オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ エ・ランテル・地下霊廟 /*/
薄暗い空気が立ち込める地下霊廟。石壁に刻まれた古い碑文は、長い年月の湿気に侵されて読み取れない。数百年前に埋葬された遺骸は、整然と棺に収められ、淡い光を放つ魔法陣が周囲を守っていた。
だが、静寂は突如として裂かれる。
石の階段の奥、何かが這い出す音。低いうなりが冷たい空気を震わせ、床を伝う振動が不吉に響く。
「……またか」
下水道巡回の番人が声を落とす。警戒の矛を握り締め、影を見つめる。だが、そこに現れたのは正体不明の異形。灰色の肌に腐敗の匂いを漂わせ、長い爪と鋭い牙を持つその獣は、棺に納められた死体に真っ直ぐに向かう。
番人たちは叫び、魔法陣を起動させるも、異形は素早く距離を詰め、棺の蓋をひき裂いた。内部の死体が、無惨に引きずり出される。腐肉の匂いが地下空間に充満し、蝋燭の炎が揺らめく。
「アンデッドの暴走……か?」
誰もが疑念を口にするが、動きの俊敏さ、知能の片鱗、そして地下水路から現れたという不自然さに、答えは見えない。
「奴ら……人間の手ではない!」
影の中で囁き声。二体、三体と異形は現れ、霊廟内の死者を次々に貪り始める。骸骨が砕け、古布が裂ける音が響く。警備の魔法使いが炎の呪文を放つも、獣の皮膚は厚く、簡単には傷つかない。
その異形は、まるで生者と死者の境界を自在に泳ぐかのように、地下の闇に消え、また棺に迫る。
「一体、どこから……」
誰かが声を震わせる。地下の横穴、出口のない闇、その奥に潜む正体不明の存在。都市伝説の噂は、決して空想ではなかった。
闇と悪臭の中、僅かな光を頼りに番人たちは異形を追う。だが、彼らの目に映るのは、狂気じみた獣の影と、引き裂かれた死体だけ。アンデッドの仕業か、それとも正体不明の怪物か――判断はつかない。
地下霊廟の静寂は、今もなお、この未知の異形によって脅かされ続けている。
/*/ エ・ランテル・下水道奥 /*/
地下の空気は湿気とカビ臭さで重く、薄暗い灯りもすぐに闇に飲み込まれる。石壁には古い苔と水滴が垂れ、ところどころに横穴が口を開けていた。誰もが立ち止まり、そこに視線を向けると、ただならぬ冷気が背筋を走った。
「……ここか。都市伝説の横穴は」
冒険者パーティのリーダーが、緊張した声で呟く。彼らは先日、地下深くで不自然な腐臭と獣のうめき声を感じたと言い、再調査に向かったのだ。
だが、横穴の奥は出口のない闇。懐中の魔法灯を頼りに進むも、足元の地面は水でぬかるみ、進むたびに不気味な振動が伝わる。壁の奥からは、微かにうめき声や爪の引っ掻く音が聞こえ、冒険者たちは互いの表情を見合わせた。
「……これは……」
騎士が剣を握り締め、魔法使いが防御陣を展開する。しかし、異形の気配は遠くからも圧迫感を与え、理性を揺さぶるような感覚が体を包む。僅かに光が揺れる中、横穴の奥で黒い影が動いた――生者の形とは違う、何か異形の存在。
「……無理だ! これ以上は」
リーダーが判断し、パーティは泣く泣く退却する。後ろ髪を引かれるような思いで、冷たい地下水を踏みながら元の道へ戻る。振り返っても、闇の奥には何が潜んでいるのか分からない。存在の正体は、冒険者たちが知ることなく、ただ都市伝説として語り継がれるだけとなった。
街に戻った彼らは震える声で報告する。
「下水道の奥、あの横穴――人間の力では到底立ち向かえない何かがいる」
街の人々は半信半疑に耳を傾けるが、噂は確実に広がる。地下には正体不明の存在が潜み、夜ごと霊廟や墓所を脅かしている――都市伝説は、決して空想ではないことを。
/*/