オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

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武王vs鉄の騎士

 

 

/*/ 帝国・アーウィンタール 帝都闘技場 /*/

 

 

帝国最大の娯楽、闘技場。

その中央で咆哮を上げるのは“武王”ゴ・ギン・ウォートロール。

 

身の丈三メートル。鉄塊のような筋肉の上から、重厚な全身鎧をまとい、手には人間など豆粒にしか見えぬ巨大な棍棒。

「三十戦無敗」「人族殺し」「武王」――呼び名は数あれど、要は“帝国最強の剛腕”である。

 

観客たちはその名を叫び、闘技場は熱気に包まれていた。

 

だが最近、彼の名を脅かす噂が流れ始めていた。

 

「あの鉄の騎士――有人で動く魔導鎧――を、武王にぶつけたらどうなる?」

「帝国の闘技場で、それが見られるなら幾らでも払う!」

 

興行人オスクはその声を聞き逃さなかった。

儲けの匂いを嗅ぎつけた商人は、ナザリックとの取引で顔を利かせると、すぐに魔導国へと使いを走らせた。

 

――そして。

 

 

/*/ ナザリック地下大墳墓 第九階層・ジョンの私室 /*/

 

 

ルプスレギナが書状を手に、にこにこしながら報告する。

 

「ジョン様ぁ、帝国のオスクさんからお手紙ですよぉ。闘技場に鉄の騎士を出して欲しいって」

 

「……武王ゴ・ギンの相手、か」

ジョンは手紙を受け取りながら低く唸る。

 

「面白い提案ではあるが、帝国領での興行となれば、ジルの許可なしには動けん。

 ……まあ、あの男のことだ。話を持っていけば、むしろ歓迎するかもしれないな」

 

ジョンは立ち上がる。

 

「ルプー、準備しろ。帝都に行く」

 

「わっかりましたぁ♪」

 

こうして、武王と鉄の騎士――“帝国最強”と“鉄の騎士”が相まみえることとなる。

帝都は再び、熱狂の渦に包まれようとしていた。

 

 

/*/ 帝国アーウィンタール 皇帝執務室 /*/

 

 

黄金の装飾が施された重厚な扉が開かれる。

護衛の騎士たちが控え、玉座の間へと導くように整列していた。

 

「……入れ」

静かながらも威厳のある声。

 

ジョンは軽く頷くと、隣に控えるルプスレギナを従えて歩み出た。

その足音は金属の響きをもって、広大な大理石の間にこだました。

 

玉座の上――赤き瞳を持つ皇帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスが、書類を閉じながらゆっくりと顔を上げた。

彼の周囲には宰相や近侍が控え、視線が一斉にジョンへと集まる。

 

「……久しいな、ジョン殿。

 アインズ・ウール・ゴウン魔導国の“大使閣下”が、わざわざこの帝都まで何の用だ?」

 

「単刀直入に言う。帝国の闘技場で、“鉄の騎士”を出場させたいという話が持ち上がった」

 

ジルクニフの眉がわずかに動く。

「……ふむ。オスクの仕業だな」

 

「察しが早い」

ジョンはわずかに笑う。

 

「あの興行師、金の匂いには敏い。だが――問題はそこではない。

 魔導国の兵装を帝国内で“戦わせる”というのは、政治的にも危うい。

 陛下の許可がなければ、俺は動かせない」

 

「……なるほど、毎回こう話を通してくれると良いのだがな」

ジルクニフは顎に手を当て、静かに考え込む。

 

「帝国闘技場の観客は三万を超える。あの“武王”とやらの強さも確かだ。

 その場に“魔導国の機械兵”を出せば、衝撃は計り知れん。

 ……だが、それは悪くない話だな」

 

彼の唇に、政治家特有の笑みが浮かぶ。

 

「私が許可を出せば、帝国の名誉も保たれ、魔導国との結びつきも強まる。

 ……よかろう。出場を認めよう。ただし条件がある」

 

「聞こう」

 

「“鉄の騎士”が勝てば、帝国技術顧問団に観戦と観察の権利を与える。

 そしてもし敗れた場合――帝国は“改良費”として一定額を魔導国へ支払う。

 ……つまり、勝っても負けても互いに得るものがある、ということだ」

 

ジョンは少しだけ目を細めた。

「抜け目がないな、ジル」

 

「誉め言葉として受け取ろう。……どうだ?」

 

一瞬の沈黙。

そしてジョンは静かに頷いた。

 

