オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
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魔導国の広場には、人々が集まり議論の輪を作っていた。
中央に立つのは、国家の法務官と財務官、そして新制度を説明するための冒険者や魔法学者たち。
法務官は力強く声を張る。
「本日より、魔導国では戸籍台帳を作成し、国民皆保険制度を施行いたします!」
民衆の中からざわめきが起こる。
「戸籍って、何の役に立つんだ?」
「税金を増やすための口実じゃないのか?」
財務官が説明を続ける。
「国民は個人負担3割で医療を受けることができます。さらに、冒険者でなくとも一生に一度、蘇生の機会を得られます!」
一瞬、広場は静まり返った。
老若男女、冒険者でなくても死からの復帰が保証される――その言葉の重みは計り知れない。
若い母親が前に出て声を上げる。
「それなら、税金を少し払うくらい仕方ないかも……」
老人が杖をつきながら、眉をひそめる。
「蘇生か……魅力的だが、制度が本当に機能するのか?」
冒険者たちの一人が頷き、民衆の目を見渡す。
「確かに賛否はあるでしょう。しかし、一度の蘇生機会は、命を守る究極の保証です。それを拒む理由は少ない」
議論は続くものの、次第に人々の顔には期待の色が混じる。
税の負担も、死を恐れず生きる権利の前では些細に思える。
法務官は笑みを浮かべ、再び声を張る。
「戸籍台帳の整備、皆保険制度、そして一度の蘇生機会――これが魔導国の未来です!皆さま、共に歩みましょう!」
ざわめきの中、民衆の中から次第に拍手が起こる。賛否はあれど、命を守る制度の魅力は、誰も抗えないものだった。
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ラナーは広場の端に立ち、民衆の様子を見守っていた。
目の前で、法務官や冒険者たちが新たな制度を説明し、民衆は次第に頷き、拍手を送り始める。
――まさか、こんなにあっさり進むなんて。
以前、自分が提案した保険制度や戸籍台帳の構想は、議論と反対意見の渦に揉まれるはずだった。だが、魔導国では状況が全く違う。蘇生の魅力――死からの復帰が保障されるという事実が、民衆の理性を一瞬で凌駕していた。
ラナーの胸に、冷たい恐怖が走る。
「こんな……簡単に……」
彼女の視線は、笑顔を見せる民衆と、真剣に制度を説明する冒険者たちに向けられる。
これがもし誤用されたら、予期せぬ混乱や依存を生むことになるかもしれない。
蘇生を当たり前と考えれば、人々の生死への感覚が鈍り、命の尊厳が軽んじられる――。
ラナーはぎゅっと手を握り、心の中で呟いた。
「まさか、魔導国では……こんなに簡単に……」
その時、彼女の耳に微かに、だが確かに聞こえた。
――危険だ……このままでは予想を超える事態が起きる。
ラナーの恐怖は、制度そのものへの疑念ではなく、民衆の熱狂と蘇生の魅力に押され、理性が簡単に打ち消されていく現実への焦燥だった。
焚きつけられるのは、制度の進行の速さ、そして自分の無力感。
ラナーはその場から目を逸らすこともできず、ただ静かに、胸の奥で警鐘を鳴らしていた。
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広場の熱気は、昼の光よりも強く感じられた。
民衆は皆、戸籍台帳と皆保険制度、そして一度の蘇生機会の話に目を輝かせている。
ラナーは端に立ち、微かに眉を寄せてその光景を見つめていた。
「熱狂していますが、よろしいのですか……?」
声には戸惑いが混じっていた。
ジョンは肩越しにラナーを見つめ、微かに笑む。
「熱狂すれば良いさ」
軽く杖を振り、言葉を続ける。
「どのみち、死者蘇生《レイズ・デッド》では最低限の生命力がなければ蘇生できない。難度15くらいかな?」
ラナーは息を呑んだ。
「つまり、自らをそこまで鍛え上げる気概のない者にとっては、蘇生は絵に描いた餅に過ぎない」
「魔法の保証だけで安易に命を浪費することはできないんだ」
その瞬間、広場の熱狂は一瞬、静まり返った。
しかし次の瞬間、民衆の目に光が宿り、ざわめきが再び広がる。
「よし!命を守るために鍛えるぞ!」
「自分の生命力を上げて、次の蘇生に備える!」
子供も大人も、体を動かし、鍛練に励む姿が広場に広がる。
ラナーはそれを見て、内心で小さく息をつく。
――熱狂しても、全てが保証されているわけではない。
だが、人々が自らの命を重んじ、鍛える意志を持つのなら、それはそれで悪くない。
「みんな生命惜しさに鍛え始めるって寸法よ。目指せ、難度30!ビーストマン越え!人間は鍛えてなんぼよ」
ラナーの心の中に、戦略と焦燥が混じり合う。
民衆の熱意は予想以上で、これから魔導国は、想像以上に強く、逞しく変わっていくのかもしれない。
焚きつけられた火のような情熱と、命を守るための理性――その両方が、広場に渦巻いていた。