ゲートSAA彼の地にて斯く戦えり   作:素面ライダー

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 あーたーらしーいーあーさが来た♪ 
 

 きーぼーうのーあーさーが♪ 
 
 
 今回はタイトル通り、騒動から一夜明けたそれぞれのキャラクターたちの朝の風景をお届けします。 
 
 
 …………まあ某黒い玉の部屋に集められた面々同様に、この歌が皮肉にしか聞こえない人たちも居ますが。 
 
 
 そーれ 1・2・3 ♪ 
 
 
 ……それでは、本編スタート!
 
 


それぞれの朝 

 

 

 日本標準時 05:06頃

 

 東京千代田区 首相官邸寝室

 

 

 ヴーッ!ヴーッ!…… 

 

 ピッ 

 

 

「何だね?」

 

 早朝からの電話に、現総理大臣の本位(もとい)が不機嫌声で出た。

 

『総理、お休みのところ申し訳ありません! 

 特地からの来賓が、行方不明になった模様です!』

 

「何!?」

 

 部下からの報告に、本位の意識は一気に覚醒する。

 

『昨夜11時頃、投宿先の市ケ谷会館で火災が発生しまして……放火と思われます。 

 現在警察が犯人と来賓を捜索中で、報告を待っています。 

 また未確認情報ですが、同じ頃に市ケ谷会館から1㎞弱離れた路上で銃撃戦が行われていた様で、結果車両2台が炎上したとの報告も……』

 

「──わかった。で、何故第一報が()なのかね?」

 

『現状をある程度把握してから報告を、と思いまして……』

 

「君は6時間も無駄にしたんだ」

 

『しかし──』

 

「もういい!」

 

 

 ピッ 

 

 バフッ! 

 

 

 本位は部下の愚劣さ加減に呆れつつ、電話を一方的に切りスマホをベッドに叩きつけた。

 

「ッたく……キャリア官僚が聞いて呆れる」

 

(何故、即断即決出来んのだ?『門』の出現で日本の置かれた状況を全く理解していない──いや、考えてすらいないのだ!

 自分が何をせずとも今日と同じ明日が繰り返されていくと、何の根拠も無く本気で考えているのか?

 いや、だとしたら楽観的にも程がある!

 自分たちの決断で、国益が左右されるという自覚が薄い証拠だ!)

 

 ロシアを筆頭とした資源輸出各国が声高に主張している、『門』の国連による(という口実の自国主体での)共同管理。

 

 これは特地の無尽蔵とも言える資源を日本に独占され、自国の影響力が失われる事を恐れての発言だ。

 

 本来ならシカトしても何ら問題ない(そもそも日本の問題に他国に首を突っ込まれる謂れなど無い)事なのだが、それはそれで角が立ち、くだらないイヤガラセを受ける事になる。

 

(最近になって出て来た「国連軍の名の下に自国の軍を銀座に駐留させろ」などというタワゴトは、その最たる例だ!

 どいつもこいつも、好き勝手ほざきやがって……)

 

  ふぅぅぅぅ…………

 

「非常識を承知のバカげた要求など、テキトーに聞き流せば済む。 

 だが問題は米露と支那(チャイナ)、そしてヨーロッパ連合諸国(EU)だ」

 

・何の根拠も無く「自分にも分け前があって然るべき」などと巫山戯(ふざけ)た事を臆面もなく主張する米国(アメリカ)

 ()()、今は同盟国として(勝手に)後方支援をしているが、いつまでも大人しくしているはずがない。

 我々に対して近々内密に行動を起こしてくるだろう。

 

・『門』の存在自体が邪魔な露国(ロシア)。 

 EUが特地に強い関心を示して、しきりに日本へアプローチしてくるのも、ロシアの強引な資源外交のせいだ。

 もし今までの強硬姿勢が元で、ロシアが輸出先の国から総スカンを食らう事になれば(仮にそーなっても完全な自業自得なのだが)、『門』に潜水艦発射式弾道ミサイル(SLBM)を撃ち込んで来ても何ら不思議じゃない。

 あの国は民間機だろーと漁船だろーと平気で撃つ。

 

