オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

235 / 396
パルスライフルの生産

 

 

/*/ バハルス帝国 魔法省・試作工房 /*/

 

 

石床に敷かれた魔導陣が淡く脈打ち、冷たい空気の中に動力の唸りが混ざる。中央の台座には、幾重にも改訂を重ねた設計図が広げられ、その周囲を幾人もの役人と職人、そして術者が取り囲んでいた。火花ではなく、魔力の放電が室内を舞う。

 

「現場報告を始める」

声は低く、統率された響きを帯びる。試作班長がひとまとまりにした紙束を前に差し出す。

 

設計図に基づき、帝国魔法省は可能な範囲でパルスライフルの試作を完成させた。外観は図面に忠実だが、内部構成は我が国の工法に合わせて再設計されている。主要な差異は以下の通りだ。

 

銃本体(上部)には、〈魔法の矢〉を三連射可能な連結符環を内蔵。従来の魔銃が単発の〈魔法の矢〉を放つに留まっていたのに対し、三連射は攻撃密度と貫通力で桁違いの向上を示す。

下部ランチャーは**〈火球〉単射**仕様。連射機構は試作段階では安定化されず、単発での運用が最も確実と判断された。

魔力供給は銃身と符環へ二系統の導力路を設け、術者への負担を分散する設計を採用。ただし、符の複雑性により製造工程と調律作業は大幅に増加した。

 

試作班長は数字を淡々と報告する。だがその声には、官僚的な冷静さと隠し得ぬ焦燥が混じっていた。

 

「性能差は明白です。従来の〈魔法の矢〉単射魔銃と比較して、実用射程、貫通力、即応性の三点で圧倒的な向上を示します。実地試験では近接防護を施したオーガ級標的にも一撃で致命を与え得ました。火球ランチャーの単射も、爆風と燃焼効果により従来兵器とは別次元の面制圧を可能にします」

 

技術陣の一人が、喉を鳴らして続ける。

 

「だが問題は生産性です。上部の三連射符環は第三位階魔法の使い手による施術が必須で、術式の彫り込みと定着作業に莫大な負担がかかります。そのため、量産換算では従来比およそ6分の1の生産効率に留まります。術者の確保と訓練、あるいは施術を簡略化する新たな補助手法がなければ、短期的な大量配備は現実的ではありません」

 

室内に沈黙が落ちる。数字は冷酷だ??強力であるが、手元に並べるには人的コストが重い。

 

魔法省次官が指を組み、暗い顔で答えた。

「六分の一……帝国規模で運用するには、術者の労力を桁違いに割かなければならん。民間への波及を想定するならば、術者教育の全国的整備か、あるいは施術の簡略化を模索せねばなるまい。だが簡略化は安全性と精度の両立が難しい」

 

若き調整術師が口を挟む。目は興奮で光っている。

「代替策として、結合式の自動調符機構を研究中です。完全な代わりにはなりませんが、施術の一部を機械的に代行できれば生産性は回復する可能性があります。ただし、安定性と制御の面で長期検証が不可欠です」

 

一方で、防衛局の老練な将官は顔をしかめる。

「想像してみろ。村の鍛冶屋がこの銃を手にできる未来を。明日の朝、農夫が人を殺せるようになる──その混乱を帝国はどう治める? 秩序の崩壊は戦場だけの話ではない。治安、徴税、交易、すべてが影響を受ける」

 

別室で図面を託されたジルクニフの言葉が、薄く、しかし重く部屋の空気を満たす。

「それでも、我々は実装する。人が生き延びるための道具であるならば、それを与えるのは試練であり責務だ。だが、運用は我々が試される。規律と法を以て民を導けるか??それが問題だ」

 

技術陣は再び表情を引き締める。作業台に並べられた小さな符石や導管、微細な金属部品が、冷たい光を返す。誰もが理解している。これは単なる兵器ではない。社会の構成原理を一変させかねない圧倒的な道具だ??それを如何に制御し、あるいは共存させるか。帝国の学者と官僚たちは、選択を迫られている。

 

最後に、試作班長が低く結ぶ。

「まずは小規模配備です。第三位階魔法の施術者を重点的に確保し、経済的・法的枠組みを整備する。並行して自動調符機構の試験を三ヶ月。問題がなければ段階的拡大を提案します」

 

その言葉を聞いて、ジルクニフの瞳に影が差した。彼は帝都の夜景を遠く見やり、静かに呟く。

 

「世界が変わる。だが変わるのは道具だけではない。人の在り方が問われる。──ならば、我々はまず《民の知恵》を鍛え、導く術を示さねばならぬ」

 

窓外の風が旗を震わせる。その音は遠く、しかし確かに新しい時代の到来を告げていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。