オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

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帝国プールサイド外交

 

 

/*/ バハルス帝国・帝都 魔導国大使館・庭園プール /*/

 

 

灼けるような陽光が白い石畳を照らしていた。

水面がゆらめき、香ばしい香りが風に乗って漂う。

 

「……ふむ、まさか本当に"水遊びの場"を造るとは」

帝国皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスは、眉をわずかに上げながらプールを見下ろした。

 

彼の視線の先――

透明な水の中では、魔導国の美女たちが泳いでいた。

ルプスレギナが犬かきで楽しげに泳ぎ、ナーベラルが静かに平泳ぎで進む。

その水着は黒と深紅のツートンで、肌に吸い付くような艶めきを放っている。

 

「……これが、例の"魔導国製水着"か」

「ええ、〈アクフレ布〉という新素材だ。速乾性があり、破れにくい。

 戦闘訓練でも使えるし……もちろん、娯楽にも最適」

 

ジョンは穏やかに笑いながら、プールサイドに座って珈琲を注ぐ。

白磁のカップから立ちのぼる湯気と香り。

その芳香は、どこか異国の果実を思わせる深い甘みを含んでいた。

 

「この香り……まさか、コーヒーか?」

ジルクニフが目を細める。

 

「ええ。ドワーフ国との協力で、ドワーフ国北方の温室地帯にて栽培を始めました。

 彼らの石灰土壌と魔力制御技術で、実に良い豆が採れてね。

 抽出法も改良し――香りを逃がさぬよう、湯を渦巻かせて淹れるのがコツ」

 

ジョンは静かにカップを差し出した。

皇帝はひと口、口に含み――そして目を見開く。

 

「……苦みが滑らかだ。舌に残らない。これが……農産品だというのか」

「うん。これも"生活の魔導"の一端だ。戦でなく、豊かさのために魔力を使う。

 この磁器のカップもカルネ・ダーシュ村製。手に取ってみてくれ」

 

ジルクニフは光沢のある白磁を指で撫でる。

「薄い……だが丈夫だ。美しい。……君の村でこれを?」

「ええ、窯と原料を改良したからな。技術を民に教えると、国は速く育つものだ」

 

ルプスレギナがプールから上がり、水を払いながら笑顔を見せた。

「ジョン様、ジルクニフ陛下も泳がれます?」

「ふっ……!? 陛下に失礼だぞ、ルプー」

ジョンが苦笑する。

「すまない陛下、うちの愛妻は少々――自由でね」

 

ジルクニフは思わず笑みを漏らした。

「いや、構わん。……むしろ羨ましい。

 君たちは"余裕"を持って国を治めているようだ」

 

「ええ、我々にとって戦はもう古い考えです。

 国の強さとは、兵の数ではなく――国民の笑顔の数ですよ」

 

ジョンの言葉に、皇帝の眉がわずかに動く。

プールの水面に映る光が、二人の顔を照らした。

そこに漂うのは、政治の駆け引きでありながらも、確かな尊敬の色だった。

 

「……なるほど。君が"魔導国の頭脳"と呼ばれる理由が、少しわかった気がする」

ジルクニフがゆっくりとカップを置く。

 

ジョンは微笑んだ。

「陛下、次は"プールサイド会談"でも開きましょう。

 新しい時代の外交には、陽光と水のきらめきくらいが丁度いい」

 

その言葉に、皇帝はわずかに口元を歪め――皮肉とも、感嘆とも取れる声で返す。

「……まったく。君という男は、平和までも計算の内に入れているな」

 

ジョンはただ、静かにカップを傾けた。

白い湯気が夏の空へと溶けていく。

その香りとともに、魔導国の"柔らかな支配"が、またひとつ帝国の心に根を下ろしていった。

 

 

/*/ バハルス帝国・帝都 魔導国大使館 庭園プール /*/

 

 

白亜の壁と黒曜石の柱が立ち並ぶ魔導国大使館。

その中庭――光を反射してきらめく水面の周りには、整然とした石畳のテラスと、日除けの天幕が並んでいた。

 

帝国の貴族たちは、思わず息を呑む。

「ま、まさか……これは“水浴場”か?」

「まるで貴族の浴室を外に持ち出したようだ……」

 

青く澄んだ水を湛えるプール。

そこでは、魔導国製の新型水着を身に着けたルプスレギナとナーベラルが、優雅に泳いでいた。

その布地――〈アクフレ布〉と呼ばれる新素材は、まるで絹のように肌に吸い付き、濡れても重くならない。

陽光を浴びてきらめく様は、貴族たちの目を奪うには十分だった。

 

「これは……まさか、冒険者の装備か?」

「いえ、帝国閣下。水泳用の衣服です。魔導国では、子どもから兵士まで“泳ぐ教育”を始めておりましてね」

ジョンは穏やかな笑みを浮かべ、プールサイドのテーブルにカップを置いた。

 

香ばしい香りが漂う。

「どうぞ。ドワーフ国との共同開発でようやく成功した“珈琲豆”です。香りが高く、眠気を払う作用がある」

帝国貴族が恐る恐る口をつけると、瞳を見開いた。

「……芳醇だ。苦みが深く、しかし軽やか……」

 

「カップはカルネ・ダーシュ村製。磁器です。魔導国の農村で焼いております」

ジョンが指で縁を撫でると、薄い磁器が涼やかな音を響かせた。

 

貴族の一人が低く呟く。

「……信じられぬ。農村でこれほどの焼き物を……」

 

「ええ、技術とは広く行き渡るほど国を強くします。

 そして、美しいものは――民の心を安定させる」

 

その言葉に続くように、プールの中でルプスレギナが水を払って立ち上がった。

濡れた髪をかき上げ、輝くような笑みを浮かべる。

「ジョン様ぁ、次は飛び込みやってもいいっすか?」

「いいとも。……ただし、お客様たちが腰を抜かさないようにな」

 

周囲から小さな笑いが起き、緊張が和らぐ。

 

ジョンは椅子にもたれながら、帝国使節団に穏やかに告げた。

「魔導国は戦の国ではありません。

 文化と生活の豊かさ――それこそが、我らが“力”なのです」

 

水面に映る陽光が彼の横顔を照らす。

その微笑は、帝国の賢者たちが震えるほどの“支配の優雅さ”を宿していた。

 

やがて風が吹き、珈琲の香りとともに、魔導国の繁栄を象徴する穏やかな午後が流れ始める。

 

 

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