ゲートSAA彼の地にて斯く戦えり   作:素面ライダー

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 今回はタイトルからも分かる通り、工作員部隊との戦闘となります! 
 
 それでは、本編スタート! 
 
 


深夜の強襲 

 

 

 伊丹たちが、住宅街を移動する少し前── 

 

 日本標準時 22:54頃 

 

 東京新宿区 市ケ谷会館()() 

 

「ッたく……えらい目に会った」 

 

 市ケ谷会館の周囲を消防車両や消防隊員、救急車に救急隊員や野次馬等で埋め尽くす。 

 

 そんな中、伊丹たちはその場からの離脱を図っていた。 

 周辺では、消防車や救急車のサイレンが喧しく響く。 

 

「隊長、火事になったホテルから脱出したのはいいとして、どちらへ向かうんです?」

 

「そうだなぁ……」

 

 富田の言う通り、市ヶ谷会館で休息を取っていたはずの伊丹たちが外をうろついているのは、火事で焼け出されたためである。

 

 駒門と別れ市ヶ谷会館に到着しチェックインした後も、伊丹は悪い予感を拭うことができず、ハイセたちに警戒を続けるように伝えていた。 

 夕方から立て続けに襲撃が続いたためなのか、全員荷物を解かずに周囲を警戒していれば、案の定ホテル内で火災報知器のベルが鳴り響いた。 

 

 そのため、伊丹たちは脱出を余儀なくされたという訳である。

 

 スーー……

 

 会話を続けつつ歩道を歩いている伊丹たちの前から、3台のハイエースがそれぞれ距離を開けて音も無く近づいて来ていた。

 

「「………………」」

 

 伊丹は持ち前の危険に対する直感から、ハイセは立て続けに起こる()()への警戒心からさりげなく車道側へ移動した。 

 そのまま自身が盾になり、レレイたちを逃がせる様にさり気なく身構える。 

 

 そして、先頭車両が伊丹たちの近くへ差し掛かろうとした刹那──

 

 キィッ! ガァッ!

 

 バシュッ!

 

 先頭車両がいきなり急停止するや、歩道側のスライドドアを開け放つ。 

 同時に中に居た工作員と思しき男が、手に持っていたテーザー銃をハイセに向けて撃ち込んだ。

 

「ッ!?」

 

 だが驚愕したのは、当の工作員の方であった。 

 

 敵襲を警戒していたハイセは、車両が真横に差し掛かる直前に背負っていたギターケースを盾にしていた。 

 それで銃本体から放たれるワイヤーに繋がったプローブから身を守る。 

 

 グイッ! 

 

 そしてハイセは、プローブが刺さったギターケースを引っ張る。 

 そのままワイヤーで繋がっていたテーザー銃を、アテが外れて当惑している工作員からもぎ取った。 

 

 ドガァッ!

 

「「「ガッ!」」」 

 

 更に剣道の突きの要領で、ギターケースを工作員に叩きつける。 

 ハイセはその後ろにいた2人もろとも、工作員を車の中に押し込んだ。

 

「くっ…」

 

 仲間に下敷きにされた工作員は、腰に差していた拳銃を引き抜きハイセに向けようとしたが──

 

 パカッ! シャッ! ドスッ!

 

「「「ゴボッ!?」」」 

 

 ハイセはそのままケースを開いて、中から日本刀(ユキヒラ)を直接抜き放つ。 

 そして、折り重なっていた工作員3人の頭をまとめて串刺しにした。 

 

「だ○ご3兄弟かよ?」

 

「笑えませんよ?しかも、ビミョーに古いし……」

 

 伊丹のセリフに対し、ハイセは《ユキヒラ》を引き抜きつつ律儀にツッコミを入れる。

 

「佐々木二尉ッ!?」

 

「富田、何をボサッとしてる!敵襲だ!」

 

 伊丹がCBJ-MSを構えつつ叫んでいる間に、ハイセは懐からグロック18Cを取り出した(火災の前から警戒していたため、初弾は装填済み)。 

 直後に開きっぱなしの出入口から、運転席と助手席に向けて発砲。

 

 パシュッ!パシュッ!パシュッ!パシュッ!

