オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

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ミ=ゴとの遭遇うらやましい

 

 

/*/ エ・ランテル・蒼の薔薇 /*/

 

 

ラキュースはテーブルに身を乗り出し、瞳を星のように輝かせていた。

「空からの外来種!? ミ=ゴ!? なにそれ!? 私も見たかったわぁ! 未知との遭遇なんて最高の冒険譚じゃない!」

 

両手をぱたぱたさせ、少女のように声を弾ませるラキュース。

「空を飛ぶ甲殻類みたいな姿なんでしょ? しかも外宇宙から来たなんて! はぁ、ロマンよねぇ~!」

 

その様子を見て、蒼の薔薇の面々は一斉にため息をついた。

 

ガガーランが腕を組み、苦々しく言う。

「おいラキュース、未知との遭遇ってのはな……あんなもん、鉱山で冒険者が行方不明になった原因のやべぇ連中だぞ? きゃっきゃしてる場合か」

 

イビルアイは額に手を当てて呻く。

「はぁ……ラキュースはほんっと、危険な香りに弱いな。あんな外来種に関わったら、脳を抜き取られて缶詰にされるだけだぞ?」

 

「……脳缶になった仲間を、複製して返してくるって時点で、もう狂気の沙汰だと思う」

ティアがぼそりと呟き、視線を落とす。

 

ティナも首を横に振り、呆れ顔を隠さない。

「なのに鬼ボスは、きゃっきゃって……」

 

だがラキュースは頬を赤く染め、夢見るように言葉を紡いだ。

「だって! 人間社会にスパイを潜ませるほどの知性体よ? 彼らの文明や技術、きっと私たちが想像もつかないものばかりだわ! きゃー、会ってみたい!」

 

「もう完全に恋する乙女モードじゃねえか……」

ガガーランが頭を掻き、呆れ笑いする。

 

「しかも相手が外来種って……」

ティナが肩をすくめ、ティアが小さく続ける。

「……趣味が悪い」

 

「だーかーらー!」

イビルアイが机をばん、と叩いて叫んだ。

「それが危ないって言ってる! いいか? ラキュース、あんたが脳缶にされたら誰が蒼の薔薇をまとめるんだ!」

 

「……たぶん、ガガーラン」

「いやいやいや! アタシにそんな器ねえよ!」

ガガーランが全力で否定する。

 

「じゃあイビルアイ?」

「誰がするかっ! 子守りで手一杯だわ!」

 

「……消去法で、ティナとティア」

「無理無理」「……無理」

双子が声を揃えてぴしゃりと拒絶する。

 

「ほらね? やっぱり私しかいないじゃない!」

ラキュースは胸を張り、どこか誇らしげに言い放つ。

 

「自分で言ってどうするんだよ……」

ガガーランがため息混じりに突っ込み、場にどっと笑いが広がった。

 

ラキュースはなおも頬を染め、夢見るように呟く。

「はぁ……私もいつか、未知との遭遇を体験したいわぁ……」

 

「……絶対止める」

「……全力で止める」

「……縛ってでも止める」

 

仲間たちは一様に呆れ果てながらも、その無邪気な姿に救われる思いを覚え、また深いため息をついたのだった。

 

 

/*/ エ・ランテル・太守館・応接室 午後のお茶会 /*/

 

 

窓から射す光が磨き上げられた机に反射し、二人を柔らかく照らす。香り高い茶の湯気が立ちのぼる中、ラキュースは例によって声を弾ませていた。

 

「だからね、あのミ=ゴっていう外来種、空からやって来るのよ! 殻のような体に、あの奇妙な飛行……ああ、未知との遭遇! 考えるだけで胸が高鳴るわ!」

 

瞳を輝かせ、カップを忘れて身振りまで交えるラキュース。

 

ラナーは細い指で書類を整えながら、ちらりと彼女に視線を送った。

 

「……なるほど。最近届いた報告書に、妙な取引先が記されていましたの。鉱山の奥で、直接のやり取りをしていると……不可解でしたが、そういう理解の及ばぬ存在が相手ならば、むしろ納得できますわね」

 

「でしょう!? ほら、外来種よ! 空からやって来た、知性ある異形の存在! 未知の技術を持ち、文化すらあるかもしれないのよ!」

 

ラナーは小さく瞬きし、そして穏やかに微笑む。だがその目には冷えた影が浮かんでいた。

 

「……その存在に会った者、行方知れずになる者も少なくないと伺いましたが」

 

「ええ。でも複製を返してくれるんですって! 信じられる? 脳を抜き取って、別の形にして……」

 

