ゲートSAA彼の地にて斯く戦えり   作:素面ライダー

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 原〜宿の〜♪朝〜十時〜♪ 
 
 出〜店〜の並〜ぶ道〜♪ 
 
 電〜車〜が〜♪ご〜と〜ごぉ〜と〜♪ 
 
 ハ〜イ〜セ〜を乗せ〜てゆく〜♪ 
 
        (ド◯ドナ風に) 
 
 
 とゆーわけで、今回は主に原宿へと出かけたハイセたち目線でのエピソードです。 
 
 今回ではオマケエピソードも含め、『あの作品』のキャラクターたちが多数登場します。 
 
 それでは、本編スタート!
 
 


脳裏を()ぎる記憶 

 

 

 日本標準時 10:27頃

 

 東京渋谷区 原宿駅近郊 竹下通り

 

 朝、アパートを出発したレレイたちは、梨紗たちと共に原宿へとやって来ていた。 

 そこには特地ではまずお目にかかれない、異常な人波であふれ返る光景が広がっており、彼女たちは思わず目を回してしまう。 

 

 ハイセは朝の件でいまだに死んだ目をしていたが、彼女たちが迷子にならないよう、最後尾からじっと目を光らせている。

 

「こっち、こっちー」

 

 先頭を歩く梨紗は、レレイたちを置き去りにしかねない勢いで、目当ての店へ一直線に進んでいく。

 

「いらっしゃいませー!」

 

 彼女たちを先導していた梨紗が入っていったのは、竹下通りの一角に店を構えるアパレルショップだ。 

 栗林に続いて、レレイたちも梨紗と逸れないよう、その店の中へと入っていく。

 

 昨日行った量販店とは違い、狭い店内の至るところに、さまざまな女性服が所狭しと並んでいる。 

 その光景に、レレイたちは物珍しそうな表情で、キョロキョロと辺りを見回していた。

 

 

 スススス……

 

 

「フフフフフ…… 

 どーにもその格好が、我慢ならなかったのよねー!」

 

 などと言いつつ、梨紗は怪しく目を光らせながら、レレイの背後へとにじり寄っていく。 

 

 

 ガシッ! バッ! 

 

 

「ッ!?」

 

「ぬははははは。 

 よいではないか♪よいではないか♪」

 

 梨紗は背後からレレイのポンチョに手をかけ、強引に脱がせにかかる。 

 

 次いで「それそれー」とレレイの腰帯を引っ張って、彼女に「あ~れ~」と言わせたいかのよーに帯回しを始めた。 

 レレイは驚いた表情のまま、梨紗にされるがままだ。

 

「ぐふふふふ……どう料理してやろうかしら?」

 

 怯えた小動物のよーに震えているレレイを店の隅まで追い詰め、梨紗はにじり寄っていく。 

 セリフだけを聞けば、か弱い少女相手に悪戯しようとしている変質者そのものだ。

 

 ハイセはその様子を呆れた目で眺めいると、視界の端に不審な動きをする人影をとらえた。

 

「やれやれ……」

 

 彼は小さくため息をつき、相手に気付かれないよう、そちらへと歩み寄っていく。

 

 


 

 

「うぇへへへへへ……キタコレ!めっちゃ尊い! 

 たまたま入った店で、こんな光景を拝めるなんて! 

 今日のぼく、なんてツイてるんだ!」

 

 そこでは店内に居た客と思しき者が、口から(よだれ)を垂らしたままだらしない笑みを浮かべ、スマホでレレイたちを撮影していた。

 

「コラ!そこで何をしている!?」

 

「えひゃいっ!?」

 

 

 ビクッ!

 

 ササッ! ズザザザザーーッ!

 

 

 死角から近づいたハイセが、ギターケースで構えていたスマホの視界をふさぎつつ声をかけた。 

 その人物は、相手の顔を確認するよりも早く、速攻でその場に平伏する。

 

「へへぇ~堪忍してくだせぇ~! 

