一般隊士の数奇な旅路   作:のんびりや

10 / 43
 無事鬼殺隊に入隊。
 しばらく、原作キャラと交流していきます。

1/8 すみません、主人公の年齢が間違っていましたので修正しました。
  (17→16)


第1部・隊士編
10話 蝶の前で再び出会う


 露に頬を打たれて、武仁(たけひと)は眼が覚めた。

 

 周囲はまだ薄暗い。焚火はほとんど灰になっていた。灰を吹いて除き、まだ燃えている部分に、乾いた枝を慎重にくべていく。それで、すぐに再燃した。

 しっかりとした火になったところで、武仁は体を起こした。

 

 鬼殺隊士となってから、丸1年が経っていた。気づけば、16歳になっている。

 

 昨年の最終選別を生き残ったのは、4人だけだった。武仁、朱雀(すざく)芭澄(はすみ)、それに全身を怪我していた後藤という少年だけで、他の志願者は誰も戻らなかった。

 その時は絶句したが、1年間鬼殺の前線にいると、それも仕方のないことのように思えてくる。藤襲山を生き延びることができないのであれば、早晩どこかで鬼に殺されていてもおかしくない。選別を切り抜けた正規隊士ですら、次々と死んでいくのだ。

 ただの人助けでは済まない。それが、鬼殺隊の実態だった。

 

 最終選別の後、朱雀たちに別れを告げ、また半月かけて出立した街の宿屋に戻った。そこにはやはり、師匠の姿はなかった。長生きしろ。それだけの短い文が残っていただけだった。

 

 自分が鬼殺隊士になって、まず宿屋の人間の態度が変わった。藤の花の家紋を掲げている家は、善意で鬼殺隊士に寝泊りの場所や食事、怪我の手当などを提供してくれるとのことだった。

 そのまま、藤の花の家で待っていると、日輪刀も届けられた。

 

 色変わりの刀と言われている刀だ。自ら抜いたが、やはり、刃の色は変わらなかった。その理由は、刀を持ってきた刀鍛冶も知らず、むしろどういうことかと詰問された程だ。

 そうだろうな、と思う。1年を過ぎようとしているが、未だに水の呼吸の壱ノ型しか使えない。刃が染まることもなかった。

 

 それから程なく、最終選別後に付けられた鎹烏で指令を受け、武仁は出立した。

 1年間、鬼殺の合間に、かつてのような人助けも続けている。それが、御影武仁(みかげたけひと)という人間の原点でもある。そこを変えるつもりはなかった。人を助けるために、鬼と戦う道を選んだのだ。

 

 簡単な食事を済ませ、日の出と同時に、武仁は出発した。

 山から下りて、人が歩く道を進む。鎹烏の指令以外にも、人の口の端に上る噂を聞くためだ。それで、鬼の尻尾を掴んだこともある。

 

 歩くときは、いつも速足だった。

 入隊してからは、黒色詰襟の隊服に、灰色の羽織を被っている。羽織で見えないが、隊服の背には、白字で滅の文字が刺繍されていた。人波の中でも、よく目立つ。

 日が暮れるまでは、歩き通す。鎹鴉が指令を伝えてくるまでは、人助けか移動だった。

 人がいないところでは走った。1日のうち、通じて1刻以上は走るようにしている。呼吸も常に意識した。だから、体力は全く減っていない。

 

 夕方になると、道を外れて、人目につかないところで野宿場所を探す。夕食時になると、鎹鴉が姿を見せるので、ひとりではなかった。

 鎹烏は、伝令を伝えるときなど、まるで人間のように言葉を放つ。知能は高く、性格も鴉それぞれにあるようだ。

 武仁に支給された鎹鴉は無口で、ほとんど喋ることはない。その分、任務や指示には忠実だった。それに時々、武仁が笛を吹くと、すぐ傍に降りてきたりもする。

 鬼殺隊士として、あたりさわりのない、1日だった。武仁はそう思い、床に就いた。

 

                       

 

 禍々しい感じが肌を打ち、眼を見開いた。 

 

「弦次郎」

 

 武仁は跳ね起きるのと同時に、鎹鴉の名前を呼んだ。弦次郎はすでに、背丈ほど高さの枝に乗っていて、翼を広げている。

 

「近くにいる鬼殺隊士に、伝令。鬼に襲われている人がいる。すぐに隠の手配を」

「ワカッタァ!」

 

 弦次郎の姿は、すぐに夜闇に溶けて見えなくなった。

 

 武仁は日輪刀を佩き、禍々しい感じが伝わってくる方へ走り出した。斜面を駆け下ると、すぐに道に出る。そこでも迷わず、一方へと向かった。

 この先に、鬼がいる。禍々しい感じは、まだ続いている。

 

 気配を感じるのとは、違う。鬼が放つ臭いや活動音、鬼が潜みやすい地形、それに、人を襲う鬼がもつ悪意。そういうものを総じて、不意に鬼の存在を感じることがある。

 勘、と言ってもいいかもしれない。当たることもあるし、外れることもある。

 だが、いま感じているものを、そのまま放っておくことは、武仁にはできなかった。

 

