オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ エ・ランテル・太守の館ラナー執務室 /*/
金糸のカーテン越しに、秋の陽が柔らかく射し込む。
ラナーは机に広げた書類をまとめていたが、ノックの音と共に入ってきた人物に顔を上げた。
「やあ、ラナー姫。頼まれていた布製品、完成した」
ジョンが腕に抱えていたのは、光沢のある黒と蒼の布地。見る者の視線を吸い寄せるような妖しい艶を放っていた。
「……この布、普通の織物ではありませんね」
「その通り。〈アクフレ布〉――アクアフレックス布の略称だ。
ナザリックの化学工房で作らせた新素材でね。ナイロンやポリウレタンを再現している。伸縮性と耐久性が段違いだ」
ジョンは椅子に腰を下ろし、ラナーの前に布を滑らせた。
それはまるで生き物のように、光の下でしなやかに波打つ。
「これを、服に?」
「うん。具体的には――水着や舞踏衣装に最適だ。濡れても重くならず、肌に吸いつくようにフィットする。
大人用の水着や……こういうのにも使える」
ジョンが取り出したのは、完成したばかりの“アクフレ布製バニースーツ”。
艶のある黒。胸元は深く開き、腰のくびれを美しく際立たせる。
ラナーの黄金の瞳が、わずかに揺れた。
「……ナザリックの宴会で使うための衣装、ですか?」
「いや、王都の文化振興の一環だ。まあ、着るのがラナー姫なら話は別だが」
ジョンは口の端を少しだけ上げて、わざと軽い調子で言った。
そして、そっと耳元に顔を寄せる。
「クライムくんが喜ぶだろうな」
その囁きに、ラナーの肩がぴくりと震えた。
わずかに頬を染め、しかしその表情はすぐにいつもの天使の笑みへと戻る。
「……そうですね。彼が笑ってくれるなら、どんな衣装でも意味がありますわ」
静かな声の中に、狂気にも似た熱が潜んでいた。
ジョンは軽く笑いながら、背を向けて立ち去る。
扉が閉じた後、ラナーはそっとスーツを手に取った。
滑らかな感触。まるで“人の肌”のよう。
その唇に、ゆっくりと笑みが広がる。
「……クライム。見せてあげたいわ、私の“贈り物”を」
/*/ ナザリック地下大墳墓 第9層・モモンガの執務室 /*/
黒曜石のように輝く机の向こうで、モモンガが書類を読んでいた。
そこへ、扉をノックもせずに軽い足取りで入ってきたのはジョンだった。
「モモンガさん、見てくださいよ。新素材“アクフレ布”を使った衣装の試作品が完成しました!」
「おお、それは例のナイロンとポリウレタンを再現したやつか。
確かに興味深いが、なぜ袋の中身をわざわざここで──」
ジョンは言葉を遮るように、どんと机の上に広げた。
つややかな黒い光沢。しなやかで伸びる素材。
それはどう見ても??
「……バ、バニースーツ、ではないか」
「そうです。ラナー姫に試着をお願いしました」
「な、なんだとぉ!? お前……!!」
モモンガの骨の指がカタカタと震えた。
「ラナー姫にあんな露出の多い衣装を!? しかも“クライムくんが喜ぶ”とか囁いたと報告が来ているが!?
それは……それは完全にセクハラだぞジョン!!」
ジョンはあっけらかんと笑い、頭をかく。
「ええ――冗談ですよ。冗談。ほら、彼女も笑ってたし」
「笑ってた? あの笑顔は……“天使の皮を被った悪魔の微笑み”というやつだぞ!?
下手をすればクライムが“純潔の誓いの儀式”とか始めかねないんだぞ!!」
ルプスレギナが後ろからひょいと顔を出す。
「ジョン様、ラナーさん“すぐに着る用意を整えますわ”って笑ってたっすよ。
あれ、完全にやる気満々でしたね♪」
「お前も黙れぇぇぇぇっ!!」
モモンガが頭を抱えた。
「はぁ……ジョン、頼むから今後は“倫理委員会”に衣装の設計書を提出してから実験してくれ」
「そんなのあったんですかナザリックに!?」
「今この瞬間に作る! お前専用だ!!!」
ルプスレギナがくすくす笑いながら、
「ジョン様、“セクハラ委員会”初代議長おめでとうございます?♪」
と拍手を送る。
ジョンは肩をすくめて、苦笑した。
「……まぁ、科学の進歩には多少の犠牲がつきものだ」
「その“犠牲”にラナー姫を含めるなああああっ!!」
モモンガの絶叫が第9層に響き渡った。