オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

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東の巨人

夜の森の中をジョンは進んでいた。

青い星空に黒い森の影。黒い木々が後ろに流れて行く。木々の枝、下草の中には様々な虫や小動物。それらを狙う肉食獣に、様々なモンスター達。木々は風に身を任せて蠢き語り合い、夜の森の番人であるフクロウの鳴き声が遠くで響く。

 

供にルプスレギナとリュラリュースを引き連れて、ジョンは東の巨人の住処へ向かっていた。

 

護衛はいつものように八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)とシャドウデーモンの組が周囲を警戒。飛行できるものが不可視化し、上空から監視する布陣だ。

 

やがてジョン達は森の切れ目に到着する。切れ目といっても、森の中に点在する木々が生えていない場所だ。星明りに照らされて、木が切り倒され当りに散らばっているのが見える。大掛かりな建築物を作ろうとして失敗し、怒りのままに投げ捨てたようなそんな有様だ。

 

「アウラに任せてある建物を真似しようとしたのかな?リュラリュース、グって奴は顕示欲とかがあるのか?」

「はい、神獣様。奴は知性こそ低いですが、己が強者であると奢り、力を誇示しようとするだけの知能はあります」

 

「ふーん。そうすると交渉は難しいか」

 

「恐らくは隔絶した力の差を理解できないかと……」

 

見張りもいない大地に裂けたような入り口を晒す洞窟をジョンは覗き込む。傾斜は浅く、奥までそれなりに広がっているようだ。天井は高く、かなり大柄な生き物でも問題なく暮らせるスペースはあるように見える。しかし――

 

「臭いっすね」

 

そう。ルプスレギナが美麗な鼻筋に皺を寄せながら言う通り、下から悪臭が漂ってくる。ガスなどではなく獣脂や腐敗などの腐敗臭だ。鼻の良い人狼には一寸耐えられない臭いの強さだった。

 

「獣だって、自分の巣はもうちょっと綺麗にするものだけど……トロールは頑丈だから気にしないのか。〈下位呪詛(レッサー・カース)〉あたりで縛ってから、恐怖公に教育して貰う方が早そうだな」

 

足跡を見る限りは、オーガも複数体共生しているようだった。知らない足跡が東の巨人――ウォー・トロールと言う種族のものなのだろう。こちらも複数体いるようだ。

 

「……リュラリュースは中に入った事はあるのか?」

「申し訳ございません。儂も中までは……」

 

身体を縮こまらせて詫びるナーガにジョンは肩をすくめて見せた。「まぁ、この臭いの中には入りたくないわな」そう言って「それでは呼び鈴代わりに呼んでみるとしよう」

 

洞窟の中を覗き込むと、ジョンは咆哮を放った。

 

洞窟の反響が激しく、正確な位置は掴めないが、少し遅れて洞窟の奥の方からも咆哮が返ってくる。

そのまましばらく待つと洞窟の奥から大量のモンスターたちが歩み出してきた。人間の身長を遥かに超える――足跡から予測した通りの2m後半台の――大柄なモンスターたちだった。

 

妖巨人(トロール)〉が6体。オーガが10体の中々の大所帯だ。

 

先頭に立つ〈妖巨人(トロール)〉は他の〈妖巨人(トロール)〉よりも体格に優れ、己への自信が醜い容貌にはっきりと浮かんでいる。武装も他の〈妖巨人(トロール)〉よりも良く、何枚もの動物の皮を集めて作った革鎧らしきものを着用し、その手には巨大なグレートソードが握られていた。魔法の武器らしく、中央を走る溝からはぬらぬらとして液体が刃へと伝わっていた。

 

「やぁ、ウォートロール。良い夜だな」

「狼人?人間に、蛇?何をしに来た!東の地を統べる王である、グ、に人間を献上しに来たのか!」

「……お前にくれてやるものなんて何一つないよ。我が軍門に下れ、ウォートロール」

 