 

「アッ!」

 

「ギャアッ!」

 

 サプレッサー越しの、くぐもった銃声が4発。 

 

 工作員2人の頭にきっかり2発ずつ放たれ、直後に2人分の悲鳴が響く。 

 彼らはフロントガラスを内側から真っ赤に染め上げ、そのまま動かなくなった。

 

 伊丹の号令に、富田と栗林もそれぞれFN-P90とH&K-MP7を取り出し、レレイたちを路地へと退避させつつ周囲を警戒する。

 

 グオンッ!オオオオオオ……

 

 すると、2台目が急加速してハイセに向かって来る。 

 

 車の突進を拳銃程度では止められないと高を括り、まずは手練れの護衛であるハイセを牽き殺そうとしたのだろう。

 

 シュカカカカカカカカ……ッ!

 

 バスバスバスバスバス……ッ!

 

 ギャギャギャッ……ガッシャァァアン!

 

 だが、伊丹たちがそれぞれ手に持っていたPDW(個人防衛火器)でタイヤを狙い発砲。 

 

 2台目の車両は車体底面をハイセに晒しつつ横転し、彼の手前10mほどで止まった。

 

 キイィッ! バンッ!

 

 その後ろで、3台目がドリフトしつつ急停止。 

 同時に中から複数の工作員が飛び出してくる。

 

Снятие(撤収)!2号車の人員を回収して撤収しろ!」

 

 指揮官らしき男のロシア語が響く。 

 直後に部下の工作員が、拳銃らしき物でハイセと富田たちに牽制射を放った。 

 

 伊丹は止まった車両の陰に、富田たちは建物の陰に滑り込む。 

 ハイセは《ユキヒラ》を地面に突き立て、再びギターケースを手に取り盾にしていた。

 

 バチッ!ベチッ!

 

(非殺傷性のゴム弾?狙いは生け捕りか!)

 

 ギターケースから伝わる衝撃こそ激しいものの、周囲で着弾しているアスファルトが削れていない事に気付き、そう結論付ける。 

 

 ならば余程運が悪くない限り多少当たっても問題ないと判断し、ギターケースの陰から銃口を向けた。

 

「くっ……ッ?急いで車から出ろ!」

 

「うう……え?何が……」

 

 車内に残っていた工作員は、ふらつく頭を押さえていた。 

 横転した車から這い出た工作員は、仲間のその様子に苛立ちを覚えるが、車の陰に退避しつつ素早く警告する。

 

「伏せろ!」

 

 パパパパパパパパパパパパパスッ!

 

 ガチッ!

 

「うおッ!?」

 

 ハイセはグロックをフルオートで発砲、一瞬で弾切れになりホールドオープンする。 

 

 工作員たちは銃声が響くと同時に、横転した車の陰に退避した。

 

「ッ!やべぇ……」

 

 車に残っていた工作員も状況を察し、焦った声を上げる。 

 彼らは慌ててシートベルトを外して、どうにか外に出ようともがく。

 

「バカヤロー!燃料タンクに当たったらどうする!」

 

 これはまさしく、伊丹の言う通り「暴挙」である。 

 

 この常軌を逸したハイセの予想外の行動に、のんびり屋の伊丹も珍しく驚愕した表情だ。

 

 グロック18Cはフルオートで発砲すれば、その発射速度故に集弾率は良くない。 

 しかもワンボックスカーは構造上、機関部や燃料パイプ等が車体の底面側に集中している。

 

 そんな部分が剥き出しなっている状態でハイセが躊躇わず発砲したために、伊丹は思わず肝を冷やした。 

 

 だが幸いな事に、燃料タンクや燃料パイプには着弾せずに済んだので胸を撫で下ろす。

 