 あっしには女房子供と年老いた母が~……」

 

「ここでコソコソと何してるんだい、りあむちゃん?」

 

「へ?」

 

 ハイセに見つかって平伏していた()()が、その声を聞いて顔を上げた。

 

「アイェェェェエ!?サッサン!? 

 サッサン!?ナンデェェェェエ!?」

 

「いや、驚き過ぎでしょ?」

 

 平伏していた少女──夢見(ゆめみ) りあむが、驚きのあまり、その姿勢から一気に飛び上がる。

 

「そりゃ遊びに来た先に、特地に居るはずのサッサンが出て来たら驚くよぉ~」

 

「昨日から仕事で日本に戻ってたんだよ。 

 まあそれはそれとして……ちょぉ~っと、こっちに来て貰えるかな?盗撮の現行犯に話を聞かせて貰わないと」

 

 

 むんずッ! ズルズル……

 

 

「わ~っ!待って待って! 

 盗撮したつもりはないんだよぉ~!」

 

「言い訳の続きは、署で聞かせて貰おうか?」

 

 などと言いつつ、ハイセは仔猫のよーにりあむの首根っこをつかみ、梨紗たちのもとへと戻っていく。

 

「あ、ハイセおかえり~。 

 …って、どうしたの?その娘」

 

「いえ、盗撮の現行犯を捕まえただけですよ」

 

「だから、盗撮じゃないよぉ~! 

 かわいい娘見かけたから、スマホで撮ってただけだってば~!」

 

「こんな顔してスマホを向けていたんじゃ、説得力ゼロだって」

 

「あうあう~……ほんの出来心だったんだよぉ~」

 

「……盗撮してんの、ハイセの方じゃない」

 

 そう言って、ハイセは先ほど撮影したりあむの顔をスマホに表示する。 

 それを見た栗林は、呆れたように突っ込んだ。 

 

 スマホに映ったりあむは、男であれば間違いなく一発で通報されるレベルの、だらしなく緩みきった表情だった。 

 そのため、ハイセの言う通り、言い訳にはまったく説得力が無い。

 

「ところで、前から聞きたかったんだけど…… 

 しょっちゅう繁華街でりあむちゃん見かけるけど、看護学校ってそんなにヒマなのかい?」

 

「あう~……。 

 一応、籍は置いてあるけど、今は通ってないよぅ~。 

 特に『銀座事件』の時は人手不足で、ぼくみたいな休学中の学生まで現場の手伝いに駆り出されたんだけど…… 

 それで心が完全に折れちゃったんだよぉ~。 

 自衛隊中央病院に回されたときなんて、そこの先輩看護師にめっちゃ絞られちゃって……」

 

「先輩看護師?」

 

「うん。 

 その先輩、並の男より長身で、髪の長い女の人で。 

 その人、今は特地に派遣されてるって…… 

 あれ?どしたのサッサン?」

 

「あー、うん。何でもない」

 

 りあむは、何とも言えないビミョーな顔をしたハイセに疑問を投げかける。

 しかし、その人物に心当たりがありすぎる彼は、曖昧にごまかした。 

 近くで聞いていた栗林も、同じよーな表情を浮かべている。

 

 

 シャッ!

 

 

 カーテンの開く音に振り向くと、着替え終わったテュカとレレイが試着室から出てくるところだった。 

 その場にいた梨紗たちは、店員もろとも感嘆の声を上げる。

 

 

「ふおぉぉぉぉぉぉぉおっ!?」

 

 

 ダッ! ズザザザザーーッ!

 

 カシャッ!カシャッ!カシャッ!カシャッ!……

 

 

 途端にりあむは奇声を上げつつ二人に近づき、スマホを構えてシャッターを切りまくっていた。

 

「……ハイセ、あの珍獣どこでナンパして来たの?」

 

「人聞き悪いこと、言わないでください! 

