに下り始めてから、珍しくロゥリィはレレイたちの会話にも参加せずに、伊丹の傍らで表情を引きつらせていた。

 

 列車の中を興味深く眺めながら乗るレレイたちとは対照的に、ロゥリィは腰が引けている。だが他の面子が列車に乗り込んでいる以上、残っていても置いていかれるのは目に見えているので、ロゥリィもおずおずと列車に乗る。

 

「お、いたいた。富田、栗林、ヒデ、ごくろーさん」

 

「急に「四ッ谷から地下鉄に乗れ」って言われて慌てましたよ。バスを囮にするって、聞かされてなかったんで……」

 

 駒門に指定された先頭車両で、富田たちの姿──伊丹たち同様、3人とも私服に着替えている──を見つけ、伊丹が声をかけると、富田が戸惑った様子で返した。その傍らには、ボーゼスが寄り添っている……というより、しがみついている。が、2人が甘い雰囲気を纏っているかと言われれば、そういったものは全く無い。

 

 豪奢な金髪美人のボーゼスと、革パンとフリースの上にカシミア混のハーフコートを羽織っているガタイのいい富田の2人は傍目にお似合いに見えるのだが、怯えて富田にしがみついている姿には甘い空気は全く感じなかった。もっともボーゼスはともかく富田の方は、戸惑いつつも満更でもない様子だが。

 

 ニヘラ……

 

「な……何スか?」

 

「はいはい、おめっとさん」

 

「んなッ!?」

 

 伊丹の揶揄い混じりの冗談に、富田は途端に赤面した。

 

「ったく…ハイセといい、こいつといい……」と、若干面白くなさそうに伊丹はぼやく。

 

「そ…それより、丸の内線が地下を走り出したら怯え始めまして。地下墓地(カタコルーベ)に連れて行くのか、地の奥の魔窟へ連れて行くのかって」

 

「一応、これがこういう乗り物だとは説明したんスけどね」

 

「まあ、特地(むこう)には地下を走る乗り物なんて無いから、無理もありませんよ」

 

 富田と次いでヒデの説明に、ハイセがフォローを入れる。

 

 見ると少し離れた場所で、ピニャも不安気な表情で手すりにしがみついていた。

 

(ここで わっ!とか言って、脅かしたら……ん?)

 

 グイ……

 

 伊丹は、突如袖が引っ張られた事に気付く。振り向いてみれば、ロゥリィがピニャたちと同様に怯えた表情で、伊丹にしがみついていた。

 

 テレレ~♪テレレ~♪……

 

『ドアが閉まります。手荷物をお引きください』

 

 プシュー

 

「ひっ!?」

 

 ビクッ!

 

 ひとりでに開閉するドアにロゥリィは青い顔をして驚き、伊丹にしがみつく強さを一層強める。

 

 プァン! ゴウウゥゥゥゥ……

 

「ど…どうした?ロゥリィも、これダメか?」

 

「じ…地面の…地面の下は、ハーディの領域なのよぉ」

 

「ハーディ?別の神様か?」

 

「地面の下、つまり地底をテリトリーにする神……多分、地球側でハーデスとかハデスと呼ばれる、冥界の神じゃないですか?」

 

 伊丹の疑問に、ハイセはロゥリィの言葉を推察した。

 

「あいつやばいのぉ、200年前にもお嫁に来いってぇ……もう、しつこくってしつこくってしつこくってしつこくってぇ」

 

「先任の神の嫁取りかぁ……そういえば、地球の神話ではゼウスの逸話が有名になりすぎて、他の神の浮気話があまり知られていないけど…ひょっとしたら、そのハーディもゼウスと同等のヤリ○ンって可能性も……あいたっ!?」

 

 コツンッ!

 

 何故か、車内に落ちていたゴミがハイセの頭に当たって、彼は目を丸くする。

 

「それで、何で俺に?」

 

「ハーディ避けよぉ。あいつ男が嫌いだからぁ、こうしてたら近寄って来ないかもしれないでしょぉ?」

 

(ちっがーう!ここは「勘違いしないでよねぇ、ただの虫よけのカモフラージュなんだからぁ」がお約束だろ!)

 

 伊丹が内心でツッコミを入れている所を、それを大方察しているハイセが横目で胡乱な目を向ける。

 

 ウウウウウウウ……キィィッ!

