オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

103 / 395
隣り合わせの罠と青春・2

 

 

/*/ エ・ランテル・冒険者訓練用ダンジョン・清掃後 /*/

 

 

荷車に積み込まれた骨袋と罠の部品箱。

バニアラたち清掃隊が搬入口へ出ると、そこに待っていたのは背の高い骸骨の影だった。

 

金縁の法衣をまとい、虚ろな光を宿した眼窩から冷たく見下ろす。

エルダーリッチの監察官――魔導国市政局の監督役である。

 

「……遅い」

声は低く、空洞から響く。

それだけで若者は膝が笑い、老人が慌てて骨袋を掲げる。

 

「骨材、大小三十八体分。ゾンビ二十、スケルトン十八。粉砕後は肥料として農務局に回せます」

 

「利用率は」

「七割強です、閣下」

 

カラカラと骨の指が羊皮紙をなぞり、黒い墨が自ずと文字を刻んでいく。

監察官の背後に秘書の影もなく、羽ペンも持たぬまま記録が進む光景に、若者は息を呑んだ。

 

「……八割にせよ。目標値だ」

 

「八割……!」若者が声を上げかけるが、老人に肘で制される。

 

エルダーリッチは動じず、眼窩の光をちらりと若者へ向けた。

「肉も骨も鉄屑も、死者の指一本さえ無駄にするな。資源とは、余さず回収すべきものだ」

 

バニアラは姿勢を正し、静かに答えた。

「承知しました。冒険者の残したものは、全て魔導国の糧といたします」

 

「よい心掛けだ。……では明朝までに報告書を届けよ」

 

それだけ告げると、監察官の姿は空気に溶けるように揺らぎ、闇の中に掻き消えた。

残された冷気に、四人は小さく身震いする。

 

大男が荷車を押し出し、老人が骨袋を撫でながら呟いた。

「……やれやれ、生者の監督官よりよほど骨が折れるわい」

 

バニアラは苦笑を浮かべ、しかし真剣な眼差しで床を振り返った。

「でも、あの存在が見ているからこそ……この街の秩序は守られているのよ」

 

彼らは再び、無言で地上へと荷を運び出すのだった。

 

 

/*/ エ・ランテル・冒険者訓練用ダンジョン・上層清掃中 /*/

 

 

バニアラがモップを滑らせていると、通路の奥から松明の明かりが揺れた。

閉館後のはずの通路に、軽鎧を着た冒険者の一団が姿を現す。

 

「……あら」

彼女は思わず足を止めた。

 

先頭はまだ十代後半に見える剣士。肩で息をし、剣先には新しい血が滴っている。

背後には弓を持つ少女と、治癒魔法を使う神官の青年。

四人目の魔法使いは疲れ切った顔で、杖を肩に担いでいた。

 

「なんだよ……掃除のおばさん?」

剣士が困惑した声をあげる。

 

バニアラは眉を上げた。

「ここは閉館後。もう訓練は終わりの時間よ」

 

「す、すみません!」と神官が慌てて頭を下げる。

「罠の見落としで仲間が怪我をして……遅くなりました」

 

老人が前に出て、怪我をした弓手の足を一瞥した。

「傷は浅い。矢の罠にかすっただけだな」

そう言って骨袋を肩に担ぎ直す。

 

若者がぽつりと呟いた。

「……掃除のほうが危険なのにな」

 

魔法使いが訝しげに視線を向ける。

「どういう意味だ?」

 

バニアラはさらりと答える。

「罠は誰かが解除しなきゃ、また動くでしょう。あなたたちの足元を安全にしてるのは、私たちの仕事よ」

 

剣士は返す言葉を失い、剣を握り直す。

冒険者にとっては敵を倒すことが“本番”だが、清掃員にとってはその残骸こそが“仕事の始まり”だった。

 

やがて、弓手が小声で言った。

「……ありがとうございます。こういう人たちがいるから、私たちは訓練できるんですね」

 

バニアラは微笑み、軽く首を振る。

「感謝はいらないわ。明日もまた、無茶しないで挑んでちょうだい。それが一番の助けになる」

 

一行が通り過ぎた後、残された清掃隊は再び黙々と作業に戻った。

通路にはまだ、斃れたスケルトンの骨片が散らばっている。

 

「……若いな」老人がぼそりと呟く。

「ええ。けど、ああいう若さがこの街を動かしてる」バニアラはモップを振るい直す。

「だからこそ、私たちは後ろを支え続けるの」

 

光と影が交差する一瞬の邂逅を残し、清掃の夜は続いていった。

 

 

/*/

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。