緋弾のアリア〜化け犬武偵と百獣を統べる姫〜   作:愛宕夏音

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多分これからもっと更新頻度落ちると思われます。
新生活が忙しくなりそうなので……。すいません。


過去の逃走と戦い

━━2年前、茨城県某所━━

 

 

「はぁっ、はぁっ、くそっ」

 

 

10数匹に及ぶ白銀の狼━━コーカサスハクギンオオカミ━━の群れとどこまでも追尾してくる矢から逃げていた俺とリサは遂に袋小路まで追い詰められてしまう。

 

狼の群れはリサが抑えていてくれているのだか、それでも一定の距離を保って囲んでいる。本来、あらゆる獣たちの頂点に立つリサがいるのにも関わらず逃げ出さないのはこいつらのボスがそれ程までに強力だという証拠でもある。

 

どこからともなく飛んでくる矢は俺が錆び刀とそれの鞘、最悪は体ごと使って身に着けている下手な鎧よりも強い火鼠の毛で織った衣で弾いている。

本当なら背後のこんな壁は飛び越えてしまいたいのだが、飛来する矢からリサを守るために中々出来ずにいた。

 

 

すると矢の雨が止み、狼たちも下がり始めた。しかしその後ろから出てきたのは

 

 

「チッ、ボスの登場かよ」

 

 

この狼たちのボスであり、現在俺とリサが逃げ出した組織のナンバー2、無限罪のブラドと呼ばれる吸血鬼が現れた。

 

 

「ゲハハハハハ!犬夜叉の2つ名で呼ばれたテメェも女抱えてたらその(ざま)かよ!」

 

 

「ほほほ、十守峻稀(とおかみしゅんき)よ、その女は将来妾の召使いにする予定じゃ。返してもらおうかの」

 

 

さらにその後ろから世界最高クラスの魔女、パトラまでやってきた。……状況は最悪。俺の錆び刀が変化(へんげ)さえすれば突破口はあるだろうが、どうやったらそうなるのかは不明。守り刀だと言われて貰ったはいいがボロっちい見た目のわりには鞘共々やけに丈夫なだけで肝心な時に役に立たない。この鉄砕牙に眠る力を使えればコイツらをまとめてぶっ飛ばせるのだろうが。

 

 

「ご主人……」

 

 

背後のリサが心配そうに俺の衣の裾をキュッと握る。

 

 

「……大丈夫だ。コイツらの元になんて返さない。お前は俺が守るから。絶対に」

 

 

リサへそう返したのが聞こえたのかブラドがまた高笑いする。

 

 

「ハハハハハ!この状況でどうするって言うんだよ!リサはともかく教授(プロフェシオン)からも、お前だけなら殺してもいいって言われてるからなぁ。串刺しにしてやるぜ。あぁ、その前にリサからも血を貰わなくちゃなぁ。テメェの目の前でじっくり血を貰って、お前はそれからぶっ殺してやるか」

 

 

そう言ってブラドはその手に持った長さが2メートルはありそうな鉄筋をかざしながら近付いてくる。いくらなんでもあんなものを振り抜かれたらマズイな。

 

 

「うるせーな。リサはもうお前らの元になんか返さない。俺はコイツの主人で、勇者だから、守るって、そう決めたんだよぉ!!」

 

 

絶体絶命とも言える危機の最中ではあったが、いやむしろ、だからこそ俺は心からそう叫ぶ。すると

 

ドクン!ドクン!

 

右手に握り締めた錆び刀である鉄砕牙が脈打つのが感じられた。そして、それはまだ続く。

 

ドクン!ドクン!

 

俺はただ感じるままに鞘を腰に差し、鉄砕牙を上に振り上げたその時、鉄砕牙が輝き、その後には鉄砕牙の刀身が前の錆び刀ではなく、俺の身の丈程はあろうかという、巨大な牙のように変わっていた。

 

 

「……コイツには、指一本触れさせねぇ!」

 

 

両腕で鉄砕牙を振り抜く。虚空を切り裂いた鉄砕牙から風と共に無数の衝撃波が狼やブラド達に襲いかかる。

 

地面は魔物でも暴れたかのようであり、巨大な爪痕のように抉れ、その場にいた狼たちは、そのほとんどが無惨にも散り、ブラドも下半身と上半身の左側が肉片となって吹き飛んでいた。

さらに奥にいたパトラは砂を操り、どうにか壁を作ったらしいが、それでも腕から軽く血を流していた。

 

 

これが鉄砕牙の真の威力なのだろうか?……いや、今は逃げることが先だ!

