一般隊士の数奇な旅路   作:のんびりや

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 抜け忍編、これにて終幕です。


31話 音と影

 一度視界を覆いつくした煙は、完全に晴れていた。

 

「馬鹿だ。死ぬかもしれねえってのに」

「前に、似たようなことを言われたことがある。師匠が馬鹿だと、弟子も馬鹿になるらしい」

 

 喋っている間にも、敵は動いている。徐々に、包囲が狭められた。そして、自分に相対する位置には、弟が立っている。

 天元は、日輪刀を握る掌に力を込めた。まだ刃は返している。今の自分は、鬼殺隊士であって、忍ではない。不必要な殺しを、するつもりなどない。

 ただ、嫁や仲間が傷つく。その時は、容赦なく刃を向けなおせるだろう。

 

「あんたの道具は、いくつ残っている?」

「縄は予備も含めた2本、爆竹が4個。煙幕はない」

 

 煙幕は、飛び込んできたときに、全て使ったのだろう。以前、村で見た煙とは、規模が違うものだった。

 

「こいつらは、俺を狙っている連中で、鬼じゃねえ。あんたが関わる必要は無かったんだ」

「言っただろう。君を、助けに来たのだと」

「ちっ。この、頑固者が」

 

 唐突に、弟の姿が消えた。頭上。天元も衝き動かされるように、跳躍していた。空中。刃と刃が火花を上げ、そのまま立ち位置が入れ替わる。

 それが、火蓋を切った。武仁にも、忍が複数人で襲い掛かっていく。だが、天元は動けなかった。対峙する弟に、隙はない。

 

 真っ直ぐ突き出されてきた小刀を、天元は日輪刀で切り払った。何度か、弟と刃を交わす。横やりを入れてきた雑魚は、打ち倒した。その間、武仁(たけひと)の動きや、息遣いは、音で伝わってきた。

 感情のない弟の瞳が、闇に踊る。低い位置から飛んできた苦無を日輪刀で払うと、天元から斬りかかったが、それは軽い身のこなしで避けられた。

 

 里を抜け出る切っ掛けとなったあの出来事が、不意に天元の脳裏をよぎる。

 覆面を被り、兄弟と知らずに殺し合った時のこと。最後まで生き残ったのは、自分と弟だけである。その2人が再び出会い、そして、殺しあっている。

 自分のこれまでの人生は、まさに血に塗れたものだった。そして、その過去は、簡単に消えないということなのか。

 

「宇随隊士」

 

 一度、攻撃の手が止まり、敵が下がる。武仁は、すぐ背後に立っていた。傷は負っているようだが、深い呼吸に乱れはない。

 

「まだ生きているな」

「あんたは、何でそうまでして俺を、助けようとするんだ。お節介にも、程があるぜ」

「言っただろう。私は人助けを」

「俺の前で、その腑抜けた喋り方はやめろ。そんな地味な奴に、助けられるつもりはねえ」

 

 返す言葉はなかった。しかし、音は聞こえている。何かを懐かしんでいるような音。一方でそれは、押し殺そうとしているような、か細い音だった。

 

「俺は、耳がいいっていったはずだぜ。今、ここで言う事じゃないかもしれねえ。でもな、あんたが本音てのを塗り潰してることが、俺の耳には嫌というほど分かるんだよ」

 

 しばらく、沈黙が間を埋めた。

 

「昔のことだ」

 

 そうぽつりと武仁の声がと同時だった。遠巻きに囲んでいた敵が、動き出した。

 足音ではなく、苦無が飛来する音。それも、全方位から。聞き分けた瞬間、天元は武仁の襟首を掴み、地を蹴った。直後、眼下を無数の苦無が交錯した。苦無同士が衝突したのか、火花も散っている。

 

「くそっ、こいつら」

 

 天元は思わず、毒づいた。

 

 周りにはまだ、自分達に打ち倒された忍達が何人もいたのだ。そいつらに刺さろうが、まるで気にとめない戦い方。倒れた者、手負った者は足手まとい。故に自決するか、他の者が止めを刺す。それが、忍びのやり方なのだ。