そう言って、ジョンは彼らにも理解できる程度に気を解放し、叩き付けた。圧倒的強者のオーラを喰らい、後に控えていたリュラリュースがガタガタを震えだす。オーガ達は蜘蛛の子を散らすように逃げ出すが、不可視のシモベたちに手足の腱を切られて倒れ伏した。

 

「臆病者が!!我らは臆病者とは違う!お前はここで喰われるんだ!次にその人間も喰ってやる!」

「グよ。神獣様に逆らうな。大人しく頭を垂れて従うんじゃ――聞いてねぇ」

 

会話の割りに頭が悪そうなのは感知能力に劣るからなのかな?とジョンが考えている間に襲い掛かるトロール6体の内、4体の動きが不自然に停止する。ルプスレギナの〈全種族束縛〉によるものだ。もう1体はリュラリュースの〈火球(ファイヤーボール)〉で吹き飛ばされたところを再びの〈全種族束縛〉で拘束される。

 

グが自由なままなのは、単にジョンの遊び相手に選ばれたからに過ぎない。

 

大上段からグレートソードが振り下ろされる。グの持つ3mにも近いグレートソードの一撃は、しかし――

「――う?」

「軽いな」

ジョンはびくともしない。醜い顔を驚きで歪めたグが、今度は横殴りにグレートソードを振るった。それでもジョンはびくともしない。ジョンのアイアン・スキンを抜くにはグの攻撃は弱すぎるのだ。

「む!?」

数歩後退したグが自らの持っている剣とジョンを交互に見比べる。それから堂々と背中を見せて歩き出すと束縛されて身動き出来ない部下の前に立つ。

次の瞬間、グレートソードが翻り、部下の筈のトロールに切りつけた。肩口から入った剣はトロールの肉体を容易く断ち切り、鮮血が噴き上がる。束縛されている部下のトロールは束縛の魔法の為に悲鳴すら上げられない。

 

部下の身体が不自然に断ち切れ、倒れる姿を満足そうに見ていたグは大きく頷いた。武器に異常はないと確信できたのだろう。

 

断ち切られた肉体が早回しでくっつき再生していく。こちらにきて大きな怪我はしていないが、おそらく自分の怪我も同じように再生するのだろうとジョンは思いながら、トロールたちの寸劇を眺めていた。

 

「ま……なんだ。部下を大事にしない奴はいらないな」

 

お前は死ね、とジョンの手刀が大上段から振り下ろされる。邪悪な表情を浮かべながら断ち切られた部下を眺めていたグは、時間差で音もなく中央から真っ二つになって倒れた。部下のトロールたちの目が驚愕に見開かれる。自分たちを力で支配してきた絶対的な王者の余りにもあっけない幕切れだった。

 

「ルプー。再生しないようによーく焼いてやれ」

「了解っす!」

 

再生しようと左右の身体がくっつこうとしているグの身体を巻き込んで、地面から炎が噴き上がる。

ルプスレギナの〈噴き上がる炎(ブロウアップ・フレイム)〉はグの身体を焼き尽くすまで噴き上がり続けた。

 

「リュラリュース、こいつらは人間の味もゴブリンの味も知ってるんだよな?」

「はい。群れに属さないものであれば、時にオーガも食していたようです」

 

なら、こうするかと、ジョンは残りのトロール5体とオーガ10体に『人間・亜人を食べる事を禁止する』と呪詛を掛けた上で、恐怖公の元へ送り出した。それで教育が足りなければ、蟲毒の穴にでも放り込もうと考えながら。

 

「神獣様。愚かな儂に教えて下され。何故、あのものたちに慈悲をお掛けしたのですか?」

「ん?村のオーガは良く働いてくれてるからな。あいつらの嫁になれるオーガがいるかもしれない。あとウォー・トロールはお土産だな。うちの盟主は珍しい種族に目がないんだ」

「オーガの嫁……なんと慈悲深き御方」

 

リュラリュースはジョンに頭を垂れた。その慈悲が自分たちの種族にももたらされるように、と。

 

「お前たちはちゃんと働いてくれてるよ。そう心配しなくても大丈夫さ」

 

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