オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

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対魔銃訓練

 

 

/*/ エ・ランテル・冒険者訓練場 /*/

 

 

土の匂いが漂う広場に、見慣れない細長い器具が持ち込まれた。

ジョンが片手で軽く掲げると、周囲の冒険者たちがざわつく。

 

「なんですか、それ?」

訓練生代表のペテルが眉をひそめて尋ねた。

 

「最近、帝国で開発された“魔銃”だ」

ジョンは淡々と答え、銃身を空に向けて構える。

「誰でも〈魔法の矢〉を撃てる新兵器。今日はこれへの対策を教える」

 

ペテルの口元が引きつる。

(……嫌な予感しかしない)

 

「まずは雑に撃つから、受けてみろ」

「ええっ!? い、いきなり!?」

 

バンッ、と乾いた音と同時に光の矢が奔った。

「うわっ!」

慌てて盾を構えるペテル。〈魔法の矢〉が直撃し、衝撃が腕に響く。だが、なんとか防ぎ切った。

 

「……よくやった」

ジョンは頷く。

「これは〈魔法の矢〉だから、通常の矢を想定した守り方では防ぎきれない。だが正面から受け止めるのは一つの手だ」

 

額に汗を浮かべながら、ペテルは声を震わせる。

「これ……百人で一斉に撃ったらどうなるんです?」

 

ジョンはさらりと口にする。

「村人でも使える。だから百丁揃えて一斉射撃すれば……アダマンタイト級が一人、倒れる可能性すらある」

 

「うぇぇぇ!?」

ペテルの顔が青ざめた。

 

ジョンはそんな反応を気にも留めず、銃を肩に担いだ。

「だからこそ、避け方を教える。盾に頼るな。魔銃は射線が単調だ。撃つ瞬間の気配を感じて、身体ごと流せ」

 

彼は身振りを交え、光の矢を紙一重でかわしてみせる。

「こうだ。慣れれば難しくない」

 

訓練場の冒険者たちがごくりと息を呑む。

新兵器の脅威と、それに立ち向かうための鍛錬。

この日を境に、エ・ランテルの訓練はまた一段と苛烈さを増していくことになるのだった。

 

 

/*/ エ・ランテル・冒険者訓練場 /*/

 

 

ジョンは魔銃を構え、地面に木の的を立てる。

「いいか、この魔銃の命中率が高い理由は――撃つ前に“的”に魔法でマーカーを刻むからだ」

 

カチリ、と軽い音。

ペテルが目を凝らすと、的の表面に薄い光点が浮かび上がった。

 

「なっ、光ってる……?」

「そう。魔法の矢は、このマーカーめがけて飛んでいく」

 

次の瞬間、バシュッと銃口から矢光が走る。

直線を描き、寸分違わず光点に吸い込まれた。

 

「これじゃ、避けられないじゃないですか!」

「だから対策が必要なんだ」

 

ジョンは一本の木片を手に取り、マーカーの前に突き立てる。

「まずは間に遮蔽物を置く。矢は直進しかしない。これだけで防げる」

 

さらに、剣を抜いて構えると、今度は飛んできた矢を横薙ぎに打ち払った。

光が霧散し、跡形もなく消える。

「あるいは――掴んだり、打ち払う。矢そのものは魔力の塊だ。魔法を弾けば消せる」

 

ぺテルが目を丸くする。

「掴む!? そんなの無茶じゃ……!」

「慣れれば簡単だ。光の矢は動きが素直だからな。実際に見てろ」

 

ジョンがもう一度魔銃を撃つ。

シュッ、と飛んできた矢を彼は片手でパシリと受け止め、握りつぶすようにして消し去った。

 

「ひぃっ……!」

ペテルが思わず後ずさる。

 

ジョンはにやりと笑って肩をすくめる。

「もちろん最初から掴めとは言わねぇ。大事なのは――マーカーを感知することだ。光の点が付いた瞬間に、次はそこに矢が来る。つまり、先に動けるんだよ」

 

周囲の訓練生たちがざわついた。

「マーカー……感じられるかな」

「目で見えなくても、気配があるはずだ」

 

ジョンは再び魔銃を掲げた。

「――さて。今から本気で撃つ。お前らの課題は“マーカーを探すこと”だ。盾で受けてもいい、避けてもいい、とにかく反応してみろ」

 

訓練場に緊張が走る。

新兵器への恐怖と、対策を会得できるかどうかの試練。

ペテルの背中には冷たい汗が流れていた。

 

「……マーカーを、感知する?」

「そうだ。実際に見える奴は少ない。ほとんどの者は『肌がざわつく』とか『視界の端に靄がかかる』って感覚で気づくことになる」

 

ジョンは魔銃を軽く振って、ペテルに狙いを定める。

次の瞬間――空気がわずかに揺らいだ。

 

「……っ!」

思わず身構える。

 

「感じたな? 今、お前の額にマーカーを置いた」

「なるほど……いや、嫌な感じしかしませんけど!」

「当然だ。こいつは生命を狙う術だからな」

 

魔銃の引き金を軽く引くと、淡い光弾がペテルめがけて走る。

今度はペテルが盾を正面に構える――しかし、矢は盾を弾くように角度を変え、肩口へ向かってきた。

 