言葉の続きを熱を込めて語ろうとするラキュースを前に、ラナーは一瞬だけ沈黙する。そして紅茶を口に運び、ため息まじりに囁いた。

 

「……脳を缶詰にされるのを“すごい”と表現なさるとは……流石ですわ、ラキュース」

 

「えっ、そんな風に言わなくても……」

 

頬を赤らめるラキュースに、ラナーはあっさりと告げる。

 

「呆れておりますの」

 

「……っ!」

 

一拍置いて、二人の間にくすくすとした笑いが広がる。

 

「でも、ほんとにそう思うんだもの。未知を知るためには危険も覚悟よ!」

「立派なお心がけですが……蒼の薔薇の仲間の胃をこれ以上痛めないように、ご配慮を」

 

ラナーは相変わらず涼やかに微笑みながら、そっと書類を片付けていった。

 

――応接室には、知的な談笑と、片方の呆れが染み込んだような午後の光が差し込んでいた。

 

 

/*/ エ・ランテル・太守館・応接室 午後のお茶会 /*/

 

 

淡い陽光が窓越しに差し込み、金糸の刺繍が施されたカーテンを透かして床に模様を落としていた。磨き上げられたテーブルの上では、香り高い茶と菓子が整然と並べられている。ラキュースは椅子に腰をかけ、早口で空から来た外来種“ミ=ゴ”の話を興奮気味に語ったばかりだった。

 

「……ほんと、未知との遭遇よ! 彼らの技術を知れたら、世界が変わるかもしれないの!」

頬を紅潮させ、カップを手に熱弁するその姿は、冒険者というより夢見る少女のようですらあった。

 

ラナーはにこやかに相槌を打ちながら、茶器を持ち上げる。だがその瞳には、彼女特有の冷えた光が潜んでいる。

 

「未知を追うお気持ちは尊いですわね。……ところで、ラキュース」

「なにかしら?」

「未知の探索依頼、あまり受けてはいらっしゃらないのでしょう?」

 

ラキュースはきょとんとした顔で瞬きを繰り返す。

「未知の探索? ええ、危険すぎるものや信憑性のない依頼はあまり……。例えば、エ・ランテルの地下下水道の横穴の調査なんて、あれはただの都市伝説よ」

 

そう言って笑い飛ばすが、ラナーの笑みは変わらなかった。

 

「都市伝説、ですか。……ええ、そう片付けてもよいでしょうね。ただ」

「ただ?」

「この依頼を出されたのは――至高の御方ですのよ」

 

その一言に、ラキュースは思わず持っていたカップを机に置き、背筋を伸ばす。

「……え、ちょっと待って。それって、本気で?」

 

ラナーは静かに頷いた。

「はい。お心当たりがあるのか、あるいは確信をお持ちなのか……。その横穴が“どこに繋がっているか”予想なさっているご様子でした」

 

ラキュースの瞳が大きく開かれる。

「それって……ただの水路じゃなくて、もっと……なにか、恐ろしいものに?」

 

言いかけて、彼女は口を閉じる。普段なら胸を躍らせる未知の冒険話も、ラナーの冷静な声色に包まれると、途端に現実味を帯びるのだった。

 

ラナーは優雅に微笑み直し、茶を一口含んだ。

「恐ろしいかどうかはわかりません。ただ、御方が関心を寄せていらっしゃる以上――その先には“世界の理”に触れるものが隠されているのかもしれませんわね」

 

「世界の理……」

ラキュースは小さく呟き、椅子の背に沈み込む。未知への憧れが胸を締め付け、しかし同時に、背筋に冷たいものが走った。

 

「もし依頼を受けるとしたら……蒼の薔薇の皆を巻き込むわけにはいかないかも」

「ご判断はお任せしますわ。けれど、未知を求める貴女には――いずれ、避けられぬ道になるかもしれません」

 

ラナーの声音は穏やかで、それでいて妙に重々しい。ラキュースはその言葉を受け止めながら、窓の外に視線をやった。遠くの青空はどこまでも澄み渡っている。だが、地下の暗闇に潜む“未知”を思うと、胸の奥がざわついた。

 

「……ふふっ。結局、また冒険の誘惑に負けてしまいそう」

「存分にお楽しみくださいませ。ただし……戻ってこられれば、の話ですが」

 

ラナーの微笑は、まるで冗談とも本気ともつかぬ。

ティーカップが小さく触れ合い、応接室には緊張とも期待ともつかぬ余韻が漂った。

 

 

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