(くっ……支那(チャイナ)屈指の実力部隊を、こうもあっさりと……)

 

 そして肝を冷やしたのは、工作員側も同じだった。

 

 護衛の自衛官が武装しても、せいぜい拳銃程度。 

 しかも滅多な事で発砲せず、撃つとしても手足を狙うと高を括っていた。

 

 ところが蓋を開けてみれば、相手は工作員への殺害を躊躇わず、的確に急所へ発砲してくる。 

 しかも相手の武装は拳銃どころか、高性能なPDWを多数用意している充実ぶりだ。

 

(確かに今回の任務は唐突に無茶振りされたもので、手配した武器がまだ手元に届いていなかったから準備が不充分だったが……。 

 クソッ!優秀な工作員である自分たちならば、日本人(リーベンレン)相手の任務遂行など容易いはずだろう!)

 

 指揮官が内心毒づいても現実が変わる訳ではなく、この有様ではとても任務を遂行するどころではない。 

 

 支那(本国)の命令を実行するためには、作戦実行能力のある工作員をこれ以上失う前に可能な限り回収し、態勢を立て直す必要がある。

 

(この連中を相手取るには、綿密な作戦と相応の準備が要る。 

 奇襲の利を失った状況での作戦の強行は、貴重な戦闘工作員を無為に失うだけだ! 

 このまま撤退するのは、業腹だが……)

 

 そう判断した指揮官は、思考しながら周囲を見回す。

 

(だが、この状況で相手が自分たちを見逃すとは……ッ!あれだ!)

 

 そこで指揮官は、既に死体しか残っていない先頭の車両に目を付けた。

 

 バシュバシュッ!

 

 ビスビスッ!

 

 カッ!

 

「「ッ!?」」

 

 ドッキュウゥゥゥゥンッ!!

 

「今だ、全員3号車に乗り込め!」

 

 指揮官は停車している先頭車両に向けて、実弾を数発発砲。 

 狙い違わず燃料タンクへ撃ち込み、証拠隠滅も兼ねて車両を爆破炎上させた。 

 

「くッ!」

 

 咄嗟にギターケースを盾にしたものの、さすがのハイセもこれには堪えきれずに、爆風で吹き飛ばされる。

 

「ぅおわッ!」

 

 伊丹は即座に歩道側へ身を投げ出し伏せる事で難を逃れたが、工作員への銃撃を中断せざるを得ない。

 

「ヒエッ!」

 

「全員、路地から出るな!」

 

 富田たちもビルの陰に隠れて爆風をやり過ごすも、同様に銃撃を止めざるを得なかった。 

 栗林は思わず悲鳴を上げ、富田は他の面々に注意を促す。

 

 ギャギャギャッ!グオンッ!

 

 その隙に工作員たちは無事だった車両に全員乗り込み、その場から素早く離脱していた。

 

 ゴオォォォォ……

 

「ハイセ、無事か!?」

 

「ええ、何とか…まだちょっと、耳鳴りしてクラクラしますが」

 

 ウゥ~ウゥゥゥ~……

 

 ピーポーピーポー……

 

 伊丹とハイセが無事を確認していると、騒ぎを聞きつけたのかパトカーと消防車がサイレンを鳴らしながら近づいて来る音が聞こえた。

 

「とりあえず、ここから離れよう。富田、レレイたちは無事か!?」

 

「問題ありません、全員無事です!」

 

 富田の返答を皮切りに全員の無事を確認すると、伊丹はレレイたちを引き連れ移動を始めた。 

 

 殿には富田が付き、先頭に栗林とそのバックアップに伊丹、中央の護衛に《ユキヒラ》を回収したハイセ、そして懐のワルサーPPSをいつでも取り出せる体勢のヒデが付く。

 

 カッ! ドゥゥゥゥン!

