オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

10 / 394
細かい事は気にするな。


クルミ割り。牛フンケーキ。

/*/ クルミ割り

 

村の食事と言えば石の様に硬いパンだが、これには理由がある。

燃料の確保が難しい為、なるべくまとめて焼いて保存が効くようにしているからだ。

一度に2週間分も焼けば、それはもう最後は石のように硬くなるだろう。

 

今となっては各家庭毎に第三位階魔法による結界があるので、暑さ寒さで燃料を必要としない。燃料を全て調理に回せる事で余裕が出来たとも言える。

 

また村外れのトブの大森林の畔に越してきたドライアード、ピニスン達が管理する森が出来た事から、豚の放牧をしつつ、マキを継続的に安全に確保が出来るようになった。

これによりパンを焼く回数を増やし、比較的軟らかいパンを食べられるようになったのだ。

 

「これを割れば良いっすね~」

 

作業場になっている改築されたエモット家の食堂で、腰まで届きそうな3つ編みを2本垂らしている燃えるような赤毛の美女と人間形態のジョン(毛が入る事を嫌って)が、村の女性衆に囲まれていた。

 

二人は大森林で見つけたオニグルミの一種をパキパキと握り潰している。本来は非常に硬く簡単には割れないが、100Lvと59Lvの二人にすれば卵を割るより簡単に割れる。

今回は大量にとれた胡桃をパン生地に練りこんで焼くのだ。二人が手際よく割っていく胡桃を集めては、女性たちがローストし、カリッとしたところでパン生地に練りこんでいく。

ルプスレギナも料理そのものは出来なくても、胡桃を割るだけならば出来るようだった。

 

「結構うまいな」

「ジョン様、つまみ食いっすか」

 

割った胡桃の欠片をつまみ食いするジョンへルプスレギナは笑いかける。その頬に胡桃の欠片がついているのに気がついて、手を伸ばすと指でつまんで自身の口へ運ぶ。

ナザリックのそれと比べると比べるまでもないものだが、愛する至高の御方の頬についていたものと思えば格別だ。

 

「お二人とも仲が良いんですね」

 

そんな二人へエンリが遠慮がちに声を掛ける。

 

「勿論っすよ。最愛の主人っすから」

「……臆面もなく言われると少し照れるな。俺もルプー以外は考えられないが」

 

 

ルプスレギナのあけすけな愛の告白に黄色い声が上がり、作業場は今日も姦しい。

 

 

 

/*/ 牛フンケーキ

 

ペテルたちが案内された広場では、女性や子供たちが異臭を放つ土を成形しているところだった。

現在のカルネ=ダーシュ村では襲撃で男手が減り、更に周辺の村からの移住者も襲撃で男手を失っている事から、ほぼ女子供の村と言っても過言ではない。

その為、女子供でも出来る仕事を時王たちが見繕ってくれているのだと言う。

 

「師匠!」

「よぉ、来たか!こいつを見てくれ」

 

女子供たちの中で異彩を放つ銀髪の大柄な男性が手を上げて、漆黒の剣を呼ぶ。

 

「……凄く、臭いです」

「これなんですか?臭いですけど……」

「牛フンケーキだ」

 

「……え"え"」

 

言葉の意味が認識されると思わず距離を取る漆黒の剣の面々。えんがっちょである。

 

「そう嫌がるなよ。良い燃料になるんだぜ」

完成品はこっちだ。とジョンは4人へ水分が抜けて重量が3分の1ほどまで減っている円形の土のような円盤を見せる。

エ・ランテルで糞尿は下水のスライムに食わせてるのを見て、思いついたんだとジョンは言う。

 

「完全に乾かせば臭いも気にならないだろう。これ一個で大体一晩燃えてくれる。冒険者の携帯燃料として使えないか?」

「……常にマキが手に入るとは限らないし、良いかもしれない。野伏でも常にマキが確保できるとは限らないからな」

最初に反応したのは野伏であるルクルットだった。やはり臭いが気になるのか、顔を近づけて臭いを嗅ぐルクルット。

「ん、こんぐらいなら、持ってても臭いで気付かれるのはないか、な」

 

ルクルットやダインの反応に満足したのか一つ頷いて、ジョンは問う。

 

