オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

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美容魔法

 

 

/*/ リ・エスティーゼ王国・王都・王宮庭園 /*/

 

 

秋の柔らかな陽光が降り注ぐ庭園で、白薔薇の香りが静かに漂っていた。

ジョンは石造りのベンチに腰かけ、紅茶を片手に一人の女性と談笑していた。

 

それは――カルカ・ベサーレス。

かつての聖王国の王女にして、今はザナックの正妃としてリ・エスティーゼ王家に輿入れした女性だ。

その気品と柔和な笑みは、王妃という立場にふさわしく、しかしどこか芯の強さを感じさせた。

 

「お久しぶりですわね、カルバイン様。相変わらずお元気そうで」

「ええ。そちらこそ王妃業の合間に魔法開発とは、恐れ入る」

 

ジョンが感心したように言うと、カルカは恥じらうように微笑んだ。

「ふふ……女性というものは、平和の中でこそ美しくあろうとするものですの。

 戦で失ったものを、少しでも取り戻したくて――“美容魔法”を体系化しましたの」

 

そう言ってカルカが取り出したのは、小さな魔法書。

表紙には金糸でこう記されていた。

 

――《美貌維持術式(コスメ・アーク)》

 

ジョンがページをめくると、

そこには《日焼け防止(サン・シェル)》や《皮膚再生(スキン・リニュ)》、

《毛艶補強(ヘア・グロウ)》などの魔法陣が整然と描かれていた。

 

「……これはすごい。“防御魔法”を肌用に応用しているのか」

「はい。陽光の火属性を中和して、皮膚の焼けを防ぐのです。

 また、回復魔法を微弱に持続させれば、しわや疲労痕も消せますのよ」

 

ジョンは思わずうなった。

「――つまり、これは“日常に溶け込む魔法医療”か。

 戦でもなく、冒険でもなく、“生活のための魔法”。」

 

カルカは静かに頷く。

「ええ。魔法は本来、人を救うためのもの。

 だからこそ、美や健康の分野にも広げたかったのです」

 

ジョンは立ち上がり、深々と一礼した。

「その理念、素晴らしい。ぜひ取引させて欲しい。

 この“美容魔法”をうちの商会と共同で広めたい。特に女性や子供に恩恵が大きい」

 

「まあ……うれしいお申し出ですわね。

 王家としても、国民の健康促進に繋がりますし――ザナックもきっと喜びますわ」

 

 

/*/

 

 

数週間後――エ・ランテル、ジョンの主導する公共魔法講習会場。

 

壇上のジョンが、集まった市民たちに魔法陣を示しながら講義していた。

「さて、今日紹介するのは“美容魔法・日焼け止め”。

 正式名称は〈日光遮断防護(サン・シェル)〉。光の属性を利用し、皮膚を薄く保護します」

 

女性たちは一斉に前のめりになる。

「つまり……日焼けしないんですか!?」

「そう。しかも、数時間持続する。肌の水分も保護する副次効果つき」

 

ジョンが手を掲げると、淡い金の光が観衆の上に降り注ぎ、

まるで春の日差しの中に薄いヴェールを張ったように温かく包み込んだ。

 

「……すごい、肌がさらさらしてる……」

「この魔法を学んだ者には、無償で〈スキン・リニュ〉の初級式を配布します。

 傷跡を軽く癒し、健康な肌を維持できる。化粧品に頼らなくてもいい社会を目指そう」

 

市民の間から拍手が起こる。

その中には冒険者や農婦、職人の妻、そして子供たちの姿もあった。

 

ジョンは微笑み、最後に言葉を添えた。

「魔法は戦うためだけのものではない。

 誰かを守り、癒し、笑わせるためのものだ。

 それがカルカ王妃の理念であり――俺も心から賛同する」

 

 

/*/

 

 

こうして“カルカ式美容魔法体系”は、

魔導国の商会の流通網を通じて王国全土に広がり、

後に「美と健康の時代」を切り開く礎となるのだった。

 

 

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