 

 襲撃現場を離れてから、ほどなく後ろで爆発音が響いた。 

 

 おそらく、最初に爆発した時の炎が横転した車から漏れた燃料に引火。 

 それで、二次爆発を起こしたのだろう。

 

「ここから離れるのはいいけどぉ、これから何処へ行くのぉ?さすがに疲れて来たわぁ~」

 

 先ほどの戦闘に混ざれずに欲求不満だったのか、ロゥリィが不機嫌そうに訊ねる。 

 他の面子も同感なのか、伊丹に注目が集まる。

 

「~~~~~~ッ!しょうがない、1つ心当たりがある」

 

 伊丹は悩んだ末、いかにも不承不承といった様子で部下たちを案内し始めた。

 

 


 

 

「それにしても…佐々木二尉は、よく先ほどの奇襲に対応出来ましたよね?」 

 

「いえ…そう遠くないうちに、向こうが僕の排除に動くだろうとは予測していましたよ? 

 そう動くように仕向けてましたから」 

 

 伊丹の案内で歩く道すがら、富田はハイセに訊ねていた。

 その疑問に対し、ハイセはさも「計算ずくだった」と述べる。

 

仕向けていた?どういう事です?」

 

「なるほどな…やけに工作員をいたぶっていて、らしくないと思ったが……そういう腹だったわけか」

 

 富田は合点が行かない一方、伊丹は1人納得した表情だ。

 

「これは、ピニャ殿下たちの方が詳しいかもしれませんが…もし殿下が工作員──間者なんかを使って拉致や暗殺を実行する場合、それらを実行する人間だけを送り込んだりしますか?」

 

「いや……裏切りの抑止も兼ねて、間者には必ず監視を付ける」

 

 ハイセの質問に、ピニャは淀みなく答える。

 

「殿下の言う通り、あの場には実行役だけではなく監視役の工作員もいた、という事になります。 

 向こうは夕方から僕たちの移動中に「客人を何時でも拉致出来る」と脅しつけている()()()でした」

 

 だが結果は(ことごと)く失敗。 

 (つい)には直接的な手段に踏み切ったものの、それすらも失敗に終わった。

 

「連中──あくまでこちらにちょっかいを出していると僕が推測した相手ですが──そいつらは、実力が伴わない癖に根拠の無いプライドだけは人一倍高いですからね。 

 立て続けの失敗に、相当苛ついていたはずです」

 

「ひょっとして……あの時二尉の言っていた見せしめの相手は、実行役じゃなく──」

 

「ええ、監視役への見せしめでした。 

 

「客人に手出しすれば火傷じゃ済まさない。嫌なら大人しくしていろ」 

 

 ──というメッセージも兼ねて」

 

 そう言って、ハイセは富田の辿り着いた答えを肯定する。

 

 常に上から目線で脅迫していた工作員たちにとって、それはこれ以上無いほど痛烈な意趣返しだっただろう。 

 苛ついていたところに、こんなメッセージを突きつけられては心中穏やかであろうはずが無い。

 

「じゃあ、何?工作員をあんな派手に痛めつけて、自分を囮にしたって事?」

 

「はい。公衆の面前で工作員をあれだけ痛め付けておけば、間違いなく恥を雪ぐために僕を消しにかかると踏みましたから」

 

 ハイセは、栗林が驚いて投げかけた質問にそう返す。

 

 更には向こうにとって、決して無視出来ない要因がハイセにあった。

 

「その上、訓練を重ねた工作員ですら容易に口を割らせる自白剤を持っているとなれば、例え準備不足であっても早急に手を打たざるを得なくなる。 

 相手の動きが読めないのならば、選択肢を潰してこちらの思惑通り動かざるを得なくすればいい。 

 そうすれば、対処は遥かに楽になります」

 

「今の口振りだと工作員の返答なんか関係無く、最初から自白剤をぶち込むつもりだったわね?」

 

「当たりです。確実に僕を狙わせるためには、後一つダメ押しが必要でしたから」

 

 続く栗林の疑問に対し、ハイセは平然と答えた。

 

