オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ リ・エスティーゼ王国・王城謁見の間 /*/
重厚な扉がゆるやかに開き、漆黒のローブに身を包んだ不死者が進み出る。
その姿を迎えるのは、王冠を戴き玉座に座す新たな国王――ザナック。
深く息を整えた彼は、威儀を崩さぬまま、しかし堂々と声を響かせた。
「――アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下におかれましては、ご機嫌麗しゅう」
よどみなく紡がれる言葉。その響きには、恐怖も諂いもなく、ただ一国の王としての矜持と礼が込められていた。
その心に偽りはない。彼は己の立場と覚悟を理解し、上に立つ者としてふさわしく振る舞っているのだ。
その姿を前に、モモンガは心の奥底で――不意に痺れを覚えた。
(……なんと。ここまで真っ直ぐに、王として立っていられる人間がいるとは……)
アンデッドである己にはもはやない「生きた人間としての誇り」。
その輝きを、この若き王は確かに持っている。
モモンガの眼窩に灯る赤い炎が、細く、鋭く、目を細めるかのように揺らめいた。
ゆっくりと首を巡らせ、謁見の間を一望する。臣下たちの息遣い。兵士たちの緊張。漂う気配のすべてを確認し――再びザナックへと視線を戻す。
炎は小さく瞬き、やがて静かに燃え広がる。
「……うむ。よくぞ申された、ザナック王よ」
その声には、どこか憧憬にも似た響きが宿っていた。
/*/
モモンガは特に用件があるわけではなかった。
だが、ジョンがジルクニフと少しずつ友人関係を築きつつある様子を目にし、自分もザナックと友人になれるのか確かめたく、王国を訪れていた。
しかし、会話は予想以上に噛み合わない。
ザナックは言葉の端々を深読みし、警戒心を隠さず微妙な距離を保つ。
モモンガはその反応に苛立ちながらも、玉座に座るザナックの目をじっと見つめ、互いの本心を探るように言葉を紡いだ。
「……ザナック王よ。私は、私に従う者には幸せになって貰いたいと願っている」
その言葉に、ザナックの表情が一瞬だけ揺らいだ。
(……不死者としての冷徹さしかないと思っていたのに、意外と人間味がある……)
ザナックの硬い警戒の奥に、どこか柔らかな響きが潜んでいるのを、モモンガは見逃さなかった。
とはいえ、深読みされすぎて返って誤解されるのでは、とモモンガは内心少し戸惑った。
ザナックは重厚な声で応じる。
「……なるほど。陛下の思いがそこまで深いとは、予想外です」
その言葉には、警戒を保ちつつも、僅かながら興味や好奇心が混ざっているのが感じられた。
モモンガは小さく息をつき、心の中で微笑んだ。
擦れ違いは続くものの、王としての誇りと、人としての温かさが同居していることに、どこか安心感を覚える。
「ああ、深読みされすぎて、逆にややこしいな……」と、心の中で苦笑も浮かべた。
赤い炎が眼窩で揺らめき、モモンガは再びザナックへ向き直る。
互いに警戒は解けていない。しかし、この瞬間、微かではあるが確かな信頼の芽が生まれたことを、モモンガは感じていた。
/*/ リ・エスティーゼ王都・謁見の間 /*/
王立魔法学校の建設が進むなか、ザナック王は王座に腰掛けながら、静かにモモンガを見据えていた。
魔導国が主体となって教育機関を設けることは、確かに人材育成において飛躍的な進歩をもたらす。しかし同時に、知識ある者たちをことごとくナザリックに囲い込まれる危険も孕んでいる。
「ザナック王、教育は国家の礎だ」
モモンガはいつも通り威厳ある声で告げる。
「魔法を学び、鍛錬を積む者が増えれば、この国の未来はより豊かになる。魔導国はあくまで協力者であり、支配者ではないのだ」
しかし、ザナックの表情は容易に解けなかった。
「――協力者、か。……だが、陛下。教育を通じて人の心を掴むことは、剣で国を奪うよりも容易い」
