オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ナザリック地下大墳墓第9階層ジョンの執務室/*/
夕刻の光が微かに差し込む中、ジョンはデスクに肘をつき、書類をぱらぱらとめくっていた。
「ふぅ……今日も報告書の山だな」
その時、ルプスレギナが静かに扉を開け、銀のトレイを手に優雅に現れた。
「ジョン様、本日のデザートでございます」
ルプスレギナはTPOに応じて言葉遣いを変える。今は仕事モードらしく、口調は柔らかくも慎重で、無駄のない動作でデザートを運んできた。
ジョンが顔を上げると、トレイの上には小さなガラスの器に盛られたデザートが二つ。表面にはクリームがふんわりと盛られ、その上には濃いコーヒーの液体がそっと注がれていた。
「……なんだこれは」
ジョンは眉を寄せ、目を細めてデザートを見つめる。
「アフォガード? あほな防御?」
思わず口をついて出たのは、いつもの調子での冗談めいた言葉。ルプスレギナは一瞬、小首を傾げたが、すぐに柔らかく微笑む。
「ジョン様、お上手ですね……」
その声にジョンは肩をすくめ、ちらりとルプスレギナを見た。
「いや、ちょっと語感が……な」
ルプスレギナは微笑みながら、そっとデザートの器を差し出した。
「本日のデザート、アフォガードでございます。バニラアイスクリームに、濃厚なエスプレッソをかけてお召し上がりいただく、イタリアの伝統的なデザートです」
ジョンは興味深そうに器を手に取り、軽くかき混ぜてみる。クリームとコーヒーが混ざり合い、独特の香りが立ち上る。
「ふむ……なるほど、こういう風に食べるのか」
小さなスプーンで一口すくい、口に運ぶ。バニラの甘みと、ほろ苦いコーヒーの味が絶妙に絡み合い、思わず目を細める。
「……これは、うまいな」
ルプスレギナは嬉しそうに微笑み、控えめに頭を下げる。
「ありがとうございます、ジョン様。喜んでいただけて光栄です」
ジョンは器を置き、ふと考え込むように天井を見上げた。
「それにしても、名前がアフォガードか……言葉遊びみたいだな」
ルプスレギナはその言葉に小さく笑い、丁寧に説明を続ける。
「イタリア語で”アフォガート”は”溺れさせる”という意味です。甘いアイスクリームが濃いコーヒーに溺れる様を表現しているのです」
ジョンはその語源を聞き、思わず笑いをこらえた。
「なるほど……あほな防御じゃなくて、甘さがコーヒーに溺れるってことか。これは洒落てるな」
ルプスレギナはそっと器をもう一つ差し出す。
「ジョン様、お二つ目もございます。ごゆっくりお楽しみくださいませ」
ジョンは器を受け取り、今度はゆっくりと味わう。甘みと苦みが口の中で広がるたびに、心地よい幸福感が胸に満ちる。
「……これは、仕事の疲れも吹き飛ぶな」
ルプスレギナは静かに立ち、そっと一歩下がる。
「それは何よりです、ジョン様。お口に合いましたなら、私も嬉しく思います」
ジョンはスプーンを置き、ルプスレギナを見てにやりと笑った。
「お前、本当にお菓子作りもうまいな」
ルプスレギナは小さく頭を下げ、控えめに微笑む。
「ジョン様に喜んでいただければ、それが私の喜びでございます」
部屋に漂うコーヒーとバニラの香りが、夕刻の柔らかい光とともにゆったりと混ざり合う。
甘みとほろ苦さを口に含みながら、ジョンは深く息をついた。今日の仕事の疲れも、魔導実験や報告書の山も、すべて遠くへ押しやられるようだ。
「……さて、次は何を頼もうか」
ジョンの声に、ルプスレギナは微笑みを返す。
「ジョン様のご要望に合わせて、どんなデザートでもご用意いたします」
その瞬間、二人の間には静かな信頼と、穏やかな時間が流れていた。
ナザリックの深い地下でも、甘く心地よいひとときが、確かに存在していた。