 彼女とは友達……と言うより、被害者仲間ですよ!」

 

「いや、被害者仲間って……」

 

 ハイセの説明に「一体、何の被害者なのよ……」と、栗林は何とも言えないビミョーな表情を浮かべる。

 

「ちょ…ちょっとクリバヤシ、何なの?この娘」

 

「さっき、そこでハイセがナンパした娘よ」

 

「いや、だから人聞き悪いこと言わないでくださいって!」

 

 栗林のあんまりな説明に、思わずハイセは大声で反論した。 

 

 まあもっとも、周囲の人間に感付かれないよーに特地語で説明しているあたり、多少なりとも良心的と言えるが……。

 

 そうこうしているうちに、店には人だかりができ始めていた。

 

「ねぇ、あの娘たち、昨日の国会に出てた娘じゃない?」

 

「ホントだ!TVでも思ったけど、肌キレー!」

 

 ──などと、今まさに話題の渦中にある特地の住人だと気付く者もいて、店の中はちょっとしたお祭り騒ぎになっている。 

 

 店側も宣伝になると考え、度を越した態度の野次馬が出ないよう目を光らせつつ、人波を整理したり、テュカとレレイに試着品を勧めたりと協力的だ。

 

「あっ!」

 

 そんな時、野次馬の中にいた一人の少女がハイセに気付き、駆け寄って来た。

 

 

 タッタッタッタッ……

 

 バッ!ガシッ!

 

 

「ハイセくん、久しぶり!」

 

「えっ?あっ、り…莉嘉(りか)ちゃん、久しぶり」

 

 ハイセへ駆け寄って抱きついた少女は、彼の友人の一人で346プロ所属のアイドル(()()二代目カリスマJKギャルアイドル)、城ケ崎(じょうがさき) 莉嘉だ。

 

 彼女はハイセを兄同様に思っているのか、中学生だった頃から、こうして積極的にスキンシップしてきている。 

 昨年、高校に進学して()()()()()()()()()現在でも、彼女は相変わらずだ。 

 そのせいか、ハイセは少々そのスキンシップに戸惑い気味だったりする。

 

 莉嘉が現れてほどなく、彼女と似た顔立ちをした二十歳ほどの女性が、野次馬の中から姿を現した。

 

「こぉらぁ莉ぃ嘉ぁ~! 

 いきなり走り出したら危ないって、何度注意されたら…… 

 って佐々木さんじゃん、久しぶり~☆日本に帰ってたんだ?」

 

「うん、美嘉(みか)ちゃんも久しぶり」

 

 彼女──莉嘉の五つ上の姉で、妹同様346プロ所属のアイドルかつハイセの友人でもある、城ケ崎(じょうがさき) 美嘉も、ハイセに気付いて声を掛けて来た。

 

「佐々木さんからも注意してよ~。 

 このコ、小学校の頃から全然落ち着きがないんだもの。 

 もう、いつまで経っても子どもなんだから……」

 

「え~!?お姉ちゃん、ひっどぉ~い!!」

 

 ──などといったやり取りを繰り広げる。 

 

 そこへハイセは待ったをかけた。

 

「とりあえず、二人ともこっちに移動しようか? 

 このままだと、注目を集めるから」

 

「「あ……」」

 

 注目を避けるため、ハイセがそう提案すると、美嘉たちも周囲の状況に気付き、ハイセと一緒に大人しく店の奥へと移動する。 

 この姉妹は、こうして毎回似たようなやり取りを何度も繰り返しているので、ハイセも慣れたものだ。

 

「それじゃあ、改めて……二人とも、久しぶり」

 

「もう~、帰ってくるなら連絡ぐらい入れればいいのに~」

 

「ホント、卯月も凛も未央も、佐々木さんに会えなくて寂しがってたよ? 

 まあ、お互い忙しいのは分かってるんだけど」

 

「連絡入れなかったことはゴメン。 

 今回の日本行きも急に決まったことで、連絡する余裕がなくて……」

 

「まあ、いいけど…佐々木さん、今日はヒマ? 

 だったら、アタシたちと一緒に遊ばない?」

 

「あー、ゴメン。 

 今は一応、護衛任務中だから……」

 

「え?護衛って……ボディーガードってやつ!?」

 

 莉嘉が驚いた声を上げ、次いでハイセが背負っているギターケースに目を向ける。

 

「ひょっとして、これで何か持ち歩いてるの?」

 

「あっ、コラ!開けるな!」

 

 

 パカッ!