王の声音には疲労と共に警戒が滲んでいる。
「我らが誇るべき知識層を、無意識にして貴殿の国へ引き寄せられるのではないか。その恐れを、私が忘れるわけにはいかぬのだ」
モモンガは微かに沈黙し、内心で焦りを覚えた。言葉を尽くして信頼を得ようとしても、王の心の奥底に根付いた不安は揺らがない。
彼は静かに頷きつつ、内心で別の手を考える。――いずれは具体的な利益、目に見える成果を示さなければならない、と。
謁見の間の空気は重く、両者の間にある溝は未だ埋まる気配を見せなかった。
/*/ リ・エスティーゼ王都・謁見の間 /*/
「うーん……」
謁見の場に似つかわしくない声が玉座の間に響いた。モモンガは玉座の下に立ち、顎に手を当てて考え込んでいる。
(ジョンさんに対するジルクニフ陛下のあのノリ……ああいう軽い突っ込み合いができれば、ザナック王とももう少し打ち解けられるんじゃないだろうか? だが……)
無表情の髑髏顔は何の感情も示さない。だが内心ではぐるぐると焦りが渦巻いていた。
「……魔導国陛下?」
玉座に座るザナック王が、慎重に声をかける。
「はっ!? ああ、いや……!」
思わず大きな声を上げてしまい、モモンガは慌てて取り繕う。
「そうだ……王と王がより親密な関係を築くには、やはり友好的な雰囲気が必要かと考えてな……!」
――だが出てくる言葉は、どうしても「支配者ロール」に縛られたものになってしまう。
ザナック王は目を細めた。
「……なるほど。だが“親密”とは……魔導国流の支配の婉曲な言い換えではあるまいな?」
「ち、違うとも! 違いますとも!」
モモンガは両手を広げて必死に否定する。
しかしその仕草は、巨大な骨の支配者が威圧するようにも見えてしまい、王城の空気はさらに張り詰めるのだった。
(ち、違うんだ! 本当はもっと気さくに話したいんだ! でもどうしてもラスボスみたいな雰囲気が出てしまう!!)
ザナックは冷や汗を浮かべ、内心で思う。
(……この骨の魔王は、いったい何を考えているのだ……! 私の命運は、薄氷の上だな……)
/*/ リ・エスティーゼ王都・謁見の間 /*/
モモンガは腕を組み、考え込んだ。
(うーん……どうにも距離が縮まらない。そうだ! まずはお祝いごとを口にすれば、場が和むのではないか? そういうのは人間社会では常套手段だったはずだ!)
眼窩の赤い炎がふっと強まる。
「――そうだ、まずは祝福してみればどうだろう」
ザナックが目を瞬く。
モモンガは両腕を広げ、堂々とした声で言った。
「ザナック王においては、ローブル聖王国のカルカ・ベサーレス聖王女との婚姻は誠に目出度く! 加えて王女付きの神官として聖王国最高位のケラルト・カストディオを、騎士として名高いレメディオス・カストディオを迎えられるとは、これ以上ない吉兆!」
――玉座の間に一瞬の沈黙が走る。
ザナックは眉を僅かに上げ、深く息を吸い、ゆっくりと応じた。
「……それもこれも魔導国のお心遣いあってのこと。……こちらこそ、お礼申し上げます」
言葉自体は礼節を失ってはいない。だが声音は硬く、どこか張り詰めている。
(……あれ? なんか失敗したか? お祝いのつもりだったのに……! もしかして“人材を差し出した”って意味に聞こえちゃった!?)
モモンガは内心で頭を抱える。
しかし、威厳ある骸骨の顔には一片の動揺も見えない。
ザナックは玉座に背を預けながら、心中で叫んだ。
(やはり……! すべては魔導国に主導権を握られている。いや、祝福すら“監視”や“釘刺し”の一種かもしれん……! 恐ろしい……!)
そして二人の間には、祝福どころか、さらに深い誤解と緊張が積み上がっていくのだった。
/*/ リ・エスティーゼ王都・謁見の間 /*/
(よし……祝福は裏目に出た。ならば、もっとこう……フレンドリーに! ジルクニフとジョンさんの関係を参考にすればいいんだ!)