「いいだろう。その条件で手を打つ」

 

ルプスレギナが後ろで笑顔を浮かべ、ぴょんと軽く跳ねた。

「やったぁ♪ 鉄の騎士ちゃん、いよいよ出番ですねぇ」

 

「ただし――」

ジルクニフが言葉を継ぐ。

 

「一つだけ忠告しておこう。

 あの“武王”は、単なる闘士ではない。

 戦場で百を屠り、生き残った本物の怪物だ。

 見世物として出した程度では、無傷では済まんぞ」

 

ジョンは静かに微笑んだ。

 

「構わん。あれは、そういう戦いのために造った」

 

帝都の空気が、わずかに冷たく揺らいだ。

 

 

/*/ 魔導国・機工研究棟 /*/

 

 

赤黒い魔力灯が整然と並ぶ、金属と魔法の工房。

天井のアーチには、魔導式クレーンと拘束具が取り付けられ、

その中心には、重々しい音を立てて“鉄の騎士”が立っていた。

 

全高四メートル。

漆黒の装甲は幾度もの戦闘を経て傷付き、

修復の跡が銀色に光を反射している。

 

ジョンは端末状の魔導盤を操作しながら、左腕に新しく装着したパイルバンカーを確認していた。

「……よし、圧縮魔力タンク、正常。ピストン・チャージ完了。

 試射――準備いいぞ、ルプス」

 

「はぁい」

ルプスレギナが愉快そうに尻尾を振りながら、

遠隔制御台に手をかざす。

 

――ズドン!

 

轟音と共に、杭が空気を裂いて壁面に突き刺さった。

衝撃で石壁がひび割れ、白い粉塵が舞う。

 

「おーっ、やるぅ!これ刺されたら死にますねぇ?」

「刺されなくても死ぬぞ。衝撃波で内臓潰れる」

 

「ひゃー、こわ」

 

ジョンは薄く笑いながら、次に右手の大型ライフルへ視線を移した。

銃口は厚く、リボルバー式の弾倉が重々しく回転する。

刻印された六つの魔法陣が、鈍く橙に光っていた。

 

「〈火球〉発射試験、開始」

 

カチリ。

引き金を引く――

 

――ボウッ!

 

赤熱した弾丸が射出され、模擬標的を包み込むように爆発した。

溶けた鉄片が雨のように床に散る。

 

「発射成功。反動制御、安定。……ただし冷却は12時間必要だな」

ジョンは魔導盤に結果を書き込みながら、満足げに頷いた。

 

ルプスレギナが笑いながら覗き込む。

「12時間かぁ。1日2戦が限界ですねぇ。

 でも、闘技場ってそんなに長くやらないし、ちょうどいいかも」

 

「だな。あとは脚部のターンピック制御だ。

 地面への打ち込みタイミングを誤ると、自壊する」

 

「またジョンさんが無理矢理乗ってデータ取るやつですねぇ」

「まぁな。俺が乗らないと学習が進まん」

 

彼は冗談めかして言いながら、補助席に腰掛けた。

鉄の騎士の胸部装甲が開き、黒い操縦桿が露わになる。

 

「さぁ、俺の代わりに戦う“鉄の騎士”。

 お前の初陣は、帝国最強の“武王”だ。

 派手に暴れてこいよ」

 

ジョンの目が、わずかに笑う。

その奥には、戦士としての興奮と――創造主としての誇りが宿っていた。

 

 

/*/ ハバルス帝国首都・中央闘技場 /*/

 

 

地鳴りのような歓声が天を突き抜けた。

万を超える観客の声が、帝国の誇る円形闘技場の石壁を震わせる。

砂塵の舞う闘技場の中央に、ひときわ巨大な影が立っていた。

 

身の丈三メートル。全身を分厚い黒鉄の鎧に包み、

棍棒というよりも鉄柱と呼ぶべき武器を肩に担ぐ。

――帝国無敗の男、武王ゴ・ギン。

 

その名を叫ぶ観客の熱気が、炎のように渦を巻く。

 

「本日! 帝国が誇る無敵の武王に挑むのは――!」

「魔導国より参戦、未知の戦闘兵器――“鉄の騎士”!」

 

鉄の扉が開き、重い足音が響いた。

――ガシン、ガシン、ガシン。

 

黒光りする装甲。

胸部の魔法陣が金色に脈動し、

左腕には巨大な杭打ち機〈パイルバンカー〉、

右手には六連装の魔導ライフル。

 