 家が一軒、見えてきた。周囲に他の家はなく、灯は消えている。ただ寝静まっているだけなら、自分はただ胸騒ぎに踊っただけだ。

 さらに近づくと、はっきりした血の匂いを嗅ぎつけられた。走っている勢いのまま、武仁は家の壁にぶつかった。

 

 音を立てて、壁が割れる。武仁は家の中に転がり込んだ。鬼がいた、と思うのと同時に、日輪刀で切りかかった。子供の高い悲鳴。そして、何かが音を立てて床に落ちた音。

 

「痛てじゃねえか! 何だ、俺の邪魔しやがって! 誰だてめえ!」

 

 鬼は大声を上げて、玄関の方へ下がっていく。頸はまだ胴体についていて、左の腕がなかった。完全に切り落としたので、すぐには再生しない。

 

「俺は、鬼殺隊だ」

「鬼狩りだとぉ? くそっ、せっかくいい獲物を見つけたってのによ。良い所を、邪魔しやがって」

 

 背後をちらりと見た。まだ幼い少女が2人、部屋の隅で縮こまっていた。そして自分の足元には、人が2人、血を流して倒れている。確かめるまでもなく、死んでいた。

 

「邪魔するんじゃねえ、てめえも殺すぞ」

「殺されるといわれて引き下がるくらいなら、最初からここにはいない。それに、俺は死なん。この2人を、助けるまでは」

「いいねぇ。お前は男だからいらねえ。だが、殺し甲斐がありそうだ!」

 

 日輪刀を構えるのと同時に、鬼がうなり声をあげ、低い姿勢で飛び込んでくる。距離は瞬時に詰まった。

 拳。音を立てて振り上げられてくる。見極め、体術で流した。半歩下がり、鬼の剥き出しの胴を薙いだ。うめき声を上げた鬼が、玄関へ下がっていく。それと同時に、武仁も前に跳んだ。跳びながら、日輪刀を振り下ろす。鬼の右腕も、胴体を離れた。

 がら空きだった。返しの一撃で、頸を刎ねられる。呼吸を深めた。しかし、武仁は背後から強烈な力で引っ張られ、背中から床に叩きつけられていた。衝撃で肺から空気がはたき出され、意識が遠ざかろうとする。

 

 血の臭い。少女達の泣き声。武仁は、すぐに立ち上がった。

 

「お前、やるじゃねえか。鬼狩り相手にこの力を使うのは、初めてだったぜ?」

 

 ニタニタと笑う鬼の背中から、細い触手が2本飛び出ている。触手の先には切り落とした腕がついていた。腕は、何事もなかったかのように、元通りだった。

 

「決めた。お前は、そこでなぶり殺しにしてやる。動けなくなってからは、俺がその子娘どもを食うところを、じっくりと見せてやる」

 

 光景も想像しているようで、鬼は愉しそうに笑っていた。

 

「他の者には、決して手出しはさせない。そして、俺は死なん。それが、俺の戦いだ。たとえ朝までだろうと、俺は戦い抜く」

 

 そう言い、武仁は再び日輪刀を構えた。

 本気だった。弦次郎の応援要請が、いつ届くのか。もし隊士が近くにいなければ、朝まで戦わなければならない。しかし倒れれば、背後にいる少女たちが死ぬ。自分と同じく、親を失った子供である。逃げることも死ぬことも、許されない。自分で、それを決めた。

 鬼が笑いながら、触手を飛ばしてくる。2本とも、切り払った。触手は、先端を何度切り落としても、腕とは違いすぐに生えてくる。絶え間ない攻撃が始まった。

 

「おらおら、どうした? まだ終わらねえぞぉ?」

 

 3本目の触手が、新しく生えた。それでもまだ、防ぎきれないほどではない。武仁は、呼吸を意識した。最終選別のこと。手鬼から一刻、逃げ回った時もそうしたのだ。どちらの鬼も離れたところから攻撃してくるが、その威力は比べるまでもない。

 

 日輪刀を上へ、下へと振った。触手の動きは、じつに執拗だった。武仁を、決して休ませようとはしない。だが、隙を見て足や、背後に飛ばしてこようともする。

 徐々に息が、苦しくなってくる。どれだけの時間、刀を振っているのか。防ぎきれなかった攻撃が、いくつも体に掠るようになっている。日輪刀を握る手も自分の血でぬるぬるとしていた。致命傷とよぶほどのものは、まだない。

 

「てめえ、いい加減にしやがれぇ!」

 

 触手。2本が、上下から伸びてくる。1本を切り上げ、もう1本は足で踏みつけて固定し、切り落とした。さらに2本、正面からきたそれを、ほとんど同時に切り落とした。

 

 腕を振っているという感覚も、薄れつつあった。

 師匠の剣に比べて、どうか。息苦しさの中でそう思った。師匠の剣は、凄まじいときは同時に4つの方向から斬りつけられる錯覚を覚える程だった。それに比べれば、この鬼の攻撃など、どれほどのものか。

 