「それでは、もしその自白剤に期待通りの薬効がなかった場合は、どうするつもりだったんですか?」

 

「その時は相手の正体と目的が明白でしたから、それらしい答えを吐かせたとでっち上げて、自白剤の存在をアピールするつもりでしたよ」

 

 富田にしれっと「ハッタリを使ってでも押し通すつもりだった」とハイセは説明する。

 

「お喋りはそれぐらいにして、周囲を警戒しておけ。 

 なるべく裏道を使って移動するが、街中の監視カメラには注意しろ。 

 奴らはどこから監視して来るか分からないからな」

 

 伊丹は部下たちに注意を呼び掛け、一行は歩を進めて行くのであった。

 

 


 

 

 日本標準時 21:16頃

 

 東京某所 とあるアパートの一室

 

 ケータイ止まった…ガスも止まった…水道もヤヴァァァイ。 

 

 さすがにパソコンが止まったら破滅なので、電気代とネット料金は血を吐く思いで何とか支払った──が、引き換えに食事が徹底的に貧しくなった。 

 

「あと…10ぺーぢ……」

 

 あたしは呟きつつ、タブレットにペンを走らせる。 

 空腹と締め切り間際の緊張感で、あたしの神経は研ぎ澄まされていく。

 

(…ってタイトルマッチ直前のプロボクサーかッ!)

 

 ──と、内心で1人ボケツッコミを入れつつ(空きっ腹に響くから声には出さない)も、あたしの手は止まること無くスムーズに動いている。 

 この調子なら、今夜中に仕上がって明日には入稿が出来そうだ。 

 

 何とか希望が見えてきた。

 

 冬の同人誌即売会を乗り切れば、まとまったお金が入ってくる。 

 そうすれば、豆乳とシリアルだけの食生活とは(しばらくだが)オサラバ出来る。

 

「でも…そろそろヤヴァイかも……」

 

 眠気と空腹から思わず声に出しつつ、一度顔を洗って意識をハッキリさせるために、立ち上がって洗面所に向かう。

 

 ぐぎゅるるるる~~~………

 

「………………………」

 

 ここを乗り切ればという理屈を頭では理解しつつも、そんな事はお構い無しにあたしの胃袋は空腹を訴えている。 

 結局、人間に必要なのは明日の大金よりも今日の飯なのよ……って、こんなことで、そんな人生の真理を悟ってどうする!

 

 金を借りれれば当座は凌げるが、同人仲間は皆慢性的に金欠だし……。

 

「いっそ、体でも……」

 

 売るか、と言いかけて鏡に写る自分を見る。

 

 ここしばらく手入れをしていないため肌に張りが無く、寝不足で目の下には隈が浮いている。 

 髪はボサボサで不摂生で腹は弛み、おまけに肢体(からだ)つきは貧相ときている。

 

「こんな29女なんて、金払ってまで抱きたい(ヤツ)なんかいないって……は~腹へった~」

 

 そうぼやきながらサーバーに入った冷めたコーヒーをカップに入れて、作業机として使っている座卓へ戻る。

 

 お?( ゚д゚)

 

 金貸してのメールに返信が…………。

 

 Re:金貸して

 オレも無いわ!

 それにしても あんたなんで別れたのさぁ?

 衣食住は保証されてたやないの

 バカなことしたよねぇー

 

 わかってるわよぉ、そんな事!。゚(゚´Д`゚)゚。

 

 でも、それじゃあ人間としてダメだって思ったのよぉ!・゜・(つД`)・゜・

 

 ………はぁ ( ´Д`)

 

 本当(ホント)、先輩には頼ってばかり……。

 

 自分の都合だけで結婚して…関係をやり直すために一方的に離婚して…挙げ句の果てにはお金まで…あたしって、身勝手な女。

 

 自分の浅ましさをひとしきり自覚した後、あたしは気を取り直して原稿作業を再開した。

 

 


 

 

「あと、仕上げ1ぺーぢ……」

 

