オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ ナザリック地下大墳墓第9階層ジョン部屋 /*/
デミウルゴスは静かに書斎の扉を閉め、窓際に立つジョンに向き直った。
その姿はいつも通りの冷静沈着だが、視線には鋭さが宿る。
「カルバイン様……スラムの子供たちを一層なさいましたが、裏社会は如何致しましょうか?」
低く、しかし明瞭な声。言葉の端々に、裏社会をどう扱うか慎重に問う慎重さが滲む。
ジョンは書斎の机に肘をつき、窓の外の街を眺める。
「完全に潰す気はないよ」
口調は柔らかく、しかし決意を帯びている。
「必要悪だしな。八本指――規模は縮小するだろうが、そのまま管理してくれ」
デミウルゴスは一瞬静止した。
「管理……ですか?」
微かに疑問の色を見せつつも、すぐに理解したように頷く。
「承知致しました。八本指の再編成、ならびに影響力の監督を徹底致します」
ジョンは小さく笑った。
「完全に消してしまったら、かえってスラムが混乱する。秩序と管理の間で生かしておくのが一番だ」
デミウルゴスは冷静なまま、しかし内心で作戦の細部を練り始める。
「……必要悪を監督しつつ、子供たちを教育する。理解致しました」
ジョンは再び窓の外を見つめ、静かに言葉を続ける。
「スラムも、裏社会も、街全体の調和が崩れないようにする。それが、俺たちの仕事だ」
デミウルゴスは一礼し、書斎を後にした。
静まり返った空間に、カルバインの決意だけが残る――街を裏からも表からも守るための冷徹な戦略が、静かに回転を始めていた。
/*/ リ・エスティーゼ王国ナザリック支配下・八本指拠点 /*/
ヒルマ・シュグネウスは、豪華さとは無縁の薄暗い室内に座っていた。
かつて高級娼婦として人を魅了していた容姿は、幽鬼のように痩せ衰え、肌の色も青白い。食事を摂ることはほとんどなく、固形物は喉を通らない――『洗礼』の衝撃とトラウマが彼女を蝕んでいた。
その細い肩を震わせながらも、目は鋭く周囲を見据える。
ナザリックの面々が自分の行動を評価しているかどうか――ひとたび期待を裏切れば、怒りを買うのではないか――常に戦々恐々としている。
腹部の痛みが、彼女の緊張を無言で物語っていた。
だが、外見の変化以上に、ヒルマの知略は衰えていない。
淡々と部下の報告を聞き、必要な指示を出す手際は、かつての輝きを思い起こさせる。
痩せ細った体の奥に潜む冷徹な観察眼と計算力は、かつての美貌以上に強烈な威圧感を放っていた。
「動かねばならない……しかし、失敗は許されぬ」
ヒルマはかすかに呻き、痛む胃を抱えながらも、八本指を通じてリ・エスティーゼ王国の裏社会を掌握する自分の立場を再確認する。
体は弱くとも、心と頭脳は未だ屈しない――それが、彼女が生き残った理由であり、そして今もなお戦い続ける証だった。
/*/ リ・エスティーゼ王国ナザリック支配下・八本指拠点 /*/
室内の薄明かりの中、ヒルマは静かに机の上の書類を整理しながら、部下たちの報告を聞き流していた。麻薬部門、情報部門、警備部門――それぞれが持ち寄るデータは膨大だ。
彼女は一つひとつに目を通すと、指示を簡潔に、しかし的確に出していく。その言葉に、部下たちは息を呑み、そして迅速に動く。
「このルートは警備を増やす必要がある。マルセルの予定通りでは弱点が残る」
ヒルマの声はかすれているが、威圧感は変わらない。
傍らで震えるマルセルは、言われるがままに頷きながらメモを取るが、彼の表情は理解よりも恐怖に満ちていた。
胃の痛みを抑えつつ、ヒルマは考える。
――どう動けば、八本指を安定させられるか。
遊び半分の貴族を傀儡にしても、組織を掌握するのは自分の判断力次第だ。失敗すれば、ナザリックの面々の怒りが直撃する。
ヒルマの手が微かに震える。だが、その瞳は鋭く光り、冷徹な計算と直感が交錯する。
「動くべき時に動かぬ者は、他者の餌食となる――これは、私が学んだ生き残るための唯一の法則」
ふと、ヒルマは小さくため息をついた。
「せめて……あの六腕のゼロが残っていれば……」
彼女の声には、かつての強力な仲間を失った悔恨と苛立ちが滲む。ゼロがいれば、マルセルの無能さを補い、もっとスムーズに作戦を進められただろう。
部下たちの報告が止まり、空気が静まる。
ヒルマはその間を縫って指示を出し、スムーズに次の行動へと移行させる。
外見は幽鬼のようでも、八本指を操るその手腕は、かつての美貌に勝る存在感を放っていた。
薄暗い室内で、ヒルマは一度深く息をつき、痛む胃を抱えながらも、次の戦略を練り続ける。
/*/ リ・エスティーゼ王国ナザリック支配下・八本指拠点 /*/
ヒルマ・シュグネウスは机の前に座り、部下たちの報告を整理しながらも、頭の片隅でずっと気になっていたことを思い出す。
――最近、ローブル聖王国での動きに関する噂が流れている。
耳にした話によれば、あの六腕のゼロと思わしき男が、”カルバイン様を称える会”にて教導官を務めているというのだ。かつて八本指の中で、最強の戦力として数々の作戦を成功させたゼロが、今もなお子供たちを鍛え、希望を与えているらしい――という情報。
ヒルマの目に、かすかな光が宿る。
「……ゼロか……」
彼の存在を思うだけで、胃の痛みも一瞬忘れられるような気がした。
もし本当に彼があの国で教導官をしているのなら、我々もまだ道は閉ざされてはいない――そう思える希望が芽生えたのだ。
薄暗い室内で、ヒルマは部下の一人に指示を出しながらも、密かにその情報を頭の中で繰り返す。
ゼロの教えを受けた者たちが、いずれこちらの活動に影響を及ぼすかもしれない。いや、むしろそれを期待せざるを得ない。
「動かねばならない……しかし、希望は見据えておくべきだ」
幽鬼のようにやせ細り、表情にも陰りが増したヒルマだが、その胸の奥にはまだ、冷徹な計算とともに、かすかな希望の光が揺らめいていた。
ゼロの噂は、ヒルマにとって単なる情報以上のものだった。
――それは、戦い続ける彼女にとっての、ほんのわずかな救いであり、次の一手を練るための支えでもあった。
八本指を通じて王国裏社会を掌握するその姿勢――弱さを抱えつつも、冷徹に未来を切り開く彼女の背中は、誰よりも強靭であった。