オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

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沈黙都市の沈黙

 

 

/*/ 沈黙都市・荒廃の広場/*/

 

 

広大な都市跡には、無数のビーストマンゾンビとスケルトンがうごめき、数にして約10万体。中心には、禍々しくも威圧感のあるソウルイーターが鎮座している。

 

イビルアイは魔導書を握り締め、息を呑む。

「……ジョン様、どうするの、こんな数……」

 

ジョンは落ち着いた表情で答える。

「焦るな。俺がアンデッドに感知されないのは……」

 

イビルアイが首をかしげる。

 

「気功で周囲の外気と同調して気配を消している。あいつらからは自然の一部としてしか感知できない」

 

イビルアイは目を見開く。

「すごい……技巧だな……」

 

ジョンは少し誇らしげに胸を張る。

「はっはっは、そうだろそうだろ。もっと褒めてくれ。褒められると伸びる大型新人だからな、俺は」

 

イビルアイは小さく笑みを浮かべ、魔導書の手を強く握り直した。

「……わかりました、ジョン様。今日は、その技巧、存分に見せてもらいます!」

 

背後に広がる死の螺旋の気配を感じながら、二人は沈黙都市の中心へ、慎重に歩を進めるのだった。

 

「隠形を解けば、俺の生命力に引かれてあいつ等集まってくるけど、イビルアイの広域破壊魔法だと範囲狭いから効率悪いな。これ使って」

イビルアイが手に取った巻物を指で撫で、目を見開く。銀糸のように走る紋様が薄らと光る。

 

「これは?」

 

ジョンは淡々と頷いた。

「第九位階魔法核爆発(ニュークリアブラスト)。弱い方だけど、あいつらをぶっ飛ばすには十分だし、効果範囲が広い」

 

「だ、第九位階魔法!?その巻物(スクロール)!? ここ、こんな貴重品を……!」

イビルアイの声が震える。召喚書や古書の匂いが乾いた室内に残る。第九位階が書かれたスクロールは、通常なら伝説の霧の奥、禁忌の対象だ。

 

ジョンは薄く笑った。

「まー今が使い時だろ。1万くらいは範囲に入るかな。これでソウルイーターごと中心を撃ち抜いて、行き場のない死の螺旋のエネルギーを横取りするんだ。魔法陣とかの準備も含めて、手順はこうだ――」

 

彼の指示は簡潔で正確だった。イビルアイは魔導書を開き、地面に大きく複雑な魔法陣を描き始める。符節を置き、結界の繋ぎを整え、周囲に並べた小さな聖石が低い唸りを上げる。ジョンは気を集中させ、外気と同調する気功を固めて隠形を保ったまま、周囲のアンデッドの注意を逸らす。

 

「準備できたら合図をくれ。俺はその隙に中心へ潜り込んで、生命渦の吸い口をこじ開ける」

 

イビルアイは頷き、震える手でスクロールを広げる。文字が吐息のように立ち昇り、巻物は朱と鉛色の光を放った。彼女の長詠唱が風に乗り、魔法陣が深く震える。

 

短い「今だ」の合図で、イビルアイは巻物を握りしめ、叫ぶように言葉を吐き出した。瞬間、空が引き裂かれたかのような轟音とともに、地を這う紅白の球体が炸裂する。衝撃は一帯を吹き飛ばし、古い石造りの建物が粉塵となって舞う。約十万の亡者が一斉に消え、骨と肉と魔力の混じった旋風が中央に集まっていく。

 

ジョンはその渦の中へ静かに踏み込み、片手を天に掲げる。彼の気が渦に触れ、死の螺旋がコイルを緩めるように解けていく。イビルアイは魔法陣に張った手を通じて、その奔流するエネルギーを受け止める。冷たく、ねっとりとした力が彼女の内側へ流れ込み、骨の奥まで震わせる。

 

波のように力が満ち、イビルアイの体躯が微かに震える。魔力の器が広がる感覚――彼女は成長の兆しを確信した。同時に、死の螺旋の一部が不満げにうなり、逃げ場を失った残滓が地に溶けていく。ソウルイーターの焦点は消え去り、中心は虚空に戻った。

 

しばらくの静寂の後、イビルアイは膝をつき、両の手を胸に当てる。瞳の奥に新しい光が宿り、詠唱で乱れた呼吸を整えながら小さく笑んだ。ジョンはそっと近づき、肩越しに囁く。

 

「無理はするなよ。器を広げるのは急がば回れだ」

 

イビルアイはふらつきながらも、力を取り戻す。

「……わかった、ジョン様。でも、これで少しは御方の役に立てるかもしれない」

 

二人は荒廃した都市の中心に立ち、遠くに見える沈むような空を見上げる。勝利は完全ではない。死の螺旋の残滓と、横取りした力の代償がこれから彼らに何をもたらすかは未だ分からない。だが少なくとも今――イビルアイは一歩、強くなっていた。

 

イビルアイは拳をぎゅっと握り、目を輝かせた。

「これであのガキ(隊長)に勝てる……!」

 

ジョンは肩をすくめて、淡々と応える。

「うん、まー互角かな」

 

イビルアイは思わず目を見開き、声を荒げる。

「なんだと!」

 

ジョンはふっと笑みを漏らし、遠くを見つめながら言った。

「よくもまー、あそこまで10年程度で鍛え上げたと思うよ」

 

イビルアイは少し黙り込み、視線を地面に落とす。しかし、内心では負けたくない気持ちが再び燃え上がる。修行の道はまだ始まったばかり――彼女の吸血姫としての戦いは、ここからさらに激化していくのだった。

 

 

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