 空腹を訴える胃袋、疲れと睡眠不足で重たい頭。 

 

 それらを抱えつつ長時間の作業で凝り固まった肩と腕を気合いで動かし、夜中の11時半あたりで最後の作業は佳境に差し掛かる。

 

 ガチャガチャ キィ……

 

 ──とそこへ、唐突に部屋の鍵を開ける音が聞こえドアを開け入ってくる気配が。 

 

 こんな時間に呼び鈴も鳴らさず遠慮無く鍵を開けて入ってくる者は、あたしの知る限り1人しかいない。

 

「何だ、まだ起きてたのか梨紗(りさ)?電気が消えてたから、寝てると思ってたぞ……寒いな、この部屋」

 

「あ……」

 

 予想通り、入ってきたのはさっきまであたしが頭を悩ませていた張本人──伊丹 耀司(ようじ)先輩だった。

 

(せん…ぱい……)

 

 感極まってその名を呼ぼうとしたのだが、あたしが実際に出した言葉は──

 

「ごはん……」

 

 ──という、なんとも弱々しい一言だった。

 

 情けなぁ……(TДT)

 

 


 

 

 日本標準時 23:32頃

 

 東京某所 住宅街

 

 伊丹が案内した先は、人目に付きにくい住宅街の中にある一棟のアパートだった。 

 

 ジャージの上下に褞袍(どてら)を羽織った、伊丹の知人らしきその部屋の住人である女性──葵《あおい》 梨紗。 

 彼女は有り体に言えば「女子力?何それ、おいしいの?」と言わんばかりの風体で、今にも死にそうな顔で手を伸ばし伊丹にメシを催促している。 

 まあ自室なので、ラフな格好をしているだけかもしれないが……。

 

 伊丹はそれを予測していたのか、来る途中で部下に予め買いに行かせたコンビニ弁当を差し出す。 

 

 隣のハイセは呆れ顔だったが、梨紗には差し出された弁当以外目に映っていなかった。 

 そのため、ハイセに気付く気配は全く無い。

 

「急で悪いけど、匿ってくれよ。知ってるとこで人目に付かないの、お前ん家しか無くてさ……」

 

「え、誰を?」

 

 伊丹が答える前に「おじゃまします」と、レレイたちが部屋に入ってくる。

 

「にあぁぁぁぁぁぁぁあ!」

 

 その中からロゥリィを目の当たりにした瞬間、梨紗の理性が一瞬にして吹っ飛んだ。 

 

 そして矢も盾もたまらずにロゥリィへ向かって突撃する。

 

「かわいいよぉぉぉぉぉ~~」 

 

 ドドドドドドドドドド…… 

 

「キャア~~~~~~~~~」 

 

 サッ!

 

 ズザザザザザ~~

 

 ドサドサドサドサッ!

 

 ロゥリィは思わず突撃から身を躱し、梨紗は勢い余って積み上げている本の山へ豪快にヘッドスライディング! 

 (うずたか)く積み上げられていた同人誌が崩れ落ち、次々と梨紗に降り注いで彼女を生き埋めにする。

 

 ガバちょ!

 

 バサバサッ!

 

 だが彼女は全く堪える事無く、崩れた本の山の中から何事も無かったかのよーに起き上がる。

 

「うぇへへへへへへ……」

 

 じり…じり…

 

「ひぃっ!?」

 

 そして梨紗はだらしない顔で(よだれ)を垂らしつつ、ロゥリィに向かってにじり寄って来る。 

 部屋の電気が点いていない真っ暗な状況なのも相まって、フツーにホラーである。

 

 怯えたロゥリィは、伊丹の後ろに隠れてしまっていた。

 

「落ち着け梨紗、ヨダレヨダレ。実はホテルから焼け出されちゃってな、これが……」

 

「えっ?火事?」

 

 伊丹の説明の確認のためパソコンでネットニュースを検索すると、言葉通り市ケ谷会館の火事がニュースで取り上げられていた。

 

「ん?」

 

 カチカチッ

 

 そのニュースの関連情報に、見覚えのある写真があるのでその記事をクリックしてみる。

 

 あなたおバカぁ? ロゥリィ・マーキュリーさん(961)

 

 自前ですよ? テュカ・ルナ・マルソーさん(165)

 

 恩人を貶める者は赦さない レレイ・ラ・レレーナさん(15)

 

「……………………………………」

 

 バッ!

