オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

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ローラーダッシュ

 

 

/*/ 魔導国・技術試験場 /*/

 

 

巨大な鉄の騎士の足元に、光沢のある金属製の輪が取り付けられていた。

ジョンは腕を組みながら、その異様な姿を見上げる。

 

「……うん。見た目はちょっとアホっぽいが、理屈の上ではいけるはずなんだよな」

 

近くでルプスレギナが笑いを堪えきれずに肩を震わせた。

「ジョン様、これ……ほんとに走るの? 足に車輪って、なんかおもちゃみたい」

「そう言うな。ローラーダッシュだ。高速で滑るように移動できれば、鉄の騎士の戦術行動範囲が格段に上がる」

 

鉄の騎士の足元に埋め込まれた魔導駆動輪――高圧魔力で回転を維持する自走ユニット。

タイヤの素材は、魔導合金とスライム樹脂を組み合わせた耐摩耗ゴムで、滑走時の摩擦を自動制御する構造だ。

 

ジョンは試験台の操作盤に手を置き、指を鳴らす。

「――起動」

 

鉄の騎士の足裏が微かに光を放ち、次の瞬間、床を滑るように前進した。

金属音が走り、地面を擦る音が鋭く響く。

ルプスレギナが驚いて目を見開く。

「おおっ、動いた! 本当に滑ってる!」

「おお、いけるな……! だが……」

 

鉄の騎士が勢い余って壁にぶつかり、試験場全体が小刻みに揺れた。

「……減速制御がまだ甘いか」ジョンは額を押さえる。

 

ルプスレギナは腹を抱えて笑う。

「アハハ! 止まれないローラーダッシュって、なんか可愛いじゃない!」

「笑い事じゃない。実戦投入したら味方陣形ごと突っ込むぞ」

 

ジョンはデータを確認しながら、楽しげに頬を緩めた。

「でも悪くない。推進効率は飛躍的に上がってる。調整次第じゃ、歩行よりも早く安定して移動できる」

ルプスレギナがにやりと笑う。

「つまり、戦場をスケートして突っ込む鉄の騎士が見られるわけね?」

「そういうことだ。見た目の妙な格好良さもポイントだな」

 

ジョンの目に、新たな戦場の光景が浮かぶ。

金属の巨人たちが滑るように地を駆け、戦線を縦横無尽に走り抜ける――ローラーダッシュ戦術。

鉄の騎士の新たな進化は、またひとつ現実味を帯びてきた。

 

 

/*/ 魔導国・実験格納庫 /*/

 

 

金属音が響く広大な工房。

巨大な鉄の騎士――《アイアン・センチネル》の脚部に、円形の鉄輪と複雑なギア機構が組み込まれていた。油の匂いと魔力の光が混じり合う。

 

ジョンはスパナを片手に顎を撫でる。

「……ローラーダッシュ、理屈の上じゃいけるはずなんだよな。問題はバランス制御か」

 

試作機の脚部には、厚い鋼板を削り出して作ったローラータイヤがはめ込まれている。さらに、脛の横には――地面に突き刺すための金属杭《ターンピック》が装備されていた。

 

ルプスレギナが面白そうに覗き込みながら首を傾げる。

「ジョン様、これって止まる時どうするんです? 滑りっぱなしにならない?」

「……うん、だから付けたのがこれ」ジョンはにやりと笑って、ターンピックを指差した。

「突き刺して無理矢理軸回転を止める。で、その反動を利用して旋回。……理屈の上では、アーマード・トルーパーのローラーダッシュっぽくなるはず」

 

ルプスレギナが目を輝かせた。

「おおっ、面白そうっすね! 乗ってみたい!」

「いや、今回は俺が試す。データがねぇからな。どう転ぶかわからん」

 

そう言って、ジョンは操作椅子に腰を下ろし、魔導制御インターフェイスを展開した。

魔法陣が床に走り、鉄の騎士がわずかに揺れる。

 

「――起動。動力、安定。……行くぞ!」

 

金属の咆哮とともに、ローラーが回転を始める。

数トンの質量が床を滑るように走り、風圧で器具が吹き飛んだ。

そのままジョンが足首の操作をひねる。

 

「ターンピック、打ち込み!」

 

ガンッ! と床に杭が突き立ち、巨体が半身を軸にして急旋回。

遠心力に耐えながら、ジョンは制御陣を手動で補正し続けた。

 

ルプスレギナは手を叩きながら叫んだ。

「すごーい! 本当に曲がった! けどジョン様、めっちゃ無理してません!?」

「っはは……! そりゃあ、データ取るためだしな! 体で覚えさせりゃゴーレムも学習する!」

 

旋回後、機体は見事に安定を取り戻す。

ジョンは汗を拭きながら満足げに笑った。

 

「――よし。この制御パターン、あとでゴーレムAIに組み込む。

 これで地上戦の機動、ちょっとはマシになるぞ」

 