「なっ、避け――ぐっ!」

かろうじて身をひねり、頬をかすめて光が消える。

 

「それがマーカー追尾の怖さだ。盾を真正面に構えても、矢は“目標にたどり着く”ように軌道を変える」

「どうすればいいんですか!?」

「――動け。盾に頼るな。矢より先に“マーカーごと自分をずらす”んだ」

 

ジョンは実演するように、地面に石を投げてマーカーを刻み、そこへ矢を放つ。

石が爆ぜ飛ぶと同時に、ジョンの剣がすっと薙いで光を切り裂いた。

 

ジョン「遮蔽物を置けば狙いが鈍る。武器で掻き消すのも有効だ。……が、一番重要なのは“狙われている”感覚を見逃さないことだ」

 

ペテルは汗をぬぐいながら深呼吸した。

「これ、俺たち新米にはかなりキツいですよ……」

「だからこそ教えてるんだ。帝国はこれを隊列ごとに持たせる気だろう。百人、千人規模で使われたら、冒険者だろうが兵士だろうがまとめて死ぬ」

 

「……冗談じゃない」

「冗談じゃない。だが、避け方を知ってる奴と知らない奴じゃ生存率が天地ほど違う。ペテル、お前はもう一度受けろ」

 

ジョンが再び魔銃を構える。

ペテルは盾を構えず、じっと全身の神経を研ぎ澄ませた。

空気のざわめき、首筋に走る悪寒。

 

(……来る!)

 

光弾が放たれる。ペテルは即座に横へ転がり、地面を転がりながら剣で矢を薙ぎ払った。

ぱん、と光が弾け、霧散する。

 

「――よし! 今のは合格だ」

「はぁ……はぁ……やっぱり嫌な訓練だ!」

 

だがその顔には、ほんの少し達成感が浮かんでいた。

 

冒険者たちがどよめいたとき、漆黒の剣のニニャが手を挙げる。

「そのマーカー自体を無効化できないかな? 結界や干渉魔法を組み合わせれば……研究の余地があります」

 彼女の瞳は興奮で輝き、体全体から熱意がほとばしっていた。

 

 ガガーランが笑い声を上げる。

「なら、私は力任せに叩き落とす訓練をしようじゃないか!」

 イビルアイは冷笑する。

「理屈は分かる。矢は素直な軌道を描く……剣でも魔法でも打ち払えるはずだ」

 双子のティアとティナも頷く。

「……感覚を鍛えるのが先」

「気配察知、盾の角度……実践で掴めるわね」

 

 ジョンは満足げに頷き、魔銃を掲げた。

「よし。今から本気で撃つ。課題は“マーカーを見つけ、反応すること”だ」

 

 光点が次々と刻まれ、光矢が連射される。

 ガガーランは大剣で叩き落とし、イビルアイは魔法で逸らす。双子は跳び避けたり盾で逸らしたりと、軽やかに矢を処理していく。

 

 そしてニニャの番が来る。

「まだ試作だけど……やってみる!」

 彼女は詠唱を唱え、薄い結界を展開した。すると、結界内のマーカーがふっと消え、魔法の矢は目標を見失う。そのまま軌道を維持し、空中でふらつきながら先へ飛んでいき、結界の外へと逸れていった。

 

「おおっ!」と歓声が上がる。

 ジョンは目を細めて笑った。

「応急にしては上出来だ。やるな、ニニャ」

「ふふ、まだ改良の余地はあるけど……理屈は通る。研究すれば、完全な“マーカー無効化魔法”を作れるかもしれない」

 

 仲間たちの胸に興奮と期待が広がる。

 ジョンは腕を組み、漆黒の剣を見渡した。

「――漆黒の剣は、すでに帝国の新兵器に対抗する術を見出した。これを広めれば……戦の行方を左右できるぞ」

 

 訓練場に、未来への緊張と熱気が渦巻いていた。

 

 訓練がひと段落し、ペテルが汗をぬぐいながら口を開いた。

「ところで……師匠。なんで帝国の新兵器なんて持ってるんです?」

 

 ジョンは口笛を吹きながら、わざと視線を逸らす。

 ペテルの目がぎょろりと動く。

「……まさか」

 

 ジョンはにやりと笑った。

「アイディアを提供しただけだ」

 

 ペテルの顔が青ざめる。

「なんてことをするんですか!?」

「いやいや、まだ実戦で使う段階じゃない。訓練用に調整しただけだ」

 

 ペテルは大きく息をつき、肩を震わせる。

「訓練とはいえ、命に関わるような代物ですよ! 師匠、冷静じゃないです!」

 

 ジョンは肩をすくめ、まるで他人事のように笑った。

「だからこそ、こうやって避け方を教えてやるんだ。知らなきゃ、もっと危ないだろ?」

 

 ペテルは言葉に詰まりつつも、目の奥で少し諦め混じりの尊敬が光った。

「……はぁ、もう……師匠には敵わないな」

 

 ジョンは軽く拳を握り、仲間たちに目を向ける。

「……ま、結局のところ〈魔法の矢〉に過ぎねぇ。つまり、第1位階の〈シールド〉で防げる。

これからは、戦士だろうが最低限の詠唱ぐらいは覚えておく時代になるだろうな」

 

 訓練場に再び緊張と興奮の空気が戻った。

 

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