 

 ビクッ!

 

 梨紗は実にたっぷり1分近くパソコンを凝視した後、勢い良く振り向いてロゥリィたちを確認する。 

 

 今までの奇行からロゥリィは怯え、テュカは驚き、レレイですら僅かながら戸惑いの表情を見せる。

 

「ホンモノなのね?コスプレじゃなく……うふ…ウフ…うふふふふフフフフ腐腐腐腐腐ふふふフフ……」

 

 不気味に笑いながら、手際よくパソコンの画像を保存する梨紗。 

 

 そんな彼女の有り様と、部屋の中で精巧な球体関節人形が飾られている事もあって「ここにもハーディがいたぁ」と、ロゥリィは既に涙目となっている。

 

「ね…ねえ、コレ何なの?」

 

 テュカが思い切って訊ねると、伊丹からは驚きの答えが帰ってきた。

 

「あー…コレはな……俺の『元』嫁さんだ」

 

「「「「「「「……………………………」」」」」」」

 

 その答えにハイセとヒデを除く全員が絶句する。

 

「伊丹二尉と結婚する物好きが居たなんて!でも、実物を見たら妙に納得の組み合わせ!」

 

「それ、何気に失礼じゃないですか?」

 

「あら?佐々木くん、ご無沙汰」

 

 周囲の声を代弁している栗林にハイセが突っ込むと、ロゥリィたち以外眼中に無かった梨紗がようやくハイセに気付く。

 

「モデルの件、考えてくれた?」

 

「絶っっっっ対に御免ですよ!」

 

「「「「「「「?」」」」」」」

 

 いつになく強硬な姿勢で要求を断るハイセに伊丹とヒデは苦笑し、他の面子は訝しげな目を向けるのだった。

 

 


 

 

「とゆーわけ」

 

「ふーん?」

 

 富田たちがひとしきり驚いた後、伊丹一行は梨紗に部屋の押し入れから毛布を引っ張り出してもらい雑魚寝していた。 

 伊丹からの緊急援助で開店休業中だったエアコンも電灯も冷蔵庫も現在はフル稼働中だ。

 

 そんな中、伊丹は梨紗に今までの経緯を説明していた。

 

「事情はわかったケド、何で?」

 

「あん?」

 

「何でそんな危ない話に、私を巻き込むかな?」

 

「そうですよ、隊長。元奥様とはいえ、民間人を巻き込むなんて。 

 それに…駒門さんを放り出して来て大丈夫だったんですか?」

 

 弁当を頬張りつつ伊丹に詰問する梨紗に富田は同意し、更に駒門を放り出して独自の行動を取った事の是非を訊ねる。

 

ぎっくり腰(アレ)じゃ、一緒に居ても足手纏いだし…もうここまで来ると、駒門さん自身が怪しくね?」

 

「駒門さんが情報漏洩を?」

 

「いや、本人は問題無くても…その周りがさ」

 

「尾行されている可能性は?」

 

「ここまで来て何か起こるよーなら、尾行が正解。 

 何も起こらなければ…駒門さん自身の問題かな?」

 

「ちょっと?ここで何も起こって欲しく無いんだけど!」

 

 伊丹の言に、梨紗が反射的に突っ込む。

 

「明日の予定は?」

 

「連中に休みまで潰されてたまるか! 

 買い物と温泉、宿なんて飛び込みで何とかなるよ! 