モモンガは大きく頷き、炎の灯る眼窩をザナックへと向けた。
「ザナック王よ。……うむ、その髭、実に立派だな! 王者たる風格を漂わせている!」
ザナックが一瞬きょとんとした後、反射的に答える。
「お、お褒めにあずかり光栄です」
(……しまった! これ褒め方が“威圧”っぽく聞こえる! もっと砕けた雰囲気を!)
モモンガは慌てて話題を変える。
「ところで……ザナック王は、酒は嗜まれるか? 実は我が国には――非常に珍しい、地獄の業火で醸造した“地獄酒”があってな。ははは、口に含むと喉が焼けるように痛むが、二度と忘れられぬ味だ!」
ザナックは凍りついた笑みを浮かべる。
「……そ、それは……なかなか刺激的な……」
(……駄目だ! これも全然フランクじゃない! むしろ恐怖を煽ってる!)
モモンガの内心は汗だくだった。だが外見は完璧に不気味な王のまま、余裕の微笑みを浮かべているようにしか見えない。
一方ザナックは玉座に座りながら必死に思考を巡らせていた。
(地獄の酒……! これは“毒杯”の暗示か? それとも、我が王国を火の海に沈めるという警告か!? ひいいっ!)
互いの思惑はまるで噛み合わない。
モモンガは「どうすればもっと気楽に……」と焦り、ザナックは「どうやってこの場を切り抜ける……」と恐怖を募らせる。
それでも表面上は穏やかな謁見が続いていた。
/*/ リ・エスティーゼ王都・謁見の間 /*/
(よし……! もっと距離を縮めるには……そうだ、ジョークだ! ジルクニフとジョンさんの会話を思い出せ! ノリとツッコミ……あれをやれば……!)
モモンガは眼窩の炎を小さく瞬かせ、ザナックにゆっくりと歩み寄る。
「ザナック王よ……ここにいる兵士たちは、皆よく訓練されているな」
ザナックは警戒しながら頷く。
「は、はっ。我が国が誇る精鋭たちでございます」
モモンガは腕を広げ、威厳たっぷりに告げた。
「――では一人、我が国へ下賜してくれぬか? ……冗談だ」
謁見の間が静まり返った。
兵士たちは血の気を失い、ザナックは目を見開き、臣下たちは震えあがる。
(え? あれ? 笑うところじゃ……?)
ザナックの顔から汗が滝のように流れ落ちる。
「も、もったいなきお言葉にございます! し、しかし……陛下のご厚意には……どのように……!」
(違う! 本当に取られると思ってる!? ジョークだってば! ああああ!)
モモンガは内心で頭を抱えつつ、慌てて取り繕う。
「う、うむ……冗談だと申したであろう。ははは……!」
眼窩の炎がギラリと揺らめく。
その笑みは、周囲の者たちには「悪魔の高笑い」にしか見えなかった。
「ひぃぃっ……!」
兵士の一人が小さく悲鳴を上げる。
ザナックは必死に笑顔を作る。
「……は、はは……。陛下のお心遣い、痛み入ります」
(駄目だ……全然フレンドリーになれてない! どころか逆効果だ!)
モモンガは心の中で絶望した。
/*/ リ・エスティーゼ王国・謁見の間 /*/
(よし……さっきは冗談が滑った。今度はもっと自然な雑談をすればいい……ジルクニフとジョンさんみたいに、軽い世間話を!)
モモンガは意を決してザナックに歩み寄った。
「ザナック王よ。……最近は、よく眠れているか?」
「……えっ」
(あっ、しまった! 聞き方が不気味すぎた!? いや、だが今さら引けぬ!)
モモンガ「うむ、睡眠は大切だ。無理をしては体を壊す。……私はもう眠ることもできぬが」
眼窩の赤い炎が、じわりと強まる。
「ひ、ひぃ……!」
(こ、これは……! “王として夜も眠れぬほど努力せよ”という魔導王陛下の暗示……!?)
モモンガは必死に続けた。
「それに……食事も重要だな。最近、王国の食卓では何が好まれているのだ?」
「た、たた食事……でございますか……?」
(やばい……普通の世間話のつもりなのに、尋問みたいになってる!)
