オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ カルネ・ダーシュ村・ジョンの工房 /*/
夕暮れ時、ジョンの工房には香の煙が立ち込めていた。
前に完成させた虫よけの香――乾燥させた薬草を粉にし、粉末状にした樹脂で固め、ぐるぐると渦巻き状に成形したもの。火をつければ煙が立ち上り、蚊も蠅も逃げ出す優れものだ。
村の子供たちには「ジョン様のぐるぐる」と呼ばれてすっかり人気だが、ジョンはその煙を眺めながら、次の実験に思考を巡らせていた。
「虫よけができるなら……アンデッド避けも作れそうだな」
ぽつりと呟いた声に、背後からルプスレギナが顔を出す。
「ジョン様、それ、また変なこと考えてる顔っすね。今度は何すか?」
「アンデッド避けの香だ。エ・ランテルやカッツェ平原じゃ、夜にゾンビやスケルトンが自然発生するだろ。ああいうのを遠ざけられたら、行商人や夜間警備隊にはありがたいと思わんか?」
「確かに……需要、ありそうっすね。アンデッド除けグッズなんてこっちの世界でも人気出そう」
ルプスレギナは耳をぴくぴく動かしながら興味深そうに工房を見回す。
机の上には、乾燥させた薬草が山のように積まれていた。聖なる力を帯びるとされる「銀鈴草」、腐敗を防ぐ「ユーカリの葉」、清めの儀式で焚かれる「白檀の樹皮」など、どれも香に使える素材だ。
「ふむ……あとは、信仰系のエネルギーを香に籠める手段があればな」
「信仰系魔法……ジョン様、自分のスキル構成じゃできないっすよね」
「だから、協力してもらう」
ジョンはそう言って、祈祷用の杖を手に取った。
「ルプー、ちょっと手を貸せ。お前、神聖属性持ってるだろ。軽くでいい、加護を込めてみろ」
「了解っす♪」
ルプスレギナが香材に手をかざすと、薄い黄金色の光がふわりと漂う。
同時に、ジョンはそれを慎重に撹拌し、粉末に混ぜ合わせた。
湯気のような香気が立ち上り、部屋の空気が一瞬だけ澄んだ気がする。
「……おお。悪くない」
「どう? 効きそうっすか?」
「うん、理屈の上では、“聖属性を帯びた揮発物質”ってことになる。これなら、アンデッドの近くで焚けば嫌がるはずだ」
その夜、ジョンとルプスレギナは試作品を数種類作り上げた。
乾いた草を細かく挽き、樹脂で練り、渦巻き状にして乾燥させる。ひとつは白檀ベース、ひとつは銀鈴草ベース、そしてもうひとつはルプスレギナの加護を込めた特製品。
翌朝。
二人は夜明け前の墓地へと向かった。
朝霧の中、石碑の影からぼんやりとスケルトンが這い出してくる。
「おあつらえ向きだな。さて、実験開始」
ジョンは一つの香に火をつけ、そっと地面に置いた。
白い煙が立ち上り、風に流れてスケルトンへと届く。
その瞬間、アンデッドの動きが一瞬止まり、ぐらりと後ずさった。
「……おお、嫌がってるっすね」
「成功だな。あとは煙の拡散時間と燃焼速度を調整すれば、実用化できる」
ルプスレギナは嬉しそうに尻尾を揺らす。
「“ジョン様のぐるぐる・アンデッド避け版”っすね!」
「名前がダサい。もう少し考えろ」
「えー、良いと思うっすよ。分かりやすいし」
ジョンはため息をつきながらも、微かに笑った。
香の煙は朝日に溶け、墓地を柔らかく包み込んでいた。
死と隣り合わせの土地に、静かな平穏をもたらす――そんな香が、今日も一つ、ジョンの手から生まれた。