 じゃ富田、4時になったら起こして」

 

 伊丹はそう言って、自らも毛布に丸まって眠りに就いた。

 

 


 

 

 チッチッチッチッ……

 

「………………」

 

「………………」

 

 梨紗が無言でパソコンに向かって原稿の確認作業している傍ら、富田も無言で窓の外に視線を向けて見張りを続けている。 

 

 そんな中、富田は梨紗に質問をぶつけた。

 

「……梨紗さんは、伊丹二尉の奥さんなんですよね?」

 

()ね。今は…友達かな」

 

「別れた後も、友達でいられるものなんですか?」

 

「ん~~~……」

 

 富田の質問に、梨紗は考え込む素振りを見せる。

 

「私たちは、別にケンカ別れした訳じゃないし……世間一般の夫婦とは、違った関係だった。 

 夫婦をやっていた頃に比べると、むしろ今の方が友達として上手くいってるわね」

 

「……まあ…そうなんでしょうね」

 

 返答に困った富田は、そう答える事でお茶を濁す。 

 

 そして、誤魔化す様に手近の同人誌の山から一冊を手に取った。

 

「あっ」

 

 ズドォォォォォォン!!

 

「その辺にある本、女性向けのBL18禁モノだから……って、遅かった?」

 

 梨紗の注意も虚しく、富田は対人地雷で盛大に吹き飛ばされたかのような、すさまじいショックを受けていた。

 

「富田ぁ~ッ!!」

 

「地雷だッ!!富田がやられたぞ!!」

 

「衛生ッ、衛生ッ!!」

 

 彼の中では、そんな騒ぎとやり取りが繰り広げられていた。

 

 同時に、何故ハイセがあそこまで頑なにモデルを拒否していたのかを、否応無く理解させられたのだった。

 

 


 

 

 オマケ

 

 

(テュカ)「ちなみに、あの人(工作員)が素直に答えていたら、どうするつもりだったの?」 

 

(ハイセ)「その時は、こっちを使うつもりだったよ(懐から一本のアンプルを取り出す)」 

 

(ロゥリィ)「それ、一体何の薬ぃ?(ハイセに面白そうな眼差しを向ける)」 

 

(ハイセ)「いや、これは薬じゃなくて生理食塩水さ」 

 

(特地組)「せいりしょくえんすい?」 

 

(ハイセ)「簡単に言えば、身体にほとんど影響を与えない成分の塩水の事だよ」 

 

(レレイ)「?……そんな意味のないものを打って、どうするつもりだった?」 

 

(ハイセ)「あの男には、直前まで痛めつけた上に、「おまえは工作員だろ?」って散々心理的なプレッシャーを与えていたからね。 

 これを打って「嘘をつくな。今、自白剤を打ち込んだ。壊れる前に素直に吐け」と脅して、身体の痛みと心理的プレッシャーを利用したプラシーボ効果で、気絶させるつもりだったんだ」 

 

(特地組)「ぷらしーぼこうか?」 

 

(ハイセ)「簡単に言えば、「思い込み」が身体に与える影響の事。 

 上手く行けば、「自白剤を打ち込まれた」と思い込んだ工作員から、さらに情報が引き出せるからね」 

 

(一同)「………………」 

 

(富田)「……結局は、それ(生理食塩水)を使っていたって事ですか?」 

 

(ハイセ)「いえ、今回は相手が頑なに口を閉ざしていましたからね。(懐からまた別のアンプルを取り出す) 

 ……ですから、止むなくこっちを使わざるを得ませんでした」 

 

(栗林)「そのアンプル……まさか、それは……」 

 

(ハイセ)「ええ、友人が作ってくれた本物の方です」 

 

(一同)「………………」

 

 

 

 

 




 
 
 オマケ話での食塩水のくだりは、前回の注射ガン同様「アウターゾーン」のエピソードである「適応実験」の設定が元ネタとなっております。(ネタバレ防止のため、ここでの具体的な説明は伏せますが) 
 
 次回は2026.3.29 00:00に番外編の投稿を予定しています。 
 
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