 

 

「「………………」」

 

 

 パタン

 

 

 莉嘉は、ハイセの制止も聞かずにギターケースを開け、中に収められた日本刀(ユキヒラ)と9㎜弾のケースを目にして、美嘉とそろって絶句する。 

 それから二人は、そっとギターケースの蓋を閉じた。

 

「「………………」」

 

 

 チラッ

 

 

 さらに、不自然にふくらんでいるハイセの上着の中へと視線を移すと、脇に吊るされたホルスターと、その中に収められた拳銃(グロック18C)がのぞいていた。 

 それは、実戦で使われてきたことを示すかのように、硝煙でうっすらと汚れている。

 

 詳しいことは分からなくても、そこから漂う威圧感を、二人は敏感に感じ取っていた。

 

「あー……事情を知らない警察に絡まれると厄介だから、見なかったことにしてくれるかな?」

 

 

 コクコクコク

 

 

 ハイセの言葉に、美嘉たちはそろって真顔でうなずくのだった。

 

 


 

 

「ちょっと、ハイセ! 

 護衛対象ほっぽり出して、何またナンパしてんのよ?」

 

「いや、だからナンパじゃないですって! 

 ……あ、そうだ。美嘉ちゃんたちも一緒に、テュカたち──僕の護衛対象だけど──の服選びのアドバイスしてくれない? 

 僕だと、そういうの無理だし」

 

「うん、いいよ☆ 

 ただし、アタシたちもこの後の買い物に付いて行くからね?」

 

 それからハイセたちは梨紗たちのもとへと移動し、美嘉たちの登場に驚愕する梨紗や店員たちを、なんとか落ち着かせる。 

 

 そして事情を説明した後に、梨紗と城ケ崎姉妹そしてショップの店員たちプロデュースによる、テュカたちの臨時ガールズコレクションが開催された。

 

 彼女たちの美貌もさることながら、急遽合流した美嘉たち(変装しているため周囲は正体に気付いていない)が薦めるギャルファッションに好奇心を刺激されているテュカと、恥ずかしがって服を拒むレレイの対比が野次馬たちの注目を更に集める。

 

 その後、梨紗とりあむが(主にレレイ相手に)セクハラ行為に走ったり、悪戯心からレレイの買い物カゴにセクシー系の服を放り込む姿にハイセが小言をぶつける等の出来事を挟んで、テュカとレレイは会計に進む。

 

「そういえば、三人ともお金は?日本円」

 

「大丈夫。私たち、仕事してるから」

 

「……ひょっとして、私よりお金持ち?」

 

 年中極貧生活を送っている梨紗は、レレイの返答に何とも言えない表情になる。 

 以前触れた通り、レレイたちは自衛隊に雇われる形でそれぞれの得意分野で働いており、その報酬は日本円で支払われている。 

 そのため、現在の特地では使い道の無い日本円が、相当額貯まっていた。

 

「よーし、次はインナーよ! 

 それから、黒ゴスにアクセ!」

 

「オッケー☆ホラ行こうよ、ハイセくん!」

 

「慌てなくたって、店は逃げないって。 

 それより1人で先走ってると、また迷子になっちゃうよ?」

 

「ッ!?」

 

「もう~大丈夫だって~、子どもじゃないんだし~」

 

「また、そんな事言って…… 

 前に迷子になった時はみりあちゃんときらりちゃんが一緒だったし、あの時は事件になる前にプロデューサーさんと合流出来たから笑い話で済んだんだよ? 

 あの時のことを、ちゃんと反省してるのかい?」

 

「ぶう~……だから反省してるってば~!」

 

「ホントかよ……」

 

「…………………」

 

 ハイセは莉嘉の返答に呆れ返っていると、美嘉が驚愕した表情で自分を見つめていることに気付いた。

 

「美嘉ちゃん、どうかした?」

 

「……何で、三年前に莉嘉が迷子になったことを知ってるの?」

 

「え?」

 

 

 ドクン……

 

 

(そうだ…… 

 確か、莉嘉ちゃんが(デコ)レーションのユニットメンバーと原宿で迷子になったのは三年前。 

 僕が彼女たちと知り合う前のことで…… 

 しかも、そのときはイベント前のサプライズパレードのことが、SNSで小さく取り上げられただけのはずだ……)

 

 

 ドクン……

 

 

(なのに…… 

 なぜ、当時の関係者でもない限り知り得ないはずの事実が、自然と僕の口から出てきたんだ? 

