オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ エ・ランテル・冒険者訓練用ダンジョン・安置所搬送 /*/
冷たい通路の奥、清掃員たちは静かに死体の処理を始める。
バニアラがランタンを掲げ、大男が布袋を広げる。
「装備は破損しないように袋へ。骨片や武器の破片も回収しておく」
声は冷静で、迷いはない。
若者が鎧や武器を丁寧に分け、老人が骨片や折れた武器を整理する。
「素材は記録台帳に登録しておく。後で保険台帳と照合される」
大男は死体を慎重に担架へ移し、運搬の準備を整える。
バニアラがランタンを掲げ、三人に指示する。
「通路の罠や血痕も片付けながら、安置所まで運搬よ」
重い死体を慎重に運びながら、通路を抜ける。
途中、落ちた矢や血痕を掃き集め、床を拭き上げる。
通路の静寂の中、清掃員たちの足音だけが響く。
やがて安置所の扉が見えた。
薄暗い空間には、すでに他の遺体が並んでいる。
バニアラは担架を慎重に台座へ移す。
「ここまで運べば、あとは監察官の仕事ね」
大男が疲れた息を吐き、肩を落とす。
「……制度が全てだな」
老人が布袋を整えながら小声でつぶやく。
「記録と回収さえ正確なら、誰も無駄にはならん」
若者は肩を落としつつも、無言で台座の位置を確認する。
冒険者の命はもう自分たちの手にはない――
次に蘇生を行うのは、あの冷たい監察官、エルダーリッチだけなのだ。
ランタンの光に照らされ、静かに遺体が安置される。
清掃員たちは息を整え、再び次の任務へと歩き出す。
ダンジョンの闇に、日常の死と制度の冷たさだけが残された。
/*/ エ・ランテル・安置所・夜 /*/
薄暗い安置所。
ランタンの光に照らされ、並ぶ遺体は静かに息をしていない。
通路から運ばれたばかりの冒険者の死体が、一段高い台座に置かれる。
骸骨の顔に見える眼窩から、冷たい光が灯った。
エルダーリッチが静かに足を踏み入れ、遺体の前で立ち止まる。
「……本人確認」
本日のダンジョン利用者の保険台帳の写しと本人を目視で確認し、名前、所属、冒険ランク、保険枠の残量――全てを確認する。
「保険枠……残り一回」
彼の声は低く、感情はほとんどない。
台帳を開き、遺体の情報と照合する。
「契約期間内。規定条件も満たしている……蘇生可」
蘇生可の札を遺体に乗せる。
可をつけられた遺体はアンデッドたちによって秘匿の部屋へ運ばれ、そこでナザリックのものによる蘇生魔法を受ける事になる。
エルダーリッチは淡々と台帳に記録を残す。
「蘇生可。保険枠残量を更新。事故件数に反映」
そして一瞥して、背後の清掃員の方を見る。
「清掃員の仕事はここまで。運搬と回収を正確に行ったことは記録済みだ」
バニアラたちは肩を落としつつも、任務完了の安堵を感じる。
命が戻ることは、制度と清掃員たちの仕事によるもの――
誰もがその構造を、薄く理解していた。
エルダーリッチは無表情のまま、次の遺体へと歩を進める。
安置所に残る静寂の中、エルダーリッチの眼窩の光だけがわずかに揺れていた。
/*/ エ・ランテル・安置所・後 /*/
遺体の搬送と蘇生可の確認が終わり、清掃員たちは肩の荷を下ろす。
ランタンの光に映る床には、まだ血痕や装備の破片が残っているが、通路や台座はきれいに整えられていた。
バニアラは大きく息をつき、担架を片付ける。
「……よし。これで今日の安置所作業は終わり」
若者が肩をすくめ、震える手を拭く。
「……毎回思うけど、死体を運ぶのって慣れないな」
老人が微かに笑みを浮かべる。
「慣れってのは、死に慣れることじゃない。手順と記録に慣れるだけさ。感情は抑えとけ」
大男は黙々と備品を整え、最後にランタンの火を確認する。
「……次の搬入まで、準備を整えておく」
バニアラは振り返り、三人を見渡す。
「清掃員の仕事はこれで一区切り。でも明日もダンジョンは使われる。死体が出ればまた運ぶことになる」
安置所の扉を閉め、清掃員たちは通路を戻る。
日常業務に戻る足取りは重いが、確実に任務を果たした充実感もある。
通路の奥、闇に沈むダンジョン。
その奥で待つのは、また次の冒険者たちの足音と血と汗。
清掃員たちは今日も、誰かの命と安全を陰で支えているのだ――
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