オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ カルネ・ダーシュ村・訓練所 午後 /*/
乾いた音を立てて、木製の訓練用槍が折れた。
陽の傾き始めた訓練場には、汗の匂いと土の香りが混じる。
その中心で、クレマンティーヌは膝に手をつき、息を荒げていた。
「はぁ、はぁ……神獣様ぁ。なんか私、クソ兄貴より強くなってるんだけど、これって才能?」
口元を歪めながら、挑発めいた笑みを浮かべる。だが、どこか自嘲の色が滲んでいた。
ジョンは腕を組み、淡々と答える。
「そうだが」
「……マジ?」クレマンティーヌは目を丸くする。
「国元にいた時はさ、いつも比べられてたんだよ。クソ兄貴と。
『お前は出涸らしだ』『神官のくせに救えない女』ってさ」
ジョンは訓練槍の折れた先を拾い上げながら、
「兄貴の方が先に修行してたから、そう見えただけだろ」と静かに言った。
「もともとお前には強くなる下地があった。
俺のとこに来て、ちゃんと修行した。それが開花しただけの話だ」
その一言に、クレマンティーヌの目が見開かれる。
「……そうか」
声はかすれていた。
「私は、別にクソ兄貴に劣っていたわけじゃないのか……」
ぽつりと呟いた瞬間、張り詰めていたものがぷつりと切れた。
笑い声が漏れる。
「ははっ、はははっ……あー、なんだそれ。
私、ずっと……クソ兄貴の影で、バカみたいに暴れてただけかよ」
笑いながら、目元を袖で乱暴にこする。
滲む涙が、埃と混じって頬に跡を残した。
ジョンは何も言わず、壊れた槍の柄を地面に突き刺した。
「人間なんてそんなもんだ。誰かの影で強がって、
本当はずっと、自分の形を探してるだけだ」
クレマンティーヌは顔を上げる。
その目は赤く、しかしどこか晴れやかだった。
「……神獣様、あんたさ。たまに優しいよね」
「俺は事実を言っただけだ」
「そういうとこが優しいって言ってんの」
軽く笑って、彼女は立ち上がった。
夕暮れの光が金色の髪を照らし、揺れる。
「なぁ、神獣様」
「ん?」
「私、あんたのとこに来てよかったわ。
あのまま法国で腐ってたら、ほんとにただのクソ女で終わってた」
ジョンは小さく笑った。
「まだ終わってないだろ。お前の人生は、これからだ」
「おぉ、珍しく前向きなこと言うじゃん」
「お前が珍しく素直だからな」
その言葉に、クレマンティーヌはぷいっと顔をそらした。
だが、その耳の先はほんのり赤い。
やがて、彼女は訓練場の真ん中に戻り、
壊れた槍の代わりに新しい一本を手に取った。
「よーし! 次の訓練いくよ神獣様! 今度は本気出すからね!」
「いつも出してるだろ」
「うるさい!」
掛け声と笑い声が、赤く染まる夕空に響く。
その姿は、かつての“狂乱の聖女”ではなく、
ようやく人間として生きる道を見つけた、一人の戦士のそれだった。