 それも、まるで僕自身が当事者だったかのような口ぶりで……)

 

 

 ドクン…ドクン………ザザッ!

 

 

『莉嘉ッ!莉嘉は何処!?』

 

(これは……高三の頃の美嘉ちゃん? 

 いや……彼女は私服姿なのに、なぜ僕はそう断言出来るんだ?)

 

 早まる動悸とともに、脳裏に謎の映像が流れ込み、ハイセの混乱にさらに拍車がかかる。

 

『どうしてこんなことになったのよ!? 

 アンタがしっかりしてなかったから……』

 

『美嘉ちゃんッ!!落ち着いて!!』

 

 

 ズキンッ!

 

 

()ッ!!」

 

(何…だ? 

 目の…奥が……()り…()かれる…様な……この…激痛は……)

 

 

 ズキン……ズキン……

 

 

「ぐっ……くっ……」

 

「佐々木さん!?」

 

 突如として激痛に襲われ、堪らずハイセは頭を押さえ、その場で膝をつく。 

 その様子を見て、美嘉は慌てて駆け寄った。

 

「ちょっ……ハイセ!どうしたのよ、急に?」

 

「~~~~~~ッ!」

 

 栗林の声にも何一つ反応することなく、ハイセは苦悶の表情を浮かべ続ける。 

 だが、それも時間が経つにつれて、次第に和らいでいった。

 

「ふぅ…… 

 すみません、もう大丈夫です」

 

 数分後、顔を上げたハイセは落ち着いた声でそう答えた。

 

「本当に大丈夫なの?まだ顔が青いままだけど」

 

「昨日、コマカドはササキに過去二十年の記憶がないと言っていた。 

 ひょっとして、過去のことを思い出したのか?」

 

「いや…何か思い出せそうだったんだけど、消えちゃったよ」

 

 心配をかけないように、テュカとレレイの質問にハイセはそう返答する。

 

「じゃあ、念のために落ち着いてから移動しましょ。 

 佐々木くんも、調子が悪いようなら店に入らずに外で休んでていいからね?」

 

「いやいやいや、頼まれてもランジェリーショップに入る気なんてありませんから」

 

 梨紗の軽口にツッコミを入れつつ、ハイセは移動を再開した。

 

「あれ?美嘉ちゃん、どうしたの?」

 

「ッ!……んーん☆何でもないよ?」

 

 呆然としていた美嘉にハイセが問いかけるも、彼女は返答をはぐらかして一行の後に続いて歩き始める。

 

「……………まさか…ね」

 

 こぼれた美嘉のつぶやきは誰の耳にも届くことなく、原宿の雑踏に紛れて消えていくのだった。

 

 


 

 

 オマケ

 

 

 日本標準時 10:16頃

 

 東京千代田区 JR秋葉原駅前

 

 梨紗のアパートから、伊丹たちとは別行動で秋葉原へとやって来たピニャたちは、東京の街並みと人の多さに圧倒されていた。

 

「ギンザでも感じたことだが、随分と人で賑わってるな……。 

 トーキョーで近々、祭りでも行うのか?」

 

「いえ。 

 東京の繁華街では、これぐらいの賑わいは普通ですよ。 

 日本の総人口が約一億三千万人、実質的な首都である東京の人口は約一千四百万人。 

 ここにいるは、そのほんの一部です」

 

「何と!」

 

 そして、ヒデの説明した東京の人口に、ピニャは改めて衝撃を受ける。

 

(……まあ、多少の脚色はしてあるのかもしれんが。 

 帝都と同等か、もしくはそれ以上の人間がトーキョーに暮らしていたとしても、何ら不思議ではないな)

 

 ピニャは内心でそう納得していた。

 

