プロローグ
【特異点F? 冬木】
「──先輩!」
声が聞こえる。意識は朦朧としていて体中が焼けるように痛い。そして、お腹の周りの感覚がぽっかりと空いたように無い。
「──目を開けて下さいッ! 先輩!」
自分のことを呼び続ける後輩の声を何処か遠くに感じながら、体に目をやると全身傷だらけで実に痛々しいなと人事の様に思ってしまう。しかし、お腹の周りが真っ赤に染まっている事だけは無視できるはずも無かった。
(……私死ぬのかな)
生まれてきてから今日まで、何をするわけでもなく、流されるままに生きてきた。そんな人生に嫌気が差して、人の為に何かしてみようと思った私は、ある時、献血のボランティアに参加してみた。そこで
レイシフトがどういったものかは分からなかったが、世界を救う為に必要なのだとの説明を受けた時、私は自分を変える事ができると期待に胸を膨らませた。きた、遂にきた。私は人生のスタート地点にようやく立てた。
──そう、信じていたのに……
現実は甘くは無かった
(このざま……かぁ)
マシュを庇って敵から攻撃を受けた。気づいた時には、私のお腹には大きな穴があいていた。現実逃避しないでいうなら死にかけているといった方が正しいか。
(まぁ、そうだよね、私なんて結局はただの一般人だし……)
今思うと庇わなくても、マシュはその大きな盾で、攻撃を防ぎきっていたかもしれない。
それくらいマシュは強かった。自分は余計な事をしたのだとは思いたく無かった。
「お願いですから……死なないで……私は先輩からまだ何も……」
つい最近知り合った私の可愛い後輩はこんな私に死なないでと泣いて懇願していた。
戦う邪魔をしてしまっただけのこんな駄目駄目な私を。
(こんな可愛い子を泣かせて、私はほんとろくでもない奴だなぁ)
泣きじゃくるマシュを見ながら、死ぬ間際でも自分の無力さに辟易してくる。
……私はもう死ぬだろう。
スタート地点に立ったばかりだけど、どうやらリタイアしなくてはいけないらしい。
──やり残したことはあるだろうか?
そんなことをふと思ってしまう。
やり残したことは結構あるかもしれない。
ゲームの続きとか、マンガの続きとか、どうでもいいことがいっぱいある。
その中でも特にやりたかった事といえば。
仲間を集めて、ダンジョンに挑み、色々な敵を倒して、お宝を手に入れて、
時には喧嘩もするし、別れもあるかもしれない。
それでも、最後には力を合わせて強大な敵を倒し、世界を救う。
そんな冒険が。
格好良くて、優しくて、何より流されるだけの私を導いてくれる様な人と。
……え、えっちな事にも興味はあった、私は当然したことないけど、
愛し合う二人のするソレは、幸せに溢れている事だと聞いている。
ほかにあることといえば……
私の為に泣いてくれている、
まぁ、どれだけやり残した事があろうと私には、なにもできない。
──私はもう死んでしまうから。
(で、も……)
(死ぬ、前、に……)
(やっ、ぱり、冒険、とか、恋愛、してみたかった、なぁ……)
そして、私は意識を手放しかけた。
──その時
「──そこの君! 大丈夫か!?」
私の聞いた事無い声、
「ちっ、ひどいな、まだ死ぬんじゃないぞ!」
ぼんやりとみえる緑の輪郭は、
「
うっすらとギザギザな歯がみえた大きな口で、
「安心しろ、今助けてやる。」
そんな事をいった。
(……私助かるのかぁ)
頭ではあり得ないと理解していても、
こんな私を助けてくれようとしている人の顔くらいちゃんと見たいと
最後の力を振り絞ってみた顔は────
(…………)
清々しいくらいにいやらしい笑みを浮かべていた。
(……どうせ助けてくれるならもっと格好良い人がよかったなぁ)
私がついさっき考えてた運命の人とはまるで違うと、
そう思ってしまった。
そして、緑の人が手にした
私は今度こそ意識を手放した。
本作の立花ちゃんは主人公ではなく、メインヒロインの一人です。
それゆえに性格は本家と違う所がありますが、ご了承ください。
もちろん主人公の役割は、あいつが演じてくれるのでご心配なさらずに。