 

 プシュー

 

『霞ヶ関、霞ヶ関です。乗り降りの際は足元に……』

 

「よぉ」

 

 霞ヶ関に到着すると、駒門が列車に乗り込んで伊丹たちの近くへと寄って来る。

 

「予定を早めて、箱根に向かう」

 

「バスの方は?」

 

「見事に引っ掛かったよ。 

 移動手段の変更を知らなかった時点で、漏洩の容疑者は2人に絞られた。今は情報の行先を確かめるために泳がせている」

 

水漏れ箇所を塞いだりはしないんですか?」

 

「ハニートラップにでも引っ掛かったんでしょうから、そいつを追求したところで無意味です。ですが、何処から漏れているかを我々が知ってさえいれば、問題ありません。 

 そこから、どの国が仕掛けて来ているのかを突き止められますし、逆に欺瞞情報を送る事も出来ます」

 

「そういうもんですか」

 

 駒門は伊丹と、それに続くハイセの質問に淡々と答え「俺にも仕掛けて来ないかなぁ」と独り言のように呟く。一方で「餅は餅屋」「ややこしい事は専門家に丸投げ」が信条の伊丹の反応は薄い。

 

「ま、伊丹さんも気を付けて…って、その好みだったら心配無いか。某国だって、そんな容姿(ロリ)の工作員は養成していない──」

 

 駒門が唐突に言葉を切り、「いや待てよ、最近報告に上がって来た件…」「あの少女コールガール組織なら、あるいは…」などとブツブツ言いつつ携帯情報端末(PDA)を操作しているところを「国会中継見てないのか」と伊丹は呆れた目で見ていると──

 

「イ…イタミぃ」

 

 ギュッ

 

「ここから出たいのぉ。もぅガマン出来なぁい」

 

 ロゥリィが、そう言って訴える。

 

「酔ったのか?次の次で降りるから──」

 

(!?本当(ホント)に苦しそうだな……)

 

「ねぇ、早くぅ……早くぅ」

 

 ロゥリィの必死さを見て、未だにPDAに注目している駒門を除く伊丹たちは苦笑しつつ、目線で了承した。

 

 ウウウウウウウ……キィィッ!

 

 プシュー

 

『銀座、銀座です。乗り降りの際は……』

 

「てな訳で、駒門さん降りるよー」

 

「え!?」

 

 伊丹の唐突なセリフに、駒門は驚いてPDAから顔を上げた。

 

「ちょ…ちょっと待てよ!こっちにも段取りってもんが……」

 

「ええやん、1駅ぐらい歩いたって」

 

 駒門は慌てて文句を言いながら、列車に乗り込もうとしている乗客を掻き分け、伊丹を追ってホームへと降りる。

 

『東京メトロをご利用のお客様に、お知らせします。 

 東京メトロ丸ノ内線は、東京─銀座間で発生した架線事故の影響で、一時運休しております。 

 ご利用の皆様には、大変御迷惑を──』

 

「「「………………」」」

 

 そして自動改札に戸惑う特地組の面々を横目に、外へ出ようとした矢先で駅内アナウンスが聞こえた。駒門、伊丹、ハイセの3人は何かを察したかのように、顔を見合わせるのであった。

 

 


 

 

 地上に出ると、特地組の面々は一様にほっとした表情になった。 

 

 いくら危険が無いと分かっていても、慣れない地下空間に長々と居続けるのは気分のいいものではない。ピニャとボーゼスは、カタコルーベ等に連れて行かれなかった事にあからさまに安堵していた。 

 

 ロゥリィは他の神の領域から出られた事で、緊張から解放され大きく伸びをしている。

 

 富田と栗林、そしてヒデは乗っていた地下鉄の架線事故を重く受け止め、周囲の警戒を強めていた。そんな中で、伊丹は駒門に訊ねる。

 

「敵さんの目的は何だと思う?」

 

「威力偵察、示威行動「こちらは何時でもお客さんに手を出せる」という警告だ」

 

 伊丹の問いに、駒門は半ば確信に近い自らの予測を淡々と述べる。

 

「それで、立て続けに失敗してたら世話ありませんがね。威嚇どころか、お笑い草ですよ」

 

「ええ、全くもってその通りです。ですが2度の失敗に業を煮やして、そろそろ直接的で分かりやすい手段に出てくるはずだ。例えば……」

 

 タタタ……バッ!

 

「キャッ!」

 

 パシッ!

 

 ドスン!