ルプスレギナは楽しそうに歯を見せて笑った。

「さすがジョン様っすね! そのうち空も走るんじゃないっすか?」

「いや、それはいつかの仕事だな。俺は地べた専門よ」

 

――金属の匂いと、制御データの光。

ジョンの中で、新たな兵器構想の輪郭が静かに形を取り始めていた。

 

 

/*/ 魔導国・実験格納庫 /*/

 

 

左腕の装甲が開き、そこから太い鉄の筒がゆっくりとせり出す。筒の先端には六角形の鋭利なヘッド──深くねじれた刃溝と衝撃吸収のリングが刻まれている。ジョンは腕の装着部を撫でながら、にやりと笑った。

 

「左腕一本で貫く。正面突破を期待してる連中には、これが一番効くんだよな」

 

パイルバンカーは単なる杭を打ち込む機構ではない。打ち出しは磁化した衝撃魔導結晶の瞬間圧縮で行い、杭の先端は魔力で微妙に熱を帯びて敵装甲を瞬間軟化させる。杭は打ち込むと同時に回転し、内部の螺旋刃が装甲を裂きながら奥へと食い込んでいく――まるで巨針が鉄を縫うかのように。

 

ジョンは操縦席で静かに合図する。目標は格納庫の遠隔標的、厚鋼の盾板。ルプスレギナが息を飲む。彼女の目の前で、左腕が構えを取ると、筒が唸り、魔力の圧縮が耳の奥を震わせた。

 

「打ち出し、三、二、一」ジョンの声で引き金が引かれる。轟音とともに杭が突き出し、鋼板にめり込む。衝撃で周囲の砂利が跳ね、火花が飛び散る。杭はそのまま奥へと進み、盾板を貫通して反対側に刃先を突き出した。

 

騎士の左腕はゆっくりと引き、杭を回収する機構が働く。だが試験では敢えて回収を遅らせ、杭が相手貫通時に発生する応力と装甲破壊のデータを取り込む。ジョンは満足げに眉を上げ、モニタに表示されたグラフを指でなぞる。

 

「相手の装甲層がこう崩れて、内圧が一気に抜ける。近接戦でこれが決まれば、殲滅力は相当だぞ」

 

ルプスレギナは拍手しながら笑った。

「まあ、即刺して即抜くって運用もできるのね。突入の合図と同時に一発で道を開く感じだわん」

 

ジョンはさらに過激な運用案を思案する。杭を敵に刺したままパイルを起点にして機体を回転させ、敵の体勢を崩す『串刺しスイング』。或いは杭を抜かずに機体を踏み込ませ、そのまま近接武器で内部を薙ぐ戦法??どれも想像するだけで戦況を変える力を秘めていた。

 

格納庫の空気がまた少し熱を帯びる。ジョンは装置のログを取り、次の試験で「突き刺したままの運用」を試すかどうか考えを巡らせた。ルプスレギナは目を輝かせて言う。

 

「ジョン様、次はそれでよろしくっすよ! 串刺しスイング、見たい見たい!」

「おう、楽しみにしてろ。だが安全策はちゃんと入れる。誰かを串刺しにして喜ぶ趣味はねぇからな」ジョンは真顔で言い放ち、すぐに笑った。

 

――鋼と魔力の匂いの中、左腕の杭は次なる戦術を待ち構えている。

 

 

/*/ 魔導国・射撃試験場 /*/

 

 

格納庫の奥、岩板で囲われた射撃レンジにジョンが立つ。彼の手には見るからにゴツい大型魔導ライフル――俗に〈火球〉を放つ『タロン=キャノン(仮)』が抱えられていた。砲身は長く、結晶リングが十字に回転する機構が露出している。装填窓には六つ並んだ砲弾状の魔力カプセルが覗く。

 

「これが改良型の大型ライフルだ。装弾は六発。全部撃ち尽くしたら、内部の圧縮結晶を冷却・再調整するために十二時間は休ませないといけない」ジョンは淡々と言い、目の前の標的に狙いを定める。

 

引き金を引けば、蒼白の火球が轟音とともに飛び出す。命中と同時に爆炎が拡がり、厚い岩塊の表面が砕け散った。連射性能は圧倒的だが、六発を撃ち尽くすと砲身の結晶は疲労し、熱とマナの累積ダメージが出る。適切に休ませずに運用すると結晶破壊や暴走の危険がある。

 

一方で、歩兵が携行する〈火球〉ランチャーは簡素だが実用的だ。片手で構える小型筒に一発だけ収まり、発射後は結晶を速やかに安定化させるために二時間のインターバルが必要になる。これを守らない兵士は、次弾で精度の低下や小規模なバックファイアを招く。

 

ルプスレギナが小さく舌を出す。

「砲撃力は脅威的だけど、使いどころを間違えると自分が燃えるってことね」

「そうだ。だからこそ、運用にノウハウがいる」ジョンは微笑む。

 

 

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