 

 

また矢が飛んできては適わないので鉄砕牙は抜き身のまま、俺はリサを脇に抱えてさっさと壁を飛び越えた。そのまま跳ぶようにして走り、とにかく南下する。

今はとにかく距離を稼ぐことが重要だ。どうせブラドはあの程度では死なない。だからこそアイツが復活する前になるべく逃げる必要がある。狼たちはあの鉄砕牙の一撃以前にも何匹も自分の爪で引き裂いてきた。だから多分ここら辺にはいないだろうし、パトラも自分の傷を癒してから来るだろう。しばらく街中を駆け抜け、矢を射ていた奴からもいい加減射程範囲外に逃げただろうと判断し、俺はリサを背中におんぶする。

 

 

「ご主人様、さっきのは……?」

 

 

リサが背中越しに聞いてくる。流石に驚いたのだろう。俺だってビックリしたのだから。

 

 

「分からんが、多分、今の鉄砕牙が本来の姿なんだと思う。さっきのも鉄砕牙の、言い伝えられていた一振りで100の妖怪をなぎ倒すっていう力なんじゃないかな」

 

 

そしてそれがあのタイミングで発現したのも、俺があの時リサを守ると声に出したからこそなのかもな。それに鉄砕牙が呼応し、変化(へんげ)したのだろう。……守り刀とはよく言ったものだ。これはリサを、守りたい人を守るための刀だということだ。

 

 

「……チッ!」

 

 

遂に森の中まで来て、このまま逃げ切れるかと思ったが、そうは問屋が下ろさなかったようだ。

今目の前にいるのはさっきブラドが言っていた教授その人だった。

 

 

俺はリサを降ろし、後ろに下がらせた。

 

 

「リサ、コイツは俺がどうにかするから、お前は先に行け。後で絶対に追いつくから」

 

 

元々化け犬の大妖怪の血が流れている俺は鼻が利く。さらに今は半分妖怪に変化(へんげ)していて、その先祖━━俺の2つ名でもある犬夜叉という半妖━━と同じくらいの身体能力や妖力を発揮できる。いくら裏世界の秘密結社であるイ・ウーを腕っ節でまとめ上げる教授が相手でもどうにかなる自信があった。まして今はリサがいる。絶対に負けられない。

 

 

「……分かりました。絶対に、来てください」

 

 

「あぁ」

 

 

俺が短く返すと教授を避けるように大回りして、リサは走っていった。俺は教授がリサを後ろから捕まえないか警戒していたが意外にもそんなことはしなかった。

 

 

「……意外だな。てっきり追いかけると思ってたけど」

 

 

その時はもちろん鉄砕牙を振り抜く気でいたのだが。

 

 

「君を倒してからでも間に合うさ。そう推理したまでだよ」

 

 

「そうかよ。でも、俺は負けない」

 

 

「ふふっ、そうかもしれないね。でもその刀は人を殺せない。そう推理してみるけど、どうかね?」

 

 

「うるせーよ、人外。試してみるか?」

 

 

強がってみたものの、確かにそれは懸念材料であった。さっきはそもそも人間が少なかったし、パトラも死ぬような距離じゃあなかったからあの衝撃波━━言い伝えられていた『風の傷』という技だと思う━━が出たのだろうがこの状況で使えば確実にコイツは死ぬだろう。あくまで人を守るための刀である鉄砕牙に果たしてそれができるのかどうか……。

 

 

「……くそ」

 

 

鉄砕牙を軽く払い、変化(へんげ)を解く。

それを見た教授は目を細める。やっぱりかと、その顔は語っていた。

 

 

「アンタは爪で充分だ」

 

 

「そうか」

 

 

短く返した教授の周りからいきなり俺の足目掛けて高圧水流が飛び出してきた。

突然のことに回避が間に合わず左の大腿部に掠める。

 

 

「……チッ!」

 

 

そこで俺は爪で奴の足を狙う。

それは後ろに跳ぶことで躱され、ただ大きく土の地面を抉るだけに終わる。

すると教授は杖を地面に叩きつけてその中に仕込んでいたスクラマサクスを取り出し、それで連続で斬りかかってくる。さすがに避けきれずに一撃胸にもらう。

ビシュッ!と裂かれた胸から出血するが、俺はその血を爪に染み込ませる。そしてそこに自分の妖力を込めて爪を振るう。

すると妖力で硬化した血が刃となって教授に襲いかかる。━━飛刃血爪という技だ━━今まで見たことのない技だったらしく軽く眉を寄せるがそれでもその程度で全てスクラマサクスで弾かれる。

