一般隊士の数奇な旅路   作:のんびりや

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数奇とは
 1 運命が様々に変化すること。
 2 ふしあわせ。不運。また、そのさま。


15話 十二鬼月

 互いの位置が、幾度も入れ替わった。

 

「ちょこまかと、逃げ回っていては戦いになるまいが」

 

 斬魄(ざんぱ)の声には、苛立ちが滲み出ている。何度かそうやって声をかけてきたが、応じなかった。斬魄の動静だけを、見続ける。

 

 相手の動きに応じて、攻撃を刀や体術で凌ぐ。あるいは、躱す。それを、愚直に繰り返す。

 師匠から叩き込まれたこの戦い方が、自分を今まで生き延びさせてきた。半月前、民家で2人の娘を助けた時も、岩柱が来るまで生きて戦うことができたのだ。

 

 武仁(たけひと)は、唾を飲み下した。最初はその回数を数えていた。愚直に戦うつもりではいる。だが、何かしていなければ、日輪刀を振り回して、自分から突っ込んでいきそうにもなる。

 それだけ、眼の前に立っている鬼が放つ威圧感は、凄まじいものだった。今まで相手にしてきた鬼とは、比べ物にならない。

 

 ただ、頸を取る必要はなかった。朱雀(すざく)芭澄(はすみ)が、外の鬼の頸を飛ばして戻ってくる。それまでの、時間を稼ぐ。やるべきことは、見失っていはいない。

 

 斬魄の姿が、揺らいだ。踏み込んでくる。振り下ろされてきた刀を、その場で受け、流した。何度も繰り返した動きだった。直後、下から掬い上げるような斬撃が来たが、その時には、間合いの外で反転していた。

 再び、位置が入れ替わった。

 

 ひとつ、わかったこともある。血鬼術の領域内では、斬魄はこの場の武器を、自在に手にできる。それも、瞬時の出来事だった。

 朱雀と芭澄が境内を出た後、斬魄は自分から、刀を1本に減らしていた。

 それで十分と思われているのなら、むしろ好都合ではある。しかし、力比べのような鍔迫り合いは、しない方がいいだろう。

 

「うぬは、鬼狩りであろう。呼吸とやらを、使うのではないのか?」

「なぜ、聞く。お前は刀を見ればわかる、と言っていたではないか」

 

 言い返すと、斬魄は苦々しい顔をした。その反応に、なぜ、と思う。

 もし逆の立場なら、全集中の呼吸を使わないうちに、勝敗を決しようとするだろう。全集中の呼吸こそ、鬼殺隊士が鬼と互角に戦い、あるいは凌駕するための技だからだ。

 しかし、この鬼は逆に、全集中の呼吸を使わせようとしているように思える。

 

 斬魄の構えが、変わった。半身で刀を隠している構え。この鬼の構え方は、定まったものはなく、別人のように変幻自在だった。武仁は常に、正眼で刀を構えている。

 

 斬魄が、再び気迫を放ち始める。両肩から、腕、日輪刀までもが重くなったように感じた。この重さを、はね除けたい。どうしようもなくそう思った。だが、動き出したその瞬間、斬魄の刀が、自分の身を斬り裂くだろう。

 

 耐えた。決して、動かない。足を地に張り付けたようにして、斬魄の動きを、刀を、見続ける。構えは微動だにせず、隙は無い。額の眼だけは、ぎょろぎょろと回っている。

 

 この気迫。剣によるものだから、剣気とでもいうのか。師匠が似たような気を放っていたのを、武仁はふと思い出した。自分もまた、そういうものを放っているのかもしれない。これも、立合いの一つの形だった。

 

 互いの間、眼に見えない何かが、満ちていく。斬魄が踏み込んで、弾けた。刀が、月光に照らし出された。武仁も刀で応じる。瞬間、刀がもう1本現れ、しかも自分の顔に迫っていた。

 