・ロシアのエネルギーの元栓を握った強圧的な態度に内心ウンザリしているヨーロッパ連合諸国(EU)

 彼の国々も日本から特地の資源を輸入出来るのなら、もうロシア相手に強いられてきた我慢もせずに済む。

 しかし、そうなってしまえばロシア側は困る。(こっちに言わせりゃ、知ったこっちゃねえが……)

 

(だが自国の影響力が失われる事を恐れているという事は、逆に言えばそれが急激に低下しなければロシアは大人しくなるという事だ。

 それに常識の通用するアメリカとEUは、ある程度の分け前さえ得られる事を仄めかしておけば満足する)

 

「しかし……最大の問題は──」

 

・特地の資源を、喉から手が出るほど欲しがっている支那(チャイナ)

 彼の国は13億の国民全てを豊かにするなどとタワゴトをほざき、今や世界最大規模の資源輸入国となった。

 その結果、潤沢な資金と豊富な国力を背景に強圧的な態度を取り続け、周辺諸国と軋轢を産む事になっている。

 国内は国内で、格差と腐敗と矛盾だらけだ。

 

(漢民族の優秀さをアピールしてプライドをくすぐり、国民をまとめたものの……国が「国民全てを豊かにする」と宣言したところで、当然自国民を豊かにできるはずもない。

「無い袖は振れない」とはよく言ったものだ……)

 

 一人っ子政策で甘やかされて成長した彼らに、身の丈に合わないエゴを抑制する力など当然ながらあるはずも無く不満は燻る一方で、いつそれが爆発してもおかしくない。

 彼の国は国民を宥めるために、それらの刷け口を外へ求めている有様だ。

 

「そんな連中が頭を下げるはずもない」

 

 それが何であろうと手元に無いものを手に入れるためには、欲しいものを持っている相手から強引に奪うか、友誼(ゆうぎ)を求めて分けて欲しいと頼み込むしかない。

 

 連中に「頭を下げて頼み込む」という選択肢は無く、かと言って強行手段に訴えて奪い損ねれば、後で頭を下げたところで分け前を貰えるはずも無い。

 

 自ら頭を下げる事無く、尚且つそういった事態を避けるために、それがさも当然の権利と言わんばかりに「耳障りな雑音」で声高に騒ぎ立て、自発的に()()させるように仕向けているのが現状なのだ。

 

「いずれは友好的な態度を取ってくるだろうが……」

 

 今までの事を無かったかのように友好的な姿勢を取るときは、決まって不意に身勝手な要求を突き付けるのが連中の常套手段だ。

 その時には一歩も退かず、毅然とした態度で相手を睨み返す気概と根性が必要なのだ。

 

 しかし……その役割を担うはずの肝心の官僚たちが、この体たらくである。

 その上、野党にマスコミ、NGOに芸能界まであらゆる勢力から「特地に入れろ」の大合唱と来たものだ。

 

「……北条(ほうじょう)さんは、よく我慢出来ていたものだ」

 

 そう言って、本居は棚に置かれているウイスキーボトルを手に取る。

 総理に就任し、程なく愛飲(痛飲とも言う)するようになった度のキツい高級酒だ。

 

 それをグラスに注ぎ、そのままミネラルウォーターなどで薄めることなくストレートで煽る。

 ウイスキーの酒気と香り、そして喉を灼く感触が一時的にストレスを和らげる。

 

「結局、大事なのは学歴ではなく人間の質なんだな」

 

 前総理の北条は敵対勢力には蛇蝎のごとく嫌われていたが、自分が正しいと思った事は恐れること無く果断に実行していた。

 自分が総理になってからは、あれはさすがに不味いと思い周囲に配慮しつつ慎重に政策を進めていたのだが…………。

 

 しかし自分の代になってから閣僚の汚職疑惑や過去の問題が噴出してくるわ、党内の身内が身勝手この上ない事を(のたま)い始めるわ、各省庁の問題が頻出するわ、ぶっちゃけ仕事を投げ出したくなる。

 それに加えて、今回の不始末だ。

 

「全く……頭でっかちの官僚事務屋どもめ!」

 

 不測の事態に物心両面で備えるための第一報が事件が起こって6時間後な上、詳しく情報を集めたと言いつつ実際にはほとんど何も分かっていない。

 