「1個銅貨3~5枚くらいなら買うか?」

「そのぐらいなら買うぜ」

「そうか。なら冒険者組合に売り込みに行くぞ。銅貨1枚で卸しても、月にすれば4~5千枚ぐらいにはなるだろう」

具体的な金額を考えていた事に驚き、ペテルが思わず問う。

「売るんですか?」

「売る。貴重な現金収入だ。ロウソクも作ってるが、売れるものは多いに越した事はないからな」

 

答えながら、視線を巡らせたジョンにならって周囲を見ると牛フンケーキを作っていた女性たちが手を休めて、ほっとしたような表情をしていた。

襲撃で夫を亡くし、村を亡くし、子供を抱えたままどうしようもなく後は身を売るしかなかった女性たちだ。最後の希望を掛けてカルネ=ダーシュ村へ移住してきた彼女たちにとって、売れると分った事はどれほどの安心だろう。これでもう村の好意に縋るだけではない。村の一員として真に生産活動に加われたのだ。

 

「……本当は自家消費して、灰をたい肥に混ぜたいところなんだけどな」

 

人糞だけでたい肥に足りるかなと呟くジョンへ、ペテルが声を掛ける。

 

「稽古はどうします?」

「その前に風呂だな。午後に作ってるのは、その為でもあるし」

「ああ、夕飯の前に清潔にしておくんですね」

 

「そういうことだ。……別にう○こが好きなわけではないからな」

 

「……」

 

「なんだよ、その表情(かお)は?」

 

 

/*/

 

 

翌日。エ・ランテルの冒険者組合では、既に牛フンケーキの噂が飛び交っていた。

 

「聞いたか!?カルネ=ダーシュ村のジョンって奴が、牛フンで燃料作ったらしいぞ!」

「ま、マジかよ……燃料に?匂いは……」

「大丈夫らしい。乾燥させれば匂いも気にならないんだって」

 

組合員たちは半信半疑ながら、好奇心で列を作る。ジョンは満面の笑みで牛フンケーキを背負い、組合前に立つ。

 

「さぁ、皆の者!本物の冒険者向け燃料だ!一個銅貨5枚!量が多いなら割引もするぞ!」

 

一瞬、周囲に静寂が訪れた。組合員たちはお互いの顔を見合わせ、ざわざわと囁き始める。

 

「……まさか、匂いがする前に燃やしてくれるのか?」

「いや、匂いはしないって言ってたぞ」

 

そしてジョンが実演。乾燥ケーキに火をつけると、見事な火柱が上がり、周囲の冒険者たちは思わず後ずさり。

 

「おおおっ!燃える!燃えるぞ!」

「これは……一晩持つ……かも!」

 

一部の冒険者は、腰を抜かすほど驚き、他の者は興奮して拳を突き上げる。

 

そこに小犬たちが乱入。乾燥ケーキをくわえて組合員の足元を駆け回る。

「おい!待て!燃料を食うな!」

ペテルとルクルットが追いかけるも、組合前は大混乱。

 

「燃料売り場が、犬の遊び場になっているであr!」

ダインが叫ぶ。

 

混乱の中、ジョンは悠然と立ち、腕組みしながら笑う。

「これも宣伝だ。楽しんでもらえれば良い」

 

やがて小犬たちも飽きたのか、乾燥ケーキを地面に落とし、ペテルたちが回収する。

「……師匠、これで販売可能ですね」

「うむ。準備完了だ」

 

冒険者組合の一部は牛フンケーキを試しに購入。乾燥ケーキを小型の焚き火で燃やすと、予想以上に炎が安定し、使い勝手の良さに驚く。

 

「こ、これは……使えるぞ!」

「匂いもほとんど無いし、これなら長期遠征に役立つ!」

 

ジョンは笑みを浮かべ、ペテルに囁く。

「ほらな、予想通りだろう?」

「……あの、師匠……匂いは大丈夫なんですか?」

「大丈夫だ。冒険者たちは慣れれば気にならない」

 

組合内は一気に牛フンケーキブームとなり、次々と注文が入る。

 

「これなら村の女子供たちの生活も安定するな」

ジョンは満足げに頷き、村人たちの笑顔を思い浮かべる。

 

その時、遠くから小犬たちの鳴き声が響く。どうやら、新たな牛フンケーキを見つけて再び遊び始めたらしい。

 

「……もう、懲りない奴らだな」

ジョンは肩を竦め、笑いながらペテルたちと共に次の準備へと向かうのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。