オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ カルネ・ダーシュ村 訓練所 午後の光 /*/
秋の陽射しが差し込む木造の訓練所は、子供たちの笑い声と掛け声で賑やかだった。木剣がぶつかる乾いた音が響き、外から吹き込む風が、汗の匂いと土の匂いを混ぜて運んでくる。
ジョンは壁際で腕を組みながら、子供たちの組手を見守っていた。隣にはルプスレギナが腰を下ろし、頬杖をついている。
「みんな元気っすねー。ジョン様が来ると張り切っちゃうんすよ」
「いいことだ。元気が一番。若い内は転んで覚えるもんだ」
そう言った矢先、子供たちの中のひとりが悲鳴を上げて転んだ。
「いってぇ! 足、足が!」
訓練所の空気が一瞬で張り詰める。ジョンはすぐに歩み寄り、膝をついた。少年の足首は、少し腫れ始めていた。踏み込みを失敗して、ひねったのだろう。
「どれ……ちょっと見せてみろ」
ジョンの手が少年の足首に触れると、ぴたりと静まり返った。彼は息を整え、掌に淡い光を灯す。
「〈気功治療(ヒーリング・ブレス)〉」
ふっと柔らかな気の波が広がった。空気が温かく震え、淡い金色の光が少年の足を包み込む。数秒後、腫れが引き、痛みに歪んでいた顔が驚きに変わった。
「……あれ? 痛くない!」
「すげぇ、ジョン様! 神官でもないのに癒しの技が使えるの!?」
子供たちが目を輝かせて群がる。ジョンは苦笑して手を離した。
「武道家ってのはな、壊すのも治すのも両方できて一人前ってもんだ」
「壊すのも……治すのも?」
「そうだ。強いってのは、ただ殴ったり、倒したりすることじゃない。
仲間を守る力、立ち上がらせる力――それも強さのうちだ」
ジョンの声は穏やかだったが、その奥には確かな重みがあった。
子供たちは静かに聞き入り、誰もふざけようとしなかった。
「命を奪う技は覚えやすい。だが、命を繋ぐ技は難しい。
だからこそ覚えろ。拳は壊すだけじゃなく、守るためにもあるってな」
「……どうした、ブレイン」
少し離れたところで見ていた青年が、腕を組んだまま難しい顔をしていた。
「いや……俺も何か、そういうの覚えた方が良いのかなって思ってさ」
ジョンはにやりと笑う。
「良い進歩だ。打撲や切り傷の処置くらいなら、今日から教えてやろう」
ブレインが目を見開き、やがて笑みを浮かべた。
「お願いします、師匠」
ルプスレギナがくすりと笑って立ち上がる。
「ふふっ、なんだか村の診療所みたいになってきたっすね。
ジョン様、子供たちの先生もすっかり板についてるっす」
「そうか? まあ、あいつらが怪我せず育ってくれりゃそれでいい」
訓練所の外では、秋の風が木の葉をさらさらと鳴らしていた。
光が差し込み、少年たちの笑顔が金色に染まる。
ジョンはその光景を見つめながら、静かに言った。
「――強さは、人を壊すためにあるんじゃない。
人を生かすために使えるようになった時、初めて本物になる」
その言葉を、誰も忘れなかった。