 

 丁度ハイセと駒門が話していた所に、人混みの中からチンピラ風の男が飛び出して来た。 

 

 その男はロゥリィが持つ帆布に包まれた荷物をひったくろうとしたが、即座にハイセに足を払われ転倒し、荷物の下敷きになって動けなくなった。

 

「こうやって、相手を追跡させて罠に誘い込む…ってのが常套手段なんですが……何やってんだ、コイツ?」

 

「あ、ちょっと待ってください」

 

 チンピラに近づこうとする駒門を、ハイセが止める。

 

「佐々木二尉、どうするんです?」

 

 シュルッ! バキッ!

 

「ギャァァァァァァアッ!!」

 

 駒門の質問に答えず、ハイセは問答無用でチンピラの右足首をグレイプバイン・アンクルロック(プロレス技のアンクルホールドの一種)で破壊した。

 

「佐々木二尉ッ!?」

 

「この男の正体や目的は何であれ、護衛対象に危害を加えた事は事実です。尋問の前に、見せしめも兼ねて逃げられない様にしておきます」

 

 そう言ってる間に、ハイセは淡々と左足首も同様に破壊した。

 

 タッタッタッタッ……

 

「君ッ、何をしている!?」

 

 更に膝十字固めで膝を片方ずつ潰していると、2名の制服警官がやって来る。甘く見ている人間も多いが、事件が起きた時の日本警察のレスポンスは比較的早い。

 

「駒門さん、お願いします」

 

「ッたく……面倒事は、私に丸投げですかい?」

 

 駒門は「一体、誰の影響なんだか……」などと愚痴りながらも、駆け付けた警官に応対する。

 

「何だね、君は?邪魔するなら、公務執行妨害で……」

 

 やって来た警官は、立ち塞がる駒門を押し退けようとする。しかし、駒門が眼前に開いた警察手帳を見て、続く言葉を飲み込んだ。

 

「失礼。私は警視庁公安部から、防衛省情報本部へ出向中の駒門です」

 

「け…警部殿でしたか、失礼しました!」

 

 警官は駒門の階級を知り、姿勢を正した。

 

「しかし…これは一体、どういう事なんです?」

 

「自衛隊と公安部共同のマル特案件。そう言えば、お分かりで?」

 

 そう言われて、警官たちは息を飲んだ。その一言で、所轄の一巡査に関われる案件ではないと悟ったためだ。

 

「とりあえず、この男は我々で引き取りますので、周囲の野次馬を下がらせてもらえますか?」

 

「は…はあ、わかりました」

 

 そう言われて、警官2人は集まり始めた野次馬を下がらせ、解散を促す。その間も、ハイセによる関節技地獄は続いていた。

 

「さて…君が何処の国の工作員(エージェント)で、何のためにこんな事をしたのか、話して貰おうか?」

 

「………………」

 

 正体を半ば確信している為か、ハイセは北京語でチンピラに問いかける。だが、チンピラは一瞬だけ目を剥いた後に、言葉が解らないフリで沈黙する。

 

「黙秘するのは勝手だけど、オススメしないよ」

 

 バキッ!

 

「アアアアアアアアアッ!!」

 

 明確な拒絶の意思に、ハイセは仕掛けていた腕挫(うでひしぎ)腕固めでチンピラの右肘を破壊する事で返答する。

 

 そのままチキンウイング・アームロックに移行して、尋問を続けた。

 

「もう一度聞く。君の所属国と、この作戦の目的は?」

 

「………………」

 

 ボキンッ!

 

「~~~~~~~~~ッ!!」

 

 更に黙秘を続けるチンピラへの返答に、今度は肩関節を潰す。次いで、右肘と同じ要領で左肘を極めた。

 

「所属国、並びに作戦目的は?」

 

「黙れ!盗人猛々しい日本人(リーベンレン)がッ!!」

 

 ベキンッ!

 

「~~~~~~~~~ッ!!」

 

 ジャキッ!

 

「ッ!?」

 

 ハイセはそのまま左肘を潰して、変形のチキンウイングに移行しつつ懐からあるものを取り出し突き付ける。

 

「これが最後だ!これの後遺症でどうなるか判らないから、自分の意思で話す事をオススメするよ!」

 

 ハイセはチンピラの左腕を極めつつ、先ほど取り出したあるもの──注射ガンを首筋に突き付けて詰問する。

 

「君の所属国、並びに作戦目的は!?」

 

 ニヤリ

 

见鬼去吧(くたばれ)日本鬼子(リーベングイズ)ッ!!」

 

 バシュッ!