 先ほどの連絡は、要するに「自分の責任は果たした」という言い訳作りである。

 

 この期に及んで自分のアリバイ確保に終始するような輩に、これ以上この件を任せる訳にはいかない。

 

 何より先日の国会を盛り上げてくれた彼女たちに、これ以上怖い思いをさせたくない。

 

「特地からの客を無事に帰さんと、講和の交渉もパーになる」

 

 そう言って本位は、再びスマホを手に取った。

 

 

 トゥルルルルル…… 

 

 トゥルルルルル…… 

 

 

「あっ、嘉納(かのう)さん?本位です。朝早くから、すいません」

 

(いや、ホント申し訳ない)

 

『──────』

 

「ええ、実は特地の来賓が「雑音」にウンザリして行方をくらましまして……

 ええ…情けない話、私もたった今報告を……

 それで、嘉納さんに今の担当に代わって特地問題対策担当大臣を兼任していただけないかと……」

 

(結局、加納さんに無能な部下の尻拭いさせるハメになっちゃったよ。あの人、有能なんだもん……)

 

『──────』

 

「……ええ、丸投げになって申し訳ありませんが……」

 

(本っっっっ当に申し訳ない!)

 

『──────』

 

「はぁ…いえ、そんな……では、明日……」

 

(加納さんまで、そんな事言わないでくれよ!

 俺だって、こんなになるまで事態を放っておきたかった訳じゃないんだよ!)

 

 

 ピッ

 

 

「くそっ!好きで、こんなになるまで追い詰められた訳じゃないやい!」

 

 

 バフッ

 

 

「辞めてやる!辞めてやるぞ、こん畜生め!」

 

 電話相手に一言二言イヤミを言われたのか、本位は泣き言を言いつつスマホをベッドに叩きつけて布団へと潜り込む。

 

 そこには総理大臣という名の、世界屈指のイジメられっ子の哀愁が漂っていた。

 

 

 

 合掌 

 

 

 ポクポク……チーン

 

 

 

 

 


 

 

 日本標準時 06:28頃

 

 東京某所 梨紗のアパート

 

 

 本居が不本意にも加納へ特地問題を丸投げするハメになり、泣き言言って不貞寝をし始めたおよそ1時間後。

 

 ここでは朝一で起きたロゥリィが、朝日に向かって祈りを捧げていた。

 

 

 ジュウ~~……

 

 

 リビングでは他の面子も徐々に起き出してきている(4時頃まで見張りを続けていた富田はまだ寝ている)中、伊丹は昨夜の内に部下へ買いに行かせた食材でフレンチトーストを作っている。

 

 フライパンで焦がされるバターの香ばしい香りが、雑魚寝部屋と化しているリビングにまで漂ってきていた。

 

 

 ジャー……ガチャ 

 

 

「ひぇっ!?」

 

 

 ビクッ!

 

 

 そんな中、トイレに起きて戻って来た栗林がぎょっとして立ち止まる。

 

 

 ((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル…… 

 

 

「ボクハ、ナニモ ミテイナイ……ボクハ、ナニモ キイテイナイ……」

 

 

 ブツブツ……

 

 

 何とハイセが体育座りの状態で両手で頭を抱える、いわゆるカリ○マガード状態でガクブルに震えて、ブツブツと何やら呟いていたのだ。 

 よく見ると、何かから背を向けているようにも見える。

 

「………………」

 

「………………」

 

 

 スッ

 

 

 栗林が隣にいたヒデに目線で事情を促すと、彼は無言でハイセが背を向けている元凶を指差した。そちらでは────

 

「で…殿下、これは……」

 

「うむ…これほどの芸術が、この世にあったとは」

 

「殿下、ここは異世界です」

 

「そうだった、くぅ~…文字が読めないのが恨めしい」

 

「殿下…語学研修の件、ぜひ(わたくし)めを」

 

(こす)いぞ!」

 

「私めを選んで頂ければ、これらの芸術本を翻訳後に真っ先に殿下にお届けいたしますが……」

 

「う…うーん……」

 

 などと梨紗の私物のBL同人誌を広げつつ、頬を染めながらそんな事を熱心に(のたま)っていた。

 

「うわぁ~~……(く…腐ってやがる……)」

 

 これには栗林も納得せざるを得ない。何とも同情的な視線をハイセに向けていた。

 

「あのー……」

 

 

 ガバッ!

