緋弾のアリア〜化け犬武偵と百獣を統べる姫〜   作:愛宕夏音

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休息と亀裂

金剛石の槍をこっそり処分してから、雨に打たれながらテコテコと歩いていると30分程かかってようやく武偵高までたどり着いた。……誰も迎えには来てくれませんでしたよ、ええ。そりゃあリサは車の運転は出来ないしそこは仕方ないとは思いますけどね。……でも高速で走るバスから叩き落とされたんだから誰かに救急車くらい呼ばれても不思議じゃないと思うんだけどなぁ。

そして、たどり着いた直後に始まったのは目撃者からの質問攻めよりもむしろSSR(超能力操作研究科)からの勧誘だった。強襲科では将来、仕事上で敵としてカチ合う可能性もあるので自分の技術などを秘匿することは間々あることなので今回もそういう風習の上で聞いてこなかったのかもしれない。少し━━いや、かなり心配だったのでそこは安心した。

 

いや、まぁでもSSRには行きませんけどね。訓練とかの時に本気で技を使って鉄砕牙振り抜いたら校舎ぶっ壊れちゃうし。

今日は午前中の授業を全部休み、事件の後処理や軽い報告などを終え、放課後になってソイツら(SSR)を振り切り、リサと合流する。しかしリサは俺がバスから突然飛び出したのが気に入らなかったのか拗ねたようにそっぽを向いてしまった。

 

 

「……いきなり飛び出して行って悪かったよ」

 

 

まぁ、これは俺にも非があったかなと思い謝罪する。それに対してリサはそれでもそっぽを向いたままだったのだが

 

 

「………」

 

 

何も言わずに左手だけ差し出してきた。そしてチラッと俺の方を見たが、また違う方を向く。今度は少し照れたような表情ではあったが。……なんだかいつにも増して可愛いな。

俺も一つ息をつくとリサの手を握り歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

手を繋いだまま黙っているリサと一緒に寮の自室に戻りリビングまで行くと、こちらを向いて俯いたリサが突然抱きついてきた。リサの柔らかく甘い香りが鼻孔をくすぐり、悩ましい感触が押し付けられる。

ドクン!と1つ心臓が大きく脈打つ。僅かではあるが、体の()()に熱く滾る血流が集まる感覚。

 

「り、リサ?」

 

 

「心配しました!いきなり行ってしまわれるし、他の人に聞いたら対物ライフルまで出てきたって言われて!中々戻ってこないですし!帰ってきたら怪我もしていて!本当に、本当に……っ」

 

 

最後の方は涙で声がかすれて嗚咽も漏れている。どうやら俺が思っていた以上に心配をかけてしまっていたようだ。多分、ここのところは平和が続いていたから余計だろう。

 

 

「ゴメンな。心配かけちまったな。でも俺、リサが待っててくれるなら絶対に戻ってくるから。何があってもお前を守るって言ったろ。俺は死なない。絶対だ」

 

 

俺もリサを抱きしめ、その美しくサラサラした金髪を撫でる。そうだ、俺は帰ってくるんだ。誰にだって負けない、コイツを傷つけようとする奴は全て倒す。たった1つの、何よりも、誰よりも愛おしいリサの為に。

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば、使われてしまったのですね」

 

 

キンジも帰ってきたので俺の部屋に行き、ちょくちょくある甘えモードに入ったリサにしばらく膝枕をしてあげながら頭を撫でたりして愛でていると上体を起こしてから、そんなことを聞いてきた。……ちょっと顔が近かったので恥ずかしくて目線を逸らしてしまう。

 

 

「ああ、でもあそこじゃあ使うしかなかったんだ」

 

 

「リサは心配です。ご主人様がまた危険な目にあってしまうのが。それが怖いです。守ってほしいと言ったのはリサなのに、変ですよね?でもリサはご主人様に傷付いてもらいたくないのです」

 

 

キュッと俺にしがみつきながらリサは呟いた。それに対する俺の答えなんて決まっている。

 

 

「俺はむしろその程度でお前を守れるんならドンと来いって感じだけどな。それに言ったろ?俺は絶対にお前のところに帰ってくる。お前が待っていてくれるから俺はどんなに危ない橋だって渡れるんだ。だから、信じて待っていてくれ」