 枝葉が擦れる音。待ち伏せされていた。それを理解した時には、人影が近くの木から飛び降りてきている。

 

「俺を投げろ、宇随隊士!」

 

 叫び。天元はその声に従い、武仁の体を投げた。ひとりは絡み合いながら拳で打ち、ひとりは身を回して蹴り落としていく。さらに、左手から鞭のように紐を伸ばして、近くの木に掛けた。

 武仁の眼が、天元の方へ向く。こちらへ右手を伸ばしている。武仁が何をするつもりなのか、天元は瞬時に理解した。

 

「こっちだ。掴まれ!」

 

 再びの叫び声。同時に、天元は武仁の右手を掴んでいた。腕から肩へ、とんでもない衝撃が走る。だが、放しはしなかった。天元と武仁は、凄まじい勢いで弧を描くと、唐突に浮遊感に包まれ、森の中を飛んだ。

 黒い、地面が迫る。天元は地を転がりつつ、着地した。包囲網の外に出ているのは、気配で分かった。

 傍らには、上手く着地できなかったのか、泥にまみれた武仁がのっそりと体を起こしていた。左腕が不自然に、だらりと下がっている。

 

「肩、外れたのか?」

「ああ。だが、慣れている。縄で跳躍して、肩が外れるのはかわいいほうさ。幹に叩きつけられて、一昼夜気を失ったこともある」

 

 喋りながら、武仁は肩を嵌め戻していた。まるで物を組み立てるような無造作さで、声音一つ変わっていなかった。

 

「よし、逃げるぞ」

 

 天元は頷き、武仁と肩を並べて走った。全身が軋むように痛んだが、立ち止まることはできない。敵がこちらを猛追してきているのは間違いない。気配自体が巨大な一つの塊となって、波のように迫ってくるのを感じる。

 

「そういや、さっき、何かしゃべろうとしていたか?」

「昔、俺、お前と対等に喋ることを、俺に教えてくれた男がいた。それが、男同士の話し方だと」

 

 どこか、懐かしむような声。いつの間にか、武仁は自身のことを、俺、と呼んでいた。それだけでも別人のようだった。いや、むしろこちらの方が、素に近いのかもしれない。

 

「友人だったのか」

「俺は、親友だと思っていたよ」

 

 つまり、その男は死んだのだろう。そしてそれは、鬼殺隊では珍しいことではないのは、入隊間もない自分でもわかる。

 

「だから、何があっても1人で戦うってか」

「鬼殺隊に、強い隊士は多くいる。それこそ、俺などよりも」

「あんたが自分を弱いというのは、傲慢がすぎると思うぜ」

「俺には、自分の眼に映るもの全てを守る、そういう力はない。共に肩を並べる隊士がいても、そいつに迫る死を、どうしようもなく払えない。俺にできたのは、ただひとり、自分を生き延びさせることだけだ」

「ひとつ、言っておいてやる。俺は、簡単には死なねえ。お前が、俺のことを、どう評しているのかは知らねえが」

 

 武仁の視線を横に感じながら、天元は己の身の上を口にした。

 自分の生まれ。父親と、その生き写しとなった弟のこと。里から脱走した経緯。兄弟を手に掛けた自分は地獄に落ちる、との自責に苛まれていたが、3人の嫁のお陰で立ち直れたこと。

 自分の過去を知っているのは、御屋形様に次いで、2人目である。武仁は自分が語る間、一言も口を挟まなかった。

 

「俺は、派手に命の順序て奴を決めている。一に女房、二に堅気、三に俺だ。だが、簡単に死んでやるつもりもねえ。俺が死ねば、嫁共が泣くだろうしな」

「死なない人間など、いないんだよ」

「生きてるやつが勝ちだ」

「宇随隊士、君は」

「お前、でいい」

 

 再びの、逡巡しているような間。次に零れたのは、ふんと鼻を鳴らす音だった。

 

「馬鹿な男だよ、お前も」

「何だと?」

「言っただろう。俺に、友人など必要なかった。笛が聞きたければ、勝手に聞いていればいい。これまで、そうやって戦ってきた。それでも、人の心にわざわざ踏み込んできたのは、お前だけだった」