「では、行きましょうか」

 

「う…うむ。案内を頼む、ナガチカ殿」

 

 道中の人混みの多さに目を回しつつ、ピニャたちはヒデの案内で移動を始めた。

 

 


 

 

「「ふおぉぉぉぉぉぉぉぉお!?」」

 

 

 ()()へ入った直後、ピニャとボーゼスは歓喜の悲鳴を上げた。

 

 ヒデが案内した店舗は、秋葉原でも有数の同人誌専門店(正確にはサブカルチャー専門の書店)である「メロ○ブックス」だ。

 

 少し前までならば「と○のあな」へ案内したところなのだが、かつての新型感染症の()()()で、秋葉原店をはじめ他の店舗も経営が厳しくなっていた。 

 その結果、秋葉原にあった店舗はすでに閉店している(池袋店など一部の都市部の店舗は現在も存続している)。

 

 だがかつての「とらの○な」ほどの規模ではないものの、「メロン○ックス」の同人誌コーナーは、ピニャとボーゼスが感嘆の声を上げるには十分すぎる光景だった。

 

「おお……売り場の端から端まで、見渡す限りの芸術の数々! 

 このような芸術の桃源郷が、この世にあったとは!」

 

「殿下…何度も言いますが、ここは異世界です」

 

「そ…そうであった。 

 くっ、念のために資金を用意しておいたにもかかわらず、ニホンでは帝国の貨幣がまったく使えんとは! 

 何と歯がゆいことか……」

 

「あー…これはまだ大きな声では言えないんですが、シンク金貨にデナリ銀貨とゾルダ銀貨、あとアクス銅貨ならアルヌスでレートが決まったので、陸将から預かったお金と両替できますよ?」

 

「「真か(ですか)!?」」

 

「え……ええ、まだ暫定的ですが」

 

 食い気味に詰め寄るピニャたちに、ヒデは表情を引きつらせながら頷く。 

 これらの貨幣は市場に比較的多く出回っていたため、イタリカの任務から3偵が帰還後、レレイの協力のもとで早々にレートを仮設定することができていた。

 

 ちなみに、特地にはこれら以外の貨幣にスワニ金貨がある。 

 これは、かつて日本にあった小判の様なもので、国家間取引のほか、高位貴族が褒賞として下賜(かし)するときに使われる高級貨幣である。 

 したがって、これが市場に出てくることはほとんどない。

 

「あ、富田さん。 

 一つ頼まれて欲しい事があるんスけど」

 

「あ…ああ、何だ?」

 

 こういう店に入ったことがないため、ある意味お上りさんのよーに店の中をキョロキョロしていた富田が、戸惑いつつも返事する。

 

「来る途中に百均がありましたよね? 

 そこへ行って、殿下たちの財布か何かを買ってきてくれませんか? 

 使い走りさせて申し訳ないんスけど、通訳の俺はできるだけ離れない方がいいんで」

 

「財布?」

 

「ほら…帝国の通貨と日本円をごっちゃにしたら、管理が難しくなりそうじゃないスか」

 

「ああ、そういうことか。 

 だったら折り畳み式の財布だけじゃなく、巾着袋みたいなものも一緒に買っておいた方がいいんじゃないか?」

 

「あ、そうっスね。じゃあ、お願い出来ます?」

 

 こうして富田はヒデたちといったん別れ、買い出しのために店の外へ出て行った。

 

 そして──

 

 


 

 

「……これは一体どういうことだ?」

 

 百均から戻って、ぼやいた富田の視線の先には──

 

「いやー驚いたっス。 

 お姉さん、日本に来てまだ日が浅いのに、こっち方面の造詣がずいぶん深いんスねー」

 

「なに、ヒナ殿ほどではない。 

 貴公に比べれば、妾などまだまだ教わることばかりだ」

 

「にゅふふふ…… 

 思いがけず国境を越えた同好の士に巡り逢えるなんて、今日は縁起の良い日だじぇ~」

 

「全くです! 