 

 

そこだけは力強く、リサの目を見て言うと、リサは伏し目がちにボソッと何かを呟いた。

 

 

「ご主人様は、ズルイです……」

 

 

「ん?」

 

 

最後がよく聞こえなかったので聞き直すとリサが突然俺の首に腕を回しながら

 

 

 

 

 

━━チュッ━━

 

 

 

 

 

と、唇に1つキスをしてきた。そしてふっ……と立ち上がりこちらを振り向いた。

 

 

「もう夕飯の支度をしなくてはいけませんね。今日のノートは机の上に置いてあるので使ってください」

 

 

にっこり笑っているその頬には(うっす)らと朱が差していた……。そしてパタリとドアを開けて俺の部屋を出ていくリサ。

 

 

「……え?あ、ああ」

 

 

俺はそれを生返事をしながらボケッと見送ることしかできずにいた。

 

 

 

突然のことに頭が追いついていかなかったが時間が経つにつれて顔が赤くなってきた。そしてじわりとまた体の()()に集まる血流。久々ということもあってか随分とゆっくりだったな、今回。

 

 

頭は無駄に冴えてしまったが正直特に推理することも見つからなかったので大人しくリサに借りたノートで今日の復習と明日の予習でもやっていようかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━HSS━━

 

 

それはヒステリア(Histeria)サヴァン(Savant)シンドローム(Syndrome)とも呼ばれる、一種の先天的遺伝形質である。この特性を持つ人間は、ある一定以上の恋愛時脳内物質βエンドルフィンが分泌されることにより、それが常人の約30倍もの神経伝達物質を媒介し、大脳・小脳・脊髄といった中枢神経系の活動を劇的に亢進させるとかなんとか。

 

その結果として、HSSの効果が出ている間は論理的思考力、判断力、反射神経などが飛躍的に向上するらしいのだ。

 

 

長くなったが要するに、この特性を持つ人間が()()()()()すると一時的に人が変わったように強くなれるのだ。

 

しかしこれはただ強くなるだけではない。

 

聞いたところによると、この形質は元々は子孫を残そうとする本能が異常に発達したものらしい。

おかけでHSS(ヒステリアモード)━━キンジがヒステリアモードと呼んでいたので俺もそれを使わせてもらっている━━になると、まず何がなんでも女を守ろうとしてしまう。そしてもう1つ、━━これはきっと体験した者だけが分かる恥ずかしさであろうが━━女の子に対して非常にキザな態度をとってしまうのだ。それはもう優しくするは甘い言葉を囁くは、果てにはさり気なく触ったりと、新宿のナンバーワンホストかと思うほどである。正直これさえなければなぁ……、と思わずにはいられない。

 

 

で、こんなぶっ飛んだ遺伝子を遺伝させているのはもはや現代では遠山家だけらしい。もちろんキンジも持っている。……そして俺もイ・ウーにいる時に、「これはリサを守るのに丁度良い!」と思い手に入れた。

 

イ・ウーでは技術の教え合いというのがあり、それは遂に遺伝子レベルの特殊技能すら写せるレベルに到達したその技術でヒステリアモードを入手し、そしてその直後に俺はイ・ウーを脱走した。

 

で、これのおかげでキンジは武偵を志し、そしてこれのせいで武偵というものに絶望した。………まぁ、絶望したのは半ば武偵という職業に希望を抱き過ぎていたからなのだが………。

また、キンジがいくら白雪にアタックされてもそれに気付かなかったりなびかなかったり、そして恋人同士なのにも関わらず俺とリサが互いにキスをすることすら中々無いのはつまり全部ヒステリアモードのせいなのである。キンジは必要以上にヒステリアモードになりたくないために女性の心理について知ろうとせず、俺は子孫を残そうとする本能に流されないように。━━この歳で子持ちとか洒落にならないし何よりそれはお互いに不幸になるだけだと思うからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、俺とキンジは放課後にアリアの見舞いのために武偵病院まで来た。アリアはリアル貴族なのでなんと広い個室に入っているらしい。

 

 

そして俺たちがお見舞いの品として持ってきたももまんをバクバク食っているアリアにキンジが鞄からクリアファイルを取り出して彼女の膝元に置いていた。

 