 

「ッ!!」

 

 チンピラ──もとい工作員の返答に、ハイセは躊躇わず注射ガンを撃ち込んだ。

 

「こ…殺しちゃったの?」

 

「いや、薬を撃ち込んだだけだ。まだ生きてるよ」

 

 テュカの質問に、ハイセはしゃあしゃあと答える。彼の言った通り、工作員はまだ死んではいなかった

 

「あ…あー……うー……」

 

 だが工作員の目は虚ろで、だらしなく涎を垂らし呻き声をあげている。これでは自我があるかどうか、怪しい有り様だ。

 

「い…一体、何を撃ち込んだんですか?」

 

「友人が作った、特製の自白剤ですよ。心理誘導を使わず、望む質問に答えさせる事の出来る優れもの……らしいです」

 

 富田に答えた通り、これはハイセの友人である一ノ瀬(いちのせ) 志希(しき)謹製の自白剤である。作った本人は「効果は保証するよ~にゃははははは~~」などと言っていたものの、実際に使った事はないため、正直薬効については未知数だった。

 

 そこへちょうどいい所に工作員が口実を作ってくれた(カモがネギ背負って現れた)ので、人体実験がてらこの薬を撃ち込んだという訳だ。

 

「……塩見の嬢ちゃんたちもそうだが、佐々木二尉の交友関係も大概ですなぁ」

 

「あの人たちと一緒にしないで下さいよ。僕の交友関係なんてフツーですよ、フツー」

 

 駒門の言い分に対してハイセは自分の事は棚に上げ、しれっとした顔で答えた。

 

「じゃあ、改めて聞くよ?君の所属国は何処だい?」

 

「ち…支那(チャイナ)……国家安全部の日本支部工作員……」

 

 先ほどまで頑なに口を閉ざしていた工作員が、今度はあっさりと答えた。その様子に、駒門を含めた全員が驚く。

 

「君たちの作戦目的は何?何故ロゥリィたちを襲おうとした?」

 

「し…知らない。俺…下っ端……表の仕事の最中に、急に連絡が入って…送られた写真の女たちを…指定の場所に誘き出せとしか……」

 

「……なるほど、彼は捨て駒だった様ですね。まあ、予想はしてましたが」

 

 どうやら、この男は末端も末端で大した情報は持ってない様だった。しかも話を聞く限り、ずいぶん杜撰で乱暴な作戦である。

 

「では応援を呼んでおいたので、こいつを回収して来るのを待ちましょう。我々の本部で改めて尋問します」

 

 駒門はそう言って、未だに工作員を下敷きにしているロゥリィの荷物(ハルバード)を持ち上げようとした。

 

「あっ、それぇ……」

 

「あん?何だ?」

 

 ペキンッ!

 

「*#@¥$★◎※£§~~~ッ!?」

 

 


 

 

 ピーポーピーポー……

 

「~~~ッ!こっ…腰がぁ~~…腰がぁ~~……」

 

 周囲からの注目が集まる中、駒門はうつぶせの状態で呻き声を上げながら担架で運ばれていく。原因は急性の腰椎捻挫(ようついねんざ)──要はぎっくり腰である。

 

 見た目10代前半のロゥリィが軽々と持ち運んでいるため知らない人間は誤解しやすいが、彼女のハルバードは《鍛冶神》と呼ばれるほどの名工が鍛えた代物で、素材の密度は我々の想像を遥かに超える。柄の部分だけでも10数㎏あり、総重量は推定で70~80㎏にも及ぶ物で、軽い気持ちで持ち上げようものなら当然こうなる。

 

「と…とりあえず今日は……市ケ谷会館に……」

 

 バムッ! ピーポーピーポー……

 

 そう言い残し、駒門は救急車で緊急搬送されて行った。

 

 

 南無

 

 

「……とりあえず、JRで秋葉原(アキバ)寄ってから……」

 

「今すぐ市ケ谷会館に直行しますよ!」

 

 この期に及んで自らの欲求を追及する伊丹のタワゴトを、栗林は一蹴した。全くもって、ブレない男である。

 

 


 

 

 日本標準時 23:31頃

 

 東京某所 住宅街のとあるアパート

 

 とある事情で市ケ谷会館を後にした伊丹たちは、30分ほどかけて歩き、住宅街の中にあるアパートの前までたどり着いていた。

 

「隊長……本当にここの住人は大丈夫なんですか?」

 

「ああ、少なくとも信用は出来る

 

 ガチャガチャ キィ……

 

