オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ エ・ランテル・教育区画・新設学校裏 /*/
澄んだ空の下、学校の敷地裏でジョンは図面を広げていた。
そこには、子供たちが安全に泳げるよう設計された、教育用プールの完成予想図が描かれている。
「さて――魔法でやるのも簡単だが、今日は“普通のやり方”でいこうか」
ジョンがそう言うと、周囲の作業員たち――エ・ランテル建築組合とカルネ・ダーシュ村から呼ばれた土木職人たちが頷く。
その手には、つるはし、スコップ、そして魔法の光を帯びた手袋。
「ジョン様、“あの手”を使うんですか?」
「そうだ。“手の魔法”をうまく使えば、機械がなくてもコンクリート工事ができる」
ジョンはにやりと笑い、掌に魔法陣を浮かべる。
「〈建築作業員の手の魔法:混錬掌(こんれんしょう)〉――」
彼の手が土と砂利、石灰を混ぜ合わせると、まるで生き物のように流動し、
均一な灰白色のペーストが生まれた。
水を加え、さらに掌をかざす。
「〈硬化待機〉。よし、これが“普通のコンクリート”だ。魔力で速乾させず、自然乾燥させる。
この方法を覚えれば、魔法が使えない職人でも再現できる」
職人たちは感嘆の声を上げる。
「ジョン様……まるで錬金術ですな」
「いや、これは“科学”だ。人間の手でもやれる技術だよ」
――数日後。
現場はすでに活気に満ちていた。
「〈地形整形〉で掘削完了!」「基礎砕石層、転圧終わりました!」
掛け声とともに、魔法と手作業が融合した土木工事が進む。
ジョンは巨大な木枠の中に生コンを流し込みながら、慎重に指示を出す。
「気泡を抜け! “手の魔法”で撫でるように、均一に――そう、それでいい」
子供たちが見学台から楽しそうに見守っている。
「ねぇ、先生、これが“プール”になるの?」
「そうだよ。泳ぎの授業をするんだ。ナザリックの人たちが作ってくれてるんだ」
やがて、数週間の乾燥期間を経て、
陽光を反射する灰白色の美しいプールが姿を現した。
コンクリートの肌は滑らかで、縁には滑り止め加工が施されている。
ジョンは完成したプールを見渡し、深く息を吐いた。
「……よし。これでようやく、エ・ランテルの子供たちも“水”を学べる。
泳ぐこと、沈まないこと、呼吸をすること――
全部、生きるための力だからな」
ルプスレギナが日傘を差しながらやってきて、軽く笑う。
「ジョン様、水着の方も準備できてますよ。子供用も先生用も」
ジョンは苦笑して顔をしかめた。
「……頼むから、先生用は“露出少なめ”で発注しておいてくれよ」
「え??、“クライムくんが喜ぶ”ってまた言えばいいんじゃないっすか??」
「それを言うなぁぁっ!! モモンガさんに怒られる!!」
その叫びと同時に、
青空の下で完成したコンクリートプールが、
エ・ランテルの新たな教育の象徴としてきらめいていた。
/*/ 魔導国首都エ・ランテル 初等学校・中庭式典場 /*/
夏の陽光が、白壁の校舎をまぶしく照らしていた。
校庭には青い布で囲まれた仮設の水槽――魔法で作られた“教育用プール”が据えられ、
その周りを取り囲むように教師、保護者、そして役人たちが並んでいる。
壇上には、黒衣の王――アインズ・ウール・ゴウン陛下。
隣には教育顧問ジョン、そしてラナー王女とカルネ村の代表職人リース。
ざわめく人々の中で、ジョンが一歩前に出た。
「――本日ここに、魔導国初の“水泳教育課程”を正式に開始します。
これは単なる遊戯ではなく、生命を守る術の授業です」
その言葉に、子供たちの瞳がまっすぐ向けられる。
小さな身体に身につけられたのは、ナザリック製の《アクア・フレックス布》で作られた水着。
男の子の胸元には青い紋様、女の子の肩口には淡い桃色の光が浮かぶ。
アインズがゆっくりと頷いた。
「……実に興味深い試みだな。ジョン、この素材は魔法を使わずとも体温調整を行うのか?」
「はい。子供たちの魔力量に応じて布が反応します。冷えを防ぎ、沈んでも浮力を保ちます」
「ほう。……魔導国における教育は、実に多様化しているようだ」
傍らのアルベドが優雅に微笑んだ。
「陛下、この布は見た目にも美しいです。まるで子供たちが光をまとっているよう」
「確かに……眩しいほどの生命力だ」
ジョンは胸の前で手を合わせた。
「では、第一期生――カルネ・ダーシュ村、エ・ランテル南区の子供たち、前へ!」
一斉に歓声が上がり、二十名ほどの子供が列をなしてプールの縁に並ぶ。
教師が号令をかける。
「――入水っ!」
ぱしゃん、と音が響いた。
水面に散る光が、まるで宝石のように輝く。
水着の紋様が、太陽光を受けて淡く発光していた。
ラナーが感嘆の声を上げる。
「まぁ……。王都では未だに水に触れるのを恐れる子供も多いというのに」
「陛下の下では“学ぶこと”が生きることと同義ですからな」デミウルゴスが静かに言った。
ジョンは記録用の魔導板に結果を書き込みながら、微笑む。
「泳法はまだぎこちないが、全員が浮いていられる。……成功だ」
プールの中央で、ひときわ元気な少女が手を振った。
「先生ー! 冷たくないよ!」
「よし、そのまま手を伸ばして足を動かすんだ!」
会場から拍手と笑いが起こる。
見守っていた市民の中には、冒険者や職人も混ざっており、誰もが目を細めていた。
アインズが低く呟いた。
「ジョン……この光景は、私たちの築いた平和の証と言ってよいだろうか?」
「ええ。戦いが終わった後に残るのは、こういう“生きる技術”です。
魔導国の子供たちが笑って泳げる――それが本当の勝利です」
ルプスレギナが後ろで嬉しそうに尻尾を振る。
「いやぁ~、子供たちの笑顔、最高っすねぇ! 今度ナザリックの泉でもやりたいっす!」
「お前が入ったら泉が蒸発する」
「ひっどーいっす!」
周囲に笑いが広がる中、ジョンは最後に高らかに宣言した。
「――本日をもって、魔導国初等教育に“水泳科”を正式追加とする!」
拍手と歓声。
アインズがゆっくりと立ち上がり、骨の掌を掲げる。
「よくやった、ジョン。
この国が学ぶことを忘れぬ限り、我々の未来は穏やかであろう」
夏の風が吹き抜ける。
子供たちの笑い声が、エ・ランテルの街にこだました。
魔導国の新しい世代が――その水面の上で、確かに未来へと泳ぎ出していた。
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