オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

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どんだけ好きなのよ

 

 

/*/ 魔導国 ナザリック技術局・服飾研究室 /*/

 

 

 滑らかな黒光りを放つマネキンが、静寂の室内で妖しく輝いていた。

 そのボディを包むのは、密着度を極限まで高めた新型装束。胸元から腰にかけてのラインは大胆で、背面は背骨をなぞるように深く開かれている。

 

「……うむ。完璧だ」

 ジョンは満足げに頷き、縫い目の曲線を指先でなぞった。

 

 〈ポリマス繊維〉と〈アクフレ布〉をさらに進化させ、形状保持と体温追従を実現した特注生地。

 その組み合わせを、12枚の立体裁断パネルで組み上げた――通称〈バニースーツ〉。

 

 研究室の扉が静かに開き、黒衣のモモンガが入ってくる。

「ジョンさん……また何か作りましたね?」

「ふふ、見ればわかるだろう? これは“夢”の結晶だ」

「夢というか……欲望では?」

 

 ジョンは咳払いをしながら胸を張る。

「文化だ。立派な文化だ。男の憧れを具現化したフォーマルウェア。高級飲食店やカジノの女性ディーラー用に正式採用する予定だ」

「カジノって……あの王都近郊にできた富裕層向けの施設か」

「そうだ。勝者には喝采を、敗者には夢を。そしてサービスには美を、だ」

 

 モモンガはマネキンを見つめ、ため息をつく。

「……確かに完成度は高いですね。素材の反射率が抑えられていて、品がある」

「でしょ? でも脱げない構造になってる。十二枚接ぎの立体縫製で、縫い合わせ部分に伸縮魔糸を使ってるから、作れる職人はごくわずかだ」

 

「つまり?」

「つまり、安い娼館じゃ真似できない!」

 ジョンの声が妙に誇らしげだった。

 

 実際、魔導都市エ・ランテルでは、高級クラブや賭博場のディーラーたちがこぞってこの〈アクフレ・バニー〉を採用した。

 身体の動きに合わせて微細に形状を調整し、決してシワにならない。魔法光の下では漆黒の艶が鏡のように流れ、まるで影が踊るように見える。

 

 そして、下層の歓楽街でも同じような衣装が出回ろうとしたが――模倣はことごとく失敗した。

 ただの革や布では、12枚接ぎの立体構造を維持できず、縫い目が裂け、形が崩れる。

 結果、安価な偽物はすぐに市場から消え、本物だけが“格式の象徴”として残った。

 

 ある晩、ナザリックの大広間で、モモンガがぽつりと呟いた。

「ジョンさん……結局のところ、貴方は何を作りたいんです?」

 ジョンはワインを傾け、静かに笑う。

「理想だよ。人間が努力しても辿り着けないほどの“美”を、形にしたいだけさ」

「……ふむ。だが十年後には“制服が定番になる”とか言ってた気がしますが」

「10年待たなかったけどね」

「……それは認めます」

 

 黒い笑いが、夜のホールに溶けていく。

 ナザリックが創造するものは、兵器でも、道具でもない。

 “感性”そのものだ。

 

 ──そして今日もまた、新しい文化がひとつ、静かに形を取っていた。

 

 

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