 富田の質問に伊丹はそう答えながら、慣れた手つきで鍵穴に鍵を差し込みドアを開けた

 

「何だ、まだ起きてたのか梨紗(りさ)?電気が消えてたから、寝てると思ってたぞ……寒いな、この部屋」

 

「あ……」

 

 伊丹は慣れた様子で部屋へ上がると、部屋の住人と思しき者に親しげに声を掛けた。そして、住人──声からしておそらく女性だろう──の伊丹への第一声は「ごはん……」という、なんとも弱々しく情けない声だった。

 

「ハイハイ、ちゃんと買って来てあるよ。みんな、構わずに入って来てくれ」

 

「はぁ……やれやれ、またですか?」

 

 苦笑している伊丹の横でハイセはそう嘆息しつつ、住人に呆れ返るのであった。

 

 

 




 
 
 今回登場した注射ガンは、週刊少年ジャンプに昔連載されていた『アウターゾーン』という漫画の『適応実験』というエピソードに登場したものをイメージしています。 
 あの未来的なデザインと、アンプルを逆さにして垂直に差し込む構造が、当時は妙に作者(わたし)のツボにハマってました(笑)。 
 
 次回は2026.3.15 00:00頃に投稿予定です。 
 
 また本日2026.3.1 06:00頃に無限ガチャ×東島ライダーのクロスオーバー短編を投稿予定ですので、興味のある方はそちらも合わせてお楽しみください。どうしても待ちきれない方は、Pixivの方で本エピソードと同時に投稿しておりますので、そちらをお読みいただければ……。
 
 ご意見、ご感想をお待ちしております。
 
 


 
 
【参考資料】

 武器別総長/全長*・重量比較

 *ここでの総長/全長とは「武器全体の長さ(穂/刃渡り+柄/拵え)」を指す

 実在する武器(刀剣類)

・打刀(一般的な刀)

  総長 約86~106㎝* 

  重量 1~1.5kg

  *拵え含む、刃渡りは約60〜76cm

・大太刀(一般的なもの)

  総長 1.2~3m

  重量 1.5~8kg

・太郎太刀(朝倉家家臣真柄(まがら)直隆(なおたか)が使っていた大太刀)

  総長 約3.4m

  重量 約10kg

破邪(はじゃ)御太刀(おんたち)(実在する日本最大の大太刀)

  総長 約4.65m

  重量 約75kg

 実在する武器(長柄武器)

薙刀(なぎなた)(鎌倉~戦国初期までの下級武士の主力武器)

  全長 1.2~3m

  重量 2.5~5kg

・素槍(足軽用の一般的な槍)

  全長 2~3m

  重量 2.5~3kg

御手杵(おてぎね)(天下三名槍の一つ 太平洋戦争で焼失)

  全長 約3.8m(拵え含む)

  重量 約22.5kg*

  *手杵を模した大鞘を含めた重量

・日本号(現存する天下三名槍の一つ)

  全長 約3.2m

  重量 約2.8kg(槍本体は約0.9kg)

・蜻蛉切(現存する天下三名槍の一つ)
 
  全長 約6.44m*¹
 
  重量 約498g*²

  *¹刃長約43.7cmを含めた総長。柄長は約6m、晩年に約90cm短縮

  *²柄を含まない槍本体の重さ

・ハルバード(ヨーロッパの歴史的武器)

  全長 2~2.5m

  重量 2.2~3.1kg

 架空の武器

・本条鎌足の大鎖鎌(るろうに剣心より)

  刃渡り 約1m(全長 1.6~1.8m)

  重量 30kg超*

  *作中の薫の発言より

・相良左之助の斬馬刀(同上)

  全長 約2.5~3m*¹

  推定重量 約80~100kg*²

  *¹原作の立ち絵姿から左之助の身長と比較して推測

  *²上記の大鎖鎌の質量と原作の絵から逆算して推測

・ガッツのドラゴン殺し(ベルセルクより)*¹
 
  全長 約2m

  重量 約150kg*²

  *¹とあるYouTubeチャンネルで作られた削り出しのレプリカ

  *²上記の動画内で測定された重量

・ロゥリィのハルバード(本作)

  推定全長 約1.8~2m

  推定重量 約70~80kg*

  *原作中ボーイが4人がかりでハルバードを運ぶシーンから推測

  ※次郎太刀だったという説もある

「持ち上げる前にこのリストを確認しとけば良かった……」────by駒門
 
 
 
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