 

 

 伊丹がピニャたちへ遠慮がちに声をかけると、彼女たちは慌てて振り向いた。

 

「……朝飯食べる?」

 

 そこには完成したフレンチトーストを乗せた皿を両手に持った伊丹が立っている。 

 皿からはメープルシロップの甘い香りが漂い、焼きたてである事を示す湯気がホクホクと舞い上がっていた。

 

 


 

 

 同時刻

 

 東京某所 嘉納 太郎(たろう)

 

 

 伊丹が梨紗のアパートで、朝飯を促している頃。

 

「おはようございます、大臣」

 

「おう」

 

 純和風の大邸宅であるそこでは、現在の本位内閣で防衛大臣を務め、今朝がた早くに特地問題対策大臣を兼任する事となった嘉納 太郎が自室の座卓で朝食を取りつつ、やって来た秘書たちを迎え入れていた。

 

 

 ズズ……

 

 

「今日の予定は、全部キャンセルだ」

 

「えっ?」

 

 汁椀から湯気と味噌の香りが漂う味噌汁を(すす)りながら放った嘉納の唐突な発言に、手帳を広げて今日の予定を伝えようとした第一秘書である野地(のじ)が驚いた声を上げる。

 

「今朝方、総理から電話があってな。特地の来賓が行方不明だそうだ、だから任せるってよ」

 

「そんな!特地との講和は「官邸主導で進める」と言って、総理が強引に奪っておきながら……自分の手に負えなくなった途端に、こちらに丸投げですか!?」

 

「都合良すぎだろ?俺も、そう思っちゃうんだよ……」

 

 

 パクッ

 

 

 嘉納は味付け海苔をパクつきパリパリと咀嚼しながら、総理への苦言を呈する野地に答えた。

 

「本位の奴は、今回の戦争の講和の成果を一人占めしたいのさ。それも圧倒的な勝利でな。 

 それ自体は、別に構わねぇんだけどよぉ…手に負えなくなって投げ出す辺り、肝が座っちゃいねぇんだよ」

 

 今回の事に嘉納自身も思うところはある。だが彼は野地とは違い、怒りを通り越して呆れ返っていた。

 

 それでも昨夜の段階で既に事態が動いている以上、本位への愚痴でいつまでも手を(こまね)いている訳にも行かない。

 

「てなわけで…野地、官邸に行って来賓の資料を貰って来て。ついでに総理の顔色も確認してちょーだい。 

 松井(まつい)、朝イチで関係者会議すっから関係省庁に連絡入れてくれ。 

 それと情報本部に問い合わせて、担当者に状況がどうなってるのか確認してくれ。 

 以後の報告は、こちらに回す様に付け加えてな」

 

「かしこまりました」

 

 本位に呆れを抱きつつも、即座に気持ちを切り替えて事態の収拾に動く辺り、嘉納の政治家(リーダー)としての優秀さが見て取れた。

 

 

 モグモグ……

 

 

 彼が大根おろし醤油を乗せた出汁巻き卵を頬張る中、秘書たちが慌ただしく関係各所に電話を入れる。

 

 

 もっしゃもっしゃ……

 

 

「あ、それと……昼から用事で出かけるから、車を回しておいてくれ」

 

 秘書たちの電話連絡が落ち着いた辺りで、嘉納は納豆ご飯を掻き込みつつ、思い出した様に野地に告げるのだった。

 

 


 

 

 日本標準時 08:47頃

 

 東京某所 梨紗のアパート

 

 

 加納の衝撃発言からしばらく、彼と彼の秘書たちが各々の役割を果たすために加納宅からそれぞれ移動してからしばし後。

 

「よーし、今日は遊ぶぞ!」

 

 朝食が終わり、伊丹は大々的にそう宣言した。

 

「……それどころじゃないと思いますが」

 

「それとこれとは話が別だ」

 