観客席からどよめきが起こる。

「なんだあれは……」「ゴーレムか?」「誰が操ってる?」

 

貴賓席では、ジルクニフが腕を組み、無表情に見下ろしていた。

隣の興行主オスクは脂汗を浮かべ、興奮を抑えきれず身を乗り出す。

「へ、陛下! あれが魔導国の鉄の騎士です! 動きは鈍いが、一撃は――!」

 

ジルクニフは静かにジョンへ視線を向けた。

「……これが、魔導国の“鉄の騎士”か」

 

ジョンはにやりと笑って肩をすくめる。

「まぁ、初陣だしな。見ててくれ」

 

闘技場の中央で、武王ゴ・ギンが棍棒を肩から下ろした。

「……鉄の塊か。よかろう、潰すだけだ」

 

その声と同時に――砂が弾けた。

 

ゴ・ギンの初動は獣じみていた。

地を割るような踏み込み。振り抜かれる鉄柱。

その質量の暴力が、鉄の騎士を正面から叩き潰さんと迫る。

 

――ガギィィン!

 

凄絶な金属音。

鉄の騎士は腕を交差して受け止め、地面を滑る。

脚部に展開されたタイヤが唸り、ローラーダッシュで距離を取る。

 

観客が一瞬息を呑んだ。

「動いた!?」「速いぞ、ゴーレムが!」

 

ターンピックが地面に突き刺さり、

鉄の騎士が反転――パイルバンカーを構える。

 

――ドンッ!!

 

杭が空を裂き、衝撃波が砂塵を吹き飛ばした。

武王の棍棒が弾かれ、地に叩きつけられる。

だが巨体は怯まず、獣の咆哮とともに突進する。

 

「いいぞォォォ!!」観客席が沸き立つ。

 

再び打ち合い。

ゴ・ギンの一撃が胴を叩き、鉄の騎士がよろめく。

操縦席の魔導制御盤に手を置き、ジョンは短く呟いた。

 

「落ち着け……ここからだ」

 

ライフルの魔法陣が点灯する。

六つの火球が弾倉内で光を放ち――

 

――轟炎。

 

一発、二発、三発。空気を焼く爆風が闘技場を覆い尽くす。

武王の巨体が弾き飛ばされ、砂の海を転がった。

 

静寂。

数秒ののち、観客が息を吹き返すように叫ぶ。

 

「勝ったのか!?」「あの鉄の兵が……!」

 

煙の中、鉄の騎士が立っていた。

胸部の紋章が淡く光り、左腕のパイルバンカーが再装填動作に入る。

 

ぴくりと、砂を掻く指。

――武王が立ち上がった。

 

「やっぱりな……あの鎧、炎対策してるよな」

操縦席のジョンがぼそりと呟く。

ウォートロールの再生能力を疎外する〈火球〉も、分厚い鎧に阻まれて有効打にならない。

 

武王が棍棒を拾い上げ、雄叫びを上げる。

大型ライフルの銃口が火を噴くが、棍棒のフルスイングが火球を打ち砕いた。

――遅い。武王ほどの猛者ならば、撃ち落とせる速度だった。

 

突進してくる巨体。

ローラーダッシュで距離を取りながら、鉄の騎士はライフルを背部マウントの大剣に交換する。

ローラーが反転し、砂を抉りながら前進。

 

轟音。武王の棍棒と、鉄の騎士の大剣が正面から激突する。

 

「武王! いけぇぇぇ!!!」観客席が割れんばかりに叫ぶ。

 

一合、二合――

打ち合うたび、天秤は生身の武王に傾いていった。

制御系が未熟な鉄の騎士では、熟練の戦士の技に反応しきれない。

 

そして――

 

大剣が弾き飛ばされる。

返す刀で振り下ろされた棍棒が、鉄の騎士の頭部を粉砕した。

 

ジルクニフは小さく息を吐く。

「……武王の勝ちだ」

 

歓声が、再び闘技場を満たしていった。

 

 

/*/ ハバルス帝国首都・魔法省・会議室 /*/

 

 

石壁の冷たい空気に、異様な緊張が漂っていた。

鉄の騎士の闘技場出場映像が巨大魔導スクリーンに映し出され、

会議室の上役たちが沈黙のまま視線を注ぐ。

 

「……本当に、魔導国の鉄の騎士は、あの武王を押し返したのか……?」

老練な魔法省の技術官が、震える声で呟いた。

 