 帝国からはるか遠くの異国の地で、ユリコ殿たちと出会うことができた奇跡に、神へ感謝しなくては!」

 

 ──と、こんな具合にピニャたちは通訳のヒデを挟んで、店の客と思しき二人組の女性と談笑していた。 

 片方はメガネにボサボサ頭のジャージ姿、もう片方は明るい表情にポニーテールのカジュアルな服装の女性だ。

 

「あ、富田さん。お帰りっス」

 

「ヒデ……これは一体どういう事だ?」

 

「ああ…あの人たち、店で興奮して大声出してる外国人が珍しくて、注意がてら思い切って声をかけに来たらしいんスよ。 

 けど、話してるうちに、なんか意気投合しちゃったらしくて……」

 

「あー……」

 

 そんなふうにヒデが富田に事情を説明しているあいだも、件の四人のヲタ話はさらに盛り上がっていった。 

 

 なおヒデは、女性客2人の本当の身分に気付いてはいるものの、ファンとしての良識から口には出していない。

 

比奈(ひな)センセー、せっかくだから記念写真撮ろうじぇ~!」

 

「おっ、いいっスねぇ~ユリユリ! 

 あ、すいませ~ん!カメラマン頼んでいいスか?」

 

「写真はいいんですけど、SNSにはアップしないでくださいよ?」

 

 ジャージ姿の女性が富田にスマホを渡す横で、ヒデはさりげなく釘を刺した。

 

「ヒナ殿、一体何を……」

 

「あー、いいからいいから。じっとしててくださいっス」

 

「殿下、これはスマホといって、遠くにいる相手と話すことのできる道具なんですが、その場の風景を絵のように瞬時に記録することもできます。 

 この人は、殿下たちと出会えた記念に記録を作ろうって言ってるんです」

 

「む?なるほど……」

 

 何やら帝国にとってヒジョーに重要な情報を聞き流したよーな気もするが、ピニャはとりあえず女性客たちと一緒に横並びになる。

 

「いきますよー?」

 

 

 カシャッ! キュイン……

 

 

「あざまーっス」

 

「あっ折角ですから、こっちにもデータを送ってもらえます?」

 

 

 ヴーッ!ヴーッ!

 

 

「っと失礼。はい、もしもし? 

 ……ああ、有馬一佐!どうしました?」

 

 会話の途中で、唐突にヒデのスマホからバイブレーターコールが響いた。 

 会話から察するに、どうやら電話は有馬からのようである。

 

「はい…はい……ああ、わかりました。 

 それでは、折り返し掛け直します」

 

 

 ピッ

 

 

「富田さん、すいません! 

 少し席を外さないといけなくなったので、その間だけ殿下たちの通訳をお願いできますか?」

 

「は?」

 

「すぐに戻って来ますんで、じゃあ!」

 

「ちょっ…おい!」

 

 

 ピューーーッ!

 

 

 それだけ言って、ヒデはさっさと店の外へ出ていった。

 

 

 ヒソヒソ……

 

 

 その後、富田は周囲から奇異の目を向けられながら、知りたくもなかったヲタ用語(それもかなりディープなBL関係のモノ)の解説を受けつつ、ピニャたちの通訳をするハメになった。

 

 彼は内心で滂沱(ぼうだ)の涙を流しつつ、周囲から受ける視線で神経を擦り減らしながら、ヒデが戻ってくるまでの間、通訳を続けていたのであった。

 

 ヒデが外から戻って来たときには、憔悴し切った表情の富田の姿があったとかなかったとか……

 

 

 




 
 
 今回のメインエピソードは、梨沙たちの行先が原宿だったので、アニデレの『あのエピソード』とちょうど絡ませやすいと考えた末に城ヶ崎姉妹を登場させるに至りました。 
 
 読者の皆様方、お楽しみいただけましたでしょうか?
 
 なお、このエピソードには『東京喰種 CINDERELLA GIRLS』内の原宿のエピソードの設定を反映させていただきました。 
 まことに残念ながら、現在は削除されてしまい閲覧することが不可能となってしまいましたが…… 
 
 次回は2026.5.24 00:00に番外編を投稿する予定です。 
 
 ご意見、ご感想をお待ちしております。
 
 
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