オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ 大陸各地 /*/
突如として夜空に現れた赤と緑の巨大な光の幕。
それは天頂を覆い尽くし、東西へ果てしなく伸び、まるで空そのものが裂けて燃え上がるかのように揺らめいていた。
「……な、なんだあれは!」
市場の人々が立ち止まり、商品を落として空を指差す。
野菜籠は転がり、子どもが泣き出し、荷車を操る御者が馬を止めることも忘れて天を仰ぐ。
「空が燃えている……? いや、血の川か?」
「南の空まで赤いぞ! 村が燃えてるのか!?」
誰もが理解を超える現象に、口々に叫び、街路に混乱が広がる。
農村の畑では、家畜が怯えて鳴き声を上げ、柵を突き破って逃げ出した。農夫は慌てて追いかけながらも、空を見上げたまま立ち尽くす。
「これは……終末の兆しか……? 祖父の語った災厄の予兆か……」
祈りを捧げる者もいた。神殿の前に集まった信徒たちは、神官に縋るように問いかける。
「神の御業なのですか? それとも罰なのですか!」
「……わからぬ。ただ、祈るしかない」
神官の声も震えていた。聖職者の言葉が不確かであることが、民の不安をさらに煽った。
都市ではさらに大きな騒乱となった。
夜警が鐘を乱打し、「火災だ!」と叫んだが、誰もが空を見て混乱するばかりであった。
高楼からは人々が身を乗り出し、子供が泣き叫び、商人は財を抱えて逃げ出そうとする。
「赤と緑の光が天を覆うなんて……魔王の仕業か、戦争の前触れか!」
人々は口々に噂を広げ、恐怖が恐怖を呼んで街は落ち着きを失っていった。
北方の雪原では、遊牧の民が焚き火の周りで狼狽していた。
「祖父の言葉の通りだ……星が裂け、空が落ちる時、世界は滅ぶと……!」
長老は沈黙し、若者たちは馬を抑えるのに必死になりながらも空から目を逸らせなかった。
東の海沿いでは、漁師が船を捨てて浜辺へ駆け上がる。
潮は引き、水平線までもが不気味な緑に染められていた。
「海が……死んでいく……!」
恐怖に駆られた者たちは、波打ち際でひざまずき、海に祈りを捧げた。
南の砂漠では、行商隊が旅を中断して天幕を張り、震えながら空を睨んでいた。
「砂嵐ではない……炎の帳だ……。神が我らを見下ろしているのか?」
砂に座り込み、仲間と手を取り合う者の姿は、もはや商人ではなく巡礼者のようであった。
どこにいても、誰もが同じ空を仰いでいた。
上空を彩るオーロラの美は、観測者の心に「畏怖」と「終末」をもたらした。
それが、惑星の自然の祝福であると理解する者は一人もいない。
人々の耳に響いていたのは、胸の鼓動と混乱の叫び声だけであった。
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視界一杯に惑星が広がる。
地平線は優美な曲線を描き、大陸は地図のように輪郭をあらわにしている。
雲を纏う惑星の大気の上、広大な範囲に亘ってオーロラが発生していた。それは蒸発したブラックホールから飛び出したプラズマ粒子によるものだったが、ジョンには自らを祝福する惑星の光に見えた。
上は赤、下は緑。その光のカーテンの東西の長さは数千km、厚さは約500m、下端は地上約100km、上端は約300から500kmはあるだろうか。この美しい光は大陸全土で観測できたと言う。
見上げる空も良いけれど、見下ろす世界も綺麗だ。
ほうと息をつくジョンの傍らに《ゲート/転移門》が開いた。同時に《ゲート/転移門》からアルベドとルプスレギナを従えたモモンガが現れる。
「ただいま、ルプー。
ただいま、モモンガさん。
ただいま、みんな。心配かけたな」
空には宝石をぶちまけたように無数の星々と月のような大きな惑星。
青く白い月と星の光に照らされた静かな美しい世界。転移してから何度も見ているが、夜毎にジョンが感動にうち震えている世界。
「あまり心配させないで下さい」
「いやー、さすがに今回はダメかと思ったね」