「動きは鈍いと思っていたが……脚部のローラーダッシュ、ターンピック制御、パイルバンカー……」

若手官僚が魔導筆でメモを取る手を止め、唸る。

「……これは、単なる展示用兵器ではない。実戦投入できるぞ」

 

映像の中、鉄の騎士は六連装ライフルで火球を放つも、武王の全身鎧に阻まれて効果は限定的。

しかしパイルバンカーでの攻撃、ローラーダッシュの回避行動は、熟練兵士相手にも有効だった。

 

「鉄、だけでこの動きか……素材だけでも魔導国と比べると格段に違う」

主任技術官が震える手でスクリーンを指す。

「魔力添付と立体魔法陣による補助制御が、ここまでの運動性を可能にしているのか……」

 

静寂を破って扉が開く。

「ジルクニフ陛下、お許し頂ければ、この鉄の騎士のリバースエンジニアリングに着手したい」

若手研究官が深々と頭を下げた。

 

ジルクニフは冷たい目でスクリーンを見つめたまま、静かに頷く。

「望むところだ。材料から制御系まで、全て解析せよ。

 魔導国の技術を取り込みつつ、帝国独自の歩兵戦術に適合させるのだ」

 

官僚たちは驚き、思わず顔を見合わせる。

「陛下……これは、単なる観光兵器ではありませんぞ……」

「……だが、技術は確かに一級品だ」

 

 

/*/ 魔導国・研究棟 /*/

 

 

鉄の騎士のデータが魔導盤に蓄積され、ジョンが操作する。

「おお……帝国、反応早いな」

ルプスレギナが尾を振りながらスクリーンを覗き込む。

 

「脚部のローラーダッシュ、ターンピックの角度、衝撃吸収……全部解析されてますよ」

「まぁな。俺が乗って無理矢理制御したデータがあったから、帝国でもすぐ気づくと思ってた」

 

ジョンは魔導盤に次々と新しい制御系の試作案を打ち込み、指示を出す。

「大型ライフルは発射間隔を短くした方がいいな。パイルバンカーも角度補正付きに改良できる」

ルプスレギナが微笑む。

「闘技場での実戦データが、こんなに役立つなんて、楽しいっすね」

 

ジョンは頷き、少し目を細めた。

「量産・運用を考えると、歩兵や操縦士の教育も必要になるな……だが、楽しみだ」

 

ナザリックの冷たい空気の中、二人の頭上に、まだ誰も知らぬ鉄の騎士の未来が広がっていた。

 

 

/*/ 研究棟・鉄の騎士格納庫 /*/

 

 

ジョンは操縦席に腰かけ、腕を組んで鉄の騎士の制御盤を眺めていた。

「ふむ……ローラーダッシュの加速もターンピックの角度補正も悪くないな」

 

ルプスレギナが横で書類を整理しながら、ニヤリと笑う。

「ジョン様、まだ改良するつもりっすか」

 

背後から低く、冷ややかな声が響いた。

「……ジョンさん。あんまり技術を渡しすぎてませんか?」

 

振り向くと、モモンガが両手を組んで立っていた。

瞳の奥に少しばかりの怒りと、心配が混じっている。

 

「んー、まぁ、帝国も魔導国も同じで、俺がやった方が速いんだけどさ」

ジョンは肩をすくめ、にやりと笑った。

「〈火球〉もパイルバンカーも、俺が自分で使った方が強いし、連射もできるし。素手で殴った方が一番強いんだよね」

 

モモンガは眉をひそめる。

「……あなた、本当にわかってるのか? アイアンゴーレムなんて、殴れば壊れるものを渡して」

 

「そうそう、それな」ジョンは片手を挙げて肩を叩くように言った。

「鉄の騎士っても、40Lvもあれば殴った方が強いし、魔法だってそうだ」

 

ルプスレギナがクスクス笑いながら補足する。

「ジョン様、またいつもの“力押し主義”ね」

 

モモンガはため息をつき、腕を組んだまま眉間に皺を寄せる。

「……君はいつも、こうやって自分の好きなようにやるんだから」

 

ジョンは肩越しにモモンガを見て、軽く笑った。

「まあ、心配は無用さ。帝国には少しだけ技術を見せておくけど、結局本番で最強なのは俺自身なんだから」

 

モモンガは苦々しく舌打ちをしながらも、どこか呆れたように目を細めた。

「……やれやれ、本当に懲りないな」

 

鉄の騎士の装甲が静かに光を反射し、二人のやり取りを見守るように立っていた。

 

 

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