 伊丹の宣言に注目が集まる中、富田のツッコミに伊丹がしれっと返す。

 

 

「俺のモットーは食う、寝る、遊ぶ!その合間に、ほんのちょっとの人生だ!」

 

 

 伊丹は堂々とそう言い放った。

 

「第一、敵が俺たちの居場所を知っているってんなら、閉じこもっていたって危険なことに変わりはない。 

 それならいっそのこと、外を出歩いて人目の多いところで遊んでいた方がよっぽど有意義だ。違うか?」

 

 伊丹の言には一理あるように聞こえるが、もっと大事な何かが抜け落ちてるように思えた。 

 もっとも、ハイセもヒデも富田も栗林も別にワーカーホリックという訳でもないので、最終的には受け入れることになった。

 

「はぁいっ、はいはい!お買い物ぉっ!渋谷っ、原宿っ!」

 

 そこへ元気よく提案をしたのは、梨紗であった。原稿作業が終わり、溜まり溜まったフラストレーションをこの機に発散させる気満々だ。

 

「何でお前が提案するんだ?」

 

「えぇ~~~~~~~!?泊めてあげたのに?いぢめかな?これって、いぢめ?」

 

「別にいぢめぢゃないって。他のみんなが良ければ、構わねえよ」

 

 梨紗は伊丹に了承を貰って栗林も買い物に同意し、レレイ、テュカ、ロゥリィも同行する事となった。 

 ロゥリィは最初は乗り気ではなかったものの「黒ゴス……今着てる様な服で、良さげな店があるんだけど。下北沢(シモキタ)に……」と梨紗の話を聞き、180度方向を転換した。

 

「富田はどうする?」

 

「ボーゼスさんが、この世界の芸術に興味があるとかで……図書館などはどうかと……」

 

「あー……富田さん?彼女たちの求める()()は、図書館には置いてないっスよ?秋葉原(アキバ)とかに行かないと……」

 

「はぁ?秋葉原に芸術が?」

 

「まあまあ、行ってみればわかるっスよ」

 

 という感じで、富田、ピニャ、ボーゼスの3人にヒデが同行する事となった。

 

 

 キャイキャイキャイ……

 

 

(……女の買い物に付き合ったらアウトだ。悲惨な目に会うだけだぞ)

 

 これから行く買い物の話に花を咲かせる梨紗たちを横目に、伊丹はこれからの予定を組み立てる。

 

「俺はちょっと用事があるから単独行動で。 

 14時に新宿駅アルタ前広場な。それから箱根で温泉だ!」

 

「わかりまし……」

 

「あ、ハイセは梨紗たちと同行して護衛に就け。 

 これ、現場指揮官としての命令な?」

 

「へ?」

 

「あら、丁度よかったわ!荷物持ちお願いね?」

 

「はい?」

 

「なんせ、こっちは人数が多いからな。頼んだぞ?」

 

「え?ちょっと…」

 

「昨夜の話を聞いてて不安だったからねぇ~? 

 頼りにしてるわよ?」

 

「ええぇっ!?」

 

 こうしてハイセは何ら自分の意見を出す事も出来ず、なし崩し的に(人身御供として)梨紗たちと同行するハメになった。 

 

 落ち込むハイセの後ろで、伊丹と梨紗はハイタッチを決めている。 

 さすがは元夫婦、息の合った見事な連携である。

 

 今日ハイセは、久しぶりに卯月(うづき)(りん)らの友人と連絡を取って、可能であれば会いに行くつもりだった。

 だが最早こうなっては、彼女らに電話を掛ける事すら難しくなる。

 

 本来なら現場指揮官の伊丹が自由行動を宣言した時点で断ることができるのだが、この空気の中で断ることが出来ないのがハイセのハイセたる所以であった。

 

 こうして富田たちは秋葉原へ、伊丹は()()()()()と内密に会談するために新宿御苑へ向かう。

 

 そしてハイセはレレイたちを引き連れた栗林と梨紗に原宿へと(強引に)連行(ドナドナ)されて行った。

 

 

 

 南無

 

 

 


 

 

 オマケ

 

 

 日本標準時 07:21頃

 

 東京某所 346プロダクション女子寮

 

 

 

 

「何ですか、これは~~~~!?」

 

 

 

 ここは346プロダクションに所属するアイドルたち(その内の半数は親元を離れて上京した未成年の学生だ)の女子寮。

 

 その一室で朝の情報番組を見ていた少女は、驚愕の表情でTVの画面を凝視し、驚きのあまり時間帯も考えずに大声で叫んでしまっていた。

 

「どういう事ですか、これは!?

