オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ 旧王国北部・丘陵地の夜営地 焚き火のそばにて /*/
夜は静かで、風が柔らかく吹き抜けていた。
草の匂いと焚き火の煙が混じり、どこか懐かしい村祭りのような匂いがする。
四人は円を描くように座り、腹を満たしながらいつものようにとりとめのない話をしていた。
ルクルットが木皿を片手に言った。
「それにしても、この辺りで害獣狩りしてる分には食料の心配がいらねぇのが助かるよな。
アンデッドの農地で小麦とか芋、普通に買えるんだから」
ダインが頷きながら鍋をかき回した。
「ただ、加工前だからパンにはならないのである。粉にする石臼はあっても、焼く窯までは貸してくれない」
「でも、チーズやバターは美味いよな」ペテルが言って、笑みを浮かべた。
「この前、報酬のついでに魔導国の工場製をもらったけど、あれは旨かった。濃くて、舌の上でとろける感じが忘れられねぇ」
「バター、もう少し買っておけばよかったな」ルクルットが名残惜しそうに言う。
「火を通しても香りが飛ばないんだよな。あれ、何か混ぜてるんかね?」
ニニャがスプーンを回しながら考え込むように答える。
「聞いた話だと、“無菌アンデッド”が搾乳から攪拌まで全部やってるらしいです。
温度や時間を完璧に制御できるから、味にばらつきが出ないとか」
「へぇ、ずいぶん柔軟な対応するもんだな。
魔導国ってもっと融通利かねぇイメージあったんだが」ペテルが言うと、ダインがくつくつと笑った。
「そりゃ、全部魔導王の掌の上であるからな。商人も農夫も官吏も、働いてるのはアンデッド。
人間の管理者は指示出すだけである。逆らうやつもいないから効率は最高」
「逆らえねぇ、の間違いだろ」ルクルットが苦笑した。
「でも、あれだな。そう聞くと、魔導国で一番働いてるのは……魔導王ってことにならねぇか?」
一瞬、四人の間に静寂が落ちた。
焚き火の火の粉がぱち、と弾ける。
ニニャがその沈黙を破るように、穏やかに笑った。
「実際、そうなんですよ。
何十万ってアンデッドを同時に操るって、普通の魔法じゃ不可能です。
意識の一部を分割して、命令を途切れさせないように制御してる。
それを何年も続けてるわけですからね。かの十三英雄の誰にも真似できない御業ですよ」
「……そんなもんを“働いてる”って言っていいのかどうか」
ペテルがスプーンを置いて、火の中を見つめた。
「まるで世界そのものを動かしてるようだ。神様に近いな」
「神様っていうより、世界の管理者、であるな」ダインが肩をすくめる。
「魔導王が命令すれば、朝には千町歩の畑が耕され、夕方には百頭の牛が出荷される。
人が手を出す余地なんて、もうほとんどない」
「それでも俺たちは、その恩恵を受けて飯を食ってるんですけどね」ルクルットが笑って、鍋をかき混ぜた。
「ほら、これも魔導国の塩。味が安定してるんだよな。
俺の母ちゃんが作ってた塩漬け野菜なんか、日によって塩辛さが違ってたのに」
「つまり……魔導王の手が届いてるから、俺たちのスープも旨いってことか」ペテルが苦笑する。
「そういうことです」ニニャが真面目な顔で頷く。
「ある意味、あの方の仕事は“世界を正常に動かすこと”そのものなんですよ」
焚き火の炎がふっと揺れ、影が彼らの顔を交互に照らす。
星明かりの下、四人はそれぞれの器を手に取り、静かに温かいスープをすすった。
夜風が冷たく頬を撫でる。
遠く、無言の行列をなすスケルトンたちが、畑の区画を黙々と耕しているのが見えた。
――確かに、誰よりも働いているのは、あの「魔導王」なのかもしれなかった。