オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ ナザリック地下大墳墓 第9階層・ジョンの私室 /*/
灯火の明かりが温かく揺らめく部屋。
調理台の上には、皮を剥かれたシャガイモが山のように積まれていた。
「ジョン様、ほんとにこれ全部揚げるんすか? わんこでもこんなに食べませんよぉ~」
ルプスレギナが、油鍋を覗き込みながら尻尾をふりふり。
その頬には、すでに小麦粉の白い粉がついている。
「おう。試作だからな。どうせやるなら量で攻める。――ルプー、あの香辛料、頼む」
「はーいっす♪」
軽快な返事と共に、ルプスレギナは棚の奥から小瓶を取り出した。
〈地上産スパイス・レッドソルト〉。帝国商隊から仕入れたばかりの高級調味料だ。
ジョンが指先で受け取り、軽く蓋をひねると、赤い粉が香ばしく空気に溶けた。
「……いい香りだな。少し辛味を効かせると、酒にも合うかな」
「ジョン様、まるで料理長みたいっすねぇ~。でも、揚げ物の匂いって……なんか、お腹の奥がくすぐられるっす」
「腹が鳴ってるぞ、ルプー」
「わ、聞こえました!? やだぁ~、ジョン様の前で恥ずかしい~」
わざとらしく頬を赤らめるルプスレギナ。
だがその尻尾は、隠しきれないほど嬉しそうに揺れていた。
油の中で、切り分けられたシャガイモがぱちぱちと弾ける音を立てる。
ジョンは温度を魔法で一定に保ちながら、揚げ具合を慎重に見極めていた。
「……よし、色づき始めた。表面が狐色になったら、一度引き上げて再度高温だ」
「二度揚げっすね? 外カリ中ホク、ってやつっす~!」
ルプスレギナがトングを手に、嬉々としてイモを掬い上げる。
黄金色に染まったそれを見て、思わず彼女が目を輝かせた。
「見てくださいよ、ジョン様! 完璧じゃないっすか!?」
「まだ気を抜くな、仕上げにもう一回――」
「へいっ、シェフ!」
ぱちぱちと油がはねる。
その音はまるで、二人の間の温度を少しずつ上げていくようだった。
――数分後。
テーブルの上には、香ばしい香りを立てる山盛りの揚げシャガイモ。
レッドソルトをひとつまみ振りかけると、湯気の向こうでほのかな赤が煌めいた。
「さて、試食だ」
「いっただっきま~す♪」
ルプスレギナがひとつ摘んで、ふうふうと息を吹きかけ、ぱくり。
カリッ――。
「……うっま~~~いっす! 外カリで中がとろけるっ! シャガイモの甘みが……あっ、後からピリッとくる! やばい、これ止まらないっす!」
「はは、狙い通りだな」
ジョンも一つ口に入れる。
熱気と油の香ばしさ、そしてスパイスの刺激が舌を包み――心地よい余韻が広がる。
「……悪くない。これ、ナザリックの食堂でも出せるレベルだ」
「マジっすか!? じゃあ名前つけましょうよ、名前! 『ジョン様特製・ルプ風スパイシーシャガイモ』とかっ!」
「長い。しかもお前の名前が入ってる」
「えへへ~、いいじゃないっすかぁ。だってジョン様と一緒に作ったんですもん?」
ルプスレギナはそう言って、またひとつイモを摘まんだ。
油に照らされたその瞳は、どこか子犬のように輝いている。
ジョンはふっと笑みを漏らしながら、冷えた酒を注ぐ。
「じゃあ……ルプの働きに乾杯だ」
「やった~! かんぱーいっす!」
カラン、と杯が軽く鳴った。
香ばしい匂い、笑い声、そして小さな幸せが満ちる静かな時間。
ナザリックの闇の中、二人だけの“温かい夜”がゆっくりと更けていった。
/*/