 肌が、ひりついた。死。それを色濃く感じつつも、体は動いた。

 すり足で、斬魄に身を寄せた。腕をとり、全力を込めて投げた。初めて、先手を取った。そう思うのと同時に、呼吸を深くした。斬魄の体。まだ、空中にあった。

 

 

  全集中 水の呼吸・壱ノ型 水面斬り

 

 

 跳んだ。日輪刀。水平に振るうが、防がれた。空中で身を回しながら、こちらの攻撃を見切ってもいる。

 武仁が着地した時、互いの距離は、最初よりも開いていた。そして斬魄は、両手に刀を握っている。

 

「使えるではないか。その呼吸の剣術。青い刀を持っている剣士のものだな。それでいい。お前も、某の血闘場で戦う資格があるということだ」

「わかった。それが、お前の血鬼術か。そういうことだったのか」

 

 全集中の呼吸を使わせようとしてきたことへの違和感。居なくなった、腕利きの人間たち。それが今、武仁の頭の中で、ひとつの像を結んでいた。

 

「今のお前は、倒した鬼殺隊士の剣技を、完璧に見切れるのだな。だから、あの2人の攻撃を、お前は容易くいなした。普通の鬼なら、どこかしら斬られていても、おかしくなかったはずだ」

「ほう。やはり、うぬは勘のいい男よ。生きている間に、某の血鬼術を見切った人間は、初めてだ」

 

 斬魄が、笑った。否定する素振りもなく、自分の言葉を認めていた。

 この血鬼術の範囲内で死んだ者の、武器だけでなく、技能をも自分のものにする能力もある。武仁はそう推定した。

 事実なら、厄介な能力だった。左右に林立している武具の中には、青色や赤色の日輪刀がいくつもある。緑や、黄色のものもあった。

 空中でも、水の呼吸に対しては完璧に対応してきた。全集中の呼吸の型は、悉く通用しないと思えた。

 

 それで、別の違和感も解けた。

 

「某は、あの方に鬼にしていただき、悠久の時を己の鍛錬に費やすことができるようになった。そして、さらなる境地に立たれている、御方にも出会った。某は、あの御方に打ち勝つため、貴様らのような強き人間を食らう。行く行くは、柱も食らってやるのよ」

「鍛錬。そんな嘘は、やめろ」

「何だと?」

 

 斬魄が、足を軽く地に叩きつける。

 初めて、斬魄の感情が、眼に見える形で出てきた、と思った。

 

「お前は、そんな強力な血鬼術を持ちながら、弓を放つ鬼などと、なぜ組む。なぜ戦えない鎹鴉を狙う。何よりも、なぜ、俺のような男ひとり倒せない。俺は、全集中の呼吸など使えない、ただの一般隊士だ。俺などにてこずるお前が、自分を鍛え、柱に勝つだと?」

 

 笑わせるな。そうも言い、武仁は口元で笑った。

 鬼という生き物は、時として精神的にこだわったものを見せるものもいる。それは、時に弱点にもなる。だから、それを刺激することに、武仁は何のためらいもなかった。

 そうでもしなければ、自分のような男が、鬼相手に立ち回ることなどできない。

 

「お前は、ただでさえ人間よりも強靭な肉体を持ち、異能の力を振るいながらも、決して死なない、頸を取られないように立ち回ってもいる。十二鬼月というのは、そういう鬼しかいないのか。逆に、お前はよく今まで、頸と胴体が分かれなかったな」

「柱でもない鬼狩り如きが、下弦の参である私を、愚弄するか」

「お前の血鬼術は、散々罪もない人を喰って、鍛えたのだろう。だがその能力は、俺には通用しない。俺の剣技は、俺だけのものだ。そして俺も、お前と同じく、何よりも生きるために、この刀を振るう。だが、お前のように、姑息な生き方はしないと決めている」

「ぬかせ。その薄汚い口、2度と利けなくしてくれる!」

 

