オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ ナザリック地下大墳墓・第九層 魔導工房 /*/
工房に満ちるのは、金属の焼ける匂いと魔力の微かな振動。
数十の魔導灯が天井から吊るされ、白く澄んだ光が机上の試作品を照らしていた。
その中央で、ジョンは腕を組み、難しい顔をして唸っている。
机の上には、二種類の布が広げられていた。
ひとつは〈ポリマス繊維〉──軽量かつ超伸縮性を持ち、刃も魔法もある程度は弾く新素材。
もうひとつは〈アクフレ布〉──魔力を通すことで質感・硬度・透過率までも自在に変化する、まるで生きているかのような布。
ジョンは、指先でその滑らかな表面を撫でながら、低く呟いた。
「……これは困ったな」
背後から、静かな足音が近づいてくる。
黒衣の魔導王──モモンガが、無骨な骨の指先で布の端をつまみ上げた。
「ジョンさん、どうしたんですか? ずいぶんと難しい顔をしていますね」
「ああ、モモンガさん。これでなにかエロいことできないかって考えてたんだ」
「……エロいこと、ですか?」
「そう!」
即答するジョンの目は真剣そのもので、そこに一切の照れも迷いもなかった。
「ペロロンチーノさんも言ってただろ! “最新技術はエロと軍事に使われてこそだ”って! だから俺はこの技術をエロいことに使う義務がある!」
モモンガの赤い光がわずかに瞬く。
「なるほど……って、ギルメンの名前を出せば私が納得すると思ってます!?」
「それはまあ、うん」
モモンガはしばし沈黙した後、ゆっくりとため息をついた。
骸骨でありながらも、まるで人間のような仕草に、ジョンは思わず笑う。
だが、その笑みはすぐに消え、視線は再び布に落ちた。
「でも真面目な話だ。この素材は極めて高性能で、魔法防御にも優れている。それでいて肌触りが滑らかで、通気性も完璧だ。つまり──戦闘服にも、舞台衣装にも使える」
「つまり、それを“エロく”したいと?」
「そう。だが、俺らのセンスだと刺激が強すぎるだろう。ナザリック基準じゃ“全身拘束+自動発熱+自己修復機能つきボンデージ”とか出てきかねん」
モモンガの目の光が一瞬で曇る。
「……確かに。ペロロンチーノさんやアルベドあたりが見たら、即座に乗ってきそうです」
「だろ? だから、控えめで健全。けど美しくて機能的──そんなデザインを考えてみたんだ」
ジョンは机上の紙束を取り上げた。そこには、丁寧な線で描かれた女性用の戦闘服の設計図が並んでいる。
上半身はへそ出しの短めジャケット。襟と袖口には金糸の刺繍が施され、腰には細い装飾帯。
下は脚線を美しく見せる長ズボン。伸縮性を最大限に活かし、動きを妨げず、それでいて優雅さを損なわないよう計算されている。
「題して──“女子騎手用勝負服”。脚は露出してない。でも腰と腹部のラインが際立つ。健全かつ華やか! 馬上戦にも最適だ!」
「……へそ出し、ですか」
「そう。あの“少し見せる”感じが大事なんだ。完全に隠すと硬すぎる。完全に出すと下品になる。その境界を狙う! そこにこそ文明の叡智が宿る!」
モモンガは、両手を広げて首を傾げる。
「なにか哲学めいたことを言っているようで……やはりただのエロ目的に聞こえるのは私だけでしょうか」
「いやいや、機能的にも理にかなってる。腹部は体温調整に重要なんだ。アクフレ布を薄膜二層構造にして、魔力で温度を一定に保つ。汗はすぐ乾くし、動きも軽い。さらにポリマス繊維の伸縮で、どんな体型にもぴったりフィットする」
「……そこまで考えられているなら、もはや軍用レベルですね」
「だろ? この“美しい戦闘服”を見た敵が一瞬でも動きを止めれば、それだけで戦略的勝利だ!」
「それを“戦略”と呼ぶあたりが、あなたらしいですね」
モモンガの声には呆れと苦笑が混じる。
ジョンは胸を張った。
「ふふふ……見てろよ。今にこの素材で、ナザリックの正装革命を起こしてみせる!」
「お願いですから、それを公の場で言わないでくださいね。守護者たちの想像力が爆発します」
「もう遅い。ルプスレギナには試作品を頼んである」
モモンガの光が一瞬で凍る。
「……は?」
「昨日、採寸してもらったんだ。『へそ出し? やっべー! ジョン様、趣味わかってるじゃないっすか!』って言ってたぞ」
「……ジョンさん」
「うん?」
「たぶんもう止まらないと思いますよ。いろんな意味で」
ジョンは快活に笑った。
「はははっ! ならば望むところだ!」
その瞬間、工房の奥から魔導ミシンの軽快な駆動音が響く。
針が走り、光の糸が布を縫い合わせていく。
ジョンの脳裏には、馬上で風を切る華やかな女性騎手の姿があった。
──最新技術は、エロと軍事にこそ使われる。
その“信仰”を胸に、ジョンは今日も針を走らせるのだった。