オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ ナザリック地下大墳墓 第9階層・研究棟 /*/
新素材「アクフレ布」と「ナイロス繊維」を組み合わせた新型パイロットスーツは、ようやく最終試験段階に入っていた。
壁際の試験台には、ルプスレギナの身体にぴったりとフィットしたスーツ姿が映し出されている。光沢を抑えた黒地に、赤い導電ラインが脈動のように淡く走る。
「どう? ジョン様、動きやすいすよ!」
ルプスレギナは軽く跳ねながら、腕をぶんぶん振って見せた。
「軽いし、締めつけもない。衝撃吸収もすごいね。これなら落下しても平気かも!」
ジョンは机に肘をついて、端末に映るデータを眺めながら、ぼそりと呟いた。
「耐衝撃性は上々だな。筋繊維に近い伸縮挙動も理想的だ……ただ」
ちら、と視線を上げる。
ルプスレギナのスーツ姿は、露出が一切ないのに、ボディラインが恐ろしく明確に浮かび上がっていた。腰の曲線、太腿のライン、胸の丸みまでが滑らかに見える。
「……なんか、思ってたより“セクシー”だな」
「えへへ?、やっぱり? 下着よりピッタリしてるもんねぇ」
ルプスレギナは腰に手を当て、くるりと一回転して見せた。
「隊の子たちも欲しがると思うよ。これ、絶対流行る!」
「……パイロットスーツとして開発したんだがな」
ジョンはこめかみを押さえた。
「結局、エロは最新技術を飲み込む……か」
ルプスレギナが笑う。
「つまり、“可愛いは正義”、ってことでしょ?」
「お前は真理を知りすぎているな」
二人の笑い声が、冷たい実験室の空気を少しだけ柔らかくした。
/*/ アーウィンタール・帝都工房街・魔導国技術展示会 /*/
展示台の上に立つマネキンは、黒と銀を基調とした流線型のスーツを纏っていた。
しなやかなアクフレ布の下に、ナイロス繊維が重ねられた多層構造。
防御・衝撃吸収・魔力伝導・温度調整。
どれを取っても、最先端の素材工学が詰め込まれた一着――
鉄の騎士の操縦士専用パイロットスーツだった。
しかし、集まった群衆の目は、誰も機能説明のパネルを見ていなかった。
「……なんか、妙に色っぽくないか?」
「いや、露出は全然ないのに……この曲線、すごいな……」
「腰のラインが最高だ……これ、一般販売されないの?」
ざわめきの閃光。
どう見ても、軍事技術展示会というよりファッションショーの様相だった。
ジョンは少し離れたテーブルでコーヒーを飲みながら、静かにため息をついた。
「……うん、やっぱりな」
隣でモモンガが資料をめくりながら首をかしげる。
「どうかしたんですか、ジョンさん? 予想外の反応ですけど、売れ行きは上々ですよ?」
ジョンは苦笑して肩をすくめた。
「うん、予想外っていうか……予想通りっていうか。
“最新技術”ってのは、結局こうなるんだよな。
武器でも服でも、まず“エロ”に飲み込まれるんだ」
モモンガは少し吹き出した。
「確かに……帝都の婦人たち、さっきから“どこで買えるのか”しか聞いてませんしね」
「操縦士でもないのに、パイロットスーツが流行するとはな……」
ジョンはマネキンを眺め、顎に手を当てた。
「いや、まあ確かにスタイルは出る。体にフィットして、無駄がない。
でも露出ゼロでこの人気は、もはや素材の勝利だな」
展示会場の端では、すでに帝都の商人たちが詰め寄っていた。
「このスーツの複製を!」「帝国限定モデルを作らせてくれ!」
「高貴婦人向けに色違いも!」
ジョンは小さく笑って、カップを置く。
「……戦闘用に作ったはずなんだけどな。
結局、どんな時代も“人間の興味”が一番強い推進力になるんだろうな」
モモンガは頷いた。
「技術革新の起爆剤は、いつだって欲望ですよ。
きっと、飛空艇より早く市場を席巻します」
「やめろ、笑えない冗談だ」
そう言いながらも、ジョンの顔はどこか満足げだった。
確かに――
新しい技術は、戦いのためではなく、こうして“人の心を動かす”形で普及していく。
その事実を前に、ジョンはまたひとつ学んだのだった。
/*/ ナザリック地下大墳墓 第9階層・ジョンの私室 /*/
ジョンが資料をめくると、そこには予想外の文字が並んでいた。
《アクフレ布・ナイロス繊維複合スーツ 市中販売開始から一ヶ月で受注件数3万突破》
《“戦う女たちの装い” 貴婦人層にも人気拡大》
「……どこで間違えたんだ、これは」
彼は深いため息をつき、机に置かれた報告書を手に取る。
表紙には、戦闘とは無縁の笑顔の貴婦人が、ぴったりしたスーツ姿でポーズを決めていた。
キャッチコピーは──
《守られるより、戦いたい》
「ねぇねぇジョン様、見たっすか?」
扉を開けて入ってきたルプスレギナが、最新号を手にして笑う。
「このスーツ、今“ルプスタイル”って呼ばれてるんだって!」
「誰がそんな名前つけた……」
「わたしの実験写真が広まったらしいすよ。みんな真似して、体のライン出す服にアクフレ布を取り入れてるんだって。軽いし動きやすいし、何より“丈夫だから転んでも破けない”!」
ジョンは額を押さえた。
「つまり、最強素材が下着業界とドレス業界に吸収されたわけだな……」
「えへへ、でも結果的にナザリックの技術力の宣伝になってるじゃん!」
ルプスレギナはスーツの腰を軽く引っ張って、ぴたっと体に戻る弾性を楽しむように笑った。
「ほら、見て見て。ほとんど魔法みたいにフィットするんだよ?」
ジョンは小さくうなずき、椅子を回して端末のデータを再確認した。
「アクフレ布の需要拡大、ナイロス繊維の輸出増加……ふむ。経済的には成功か」
そして小さく笑う。
「結局、どんな時代でも“美”と“欲”が技術を進化させる。戦争でも平和でも、原理は同じだな」
「じゃあ次は、“戦場でも映えるスーツ”とか作っちゃう?」
「……やめろ、それ以上広がるとファッション誌が戦場に来る」
ルプスレギナがケラケラ笑い、ジョンもつられて口元を緩めた。
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その後、ナザリック製の“パイロットスーツ”は帝都のファッション業界を席巻し、
護身用・作業用・スポーツ用と、次々と派生モデルが誕生する。
結果、異世界初の「高機能衣服産業革命」が静かに始まったのだった。