 気配が、完全に変わった。最初の気取ったような仮面は、かなぐり捨て、口調も乱暴になっている。

 突っ込んできた斬魄が、叩きつけるように刀を振り下ろしてきた。2本、同時にくる。受け止めず、武仁は後方へ跳んだ。地が、音を立てて割れた。

 

「逃がさん」

 

 追ってきたところで、互いに刀を合わせた。衝撃で、刀が吹っ飛んでいきそうになった。まともに受け止めれば、先に刀が破壊されるかもしれない。さっきとは違い、力ずくという感じで、襲い掛かってきている。

 

 斬魄の眼。3つ全てが、赤く血走り、しかもこちらを凝視してくる。見て取るだけの、余裕はあった。冷静でない動きのほうが、ずっと御しやすい。

 

 何度か、刀がかすめた。いつの間にか、血の味もしている。

 振り下ろされた刀を、武仁は身を低くして、何とか受け止めた。さらに上から、圧倒的な力がかかってくる。

 

「何故だ。何故、お前は死なない」

「言っただろう。俺は、生きるために、戦っている。生きて、お前たちのような獣から、人を守るため」

「家畜風情が、程度の低いことをほざく。お前たちは、我々鬼を強くするための、餌だ。餌なら餌らしく、黙って死ね。私の血闘場を、下らん綺麗事で汚すでないわ」

 

 ぐい、と押し込まれる。ほとんど片膝をついて、日輪刀を支えていた。常中を会得していない体では、とても耐えられなかっただろう。

 さらに、押し込んでくる。崩れる。崩しつつ、身を回した。同時に、日輪刀を振るう。手ごたえは、十分にあった。

 斬魄の叫び声。武仁が立ち上がった時、刀を握ったままの手が、2つ地に落ちていた。斬魄の手首から先は、ない。

 

 好機だった。頸を取れる。ここで、勝負をつけられる。

 呼吸を整え、武仁は跳んだ。3つ眼は、せわしなく動いている。しかしもう、逃げ道はない。外しようのない距離だった。

 

 

  全集中 水の呼吸・壱ノ型 水面斬り

 

 

 頸を飛ばす寸前だった。

 不意に、武甲山の斜面が閃き、光が突っ込んでくる。

 

 胸元で、何かが弾け、視界が回った。そして、気づいたとき、武仁は倒れていた。

 羽が、まず見えた。なんとか、首を下に向ける。矢が一本、胸に突き立っていた。

 

 もう1匹の鬼。油断した。思ったが、口から声ではなく、血が噴き出てきた。

 

「よくやった。よくやったぞ、妖箭(ようせん)

 

 斬魄の笑い声。そして、足音が、ゆっくりと近づいてくる。

 早く、立て。自分で、自分に言い聞かせた。

 呼吸はやり辛いが、できないほどではない。矢は、貫通したわけではないようだった。矢が刺さっている辺りを触ると、硬い感触が、伝わってくる。

 師匠からもらった竹笛に、矢が刺さっていた。

 

 生きているなら、立て。そう言われた気がした。

 

「手こずったが、これまで。私を相手に、よく戦った。死ね」

 

 振り下ろされてきた刀を、武仁は全力で跳ね起き、刀で防いだ。口から、血が噴き出る。それでも、受け止める力はまだ十分にあった。

 斬魄の眼が、見開かれている。

 

「まだ、動けるというのか。お前は」

「約束したからな。俺は、死なんと」

 

 朱雀や芭澄だけではない。師匠との、約束でもあった。

 

 全集中の呼吸は、ゆっくりならできる。肺腑はどこも傷ついていない。浅く入った矢が、血管を破っている。だから、血が口から出るのだ。

 

 胸元全体に、武仁は力を込めた。常中のさらなる応用のひとつに、筋肉に異常な力を籠めて、出血を抑えるというものがある。それは、悲鳴嶼から聞いた。

 理屈は分かったが、できるとは限らない。だが笛を懐に入れていなければ、既に死んでいたはずだ。生きたければ、やるしかない。

 

