オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ ハバルス帝国・皇帝執務室/*/
ジルクニフは机に向かい、報告書に目を通していた。側近の秘書官たちが静かに動き回る中、扉が軽くノックされる。
「陛下ー!」
と、元気すぎる声が響き渡る。振り向くとそこには、魔導国の大使・ジョンがニコニコしながら立っていた。
「なージルクニフ、折角強くなったんだし、どれくらい戦えるか知りたくないかー? 特訓してもっと強くなりたくないかー? なりたいだろー! 特訓しようよー、なージル―ちょっとだからさー!」
ジルクニフは顔色を変えず、淡々と書類に目を落とす。
「……ジョン、今は皇帝業に集中しているのだ」
しかしジョンはお構いなしに机に腕をつき、ジルクニフの視線を強引に自分に向けさせる。
「いやいや、強くなるのは仕事の合間でもできるじゃん! ちょっとだから、さあ!」
秘書官たちは呆れた顔で互いに視線を交わす。
「また魔導国大使が……」「あの元気さは国に帰っても持続するのか」
ジルクニフはため息をひとつつき、肩をすくめる。
「……わかった。少しだけだが、戦闘訓練の場を設ける」
ジョンの顔が輝く。
「そうだろー! じゃあ、俺が指導してあげるよー、陛下の戦闘力アップ特訓! わくわくするね!」
ジルクニフは軽く目を細めるが、内心では、これが魔導国流の“外交的圧力”とユーモアの混ざった手法だと理解していた。
周囲の者たちは、皇帝に絡む魔導国大使の元気さに呆れつつも、その光景に思わず微笑むしかなかった。
/*/ ハバルス帝国・宮廷・特訓場/*/
ジョンが設置した特訓用の広場には、グレード22号の訓練ゴーレムが立ちはだかる。鉄と魔法で作られたその巨躯は、戦闘用として高い完成度を誇るが、今日の相手は――皇帝ジルクニフだった。
「さあ、陛下! どれくらい強くなったか、僕とこのゴーレムで試してみよう!」
ゴーレムが振りかぶる腕を、ジルクニフは軽く受け流す。その動きは以前の不器用さを微塵も感じさせず、むしろ安定感と力強さを兼ね備えていた。
「……まさか、ここまで成長しているとは」
ジョンが目を丸くする。ゴーレムの攻撃をことごとく避け、時に反撃し、互角に押し合うジルクニフ。かつて不器用で頼りなかった皇帝が、今や自らの力で戦いをコントロールしている姿に、感嘆の声が漏れる。
「……あんなに不器用だった子が、こんなに成長して……」
ジョンの呟きに、ジルクニフは少し眉を寄せ、口元に微かな笑みを浮かべる。
「貴様に育てられた覚えは……いや、育てられたで良いのか……?」
その言葉に、側で見守っていたバジウッドが顔色を変える。
「やばい、陛下……俺たちと同じくらい強いじゃないか。立場がない……」
ゴーレムが振りかぶる拳を、ジルクニフは軽く受け流すと、反撃の一撃を放ち、22号はわずかに後退した。
「……特訓は順調のようだな」
ジョンはにやりと笑い、胸を張る。
「そうだろー! あの不器用な皇帝が、ゴーレムと互角に戦えるなんて最高じゃん!」
「誰が不器用か」
ジルクニフは静かに腕を組み、冷静にゴーレムを見据える。かつての自分では想像もつかなかった力。だがその強さを、今は冷静に制御し、帝国を守る力へと変えていた。
バジウッドは内心でため息をつき、少し距離を取る。
「これで、陛下の前では俺たちも生徒扱いか……いや、もう立場がない……」
一方、ジョンは満足そうに頷き、特訓場の隅から笑顔で声を上げる。
「さあ、次はもっと強い奴だ! どこまでいけるか試そうぜ、ジルクニフ!」
ジルクニフは軽く目を細め、腕を構えたまま微かな笑みを浮かべる。
「……ならば、受けて立つ」
/*/ ハバルス帝国・特訓場/*/
ジョンは得意げに腕を組み、特訓場の中央でジルクニフを見つめる。
「次の相手は、帝国闘技場でもお馴染みの軽戦士、クレマンティーヌだ。勝てたら、彼女を好きにして良いぞ、ジル」
「えー、皇帝陛下に好きにされちゃうのー。えろすけべー!」
横でクレマンティーヌが叫ぶが、ジョンは楽しげに笑うだけだ。
ジルクニフは眉をひそめ、冷静に答える。
「まて、その者は武王を瞬殺したと聞く。私には荷が重いだろう」
「流石にわかるか」
ジョンは頷きながら、さらに挑発を続ける。
「貴様は私をなんだと……」
ジルクニフの声が少し強くなるが、ジョンは遮る。
「スティレット二刀流だけで加減して戦うから、やってみろよ。自分より速い相手と戦う機会は重要だぞ」
ジルクニフは一瞬考え、そしてゆっくりと剣を握り直す。
「……ならば受けて立つ。だが、侮るな」
訓練場には、皇帝とクレマンティーヌの激しい戦いを想定した緊張が漂う。
ジョンは片手を上げて合図し、微笑みながら見守る。
「さあ、どれくらい成長したか、存分に見せてくれ、ジルクニフ!」
その声に応え、皇帝は静かに足を踏み出す。
軽戦士との対峙、速度と技術の差を乗り越え、ジルクニフはさらに己の限界を押し上げていく。
周囲で見守る者たちの視線は固く、だがその緊張と興奮は、特訓場全体を包み込む熱気となっていた。
広場に、皇帝とゴーレム、そして魔導国大使ジョンの熱気が満ちる。特訓はまだ始まったばかりだった。
/*/ ハバルス帝国・特訓場/*/
特訓場の中央、ジルクニフは低い姿勢で突撃してくる軽戦士クレマンティーヌに翻弄されていた。
二刀流のスティレットが鋭く閃き、低速で踏み込むように見えるが、瞬間的な速度と精密さで皇帝の守りをかいくぐる。
「くっ……速い……!」
ジルクニフは苦しげに間合いを取り、魔法を展開して自身の速度を増幅する。瞬間的に距離を詰め、逆襲の体勢を作ろうとするが、クレマンティーヌの素早い突進と身のこなしに再び押される。
「このままでは……!」
ジルクニフはショックウェーブを放ち、距離を確保。衝撃波が地面を揺らし、クレマンティーヌを一瞬弾き飛ばす。さらに空中からは天使の幻影を召喚し、身代わりとして敵の目を欺く。
それでも、クレマンティーヌは微細な間合いの変化を見逃さず、鋭いスティレットの連撃で皇帝を追い詰めていく。
ジルクニフは魔法や幻影を駆使し、巧みに攻め手を防ぐが、最後は地力の差が如実に現れた。
喉元にスティレットを突き付けられる。
「……ここまでか」
ジルクニフは冷静に息を整え、刃先を見据えながら静かに頷く。
するとクレマンティーヌは鋭い笑みを浮かべ、煽るように言った。
「皇帝陛下もおっとこのこなんだねー。悔しい悔しい、はっは、良い表情するじゃん」
その挑発に、特訓を見守っていたジョンが感心した声を上げる。
「大分、力を使いこなせるようになったな。これなら刺客に襲われても大丈夫だろう」
バジウッドも小さく息を吐く。「やばい、陛下……俺たちと同じくらい強いじゃないか。立場がない……」
ジルクニフはスティレットの刃を前に、苦笑交じりに微かに目を細める。
「……次は必ず、私が勝つ」
戦いの余韻が漂う特訓場に、皇帝の成長と覚悟、そして次への決意が重く刻まれた。