「不愉快だったか?」

「いや」

 

 そこで、言葉は途切れた。眼の前。黒装束の人影が5つ、左右から飛び出てきたからだ。

 

 一応、後方で突破に備えていたようだ。ただ、こちらの出現が唐突だったからか、連携が取れた動きではない。

 天元はつぶさに見て取ると、まず自分が突っ込み、2人を峰打ちで倒し、もう1人は肩からぶつかり、突き飛ばした。敵の動きが、束の間止まる。

 

 そこに、武仁が何かを投げ込んできた。拳大の塊がひとつ。天元が後ろに跳び退った直後、爆音が轟いた。天元は顔を、腕で覆っていた。音だけでなく、衝撃も続く。

 

 対鬼のための暗器だという。威力は調整してあるようだが、爆竹というより、小ぶりな爆弾に近い。余波が収まった時、忍者共は地に伏していた。息はあるようだが、すぐには動けないだろう。

 天元は、武仁と共にその間を駆け抜けた。

 

「くそっ、しつけえ奴らだ」

 

 天元は毒づいたが、なすすべはなかった。いつの間にか、背後の気配は間近に迫っている。爆音が、獲物の近さを教えたのかもしれない。

 敵の動きが、不意に速さを増した。息が乱れることも厭わず、駆け始めたのだ。こちらは既に、疲労困憊である。自分たちの左右を、影が並走し始める。進める方向は、前にしかなくなった。

 

 しばらく2人で駆け、足を止めた。急斜面に出たのだ。立木こそあるが、ほとんど崖に近い。敵を凌ぎながら下るのは、至難だろう。

 振り返る。見えないが、何が遠巻きに近づいてくる。音からして、人数は減っている。だが、2人で抗しきれるとはとても思えない。

 

 死地である。ちらりと見た武仁は、何の動揺もしていないように見えた。ただ、内心はどうなのか。武仁が放っている音は、平静とは異なる。ただそれを、顔には出していない。

 

 天元の頭は、目まぐるしく動いていた。敵はひたひたと、こちらに近づいてきている。もう、どこか一点を破るような余裕はないだろう。あの縄も爆竹も、多分、次は通用しない。

 あと一手、必要だった。それも、数を減らせる一手だ。それで背後の斜面を下ることができれば、この場は凌げる。

 

 思考が、巡り巡った。

 自分が見聞きしてきたもののどこかに、活路がある。周囲の地形地物、自分と弟の忍者としての技量、武具、武仁の暗器、そして全集中の呼吸。

 

 不意に、天元の脳裏に稲妻が走った。自分がまだ会得していない、全集中の呼吸。それが、できるかできないかは、関係ない。できなければ、枕を並べて、死ぬしかないのだ。

 

「武仁。あの縄、まだあるだろう。ひとつ俺に貸しな。あと爆竹も、ありったけだ」

「どうするつもりだ」

 

 問いつつも、武仁は手早く装備品を手渡してきた。拳大の爆竹は、あと4つある。天元はその全てを腰に下げ、縄は腕に括った。

 必要なものは、揃っていた。後は自分が、思った通りにできるかどうかだ。それも、できる、と天元は考えていた。

 

「先に感謝しておく。俺ひとりだったなら、この死地は抜けられなかった」

「もう切り抜けたようなことを言う」

 

 木々の間から、再び人影が覗いた。弟もいる。黒い無機質な瞳に、変わりない。

 天元は一歩、前に踏み出した。並んで来ようとする武仁は、手で制する。

 

「ここからは、俺ひとりで、ド派手にやらせてもらう。離れてな」

 

 ざっと十数人。崖際を完全に囲んでいる。減っている分は、ついて来られなかったのか、あるいは足手まといとして始末されたのか。

 弟。再び視線が交わった。親父そっくりの眼。親父もろとも始末するべきだったかと、里を逃れた後で悩んだこともある。

 