 これでいいのだ。触手を払いのけながら、武仁は思った。

 もし自分が全集中の呼吸が使えれば。例えば、朱雀や芭澄なら、こんな鬼の頸は瞬く間に刎ねるだろう。だが、できないものは仕方がない。全集中の呼吸の適性がない自分でも、これだけ戦えるなら、それで十分ではないか。この戦い方でも、人を守れるのだ。

 

 その瞬間、鬼の気配がおぞましいものに変わった。

 

「鬼狩り風情が、調子に乗るな! 俺の、邪魔を、するなあああ!」

 

 四本、五本と触手が鬼の背中を突き破り、生えた。まず、数えるのをやめた。

 血気術とは違うようだ。鬼の感情の高ぶりに引きずられるように、肉体が変異している。

 一斉に襲い掛かってくる。武仁は、刀を縦横に振るった。上へ、下へ。左へ、右へ。細かい動きで、しかし確実に斬り落とす。

 

 視界の端を、触手が抜けた。背後に向かっていこうとするそれを、咄嗟に掴み、引き寄せた。その触手を斬り、足を上げようとしたが。左足が動かなかった。一本、左足の甲を貫通していた。切り、貫通したままの触手は、引っ掴んで抜いた。

 それで、動きが遅くなった。肩、腕、腹に、何やら熱い感じが広がった。刺された。そう思うのと同時に、血の味がした。

 

 ぐらり、と視界が揺れた。膝をつきそうになっている。少女たちの泣き声も、遠くなる。

 

 立て。お前の力は、こんなものか。

 

 聞こえた。師匠の声だった。それで踏みとどまった。俺はまだ、倒れることは許されない。

 血を吐き、息を深く吸い込んだ。全身が、刺された時よりも、もっと熱くなった。

 

 

  全集中 水の呼吸・壱ノ型 水面斬り

 

 

 目の前の触手を全て切り落として、数歩下がり、日輪刀を構えた。ぎりぎり全集中の呼吸はできたが、前に跳ぶような力は、とても残っていない。

 

「それだけの傷で、どうして倒れねえ? お前、大して強くねえのに、何で立ってやがる」

 

「俺が倒れたら、誰がこの子たちを守る。誰がお前を倒す。俺は弱いが、倒れない。ここでむざむざ倒れることを、俺は自分に許していない」

 

 言い、武仁は鬼の眼を、睨みつけた。

 鬼は表情をちょっと歪ませ、取り繕うように笑った。一瞬でも、鬼を怯ませられたのかもしれない、と武仁はそれを見て思った。

 

「だが、その怪我だ。足も痛めた。もう、お前は逃げ回れねえ。お前が死んでいく様を、守りたかったその子娘どもに見せてやるぜ」

 

 鬼の背後で蠢いている触手が、一斉に武仁に向かってきた。刀を握る血塗れの手に、力を込めた。切り払えるだけ払い、残りは体で受けるしかない。そしたら、最後の力で鬼のところまで走り、頸を刎ねる。それだけやれば、倒れてもいいだろう。

 腹をくくった。

 

 その瞬間、鬼の頸が、背後から飛んできた鉄球に叩き潰された。

 

「南無阿弥陀仏」

 

 武仁は、燃えていく鬼の体の向こう側に、鎖でつながれた鉄球と手斧を持った、偉丈夫の姿を見た。羽織の下に、鬼殺隊の隊服を着ている。

 

「援軍! 援軍到着ゥ! 岩柱ァ! 悲鳴嶼行冥殿到着ゥ! 武仁ォ、援軍連レテキタァ!」

 

 弦次郎の声も、耳に届いた。

 間に合った。この少女たちも、これで救われる。そう思った。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 全力で移動しても、一刻はかかった。

 

 悲鳴嶼行冥が、鎹烏に導かれてその家に駆け付けたとき、まだ中では隊士が鬼と戦っていた。

 その鬼は、背中から触手を何本も生やして攻撃しようとしていたが、背後にいる自分には全く気づいていない。だから、頸を獲るのは、容易いことだった。

 

 燃え尽きていく鬼の向こうで、若い隊士が立っている。全身から血を流していたが、日輪刀を構えていて、まだ死んではいなかった。近くには大人の死体が2つ。そのさらに奥で、2人の少女が小さくなっていた。

 悲鳴嶼は盲目である。すべて、気配でわかったことだ。

 

 少女は、ひとりがもうひとりを庇っているようだ。下の子供は、縋りつくようにして泣いていたが、庇っている方の少女は震えてはいたが、泣き叫んではいなかった。こちらを、じっと見ている。

 恐怖や悲しみの感情の中に、子供特有の純粋さも残している眼。その眼の持つ残酷さは、苦い記憶と共に、自分の中に深く刻み込まれている。

 

 悲鳴嶼は少女達ではなく、立ったままの隊士に近づいた。

 

「お前は……」

 

 悲鳴嶼は、思わず声が出た。

 若い隊士は立ったまま、気を失っていた。どこか、覚えがある感じがする。




 悲鳴嶼さん2度目の登場。
 次回も悲鳴嶼さんのターンです。

 どうにも戦闘シーンが長くなりがち。
 もう少し短く書く努力をしてみます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。