 

俺はもう片方の爪にも血を染み込ませてもう一度、今度は両手で飛刃血爪を放つ。そして教授がそれをスクラマサクスで弾く隙に腕ごと引き裂くつもりで右手の爪を振るう。

 

「……ッ!」

 

それでも教授には軽く右腕に掠める程度まで躱されてしまう。

それでも俺は今度は左手を使い近距離で飛刃血爪を飛ばす。しかし硬質化した血の刃を教授はまた更にバックジャンプで避ける。その間に俺は鉄砕牙を抜き放つ。牙のように変化(へんげ)した鉄砕牙は風のようなものをまとっていた。そして右腕1本で鉄砕牙を少し先の地面に向かって振り抜く。虚空を切り裂いた鉄砕牙はしかし先程のように無数の衝撃波を撒き散らすことなく幾つかの傷を地面に付けるだけだったが、その衝撃波の光と舞い上がった土煙に紛れた俺はリサを追いかけることにした。

これ以上コイツには構っていられない。

 

 

木々の間をすり抜け、飛び退って行く俺の背中に高圧水流や電撃が迫る。いくつかは掠めたり食らったりするが、もう一度、片腕で振るったために威力の落ちた風の傷を叩きつけることでもうそれ以上の追撃はなくなった。

 

 

……しかし、アイツは本当に俺を倒す気があったのだろうか?教授の推理は卓越し過ぎて条理予知(コグニス)とまで呼ばれるほどなのに、それがあの程度で終わるのだろうか?

どうにもいなされただけのような気がしてならなかった。どこか、様子を見ているようでもあって、それが気持ち悪かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少しリサの匂いを辿りながら走り回っていると向こうに見慣れた金髪が見えた。

ようやくリサに追いついたようだった。

 

 

「リサ!」

 

 

「ご主人様!」

 

 

俺の呼びかけにリサも振り向いて答える。

 

 

「大丈夫だったか?」

 

 

「リサは大丈夫です。でも、ご主人様が……」

 

 

俺の胸の傷を見てリサの顔が歪む。

 

 

「これくらいなら今は大丈夫だ。とにかく追いつかれる前に逃げるぞ。背中に乗れ」

 

 

「は、はい」

 

 

まぁ背中も血まみれなのは変わらないが走って逃げるのならお姫様だっこよりもおぶった方が楽だ。

 

 

リサを背中に乗せてまた走る。今はとにかく逃げて距離と時間を稼ぐことが先決だ。それに、千葉県との県境に親父の知り合いの爺さんが車で待っている。そこまで行ければ一息つけるだろうし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、悪いなリサ」

 

あと少しで待ち合わせの場所だという所まで来たが、夜中とはいえ、他の人間が車や何かで通りかからないということもないし、半妖に化けた姿を人目に晒したくはないので今はリサに肩を貸してもらいながら歩いている。

俺は曽祖父が半分妖怪の半妖でその後時代の変化とともに妖怪の数が激減、その影響でだいぶ俺の中の妖怪の血は薄まっているのだそうだが、どうやら俺は先祖返りとかでかなりその血に宿る妖力は強いのだそうだ。おかげで曽祖父の姿にかなり近い見た目に変化(へんげ)できるしその間は彼と同じくらいの力を発揮できるらしい。……らしい、と言うのはそもそも曽祖父はかなり前に他界しており親父も祖父から話を聞いたことがあるだけだからだ。しかし曽祖父の形見である火鼠の衣と妖刀鉄砕牙は俺まで受け継がれてきている。そして皮肉なことに、俺がイ・ウーでの活動を通して『犬夜叉』という2つ名で呼ばれているが、その曽祖父の名前もまた『犬夜叉』だったらしい。

 

 

 

 

しばらく歩くとようやく待ち合わせの場所まで辿り着いた。そこには1台の車とその中に一人のお爺さんがいた。向こうも俺たちに気付いて車から降りてきた。

 

 

「遠山さん、ですか?」

 

 

「お前が十守の息子か?」

 

 

「はい、こっちはリサです。すいません、いきなり巻き込んでしまって」

 

 

「気にするでない。早く乗れ」

 

 

そう言われて俺たちは後部座席に座った。……やっと、安心できた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━そこで俺は意識を失った━━

 

 




今回はいきなり過去の回想から始めました。
戦闘シーンが難しい……。
これをきっちり描ける人って凄いと思います。
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