 

「峰理子を中心に探偵科と鑑識科(レピア)が調べてくれた調査結果だ。……けど、結局ヤツの痕跡は何も見つからなかった」

 

 

と、俺が言うとキンジも続く。

 

 

「『武偵殺し』……か。俺のチャリジャックもバスジャックも、全部摸倣犯だと思ってたけどな。なんたって奴はもう逮捕されてるんだし」

 

 

「だから言ったでしょ。それは誤認逮捕なのよ」

 

 

まぁ、そうなんだよな。そもそもアリアがここまで武偵殺しに執着している理由は武偵としてのプライドとか正義感からと言うよりも、むしろ誤認逮捕された人物を助け出すためというのが大きい。なんたって武偵殺しの代わりに捕まっているのは神崎かおりと言う女性でそして……

 

 

 

 

 

━━アリアの母親なのだから━━

 

 

 

 

 

そしてさらにアリアの母親には武偵殺し以外の嫌疑も大量にかけられている。そしてもう時間も無い。多分そろそろ高裁も負わって、最高裁を待つだけだろう。そして、正確な数字までは俺も知らないが、高裁までの量刑も事実上の終身刑と変わらないはずだ。

 

 

それもこれも全部イ・ウーのトップである教授が仕組んだ事なのだが……。

 

 

「……飲み物買ってくる」

 

 

「あ、ああ」

 

 

俺はそう言って席を外した。なんだか申し訳なくなったからだ。アリアの額に怪我をさせたのも、そこまでの無理をさせたのも、なんだか全て俺のせいな気がして。

 

 

 

 

 

 

 

3人分の飲み物を買ってからもロビーで少しダラダラしてからアリアの病室へ戻る途中に、キンジと鉢合わせした。なにやら陰鬱とした雰囲気だったのでさっき買ってきたキンジの分の飲み物を押しつけてアリアの病室に急ぐ。

 

 

病室のドアをノックするとこれまた随分と不機嫌そうに返事をされたが、とにかく中に入る。

 

 

「さっきすれ違ったが、キンジと何があった?」

 

 

「……アンタには悪いけど、あたしの探してた人はアイツじゃなかったみたい」

 

 

飲み物を放り渡しながら俺が問いただすと、そんな答えが返ってきた。

 

 

「……そうかよ。まぁ、違うなら違うで仕方ない……とは正直思いたくないがな。まぁ、どうしようもないのも確かか」

 

 

「……アイツに何があったのよ?」

 

 

少し間を置いて、アリアが聞いてきた。そうか、あの事件はアリアは察知していないだろうな。

 

 

「俺からは答えづらいな。まぁ、1つ言えるのは、アイツはあれでも真剣に悩んで、苦しい思いをした。ということだけだ」

 

 

「……なら、キンジには酷いこと言っちゃったかな」

 

 

「あ?何言ったんだよ?」

 

 

「どうせアンタが武偵をやめる事情なんて、大したことじゃないって、言ったのよ」

 

 

それを聞いて俺は危うくコイツを殴り飛ばしそうになった。

俺はキンジが苦しんでいるのを間近で見てきたからだ。それを何も知らないコイツが大したことじゃないと言い切るのはどうしても納得いかなかった。あの時は真実を伝えられなかったのだけど。まぁ、全てを聞いたとしても、それでもアイツは武偵に絶望したままである可能性の方が高いとは思うのだがな。

所詮武偵は金で動く『なんでも屋』だと、割り切って、その中でも戦う理由を見つけていかないと、武偵なんてやっていられないのだ。

 

 

「……その怪我に免じて、ぶん殴るのは勘弁してやる。それと免じるついでにもう1つ教えてやる。武偵殺しの目標(ターゲット)はアリア、お前だ。乗り物には気をつけろよ。じゃあな」

 

 

なんとなくこの場から逃げ出したくなった俺は武偵殺しのヒントを置いて早足に病室を後にした。なんか後ろでアニメ声が騒がしかったが無視だ無視。

 

結局俺のこのヒントは生かされることは無かったのだが、それについて俺が知るのはもう少し後になってからだった。

 

 

 

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