オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

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パーコレーター

 

 

/*/ アルゼリシア山脈 星空の下の野営地 /*/

 

 

夜風が山の稜線を渡り抜け、焚火の炎を揺らす。

高地の冷えた空気の中で、火のはぜる音が妙に心強く響いていた。頭上には無数の星が降るように広がり、夜の闇は澄みきっている。

 

ジョンは焚火の端に腰を下ろし、銀色に光る器具を火にかけていた。細い管のついた金属ポット――〈パーコレーター〉である。火にかけられたそれは、ぽこぽこと内部で湯を循環させ、透明なガラス窓に濃い液体が躍るのを見せていた。

 

「へぇー……ジョン様、また新しい道具っすねぇ。ナザリックの厨房じゃ見たことないっすよ?」

ルプスレギナは薪を投げ込みながら、金色の瞳を好奇心で輝かせる。

 

「厨房では効率的な器具ばかりだ。だが山中のキャンプで淹れるなら、これに勝るものはない。豆をぐつぐつと煮て、その香りを炎に重ねる。格別だ」

ジョンは器具を軽く傾け、焚火の赤い光にガラス窓をかざした。内部で踊るコーヒー液が星明かりを反射し、夜に小さな宇宙を描き出す。

 

「ふぅん……なんか香ばしい匂いがするっすね。血の匂いと違って、鼻の奥がツンとする感じ」

「それが野営の楽しみさ。戦闘の合間でも、こうして一杯飲むだけで気持ちが切り替わる」

 

やがてパーコレーターから一定のリズムで音が立ち、湯気が夜空へと昇っていった。

ジョンは二つのマグを取り出し、濃く煮出された黒い液体を注ぐ。焚火の熱でわずかに暖められた鉄製のマグは手に心地よい重さを残した。

 

「はい、熱いから気をつけて」

「ありがとっす。……くんくん、ほんとすごい香りっすね」

 

ルプスレギナは狼耳をぴんと立て、マグの湯気を吸い込んだ。

一口すすると――舌を刺すような苦味と熱が、喉を伝って胃の底まで届いた。

 

「んぐっ……! あー、これは……濃い! でも……悪くないっす」

「野営用だからな。荒々しいくらいで丁度いい」

 

ジョンは静かに啜り、夜空を見上げた。

星の群れは山の稜線の向こうへと続き、まるで光の川が大地を跨いで流れているようだ。

焚火とコーヒーの香り、その向こうに広がる無限の闇――その対比が、妙に心を落ち着ける。

 

「ジョン様って、こういう時間を大事にするんっすね」

「策を練るのも戦いの一部だ。だが、心を休める術を知らなければ潰れる。星を見て、火を見て、一杯飲む。これだけで充分だ」

「ふふーん。あたしも混ぜてもらえるなんて、ちょっと嬉しいっすね」

 

ルプスレギナは焚火に映るジョンの横顔をちらりと見やり、にやりと唇を歪めた。

普段は血と悲鳴にまみれる彼女にとって、この静かな時間は新鮮だった。

コーヒーの苦味が妙に心に残り、それがいつもより胸を温かくしているのを彼女自身も意外に思っていた。

 

「……あたし、これからはキャンプのときにコーヒー担当でもいいっすよ? ジョン様専属の」

「任せてもいいが、手順を誤ると真っ黒で飲めたものじゃなくなるぞ」

「んー、それはそれで楽しそうっすけどね?」

 

夜風が二人の笑い声をさらい、星々の間へ溶けていった。

焚火は赤々と燃え続け、マグから立ちのぼる香りは、冷え込む山の夜にわずかな温もりを添えていた。

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