 お前たちは、消せはしないが、振り払ったはずの過去だ。追いすがってくるならば、この場で断ち切ってやる。天元は、眼でそう語りかけた。弟から、伝わってくる言葉は何もない。ただ右手を、振り上げただけだ。それが合図で、周囲に展開した忍者たちが、姿勢を低くする。

 

 呼吸。天元は、思い切り息を深くした。深く吸い、深く吐く。それを続けると、鼓動がとてつもなく早くなり、全身が破裂しそうなほどの力で漲った。

 これが、全集中の呼吸というものなのだろう。尤も、失敗するつもりはなかった。全集中の呼吸を絶えず続けている男と、しばらく行動を共にしていたのである。見取りならぬ、聞取り稽古というやつだ。

 

 弟。右手が、振り下ろされる。敵が一斉に、飛び掛かってきた。それを視界に収めつつ、天元は日輪刀を抜いた。忍者。逆手に構えた小刀。漫然と、しかし鮮明に見えていた。

 刹那、天元は頂点に振り上げた日輪刀を、全力で振り下ろす。その刀の動きに、爆竹も合わせた。

 

 切先。地面に届いた瞬間、天地が、爆ぜた。

 

  全集中 音の呼吸・壱ノ型 轟

 

 何もかもが、弾け飛ぶ。自分の体だけでない。地面、忍者達も、何もかもが吹き飛んだ。天元は吹き飛ばされながらも、武仁の腕を取った。柄だけ残った日輪刀は、捨てた。

 にわか仕込みだったが、俺の勝ちだ。ざまあみやがれ。そう思いながら、天元は武仁とともに、崖下へと落ちていった。

 

 縄は、握りしめている。

 

                       

 

 隠の背から降ろされると、待たされるほどの事もなく、奥に通された。

 

「久しぶりだね、武仁」

「御屋形様も、お変わりないご様子、何よりです」

 

 武仁は一礼すると、御屋形様の傍らに腰を下ろした。御屋形様は静かな佇まいで、ただ座している。武仁は庭先へと、眼をやった。

 季節は既に、夏である。砂利が日の光を照り返し、蝉の鳴き声が、熱い空気と共に、邸内へ飛び込んでくる。

 

 宇随天元を助けるため、忍集団と交戦したのは、ひと月ほど前の事である。崖に追い詰められたが、天元が突如放った大技で、脱することができた。それぞれ傷こそ負ったが、天元と嫁達は全員、いまも無事に生きている。

 あの後、忍者たちは現れていない。最後の衝撃は、爆死したと思われても、おかしくない程の規模だった。ただしお互い、周囲には気を払うようにしている。

 

 ただ、天元を救った結果、帝都で果たすべき指令を、独断で放棄した形にもなった。その経緯については、那津を通じて全てを本部へ報告してある。

 任務放棄について、いかなる罰でも受ける覚悟はある。だが、何の連絡もないまま日が流れ、数日前に、本部への呼び出しを受けたのだ。

 

 御屋形様の顔が、唐突に武仁の方へ向いた。左眼を中心に、痣のような紫色に染まっている。それは以前見た時より、いくらか濃くなっているような気がした。

 

「天元達を救ってくれたこと、礼を言うよ。鬼ではなく、人間が相手だったそうだね。それに、よく武仁は無事でいてくれた」

「追い詰められました。天元がいなければ、私は首を突っ込んだ挙句、死んでいただけだったと思います」

「天元も、同じことを言っていたよ。君が来なければ助からなかったとね」

「あの男が土壇場で、全集中の呼吸を会得したのです。音の呼吸だとか本人は言っているようですが」

 

 自分が会得している常中を、耳で聞いていた。だからできた、と天元は言っていた。もとより、常人離れした聴力を有している男である。できる事だけでなく、言っていることも、自分の理解の範疇を超えている、と思ったものだ。

 

「天元とは、仲良くできそうかな?」

「はい。自分でも、不思議ですが。ただ、仲良くなるというのとは、いくらか違う気もしています」

 

 あの戦いの後、天元とは自然に、俺お前と口を利くようになった。

 朱雀や芭澄のように、心を通わしたとは思っていない。ただ、一度の戦いで互いの命を守り、預け合った。だから、信じる。理屈ではなく、ただ信じているのだ。

 