ザナックは冷や汗を拭いながら答える。
「え、ええと……最近は保存食の改良が進み、干し肉や硬パンだけでなく……漬け物や燻製も兵に行き渡るようになってきております」
「……ほう。良きことだ」
(な、何を意図しておられる!? 漬け物……燻製……もしや魔導国の供給網を試そうとしているのでは!?)
謁見の間の空気がさらに重くなる。
(……おかしい。普通に会話しただけなのに、どうしてこんなに緊張しているんだ……?)
モモンガは心の中で呻いた。
(やっぱり支配者ロールが沁みつきすぎて、何を言っても圧が強すぎるのか……!)
ザナックは必死に笑顔を作り、深く頭を下げた。
「……お心に留めていただけるとは、痛み入ります」
(駄目だ……! これもまた逆効果だぁぁぁ!)
モモンガは内心で頭を抱えた。
/*/
(……くっ。会話が失敗続きだ。ならば――プレゼント作戦! ジルクニフもジョンさんから物を貰った時は素直に喜んでいた。ここは私も何か渡せば……!)
モモンガは玉座の前で片手を掲げた。
眼窩の赤い炎が強く瞬き、骨の指先から黒い霧が広がる。
「ザナック王よ。これをそなたに贈ろう」
床に現れたのは――不気味に脈打つ漆黒の宝珠。
見る者に寒気を覚えさせるその輝きは、紛れもなく高位のアンデッド召喚用触媒だった。
「《冥府の瞳晶》――死者の魂を呼び戻し、骸骨兵千体を一度に召喚できる宝だ。王国の守りに役立つだろう」
「……っ!?」
謁見の間の兵士たちは一斉にざわめき、数人は思わず後ずさる。
ザナックも目を見開き、喉を鳴らした。
(や、やばい……完全に“支配者から恐怖の供物を授けられた”構図になってる! 本当は友好の証として渡したかったのに!)
モモンガは慌てて付け加える。
「……ええと、もちろん……死霊を呼ぶ必要がないなら……高級ランタンとしても使えるぞ?」
「ラン……ランタン!?」
ザナックの顔が引きつり、謁見の間に更なる緊張が走る。
兵士たちの視線は「これをどう処理するのだ王よ!」と訴えていた。
(違う! 違うんだ! もっとこう……花とか、菓子とか……そういうのを渡すべきだったんだぁぁぁ!)
モモンガは内心で地面を転げ回るほど悶絶したが、外見は不動の魔導王。
眼窩の赤い炎がゆらりと揺れ、言葉は重く落ちる。
「……気に入ってくれると、幸いだ」
「……っ、も、勿論でございますとも……!」
ザナックは必死に作り笑いを浮かべ、宝珠を両手で抱えた。
(ひぃぃぃ……これを“有難い”と思わねば、王国が滅びる……!)
/*/
モモンガは心の中で呻いた。
(……どうして私は、普通のプレゼント一つも選べないのだろう……)
一方ザナックは、冷や汗をかきながらも必死に思考を巡らせていた。
(だが……魔導王陛下なりの友情の証なのかもしれない……! ならば……必ずこの恐ろしい宝も、国の未来に繋げねば……!)
二人の想いは――やはりすれ違ったままだった。
/*/
不気味な宝珠を押しつけ――いや、“友情の証”として贈った後、モモンガは思った。
(……よし、次はもっと砕けた雰囲気にしよう! フレンドリーだ。お茶でも誘えば、ザナック王も安心してくれるはず!)
赤い炎を灯す眼窩を細め、重々しい声を和らげるよう心がける。
「ザナック王よ……せっかくだ。後ほど、茶でも飲み交わさぬか?」
「……ッ!!」
ザナックの背筋がピンと伸び、手に持つ宝珠がカタカタと震える。
(ち、茶を……!? まさか毒入りで“忠誠を試す儀式”か!? それとも魂を縛る儀式の前触れ……!)
「む、無理にとは言わぬ。ただ、少し……人としての談笑をだな」
(“人として”!? つまり私は人間、陛下は不死者……その差をわざと強調しているのか!? ひぃぃ……!)