 体が、徐々に熱くなった。それで、呼吸する度に上下していた矢羽が、微動だにしなくなり、吐血の衝動も徐々に収まっていく。

 

「見事。本当に、見事だ。未だに生きているのは、驚嘆に値する、鬼殺の剣士。名を、聞かせてもらえるか?」

「階級辛、御影武仁(みかげたけひと)

 

 斬魄は喋りつつ、飛び退り、武仁と距離を開けていた。

 

「武仁か。お前は、強い男だった。だがお前でも、それでは動けまい」

 

「だが、刀は振れる。妖箭とか言ったか。俺に向かって矢を放つ隙など、あの2人が見逃すはずはない。あるいは、頸を斬られる直前に、放ったのかもしれない。すぐに、あの2人がここに戻ってくる。俺は、そう信じる」

「そのころには、お前は死んでおるわ」

 

 笑いながら、斬魄が言う。声音に、さっきのような怒りはない。腕を切り落とされ、冷静になったようだ。しかし同時に、別の顔も飛び出したような、笑い方だった。

 

 斬魄の手から、刀が消え、直後に別の物が現れた。刀ではない、ちょっと違った構え方をしている。

 構えていたのは、小銃だった。武仁に、思い当たるものはある。

 以前、陸軍の部隊がごっそりいなくなった。昨日、店の主人と、そんな話をしたのだった。思い出しても、どうにもならない。

 

「少し前に、群れていた現代の武人どもから、手に入れた。無論、私の血鬼術の領域で死んだ。使い方はわかっている。それにしても、やはり人間は弱い。こんな小石同然の鉄を撃ち込まれただけでも、死ぬ」

「お前、さっき大秦帝国の決闘場がどうのとか、言っていたな。刀で勝てなければ、飛び道具か。人でなくなって、矜持も無くしたか」

「所詮、鬼と人。人間であるお前が、勝つ道理など、最初からなかった。それだけのことよ」

 

 斬魄はもう斬り結ぶつもりはないようだ。

 銃口は、正確に武仁の胴を狙っているように見えた。弾を打ち返すなどという芸当は、自分にはできないだろう。

 躱すしかない。それも、常中を維持しながらだ。

 

 武仁はいままで、銃と接したことなど、一度もない。引き金を引けば、銃弾が放たれる。その程度の、認識だった。

 逆に斬魄は、少なくとも死んだ軍人程度には、銃を扱えるということだ。

 

「終わりだ。これでお前の剣技も、私のものになる」

 

 斬魄の人差し指が、軽く動いた。

 跳ぶ。それしかない。足に力を込めた瞬間だった。

 

 青い光。それが境内の外から、宙を舞うように飛び込んできて、着地した。そして、斬魄に突っ込んでいく。残像は、まるで山間の渓流のようだった。

 

 斬魄が、小銃を向け直しているが、青い光は既に、間合いの中に入っている。

 呼吸音も、聞こえていた。

 

 

  全集中 水の呼吸・参ノ型 流流舞い

 

 

 破裂音と同時に、青い光が跳ね上がり、斬魄を小銃もろとも斬り上げた。日輪刀を振るう芭澄の姿が、それで見えた。

 斬魄の手。既に、刀を握り直している。しかし、遅かった。芭澄が日輪刀を、頸にかけている。

 断末魔とともに、斬魄の頸が胴体から離れ、飛んでいく。

 下弦の参の、頸を取った。生き残ったのだ。そう思った。膝が崩れそうになるが、誰かが自分の体を支えている。

 

「ごめんなさい。遅くなって」

「助かった、芭澄。最後の動きは、流石だったな」

「こんなに、傷ついて。それでも、武仁が生きて戦ってくれたから、勝てた」

 

 芭澄の体が、すぐ傍にあった。お互いに血の臭いしかしない。それでも、温もりはしっかりと感じられた。

 

