オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ナザリック地下大墳墓第9階層・モモンガの執務室/*/
ジョンは背もたれに肘をつき、沈黙都市から持ち帰った成果を整理していた。
「モモンガさん、やってきたよ。死の螺旋、すごいね。20Lvくらい上がったんじゃないかな」
モモンガは書類に目を落としながらも、わずかに笑みを浮かべる。
「正直、うらやましい。しかし、10万人犠牲にしてもそのくらいしか上がらないのですか」
ジョンは肩を竦め、軽くため息をついた。
「ビーストマンとはいえ、一般人ばっかりだろうしね」
モモンガは淡々と答える。
「私の配下だとカジットくらいしか試せませんね」
ジョンはふと思い立ったように顔を上げる。
「あーそうか。そうだね。ユリが強化できたらなーと思ったけど」
執務室に沈黙が落ちる。だがジョンの目には、どこか楽しげな光が宿っていた。吸血姫イビルアイの成長のため、そして次なる戦いのために、まだまだやるべきことは山積みだ――。
/*/ ナザリック地下大墳墓第九階層・モモンガの執務室 /*/
静寂の帳が垂れこめる執務室。壁一面に並ぶ本棚は、知識の墓標のように整然と並び、その隙間を縫うように燭火が淡い陰影を描き出していた。
ジョンは机に肘をつき、何気なく問いかける。
「モモンガさん、オーバーロードのままでも香りは楽しめるんだよね」
モモンガは書簡から目を上げ、赤光を湛えた瞳窩でジョンを見る。
「……香り、ですか?」
「うん。お香でも焚いてみる?」
軽い調子の声が、重苦しい執務室に小さな波紋を広げる。
モモンガは顎に手をやり、しばし考えた。
「……悪くない案かもしれません。嗅覚は鈍くとも、完全に消えたわけではありませんから」
ジョンは口元を緩め、背後に控えるメイドへ目を向けた。
「今日はエトワルか……頼んでもよいかな」
「お任せください」
エトワルは静かに一礼し、数分後には黒檀の箱を手に戻ってきた。
蓋が開かれると、淡い光沢を帯びた棒状の香が何種類も並んでいた。
ひとつは乳香(フランキンセンス)。乾いた樹脂のかすかな甘さは、古の神殿を思わせる清浄な気配を纏っている。
もうひとつは沈香(ジンコウ)。濃く深い苦みと甘さが絡み合い、燃やせば煙は夜の森のように重く落ち着いた余韻を残す。
そして小さな包みに収められていたのは、薔薇の乾燥花弁を練り込んだ香。火を受ければ華やかな香りが広がり、陰鬱な空間に一輪の花を咲かせるかのようだった。
「本日は、執務に適したものをお勧めいたします」
エトワルは指先で沈香を取り、香炉に丁寧に立てた。火が移されると、白煙が細く立ち昇り、やがて揺らめく軌跡を描いて部屋へ広がる。
その香りは重厚でありながら、どこか心を静める力を持っていた。血や死の気配を纏う大墳墓にありながら、わずかに森の奥深くに佇む静謐さを呼び覚ます。
「……ふむ。確かに、落ち着きますね」
モモンガは赤い光を揺らし、煙の行方を見つめながら呟く。
ジョンは頷き、にやりと笑った。
「だろ? たまにはこういうのもいいもんだ。エトワル、ナイスチョイス」
メイドは変わらぬ無表情で一礼するのみ。しかしその所作は、どこか誇らしげに見えなくもなかった。
香は絶えず燃え続け、白い糸を空へと解き放つ。
やがて執務室の空気は重厚さを保ちながらも、心地よい安らぎを孕んだ別の静寂へと変わっていった。
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