オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ カルネ・ダーシュ村・畜舎裏の新施設 /*/
朝霧がまだ牧草を濡らしている時間。
カルネ・ダーシュ村の畜舎裏に、木と金属で組まれた奇妙な建物があった。
正面には木製のアーチに彫られた銘板。
――〈自動搾乳工房・試験運用中〉
ジョンが村の子どもたちに囲まれながら、その前で説明をしていた。
「今日の目玉だ。“搾乳の自動化”――牛が自分から入って、勝手にミルクを出してくれる仕組みだ」
「えっ!?牛さんが勝手に!?」
「そう。ゴーレムの制御核を使って、牛の動きと乳量を感知して調整するんだ」
ジョンが指差す先、木製のゲートがカタンと音を立てて開く。
大人の背丈ほどの石製ゴーレムが一体、台座の上で待機していた。
金属の腕が四本、先端には柔らかい白革製のカップが取り付けられている。
足元には小さな魔法陣が刻まれ、淡く青い光を放っていた。
「制御は〈触覚認識(タクタイル・センス)〉の魔法でやってる。
牛の体温と筋肉の張りを読んで、適度な圧で搾るようになってる」
「モーー」
一頭の牛がゆっくりとブースに入る。
鼻先に設けられた餌皿から干し草の匂いが漂い、牛は自然に落ち着いた。
「対象動物識別、確認」
淡々とした女性の声が響く。これはジョンが埋め込んだ音声認識石の機能だ。
ゴーレムの腕が静かに動き出し、乳房にカップがぴたりと吸着した。
「しゅぽ、しゅぽ」というリズミカルな音が工房内に響く。
透明な管を通じて、白いミルクが流れ出し、床下の魔法パイプラインを通って奥の銀色のタンクへ。
「見てろよ、あそこが肝だ」
ジョンが指差した先で、乳量計測の魔法陣が光る。
「現在流量、毎秒四十二ミリリットル。脂肪分平均値、良好」
「おぉ??!」と子どもたちの歓声。
「このタンクは〈清浄維持(ピュリフィケーション)〉が常時展開してる。
衛生状態を保ったまま、数日分の牛乳をまとめて貯められるんだ」
ジョンは腕を組み、得意げに微笑んだ。
「……これで、朝から晩まで搾乳してたおばちゃんたちも少しは休めるな」
見学に来ていた村の女性がうっすらと涙を浮かべた。
「ジョン様……ほんとうに……助かります」
「いいんだよ。村が元気で、笑って暮らせるならそれが一番だ」
搾乳を終えた牛が、静かにゲートから退出する。
その背中を、次の牛が自然に追って入っていく。
――列が途切れない。牛たちが自分の順番を理解しているかのように。
「行動パターン学習はゴーレムが勝手にやってくれる。
もう少し調整すれば、“群れの流れ”そのものを制御できるようになるだろう」
ルプスレギナが興味津々で覗き込み、頬を緩める。
「ジョン様、これ……次は人間にも応用できそうっすねぇ。自動洗髪とか」
「おい、方向性が違う」
「えー?でもお風呂屋さんで動くゴーレム、楽しそうじゃないっすか」
「それ、たぶん通報されるやつだぞ」
周囲に笑いが起こる。
搾乳音と子どもたちの笑い声、そして牛の穏やかな鳴き声。
それらが、秋の陽だまりの中で調和していた。
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この試作品は、後に“カルネ式自動搾乳システム”として改良され、
エ・ランテル全域の農業組合が導入を始めることになる。
そしてジョンの名は――「牛たちの友」としても知られるようになった。