「朱雀は、無事か?」

「うん。外にいた鬼は、朱雀が倒した。でも、武仁が心配だったから、置いてきちゃった。本当に、無茶するんだから。でも、まだ生きてる」

「笛が、守ってくれた。もし持っていなければ、死んでいただろうな」

「そっか。壊れたんだ、あの笛」

「また、手に入れるさ」

 

 村で開かれていた市場で、師匠が買ってきたものだった。息抜きにでも使え。いらなければ捨てろ。そう言って、渡されたのだ。

 何の変哲もない、ただの竹の笛だった。使っているうちに、様々な思いを音にしてきた笛になり、最後は自分の命を守って、壊れた。

 

「それに、お前が駆けつけてこなければ、矢など関係なく死んでいた」

「やっと、借りをひとつ返せた。朱雀と武仁なら、そういうのかな?」

 

 笑っている芭澄に、肩を支えられながら、武仁はようやく歩き出した。

 

 背後で、笑い声が起こった。

 

「流石だ。見事なり。鬼狩りの剣士たち。認めよう。此度は、私の負けだ。そして、取り返しのつかない負けでもある」

 

 頸だけとなった斬魄が、武仁たちを見ていた。体は燃えていて、ほとんど形をなしていない。死んでいこうとしているのは、間違いない。

 

「刀を持っていれば、私もお前の頸を飛ばすのは、難しかった。敗因は簡単。真に使うものを、お前は間違えた」

「お前も、人間の男に負けぬ、凄まじい剣技であった。私が間違えたというが、それもその武仁なる男が、私に使わせたのだ。死力を尽くして。これを、見事といわず、なんというべきか」

「何が、言いたい」

 

 武仁の言葉に、斬魄はにやりと笑った。

 

「見える。地獄への旅路を前にして、私には見えている。お前たちの血で、月が赤く染まる様が。お前たちの歩く道に、呪いあれ、と」

 

 口が燃え尽きたので、言葉が途切れた。それでも、顔は笑ったまま、斬魄は消滅した。

 

「負け惜しみだ、武仁、芭澄」

 

 朱雀が、普通に塀を乗り越えてきた。斬魄が死んだので、境内への出入りができるようになったようだ。

 

「気にするな。俺たちの、勝ちだ」

「そうだ。俺たちは、勝った。ありがとう、朱雀」

 

 朱雀の右腕にも、矢が刺さっていた。右腕が不自然に揺れていて、あまり力が入っていないようだ。それだけでなく、芭澄も右足を引きずるようにしているのに、武仁は気づいた。

 勝ったとはいえ、それぞれ負傷したのだ。

 

「とりあえず、藤の花の家紋の家だ。武仁は、その矢は常中で止血しているな。もう、返事はしなくていい。絶対に、それを止めるなよ」

 

 武仁は口を結んだまま、軽く頷いた。

 戦闘中は、気を張って誤魔化していたが、今はいつ倒れても不思議ではないという気がしている。全身が、痛みと疲労を思い出したように、くたくただった。

 

 東の空を見ると、いつの間にか明るくなりつつある。戦いは、かなりの時間だったようだ。

 

「では、行こう。芭澄の鎹鴉は、まだ残っているか?」

「ええ。まだ、外にいる」

「俺の鎹鴉は、しばらく飛べそうにない。伝令を頼む」

 

 武仁の両脇に朱雀と芭澄が付き、3人で並んで、歩き出した。

 門を押し開けた、瞬間だった。

 

 

  べべん

 

 

 どこからか、琵琶の音が鳴った。

 振り向いた先に、新たにひとつ、人影がある。後ろで束ねられた長い黒髪。紫色の羽織。刀。まるで侍のような出で立ちで、佇んでいる。

 しかし現れたのは、人間ではなかった。

 

「ほぅ……柱ではない者たちが……斬魄を斬ったか……」

 

 顔には眼が、6つ並んでいる。上弦。壱。眼球にそう刻まれていた。

 

 武仁は、呼吸をするのを忘れた。




次回、赤い月が昇る
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