オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ リ・エスティーゼ王国・謁見の間 /*/
荘厳な赤絨毯が、玉座へと真っ直ぐに伸びていた。
高窓から射す朝光が大理石の床を照らし、淡い金色の光が王国の威を静かに語る。
カルカ・ベサーレス――今はカルカ・ベサーレス・ヴァイセルフ王妃。
純白の衣に金の縁取りを施した王妃衣装を纏い、隣に立つザナック王とともに歩みを進める。
その姿には、かつて幾多の政治劇をくぐり抜けた者の強さと、解き放たれた安らぎの両方が宿っていた。
背後を従うのは、聖騎士レメディオス・カストディオと、妹ケラルト。
礼装の鎧に身を包み、二人は静かに王妃の歩を護る。
レメディオスは無言のまま、広間を見渡した。
鎧の金装が陽光を受け、淡い輝きを返す。
(……聖王国では、血の中で誓いを立てた。
けれど、今は――この静寂の中で護るのだ)
彼女は自らの胸に手を当てた。
戦場で鳴り響いた怒号も、祈りの声も、今はただ遠い記憶。
それでも、主を護る心は変わらない。
玉座の前でザナックが立ち止まり、カルカも隣に並んだ。
その眼差しは穏やかで、しかし芯の強さを失ってはいない。
彼女は小さく息を整え、王妃として初めての言葉を放つ。
「この地に、平穏と祈りが満ちることを願います。
我らが歩む道が、争いではなく、人の笑顔に繋がるように――」
その声は澄み、広間に静かに響いた。
ザナックが隣で軽く頷く。
貴族たちも頭を垂れ、王と王妃の新たな始まりを受け入れた。
レメディオスは、その姿を見つめながら、目を閉じる。
心に宿るのは、ただ一つの誓い。
(カルカ様……今度こそ、あなたが笑って過ごせる日々を護ってみせる)
剣を抜かずとも、忠誠は示せる。
それが、彼女にとって初めて知る“平和の護り方”だった。
/*/ 同日午后 リ・エスティーゼ王国・王城広間 /*/
王城の広間には、王国各地から集まった貴族や聖職者が整列していた。
華やかに装飾された白壁と、天井から吊るされた金色の燭台が、光を受けて輝いている。
穏やかながらも、格式ある空気が場を満たしていた。
カルカ・ベサーレス・ヴァイセルフ王妃は、純白の王妃衣装に身を包み、隣のザナック王と共にゆっくりと歩を進める。
その歩調は落ち着いており、微笑を絶やさぬ顔には、聖王国で培われた品位と、今ようやく得た自由な安らぎが混ざり合っていた。
背後で護衛を務めるレメディオスは、視線を鋭くしながらも、王妃の歩に合わせて一歩控えた位置を取る。
剣を抜く必要はない。だが、目の端に映るすべての動きを見逃すまいと、心の緊張は途切れない。
「王妃殿下、どうぞこちらへ」
控えていた王国神官の一人が、柔らかく案内した。
カルカは軽く頭を下げ、微笑で応じる。
「ありがとうございます。王国の民の皆様にお会いできることを、とても嬉しく思います」
彼女の言葉は、自然で丁寧だが堅苦しくはない。
長年、聖王国で“象徴”として振る舞うことを強いられてきた者には、
こうした率直な笑顔と声は、きっと初めてのものだっただろう。
列に並ぶ貴族や聖職者たちも、その姿に次第に打ち解けた表情を見せる。
子供たちの中には、王妃に手を振る者もいる。
カルカは屈んで手を差し伸べ、優しく微笑む。
その瞬間、レメディオスの胸に熱いものが込み上げた。
(……戦場でなくても、護るべきものはここにある。
彼女の笑顔、彼女の安らぎ。それこそが、私の盾だ)
列を進むごとに、王妃は王国の民や神職者と言葉を交わす。
時折、遠慮深くも確かな感謝の言葉を返し、時折、静かな冗談で笑顔を誘う。
ザナックも時折肩を揺らして微笑み、二人の間に自然な和やかさが流れる。
レメディオスはその様子を見守りながら、思った。
剣を抜かずとも、護れる。
そして、王妃自身が人々の信頼と安らぎを築くその姿こそ、最も強く美しい盾である――と。
午后の光が広間を満たし、王妃の周囲に柔らかく輝きを落とす。
その光景は、戦乱に慣れた護衛の心にも、初めて静かな安堵をもたらした。
/*/ 王妃カルカ、民との初の邂逅。平和の護りは、静かに始まった /*/