「対等の仲間がいるというのは、心強いものだと思う。そしてそれは、決して、武仁のこれまでの過去を否定するものじゃない」

 

 その言葉に、武仁はただ頷いた。

 鬼殺隊の総帥ともなれば、対等な人間などいないだろう。瀬良蛟(せら みずち)や悲鳴嶼行冥といった屈強な柱を従えていようとだ。頂点に立つとは、そういうことなのかもしれない。

 御屋形様は穏やかな視線を、庭先に送っている。そのとき不意に、武仁の脳裏にある言葉が過った。同時に鳥肌が立ちそうになったのを、呼吸を深めて落ち着かせた。

 

「御屋形様、お伺いしてもよろしいですか?」

「何だい?」

「もしかして、全てご存じだったのでは。忍者たちが襲ってくることまでも、その全てを。だから私と天元を共同任務として、引き合わせたのでは?」

 

 御屋形様の視線は、庭先に注がれたまま動かない。武仁は頭を下げながら、その返答を待った。

 

「私のことを、高く見積もってくれているんだね、武仁は」

「御屋形様には、それだけのお力があります。私を、立ち直らせて下さったときのように」

「私には、そんな大層な力はないんだよ、武仁。もし、それだけ先を見通す力があれば、決して隊士達を死なせはしなかった。それは、これまで死んでいった朱雀(すざく)芭澄(はすみ)達の墓前に、誓ってもいい」

「失礼を申し上げました」

 

 武仁が更に低頭しようとすると、御屋形様の手が肩に掛けられた。顔を上げると、こちらを覗き込みながら、変わらぬ微笑みを浮かべている。

 

「でも、予感があったのも事実だ。それが、天元と武仁の気が合うという私の思い込みだったのか、何かを感じ取ったものだったのか、はっきりとしたことは何とも言えなくてね。ただ、武仁なら何があっても、最善に対処してくれると思っていたよ」

「御屋形様は、私に人を助けて欲しいと言われました。そして私は、人を助けるため、日輪刀を振るいます」

「これからも、頼むよ。私の剣士達を」

「ところで、私の任務の放棄についてですが」

「今更、武仁を罰するつもりはないよ。もし武仁が罰せられるようなことがあれば、自分も罰してくれ。故郷の人間に襲われたのは、自分に責任がある。武仁に助けを求めたのも、自分の独断。天元ははっきりと、そう言っている」

 

 自分に助けを求めてきたのは、天元自身ではなく、嫁の雛鶴だった。それを、自分の責任だと主張する。いかにも、天元が言いそうなことだ、と武仁は思った。

 

「しかしそれとこれとは、話が違います。天元は振りかかった火の粉を払い、私は下されていた指令を、独断で無視した。結果が良ければ不問、というのであれば、隊律を守る隊士がいなくなります」

 

 御屋形様の視線が一度、庭先に向き、そして再び武仁の方を向いた。

 

「どうしても、というのなら、笛を吹いてもらおうかな。それと天元を助けてくれたことと併せて、不問にしよう」

「それで、よろしいのですか?」

「武仁の笛には、それだけの魅力がある、と私は思っているよ」

「承知しました」

 

 武仁は一礼し、隊服の懐から、笛を取り出した。一度、深呼吸する。そして唄口に、息を少しずつ吹き込んでいく。

 吹いている間、思考は澄んでいて、何の言葉も湧いては来ない。そのはずだった。ただ、宇随天元と共に戦った光景が去来した。そして不意に、言葉が入り混じった。

 

 俺は再び、友人を得たのかもしれない。

 武仁は、眼を閉じた。音が滑り出してくる。




 大変お待たせ致しました。
 抜け忍編は、宇随天元が抜け忍であるところを使いつつ、主人公の武仁に新しい友人と呼べるキャラを作りたいと思って始めました。
 閲覧やお気に入り登録等、ありがとうございます。

 次章は胡蝶姉妹と絡みます。
 今度こそ、短くまとめよう。

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