 いきなり拉致られた挙げ句、無茶苦茶な企画に捩じ込まれて撮影したボクの番組が、何で今日の話題に(かす)りもしてないんですかッ!?」

 

 

 ガタガタガタガタガタ……

 

 

 更に彼女は興奮の余りに液晶TVを掴んで揺さぶりつつ、返ってくる筈もない質問を八つ当たり気味にぶつけている。

 

 

 コンコン……コンコン…………ガチャッ

 

 

幸子(さちこ)はん、どないしたん?

 隣の部屋まで声聞こえてきてますで?」

 

 騒ぎを聞き咎めたのか、若草色の着物姿の少女がそう言って優雅な所作で部屋に入って来た。

 その着物には花びらの意匠があしらわれ、「カラスの濡羽色」と称しても過言ではないその黒髪には古風な平打ち簪が刺してある。

 

「ちょっ……ノックぐらい してくださいよ!」

 

「のっくなら何回(なんべん)もしたわぁ。

 それより朝っぱらからどないしたん?いきなり そないな大声上げて……」

 

「どうしたも こうしたも ないですよ!

 見てくださいよ、コレ!」

 

「?」

 

 内心では「さすがに朝っぱらから騒ぎすぎたか」と反省しつつも、興奮覚めやらぬ様子で部屋の主である346プロ所属アイドル(自称・カワイイ アイドル)の輿水(こしみず) 幸子はTVを指差す。

 

 それに釣られて着物の少女──同じく346プロ所属アイドルで幸子のユニットメンバーでもある小早川(こばやかわ) 紗枝(さえ)はそれに映っている映像に注視した。

 

 


 

 

 昨日の急上昇ワードTOP5

 

 第1位 神降臨

 

 第2位 あなた おバカぁ?

 

 第3位 自前ですよ?

 

 第4位 恩人を貶める者は許さない

 

 第5位 ゴチャゴチャうるせえんだよ!

 

 


 

 

「ああ、いんたぁねっとで注目された話題のらんきんぐどすなぁ。それが一体どないした言うんどす?」

 

「昨日はボクが出演していた番組がゴールデンタイムで放送されてた筈なのに、話題の「わ」の字すら出てきていないんですよ?

 あんな死にそうな目に遭ってきたのに!」

 

「そう言うたら幸子はん、撮影で北海道まで行って来たんどしたなぁ」

 

「そうですよ! 冬眠していたヒグマをわざわざ叩き起こした挙げ句、「エゾヒグマとのデスマッチ!時間無制限一本勝負!」なんて巫山戯(ふざけ)た企画で!」

 

「……それで、よう生きて帰って来れたものどすなぁ」

 

 なお当然の事ながら、この企画の立案者は京都出身の某銀髪の兄妹である。

 

「だいたい何ですか、このランキングトップにある「神降臨」って!?

 本来そこには、ボクの話題が入っていた筈なのに!!」

 

「ああそうか、幸子はんはまだ知らへんかったんどすなぁ?」

 

「へ?何をですか?」

 

「幸子はんは昨日てれびを見る余裕無かったさかい知らへんかったみたいどすけど、昨日の国会中継に出てきた特地の女の子たちが、えげつない話題になっとるんどすえ。

 それこそ中継の直後にどのてれび局も予定変更して、その娘たちの話題で緊急特番を組むぐらいに。

 幸子はんの番組もそれに引っ掛かってしもて、放送されへんかったんや思いますえ」

 

 

「な、なんだってー!?」

 

 

 幸子は某編集者たちのよーな驚きの声を上げる。

 

「じゃあ、何ですか?

