オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

219 / 397
お香楽しむ不死者

/*/ナザリック地下大墳墓第9階層・モモンガの執務室/*/

 

ジョンは背もたれに肘をつき、沈黙都市から持ち帰った成果を整理していた。

「モモンガさん、やってきたよ。死の螺旋、すごいね。20Lvくらい上がったんじゃないかな」

 

モモンガは書類に目を落としながらも、わずかに笑みを浮かべる。

「正直、うらやましい。しかし、10万人犠牲にしてもそのくらいしか上がらないのですか」

 

ジョンは肩を竦め、軽くため息をついた。

「ビーストマンとはいえ、一般人ばっかりだろうしね」

 

モモンガは淡々と答える。

「私の配下だとカジットくらいしか試せませんね」

 

ジョンはふと思い立ったように顔を上げる。

「あーそうか。そうだね。ユリが強化できたらなーと思ったけど」

 

執務室に沈黙が落ちる。だがジョンの目には、どこか楽しげな光が宿っていた。吸血姫イビルアイの成長のため、そして次なる戦いのために、まだまだやるべきことは山積みだ――。

 

 

/*/ ナザリック地下大墳墓第九階層・モモンガの執務室 /*/

 

 

静寂の帳が垂れこめる執務室。壁一面に並ぶ本棚は、知識の墓標のように整然と並び、その隙間を縫うように燭火が淡い陰影を描き出していた。

 

ジョンは机に肘をつき、何気なく問いかける。

「モモンガさん、オーバーロードのままでも香りは楽しめるんだよね」

 

モモンガは書簡から目を上げ、赤光を湛えた瞳窩でジョンを見る。

「……香り、ですか?」

 

「うん。お香でも焚いてみる?」

軽い調子の声が、重苦しい執務室に小さな波紋を広げる。

 

モモンガは顎に手をやり、しばし考えた。

「……悪くない案かもしれません。嗅覚は鈍くとも、完全に消えたわけではありませんから」

 

ジョンは口元を緩め、背後に控えるメイドへ目を向けた。

「今日はエトワルか……頼んでもよいかな」

 

「お任せください」

エトワルは静かに一礼し、数分後には黒檀の箱を手に戻ってきた。

 

蓋が開かれると、淡い光沢を帯びた棒状の香が何種類も並んでいた。

ひとつは乳香(フランキンセンス)。乾いた樹脂のかすかな甘さは、古の神殿を思わせる清浄な気配を纏っている。

もうひとつは沈香(ジンコウ)。濃く深い苦みと甘さが絡み合い、燃やせば煙は夜の森のように重く落ち着いた余韻を残す。

そして小さな包みに収められていたのは、薔薇の乾燥花弁を練り込んだ香。火を受ければ華やかな香りが広がり、陰鬱な空間に一輪の花を咲かせるかのようだった。

 

「本日は、執務に適したものをお勧めいたします」

エトワルは指先で沈香を取り、香炉に丁寧に立てた。火が移されると、白煙が細く立ち昇り、やがて揺らめく軌跡を描いて部屋へ広がる。

 

その香りは重厚でありながら、どこか心を静める力を持っていた。血や死の気配を纏う大墳墓にありながら、わずかに森の奥深くに佇む静謐さを呼び覚ます。

 

「……ふむ。確かに、落ち着きますね」

モモンガは赤い光を揺らし、煙の行方を見つめながら呟く。

 

ジョンは頷き、にやりと笑った。

「だろ? たまにはこういうのもいいもんだ。エトワル、ナイスチョイス」

 

メイドは変わらぬ無表情で一礼するのみ。しかしその所作は、どこか誇らしげに見えなくもなかった。

 

香は絶えず燃え続け、白い糸を空へと解き放つ。

やがて執務室の空気は重厚さを保ちながらも、心地よい安らぎを孕んだ別の静寂へと変わっていった。

 

 

/*/

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。