オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ カルネ・ダーシュ村・野外訓練場 /*/
午後の陽光が草地を照らし、風が樹々の葉を揺らす。
ジョンは木製の台に立ち、漆黒の剣たちを見下ろした。ペテル、ルクルット、ダイン、ニニャ――弟子たちの瞳には好奇心と緊張が混じっている。
「そう言えば、師匠って弱点ってないんですか?」
ルクルットが身を乗り出して訊く。
「ば、馬鹿!お前!」
ペテルが慌てて突っ込む。だがジョンは笑みを浮かべたまま答える。
「良い質問だ。もちろんあるぞ」
ジョンは腰に差した鞘から銀の短剣を抜き、ルクルットに手渡す。
「人狼は銀器の攻撃に対して脆弱性を持つ。普通の武器の数倍のダメージを負う。思いっきり俺を刺してみろ」
ルクルットは短剣を受け取り、興奮気味に前のめりになる。
「反撃しないっすか?」
ジョンは肩をすくめ、にやりと笑う。
「しない。安心しろ」
ルクルットは腰だめで構え、勢いよく突き出す。
「いやーー!!」
刃は振り下ろされ、ジョンの胸にめがけて突き刺さる――はずだった。
しかし短剣は、刃を押し込もうとしても微動だにしない。
「え……?」
ルクルットは力を込める。だが刃は胸に食い込まず、まるで硬質な壁にぶつかったかのように跳ね返る。
「お、おい……!」
短剣を握り直し、押し込もうとさらに力を入れる。だが、ジョンの身体はびくともしない。
まるで鉄の塊のように硬い。
ジョンは肩を揺らし、にやりと笑う。
「やる気だな」
ルクルットは目を見開き、刃を見下ろす。
「刺さってねーんすけど……!」
「そう。弱点だが、刺さらなければ意味はない」
ジョンの声には軽い冗談めいた響きがある。
ルクルットは悔しそうに舌打ちした。
「詐欺だ!」
ペテルは肩越しに笑いをこらえ、ダインとニニャも頬を緩める。
ルクルットは短剣を握り直し、決意を新たに前傾姿勢を取る。
「次こそ刺してみせる……!」
だが、再び刃を押し込もうとしても、ジョンの胸板は微動だにせず、まるで鋼鉄の鎧を内側から纏っているかのようだった。
ルクルットは全身の力を込め、短剣を突き立てる。
地面に小さく音が立つだけで、刃はジョンの体内に一切届かない。
「くそっ……!」
悔しさを露わにするルクルット。だが、同時に思わず笑いが漏れる。
剣は通らないが、師匠の強靭さと、柔らかくも厳しい指導の重みを、肌で感じる瞬間だった。
ジョンは短剣を受け取り、軽く磨きながら言う。
「弱点とは、ただ理屈に過ぎない。刺さらなければどうということはない」
ルクルットは肩を落としつつも、火のように燃える瞳をジョンに向ける。
「次は……絶対刺してみせるっす!」
午後の光が草地を満たし、仲間たちの笑い声が響く。
太陽は、今日もまた、師匠と弟子たちの絆を確かめるように、静かに輝いていた。