二人の視線が交錯する。
モモンガは「仲良くなりたい」という必死の思いを込め、ザナックは「王国滅亡か否か」の瀬戸際の覚悟を込めて見返す。
周囲の兵士や廷臣たちは、ピリピリした空気に押しつぶされそうだった。
「(な、何が起こっているんだ……!? ただ茶を飲む話にしか聞こえないのに……!)」
モモンガは勇気を振り絞り、さらに言葉を添える。
「……甘味も用意してある。焼き菓子だ」
「や、焼き菓子……!!」
(こ、これは……“焼き討ち”の暗喩か!? いや、菓子……甘味……罠か!? いや、しかし拒めば不敬……!)
ザナックは冷や汗を垂らしながら、必死に頷いた。
「も、もちろん、謹んでご一緒させていただきますとも!」
(やった……少しは距離が縮まったかもしれない!)
(終わった……明日、私は不死者になる……!)
――二人の心は、やはり絡まり合ったまま噛み合わなかった。
/*/
モモンガはようやく気を取り直し、今回はフレンドリーに――と決め、玉座の前に小さなテーブルを用意させた。
上には、ただの焼き菓子と紅茶が並ぶ。
「ザナック王よ。少し休憩を兼ねて、紅茶でも楽しんではどうだ?」
モモンガは優雅に手を差し伸べ、紅茶の香りを示す。
ザナックは一瞬凍りついた。
(紅茶……? 焼き菓子……? いや、これは……! 魔導王陛下の術式が潜む“禁断の儀式”では……!)
「……これは……一体……」
ザナックの目は、宝珠よりも大きく見開かれ、手は微かに震えた。
モモンガは気づかず笑みを浮かべる。
「砂糖と蜂蜜も用意してある。王都の人間に合う味付けにしたのだ」
ザナック(まさか……蜂蜜……甘味……これも呪術の一環……!?)
手に持つナプキンさえも、陛下の魔力で印を隠しているのでは、と錯覚する。
モモンガは紅茶を差し出しながら、さりげなく言った。
「どうぞ、恐れることはない。安全な飲み物だ」
「は、はい……もちろん、陛下……」
その声は震え、体もやや後ずさる。
モモンガは内心で思う。
(……ただのクッキーと紅茶なのに、なんでここまで警戒されるんだ……)
しかし表情は平静を装い、眼窩の赤い炎は微かに揺れる。
その微笑は、ザナックにとってはますます恐怖を呼ぶ「微笑みの魔導王」。
/*/
こうして、モモンガのフレンドリー作戦は「紅茶とクッキー」という平和なもののはずが、ザナックにとっては未曾有の恐怖体験となってしまった。
/*/
モモンガは優雅に紅茶のカップを差し出す。
「どうぞ、恐れることはない。これはただの紅茶だ」
ザナックは震える手でカップを掴む。
(だが、陛下のことだ……これも何かの罠ではないか……! いや、ここで拒めば不敬……!)
深く息を吸い込み、ザナックは心の中で覚悟を決める。
(よし……私は王だ。国民を守るためにも、陛下の好意を信じる……!)
カップを口元へ運ぶ手は微かに震えている。
臣下たちの視線が一斉に注がれる中、ザナックはゆっくりと紅茶を一口――
「……ふぅ……」
驚くことに、紅茶はただの温かい飲み物で、甘味も香りも穏やかだった。
(……なんだ……ただの紅茶だったのか……!)
ザナックは少し笑みを浮かべる。
「……陛下……ありがとうございます……思ったよりもずっと、安心できる味でございます」
モモンガは微かに肩をすくめ、内心でほっとする。
(……やっと少し、距離が縮まったか……! フレンドリー作戦、成功……か?)
しかし眼窩の赤い炎は依然として揺らめき、微笑は相変わらず威圧感を伴っている。
ザナックは心の中で小さくため息をつきつつも、王としての矜持を保ちながら笑みを返した。
「……さて、これで少しは、陛下とお話しやすく……」
「ふむ、良し。次は軽く魔法談義でも……」
二人の間には、微妙に絡まりつつも、確かに生まれた“信頼の芽”があった。
/*/