 そんな芸能人ですらないポッと出の一般人が、ボクの番組ごと話題を攫って行ったって事ですか?」

 

「まあ、そんなんになるわなぁ。

 ほら、丁度その娘たちがてれびに出て来てますえ?」

 

 そう言われて、幸子はTVに目を向けると──

 

 

『ええ、自前ですよ。触ってみます?』

 

 

『今後私たちの恩人を貶めていると判断したら──』

 

 

 ──紗枝が言った通り、TVの画面にはテュカとレレイの映像が映し出される。

 

 流れる様なサラサラの金髪ロングヘアーに、エルフ特有の美貌と特徴的な耳を持つテュカ。

 

 目の冴える様なプラチナブロンドと、翡翠色の理知的な瞳に無表情ながら整った顔立ちのレレイ。

 

 この2人(+1人)を、情報番組に出演しているコメンテーターが過剰なまでに誉めちぎっていた。

 

 特にテュカに対しては、映像越しとはいえフィクションでしかお目にかかれないエルフを目の当たりにしている事もあり、彼は興奮気味に捲し立てている。

 

「ふ……ふふーん!確かに外見は中々のものですが、中身を含めた可愛さはボクの足元にも及びませんよ~!」

 

 幸子はそう言うものの、その声は震えている上に頬はヒクついていた。明らかに虚勢を張っている。

 

 

『あなたおバカぁ?』

 

 

「はいっ!!バカです、スイマセンッ!!」

 

 そこへ丁度ロゥリィの声がTVから流れて、幸子は条件反射で謝罪してしまっていた。

 それはもう、見事なまでに流れるよーな動作の芸術的な土下座である。

 

「……幸子はん、一体誰に謝ってるんどす?」

 

「ハッ! Σ(゚Д゚;) 」

 

 紗枝のツッコミで、土下座状態だった幸子は我に返る。

 

「あ…あれ?何でボクは、平伏しちゃっているんですか?」

 

「何でて…幸子はん無意識やったんどすか?」

 

「いや…何故か分からないんですけど、絶対に逆らっちゃいけない相手に叱られた様な気がして……」

 

 紗枝の質問に、困惑した様子で幸子は答えた。

 

「と…とにかく、顔の良さだけでボクに勝てると思ったら大間違いですよ!

 その人気が、いつまでも続くとは思わない事ですね!」

 

「別に、向こうは張り合うてるつもりはあらへん思うんどすけど……」

 

「いいえ、こういう事は最初が肝心なんです!

 ちょっと顔がいいだけで出し抜いたつもりでいる、この身の程知らずたちに、ボクの方が上だとハッキリと分からせて……」

 

 

『ゴチャゴチャうるせえんだよ!』

 

 

「はいっ!!スイマセン、調子に乗ってましたぁ!!」

 

「あら、佐々木はんやわ。日本に帰って来とったんどすなぁ」

 

 紗枝がTVに出ているハイセに気づいているのを尻目に、幸子はTVに向かって再び土下座してしまっていた。

 

 そうこうしているうちに、騒ぎを聞き付けた他の住人たちが幸子の部屋に集まって来た。

 彼女たちは、TVに映るテュカたちやハイセを見て感心したり驚いたりと様々なリアクションを見せる。

 

 そんな346プロの学生アイドルたちの騒がしい朝は、こうして過ぎて行くのであった。

 

 




 
 
 あ〜わ〜れ〜♪ハイセ〜♪ 
 
 売られてゆ〜く〜よ〜♪ 
 
 悲〜しそ〜なひ〜と〜み〜で〜♪ 
 
 見〜て〜い〜る〜よ〜♪ 
 
 ドナドナド〜ナ〜ド〜ナ〜♪ 
 
 ハイセを乗〜せ〜て〜♪ 
 
 ドナドナド〜ナ〜ド〜ナ〜♪ 
 
 電車が揺〜れ〜る〜♪ 
 
 
 以上、それぞれの朝の風景でした! 
 
 今回のオマケは、特地三人娘が話題に上がるのなら当然割を食う者も居るだろうと考え、346アイドルのいじられ枠こと輿水 幸子を登場させました! 
 
 読者の皆様方、お楽しみいただけましたでしょうか? 
 
 次回は2026.4.26 00:00に番外編を投稿する予定です。 
 
 ご意見、ご感想をお待ちしております。
 
 
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